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保育士が辞めていく「本当の理由」 ——社会福祉法人の人事評価制度、このまま放置すると何が起きるか

作成者: JOB Scope編集部|2026年 10月02日

第63回

 社会福祉法人・保育園の人事担当者・経営者向け 

保育士が辞めていく「本当の理由」 

 

——社会福祉法人の人事評価制度、このまま放置すると何が起きるか 

 

 

2026/10/02

 

 

 

はじめに 

「給与水準は改善された。なのに、優秀なスタッフが辞めていく」

 

社会福祉法人や私立保育園の経営者・人事担当者から、近年こうした声が増えています。2024年度の10.7%に続き、2026年4月には保育士の処遇が年間約20万円追加改善される予定です(こども家庭庁 令和7年度補正予算概要)。

 

参考:こども家庭庁

 

しかし、給与水準の引き上げは離職問題の一側面にすぎません。本稿では、日本の保育業界が直面している構造的課題と、人事評価制度の整備が採用力・定着率・加算維持の三つを同時に解決する鍵となる理由を、データとともに解説します。

 

 

1. 日本の保育士不足——表面化する「人材の質的劣化」 

保育士不足は長年の課題です。東京都「令和4年度東京都保育士実態調査報告書」によると、保育士資格を持ちながら保育士として働いていない「潜在保育士」が38.2%に達しています。退職した経験者のうち、復職希望の条件として給与改善を挙げた人は69.0%にのぼります。

 

参考:東京都福祉局 保育士実態調査

 

退職理由のトップは「職場の人間関係(31.5%)」「仕事量が多い(23.1%)」「給料が安い(22.1%)」の順です。注目すべきは、「給料が安い」が1位ではなく3位にとどまる点です。

 

保育士不足は単なる「頭数の問題」ではなく、経験豊富な中堅・ベテランが辞め続けることによる「質の劣化」が問題の本質です。ベテランが抜けた現場では新人教育も立ち行かなくなり、保育の質が低下し、さらに離職が加速するという悪循環に陥ります。

 

令和6年度賃金構造基本統計調査(厚生労働省)によると、保育士の年収は施設の規模にかかわらず約400万円が水準となっており、一般労働者平均と比較した場合、依然として格差が残っています。

 

参考:厚生労働省 賃金構造基本統計調査 

 
 

2. 公立保育所と民間保育園——人事制度の「二重構造」が生む格差

日本の保育施設は、大きく①公立(地方公務員型)と②私立(社会福祉法人・株式会社等)に分かれます。この二つは、人事制度の設計思想から運用実態まで、根本的に異なります。 

こども家庭庁「令和6年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」によると、役職が付いた場合の年収差は公立と私立で70〜100万円に広がります。主任保育士の平均年収は私立で約567万円、公立で約675万円です。 

参考:こども家庭庁 令和6年度経営実態調査 

 


◆ 公立保育所(地方公務員型)の特徴 

各自治体の給与条例に基づく年功序列型の給与体系が確立されており、昇給・賞与・退職金制度の安定性が保証されています。人事院勧告に連動した定期的な改定も行われ、給与の透明性・公平性は高い水準にあります。 

参考:人事院 人事院勧告 

一方、数年ごとの人事異動があり、同じ施設・同じ仲間と長く働き続けることが難しい点、採用時の年齢制限がある点などは、働く側にとっての制約となります。 

 


◆ 私立・社会福祉法人の特徴 

法人ごとに独自の給与体系・人事制度を設計する必要があり、歴史が浅い法人や小規模な法人ほど「設立当初に作った制度をそのまま使い続けている」ケースが多いです。 

異動が基本的になく、同じ法人で長期勤務ができる点は強みですが、キャリアパスが不透明で「上のポストが空かなければ昇進できない」という閉塞感が生まれやすいのが現実です。 

 


◆ 株式会社系民間保育園の特徴 

法人税の優遇がなく財源確保に制約がある一方、処遇改善への意欲が高く、ICT化・独自研修など積極的な投資を行う法人が多いのが特徴です。全国に系列園を持つ大規模法人では、法人内異動によるキャリアアップも可能です。 

 

 

3. 社会福祉法人の人事評価制度が陥る「3つの罠」 

業界横断的な人事制度構築の実践から、社会福祉法人の評価制度は次の3つの罠にはまりやすいことが繰り返し確認されています。

 

 

◆ 罠①:制度の形骸化

 

評価シートは存在するが、誰も内容を把握していない。評価を実施しても結果が昇給や賞与に連動しない——。東京都社会福祉協議会の事例研究でも、「評価結果が処遇に反映されないことで職員のモチベーションが下がる」という課題が複数の法人から報告されています。

 

参考:東京都社会福祉協議会

 

評価制度が形骸化する最大の原因は「制度設計と運用体制の分離」にあります。外部コンサルタントが制度を作っても、日常の運用を担うのは法人の内部スタッフです。評価者のスキルが追いつかず、「半年に一度、思い出して記入する」という実態が生まれます。

 

 

◆ 罠②:多職種・多等級への対応不足

 

保育士・事務総務・施設管理・地域支援担当など、社会福祉法人には多様な職種が混在します。単一の評価シートで全職種を評価しようとすると、保育の専門性を適切に測れない、事務職の役割が過小評価されるなど、公平性の問題が生じます。

 

厚生労働省の職業情報提供サイト(jobtag)では保育士の職務定義が公開されており、これを活用した職種別評価基準の整備が可能です。

 

参考:職業情報提供サイト jobtag

 

 

◆ 罠③:キャリアパスの不透明さ

 

「頑張っても何が評価されるのか、いつ昇格できるのかわからない」——この不透明さが、若手・中堅の離職を招く温床になっています。処遇改善等加算の要件として「キャリアパスの整備」が求められているにもかかわらず、多くの法人では「一応規程はあるが、実質的に機能していない」という状態が続いています。

 

参考:こども家庭庁 令和7年度以降の処遇改善等加算 

 

 

4. 2025年以降の制度動向——人事評価の整備は「必須」になる 

2025年度からは、保育所等が毎事業年度の経営情報(収支計算書、職員給与の状況等)を都道府県に報告し、施設別に公開する制度が本格始動しました(こども家庭庁)。これにより、給与水準や処遇の実態が施設ごとに可視化され、求職者が法人を選ぶ際の重要な情報源となります。「給与が公開されることへの備え」という観点からも、制度整備の緊急性は高まっています。

 

参考:こども家庭庁 保育士給与の見える化

 

また、処遇改善等加算のキャリアパス要件は今後さらに厳格化される方向にあります。「制度はあるが機能していない」という状態では、加算の要件を満たせなくなるリスクが高まります。厚生労働省は職員への定期的なフィードバックと自己評価の実施を要件化しており、人事評価制度の機能的な運用が実質的な義務となりつつあります。

 

さらに、人事院勧告に基づく公定価格の改定(令和7年度は3.62%引き上げ)により、保育所の運営費に充当される人件費も増加します。この増分を適切に職員の処遇改善に充てるためには、職員ごとの等級・評価・給与を連動させた仕組みが必要です。

 

参考:人事院 令和7年度人事院勧告 

 

 

5. 機能する人事評価制度を作るための「4つの条件」 

◆ 条件① 等級制度の整備(複線型キャリアパスの設計)

 

マネジメント職(係長・主任・センター長)とスペシャリスト職(保育の専門家として上位等級へ昇格)の複線キャリアパスを設けることで、ポスト不足の課題を回避しながら優秀人材を処遇できます。担当者層・基幹層・経営層の3職層への整理が、最もシンプルかつ実務的な出発点です。

 

 

◆ 条件② 多職種・多等級に対応した評価シート

 

保育士・事務・施設管理・地域支援担当など、職種ごとに求められるコンピテンシーは異なります。職種別×等級別の評価シートを整備し、評価基準(S/A/B/C/D)と期待される行動を明文化することで、評価の公平性と透明性が担保されます。

 

 

◆ 条件③ 評価と処遇の連動設計

 

評価結果を賞与・職能給の昇給ペースに反映させる仕組みを明文化することが必要です。ただし、いきなり全処遇に連動させると混乱が生じるため、初年度はトライアル(非処遇連動)→ 翌年度から賞与連動 → 3年目以降は月給連動、という段階的な移行が現実的です。

 

 

◆ 条件④ 評価者の育成と運用のデジタル化

 

評価シートの配布・回収・集計・帳票出力を手作業(Excel)で行う限り、運用の負担が重く、形骸化のリスクが高まります。クラウドシステムで評価プロセスを自動化し、評価者向けの研修(ハロー効果・寛大化傾向等の評価エラー対策)を定期実施することで、持続可能な運用体制が構築できます。

 

 

6. 今すぐ確認——自法人の人事評価制度チェックリスト

以下の項目を確認してみてください。一つでも「できていない」があれば、制度の見直しを検討するタイミングです。 

 
□ 評価シートの内容を、管理職全員が正確に把握しているか 

□ 評価結果が昇給・賞与に反映されているか(仕組みが明文化されているか) 

□ 評価者向けの研修を年1回以上実施しているか 

□ 職種・等級ごとに異なる評価シートが用意されているか 

□ キャリアパスが明文化されており、職員が「何を達成すれば昇格できるか」を知っているか 

□ 処遇改善加算のキャリアパス要件を満たしていることを書面で確認しているか 

□ 新制度への移行時に職員個別の影響額を試算し、激変緩和措置を設計しているか 

 

 

7. まとめ——採用・定着・加算維持の三つを同時に解決する

日本の保育業界は、給与水準の引き上げという「量的改善」が進む一方、人事評価制度の形骸化という「質的課題」が解消されていません。2025年度からの経営情報の見える化、処遇改善等加算のキャリアパス要件の厳格化という制度変化を前に、人事評価制度の整備は「将来的な課題」ではなく「今すぐ取り組むべき経営課題」となっています。 

機能する人事評価制度の整備は、採用時のアピール力・職員の定着率・処遇改善加算の継続取得——この三つを同時に解決する投資です。保育業界の財源構造(公定価格・処遇改善加算)に精通したコンサルタントが、等級制度・評価シート・給与テーブルを一体で設計し、「作って終わり」にならない1年間の運用伴走まで対応します。 

 

 

 

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著者: JOB Scope編集部
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