第54回
2026/7/31
「うちの新人はやる気がない」「最近の若者はすぐ辞める」──
そう感じたことのある人事担当者、管理職の方へ。
その感覚は間違っていません。しかし、原因の診断が、おそらく間違っています。
Z世代の早期離職は、「個人の忍耐力の問題」ではなく、
日本企業の人事制度と、Z世代の価値観・育ちの間に生じた「構造的なミスマッチ」によって引き起こされています。
このページでは、最新の調査データと戦略人事の視点から、
問題の全体像と、今あなたの会社が取るべき具体的アクションをお伝えします。
今、日本の採用現場で何が起きているか。
感覚論を排し、まずデータで現実を確認しましょう。
パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda」の2025年版調査によれば、
入社月である4月に転職サイトへ登録した新社会人の数は、
調査開始の2011年比で約31倍に達し、過去最高値を更新しました。
同期間に転職サイト全体のユーザーが約7倍に増えたことを踏まえると、
新社会人の登録ペースは市場全体の約4倍以上という、異常な伸長率です。
▼ 出典:パーソルキャリア「新社会人の転職サイト登録動向2025年版」
https://www.persol-career.co.jp/newsroom/news/research/2025/20250529_1855/
東京商工会議所の調査によれば、
「チャンスがあれば転職したい」と回答した新入社員は、10年前に比べて14.5ポイント増加しました。
「将来は独立」「時期をみて退職」という回答と合算すると、
2024年度の新入社員の約4割が、入社段階から退職を念頭においていると推測されています。
▼ 出典:第一生命経済研究所「シリーズZ世代考(5)」
https://www.dlri.co.jp/report/ld/431601.html
厚生労働省が2024年10月に公表した「新規学卒者の離職状況」によれば、
2021年3月卒業者の3年以内離職率は、大卒が前年比2.6ポイント増の34.9%、
高卒が1.4ポイント増の38.4%と増加傾向にあり、
特に大卒の離職率は2005年以来、16年ぶりの高水準を記録しています。
パーソル総合研究所の「働く1万人の就業・成長定点調査2025」によれば、
転職に対するイメージについて「総合的に見てよいことだと思う」と回答した20代は約7割に達しています。
これらの数字は、一部の「問題のある新入社員」の話ではありません。
Z世代全体に通底する、時代の価値観の変化を示しています。
Z世代の行動を「わがまま」「忍耐力不足」と片付けることは、
診断を誤り、対策を間違える最大のリスクです。
彼らがなぜそう行動するのか、5つの構造的背景から解説します。
2025年入社の新卒社員の多くは、大学入学時からほぼオンライン授業という、
前例のない学生生活を送ってきました。
入学式の中止、サークル活動や学園祭の中止・制限、アルバイトや飲み会など、
社会人の先輩と接する機会が激減した状態で社会に出てきています。
出典:WorkHappiness「2025年の新入社員の傾向」
https://workhappiness.co.jp/blog/trend/newemployee-trend/
職場で「先輩に叱られる」「理不尽な指示に従う」という経験が、
彼らにとってはまったく想定外の出来事として突き刺さります。
これが「リアリティショック」として早期離職に直結しています。
ゆとり教育を受けて育ち、個性を尊重される環境で成長したZ世代は、
学校でも家庭でも「否定される経験」が圧倒的に少ない世代です。
コロナ禍でさらに対面指導が希薄化した結果、
・「空気を壊したくない」から、その場では意見を言わない
・アンケートには本音を書くが、直接は言えない
・「間違えたらどうしよう」という完璧主義的な恐怖から行動が止まる
というコミュニケーションパターンが強化されています。
上司から見ると「何を考えているかわからない」若手の正体は、
実は「フィードバックを強く求めているが、拒絶を恐れている」状態です。
マイナビの調査では「自身の行動に対する他者からの評価・フィードバックを
常に求める」と回答した20代前半・後半は3割を超え、他の年代より顕著に高い
結果が出ています。
出典:マイナビキャリアリサーチLab
https://career-research.mynavi.jp/column/20251203_104878/
彼らはSNSで「いいね」や即時フィードバックを当たり前に受けて育っています。
それが職場でも再現されないと、「自分はここで必要とされていない」と感じ、
早期に見切りをつけてしまいます。
加えてSNSを通じて「同期が別の会社でこんな待遇を受けている」という
リアルタイムの比較情報が瞬時に入手できるため、不満の顕在化が格段に早い。
電通の「Z世代就活生 まるわかり調査2024」によれば、
88.8%が「入社後の勤務地・エリアを確約してほしい」
87.3%が「入社後の職種・配属先を確約してほしい」と回答しています。
また、「キャリアは自身で選択したい」と回答した学生は8割超に上っています。
出典:学情「Z世代就活生の意識調査」
https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/saiyo/00100/
「辞令一枚で全国転勤・異動」という日本型雇用の伝統慣行が、
「自分の人生は自分で設計する」というZ世代の価値観と根本的に衝突しています。
これは「わがまま」ではなく、これからの時代の労働観の変化です。
Z世代は物心ついた頃から、リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍と、
社会の大きな断絶を目の当たりにして育ちました。
親世代のリストラや会社の倒産を見てきた彼らにとって、
「この会社が一生守ってくれる」という日本的な信頼の前提は最初から存在しません。
出典:早稲田大学デモクラシー創造研究所「Z世代の社会生活・価値観の変化」
https://waseda-idi.jp/wp-content/uploads/2025/06/IDI_report001.pdf
転職サイトへの登録は、怠惰の証拠ではなく、
不確実な時代への「保険」であり「キャリアのインフラ整備」です。
多くの企業が犯している「誤診」を整理します。
これを放置すると、いくら採用活動に投資しても離職の連鎖は止まりません。
確かに初任給の引き上げは採用競争力を高めます。
しかし第一生命経済研究所の分析が示すように、
待遇改善だけでは入社後3年以内の離職を止めることはできません。
Z世代が転職サイトに登録するのは「給与不満」だけではなく、
「成長実感」「貢献感」「承認」「心理的安全性」が得られないからです。
お金で買える定着は、より高いお金で簡単に壊れます。
厚生労働省の調査では早期離職の主な理由として、
「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」(30.3%)
「賃金の条件がよくなかった」(30.0%)
「人間関係がよくなかった」(23.1%)が上位を占めています。
研修の質よりも、日常の「職場体験」の質が離職を左右します。
オンボーディングの問題は研修の中身ではなく、日常業務の現場にあります。
SHIBUYA109 lab.の調査では、Z世代は「やりがい」よりも「生きがい」を重視しており、
「仕事を通じて社会に貢献したい」「成長したい」という内発的動機は決して低くありません。
問題は動機の欠如ではなく、動機が「発火しない職場環境」にあります。
「承認」「成長実感」「自律性」の3つが確保されている職場では、
Z世代は最も熱量高く働く世代になる可能性を持っています。
では、具体的に何をすべきか。
短期・中期・長期の3つのステージで整理します。
1.「配属理由の可視化」を即実行する
Z世代の不満の多くは「なぜ自分がここに配属されたかわからない」という不透明感から来ています。
配属決定後に、上司から1対1で「なぜあなたをここに配属したか」を伝えるだけで、エンゲージメントが大きく変わります。
2.1on1ミーティングを「業務報告の場」にしない
Z世代が求めるのは
「テキストで丁寧に業務のサポートや指示を送ってくれる」
「気軽に相談しやすい」
上司像です(SHIBUYA109 lab.調査)。
1on1は部下が自由にテーマを決められる「対話の場」として設計し直しましょう。
3.入社後30日以内に「キャリア面談」を設ける
「もっとやりがい・達成感のある仕事がしたい」が転職理由の上位に上がるのは、
入社後に一度もキャリアについて会話の機会がないことが一因です。
早期の対話が、離職の芽を摘みます。
1.採用時の「情報の非対称性」を解消する
職務記述書を曖昧にして広く採用する旧来の手法は、情報武装したZ世代には逆効果です。
配属先・業務内容・評価基準を入社前に可能な限り明確に伝える「ジョブ型採用」への段階的移行を検討してください。
2.メンター制度の再設計
Z世代は「同期とは友人のように仲良くしたい」(74.6%)という傾向を持ちながら、
孤立しやすいという矛盾を抱えています。
メンターは「傾聴力」を前提に選定し、スキルアップ研修を組み合わせることが重要です。
3.心理的安全性の定量測定を導入する
「心理的安全性がある職場かどうか」は、感覚ではなくサーベイで数値化できます。
半期ごとに測定し、部門ごとのKPIとして経営会議に上程することで、
初めてマネジメントの優先事項になります。
1.「転職前提」を逆手に取ったキャリア開発投資
Z世代は「スキルを磨いて次に活かしたい」という意識を持っています。
であれば、資格取得支援・社外研修・副業許可などの制度を通じて「ここにいることが最もキャリアになる」と感じさせる環境を作ることが、最も強力な定着戦略になります。
2.「日本型雇用の慣行」の選択的解体
全員一律の転勤・異動慣行は、今や採用競争力を著しく損なっています。
勤務地限定・職種限定の雇用区分を設け、
Z世代が「自分で選べる」と感じられる仕組みを導入する企業が、採用市場でも定着率でも先行しています。
3.経営戦略としての「人的資本開示」との連動
人的資本経営の観点から、離職率・エンゲージメントスコア・育成投資額を開示指標として設定することで、経営トップを巻き込んだ構造改革が実現します。
Z世代の定着問題は、もはや人事部だけの問題ではありません。
Z世代の行動は、これまで日本企業が「当たり前」としてきた慣行・文化・制度の問題点を、最も鋭く映し出す鏡です。
「なぜ入社初日に転職サイトに登録するのか」という問いへの正直な答えは、
「会社がキャリアを守ってくれるという確信がないから」です。
そしてそれは、企業側が長年にわたって積み上げてきた不透明な慣行と、対話の不在の結果です。
Z世代が求めているのは「甘い環境」ではありません。
「納得感」「成長実感」「公正な評価」「心理的安全性」──
これらは、世代を超えてすべての人が職場に求めるものです。
ただ、Z世代はそれを我慢して後回しにしないだけです。
彼らが「辞めない組織」をつくることは、
すべての世代が「辞めたくない組織」をつくることと、実は同義です。
今こそ、採用コストの増大という症状に対症療法を施すのではなく、
組織の根幹にある「人が活きる仕組み」を再設計するタイミングです。
このレポートをお読みいただいた人事部・総務部・経営企画の皆さまへ──
貴社のZ世代定着施策を、今より一歩具体的に前進させるために、
以下のご支援メニューをご用意しています。
【無料】Z世代定着診断シート(PDF)ダウンロード
貴社の人事施策がZ世代の価値観にどこまで対応できているかをチェックリスト形式で診断できます。
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「自社で何から始めればよいか」「具体的な施策に落とし込みたい」という
担当者の方に、個別にアドバイスいたします。
あなたの会社の未来をつくるのは、辞めなかった若者たちです。
今日から、一つだけ変えてみてください。
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