「現場で実践できるリーダーシップ」をメインテーマにし、リーダーを素養や資質ではなく、望ましい行動として捉える当連載。
今回は組織が動き出したあとに、リーダーがメンバーにどのような働きかけをするとチームの結束力につながるのかという「チームビルディング」を取り上げます。
いくら素晴らしい組織ビジョンや信念を持っているリーダーであっても、業務遂行のプロセスでメンバーに働きかけを行わないと、組織は力を失っていきます。
どのような方でも努力で取り組める行動に焦点をあてて紹介するため、参考にしていただければ幸いです。
リーダーシップを発揮する前提として、リーダーにはメンバーとの関係性を築くためのコミュニケーションスキルが求められます。
ここではコミュニケーションをとるうえでの2つのスタンスと3つの具体的なスキルを紹介します。
メンバーによって接し方を変える必要はあるものの、基本的にリーダーのコミュニケーションはオープンで透明性を担保すべきでしょう。
メンバーによって持っている情報量が異なると、組織としての仕事がスムーズに進まないばかりか、メンバー感情として不公平感や不全感を生んでしまいます。
情報の透明性に関しては、ある程度社内のイントラネットやコミュニケーションツールを活用することも必要でしょう。
仕組みを活用し、誰でもアクセスさえすれば同じ情報が取得する状態にしておくことで、メンバー数が増えた時でも情報の透明性・平等性が担保できます。
また、細かい配慮ですが「褒めるときはオープンで。叱る時はクローズで。」という鉄則があります。
メンバーが良い動きをした時はあえて他メンバーがいる場で褒め称えます。
褒められたメンバーが悪い気がしないだけではなく、情報共有の効果も生まれます。つまり、他メンバーに「こういう方法もあるから、参考にしてほしい」というナレッジマネジメントや、「こういう言動を評価する」というマネジメントポリシーの開示にもなるのです。
コミュニケーションと聞くと「自分が何を話すか」という、伝える観点を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、優れたリーダーはメンバーの話を聴いている時間の比率が多いものです。
さらに重要なのは、聞くには「二つの視点」があることです。一つは「相手の言葉(話)を聞く」という視点で、もう一つは「相手の感情(心)を聞く」という視点です。
メンバーの話を聞き理解しているものの、感情(気持ち)までは理解できていないリーダーは意外と多いでしょう。どれだけロジカルに言葉を尽くして伝えても、相手を理解しようという思いや共感がなければ、メンバーは動いてくれません。
「話すは技量、聴くは器」といわれますが、感情レベルで傾聴して初めてメンバーの心に届くことができます。
聴く器を大きくするためには、人が行動する際の心の動きを取り入れている「行動経済学」で参考になる法則が数多く存在します。
ミラーリングとは、相手の言動やしぐさなどをミラー(鏡)のようにマネることにより、相手に親近感を持たせたり好感を抱かせる心理テクニックです。
夫婦や仲の良い友達はだんだん仕草が似てくるのも、ミラーリング効果のひとつといえるでしょう。
やりすぎは不自然に感じられてしまうので注意が必要ですが、要所要所でメンバーのしぐさや視線の動きを鏡写しにするように真似てみてはいかがでしょうか。
バックトラッキングとは、相手の言ったことを返すことで日本語で「オウム返し」と呼ばれます。
オウム返しのように、相手の言ったことをそのまま返すだけで、相手は「しっかり話を聞いてもらえている」という安心感と肯定感を得ます。
メンバーが「今の課題は〇〇と感じています」と言ったら、「〇〇を課題と感じているのだね」と返すだけです。
気を利かせて別の言葉で言い換えるリーダーも多いかもしれませんが、バックトラッキング効果を発揮させるためには、あくまでメンバーの言葉をそのまま使うことがポイントです。
なお、このようなテクニックはあくまでコミュニケーションの潤滑油のような位置づけです。重要なのは「相手を理解しよう」と思う気持ちで、そのためにスムーズに会話を進めるためのちょっとした工夫と認識してください。
次に、部下を育成するうえで必要となるスキルについて言及します。 ここでは、アメリカの経営学者であるロバート・L・カッツが提唱した「カッツモデル」を紹介します。人の上に立つ「管理者」のスキルについての研究や調査を行い、3つのスキルが必要であることを発表したのがカッツモデルです。 具体的に3つのスキルについて解説をしていきます。
テクニカルスキルは、担当業務を遂行するために必要となるスキルのことです。
メンバーを育成するためには、テクニカルスキルがないと指導が難しいでしょう。特に専門性が高い業務では、メンバーにお手本を見せるのは育成面において必要となるからです。
またメンバーの業務が適切に行われているか、仮に間違っているならどの点を修正すべきなのかを把握し、伝える必要があります。その観点でもテクニカルスキルは重要です。
ヒューマンスキルとは、業務に関係する他者との関係性を構築するスキルです。 メンバーとの信頼関係を構築し、育成成果を最大化させるよう働きかけをする力ともいえます。
メンバー育成に限らず、他者と信頼関係を構築しながら成果を創出するためには、必須のスキルといえるでしょう。
コンセプチュアルスキルは「全体を俯瞰し、把握する力」のことです。
企画段階から具体的な将来像を描き、実効性が高い解決策を導くスキルです。 たとえば、伝わりやすい方針を描いたり、市場環境を分析して計画を立てたり、問題を解決する能力全般がコンセプチュアルスキルには含まれます。
上位のリーダーになればなるほど、目の前の業務のみならず、他部門や世の中の動向など多くの要素を踏まえて考える必要があります。メンバーの成長のためにも、業務経験を俯瞰・抽象化して伝えることが必要になるのです。
リーダー一人が奔走しているだけでは、真の強いチームは生まれません。 ここからはリーダーの働きかけによって、チームメンバー一人ひとりが自走するための働きかけの工夫を紹介していきます。
チームの関係性を良くするということは、単に「仲良くなる」ということではありません。高い成果を上げるために「助けてほしい」や「もっと頑張ってほしい」と、率直なコミュニケーションを行える関係性になることがリーダーには求められます。
安定的に成果を上げるためには、メンバーの「心理的安全性」の高さが重要です。 「心理的安全性」が高い組織の共通点として「メンバー間の発言量にバラつきがない」「メンバー同士の共感力が高い」ことなどがあげられます。
そのため、リーダーは常にファシリテーターであるべきといえるでしょう。 ファシリテーターはいわば、会議の進行役です。「ティーチャー(答えがある内容を教える役割)」や「コンサルタント(答えがない内容に答えを作る役割)」とは異なる役割を担います。
ファシリテーターが効果を発揮しやすいのは、一対多の関係性構築です。 そのため、リーダーはメンバー一人ひとりには「コーチ(当人が答えを導く手助けをする役割)」であり、大勢のメンバーに対して、チーム内の意見活性化・相互作用を引き出すファシリテーターに徹する必要があります。
参考:フラン・リース著『ファシリテーション型リーダーの時代』の内容を編集部にて一部改編
チーム会・グループ会など組織の定例会議はルーチンになりがちですが、会議開始前にこのようなリストをもとにスタンスをセットしてみてはいかがでしょうか。
「平時は同質性、乱時は多様性」といわれますが、VUCAの時代の現代は間違いなく乱時であり、イノベーションを起こすためにも多様性は必須でしょう。
「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」の言葉を紐解くと、ダイバーシティ(多様な人が集まっている状態)であり、インクルージョン(多様な人がそれぞれその人らしく力を発揮できる状態)となります。
国籍、性別、年齢、雇用形態などのメンバー個人の多様性をリーダーが尊重することで、個人と組織の双方の成長につなげていく考え方です。
メンバー一人ひとりが自分の持ち味を認識し、発揮しようとすると、当然組織の意思決定スピードも向上していきます。
リーダーからの具体的な指示がない場合でも、俊敏性がありスピード感に優れたアジャイル組織に近づいていくでしょう。
組織は「集団」ではなく、同じミッションに向かうことを指します。 単に居心地が良い組織ではなく、常に成果を上げる組織であるために、リーダーがどのようにメンバーを引っ張っていくかを解説していきます。
学ぶの語源は「真似ぶ(まねぶ)」といわれているように、ビジネス場面でもお手本となる人の行動を真似するだけで、成長が加速することがあります。
そのため、リーダーとしてはメンバーに求めたい行動を、まず自ら実践することが必要です。ただし「自分の背中を見て育て」というような、古いリーダーのやり方はおすすめできません。
イギリスの経済学者のアルフレッド・マーシャルによるとリーダーには「クールヘッド(冷静な頭脳)」と「ウォームハート(温かい心)」が必要な資質といわれています。
クールヘッドで論理的に正しい行動を示しながらも、ウォームハートでメンバーの感情に配慮しながら指導することが求められます。
経営陣の汚職や、職権乱用が世間のニュースを賑わす社会になり、にわかに注目されているのが公明性な倫理観を持ったリーダーシップです。
2000年代、アメリカでは最悪ともいえる企業破綻が相次ぎました。同時にこれらの企業では、粉飾決算や破綻前の株の売り逃げなど、リーダーが持つ倫理観にスポットが当たりました。
そのような時代背景に唱えられたのが「オーセンティック(本物)・リーダーシップ」です。 利己的ではない倫理観や自分自身の価値観が重視され、近年ではサステナビリティ(持続可能な開発目標)も考慮することが求められている特徴があります。
リーダーが誠実で人間性に優れているというイメージが高まると、メンバーの組織に対するコミットメントが高まります。従来注目を集めたオピニオンリーダーと異なる点が、昨今のリーダーには求められているのでしょう。
昭和の時代は、直感や経験則に頼ってメンバーを引っ張っていくリーダーが求められていましたが、今は様相が様変わりしています。
昨今のリーダーは「感情を理解しながらも合理的に」や「メンバーに任せながらも存在感を誇示する」など、ややもすると相反する言動を駆使する必要があるといえるでしょう。
組織でリーダーシップを発揮するための葛藤や苦悩は、環境変化が激しければ激しいほど、むしろ心理学に近い領域に近づいているといえます。
つまり、小手先のテクニックよりも、本質的に人に働きかける力が問われているのです。
資質頼りではなく後発的に今の時代でリーダーシップを磨くことができれば、人生100年時代といわれる状況で、仕事だけでなくライフキャリアにも役立つ武器になるでしょう。
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