「現場で実践できるリーダーシップ」をメインテーマにし、リーダーを素養や資質ではなく、望ましい行動として捉える当連載。
今回はリーダーのもとで働く社員(メンバー)の視点で、優れたリーダーがいることでメンバー自身のライフビジョンや成長がどのように変化があるのかというテーマを取り上げます。
優秀なリーダーがいることの効果は業績向上や組織活性化など、ついつい企業側の観点で捉えられがちです。しかし業績や組織風土に変化をもたらすには、リーダーのもとで働くメンバー一人ひとりの変化が不可欠なのはいうまでもありません。
いきなり業績向上のようなインパクトが大きい成果を求めるのではなく、リーダーの影響が一社員にどのように及ぼされるのかを、当記事でご認識いただければ幸いです。
どのような企業にもビジョンやミッションがあるように、社員一人ひとりにも実現したいビジョンやライフプランがあります。
優れたリーダーはこの企業の目指す姿と、社員個人が目指す姿を同じベクトルに揃えようとします。
社員にとって、企業で過ごす時間は決して少なくはありません。
そんな一人ひとりの社員には、仕事だけでなく望ましい生活や叶えたい人生があります。そのベクトルに合致する企業ベクトルであれば、社員は持っているポテンシャル以上のものを発揮する可能性があるでしょう。
具体的には以下の図で左側の企業視点で語っている要素を、右側の社員視点に置き直す必要があります。
企業は日々営利活動を行っていますが、その拠り所となるのが、会計年度ごとの経営計画や経営戦略、その先にあるパーパスやビジョンとなります。
同様に、一人ひとりの社員も、企業側と同じようなメカニズムを経たうえで、日々の行動を取っています
出発点はライフビジョンです。
「どのような人生を歩みたいか」「自分自身は将来どのような姿でありたいか」というもので、仕事に限らない人生の目標です。
ライフビジョンを踏まえた時に、次に仕事を自分の人生にどう位置づけるかを考えるはずです。
具体的には、「仕事を通じた将来的な目標やゴール(キャリアビジョン)」「どのようなキャリアのステップで歩むか(キャリアパス)」「時間も含めて具体的にいつどんな行動を取るのか(キャリアプラン)」などです。
ライフと仕事を合算させて、一人ひとりの「ライフプラン」が出来上がります。
例えば30歳のある社員を例にとって、ライフプランに至るまでの説明をします。
「40歳にはマイホームがほしいので、〇〇円ほどの収入が欲しい。ただし今の職種では、上位等級に上がったとしても目標給与に満たない。それならば、35歳までに専門性が高い△△の業務を担いたい。そのために33歳ごろまでには業務が担えるスキルを身に着ける必要がありそうだ」のようなものがライフプランです
企業のベクトルと社員のベクトルは、車の両輪のような関係です。
社員側のベクトルと合致した企業のベクトルであれば、モチベーションにつながりやすくなります。日々生き生きと働く社員が増えれば、企業戦略が推進しやすい状態といえるでしょう。
したがって、社員側の目指す姿をリーダーとしてはきちんと把握し、そこに沿わせて企業側の目指す姿や、会社としてサポートできることを語る必要があるのです。
もちろん、企業の向かいたい先と社員個人が向かいたい先が、細部に渡り完全に合致することは難しいでしょう。
そんな時でも企業側の視点・社員の視点、短期の視点・中長期の視点など複数の視点で「アウフヘーベン(止揚)」し、葛藤を乗り越えて統合していくことがリーダーには求められます。
企業の目指す姿と個人のライフビジョンのベクトルをすり合わせる機会として、リーダーは定期的な人事評価面談を活用しています。
人事評価には「プロセス評価」「業績評価」「情意評価」など、各社さまざまな種類の手法を用いているかと思います。
ただどのような人事評価制度を導入していても、期初の面談と期末の面談は多くの企業で行っていると思います。
この期初・期末、または期中の面談機会を、社員個人の成長のためにリーダーがどのように活用しているかを具体的にお伝えします。
期初は、目標を設定する時期で、おそらくどのような企業でもメンバーとの面談を行っているでしょう。
この際、会社側からの要望を一方的に押し付けるような面談をしてしまうと、単なるノルマの押し付けになってしまいます。
まずはメンバー側からの自己申請を尊重し、会社側からの意向との接点を探さなくてはなりません。
メンバーの意向に全面的に添わせる必要はありませんが、面談をメンバーの成長に活用するためには「この目標で今期はやっていこう!」とメンバーと合意することが必要です。
合意形成するための、面談での具体的なコミュニケーションのコツを紹介します。
このような目標設定を通じて、当該期が終了した時に上げるべき成果と到達すべき本人の状態がすり合わせできます。
いわば、その期の活動指針となるべきものとなるため、期中にはその指針に則ってフィードバックをしていきます。メンバーも自分で掲げた目標なのでモチベーションが上がるのはもちろんのこと、たとえ厳しいフィードバックを受けたとしても、納得感があるでしょう。
このように毎期の期初面談を成果だけでなく成長目標設定の機会として活用すれば、中長期的にメンバーの能力開発が積みあがっていきやすくなります。
期末の面談では、人事評価のフィードバックを行います。
優れたリーダーは結果だけでなく、個人の成長のフィードバックを通じ、次なる成長のステップアップへとつなげる機会としています。
結果だけのフィードバックであれば、期初や期中で目標内容や達成基準をきちんとすりあわせていれば、期末の面談は実はものの数分で終わるものです。
メンバー成長のためには、期末の面談を「メンバーの振り返りの場」という定性的なリフレクションの場として活用するとよいでしょう。
その際、「ここは良く出来た」「ここがまだ足りない」とリーダーが一方的にフィードバックするのは、メンバーの考える力を弱めるので避けてください。本人の認識を引き出すことを重視し、そのうえでリーダー側からの見立てを伝えてください。
コミュニケーションの際は「ジョハリの窓」というフレームが参考になるでしょう。
メンバー自身が「ここは効力感があった」「この場面ではもっと粘るべきだった」という「自分が知っている」本人の姿を述べます。そこに照らして「私もそう思う」や「私からはこう見えていたよ」というリーダー(他人)の窓を重ねていくイメージです。
当該期の成長の振り返りを通じて、中長期の成長目標やキャリアプランに変化があるかどうかも確認します。
期が終了した安堵感から、メンバーも自分の考えや迷いなどを開放的に話してくれる可能性も高まるでしょう。
メンバー自身が「ここは効力感があった」「この場面ではもっと粘るべきだった」という「自分が知っている」本人の姿を述べます。そこに照らして「私もそう思う」や「私からはこう見えていたよ」というリーダー(他人)の窓を重ねていくイメージです。
当該期の成長の振り返りを通じて、中長期の成長目標やキャリアプランに変化があるかどうかも確認します。
期が終了した安堵感から、メンバーも自分の考えや迷いなどを開放的に話してくれる可能性も高まるでしょう。
【目標達成の障害を取り除くポイント】
障害を取り除くためには、目標達成が危うい目標について「何が問題で」「どうなったら達成できそうか」という具体的な要望をメンバーから引き出してください。
頓挫している多くのケースでは「目的(何のためにやるのか)→目標(いつまでに、どれくらいやるのか、何を目指すのか)→戦略(何をやるのか)→戦術(どのようにやるのか)」のどこかに問題があります。
メンバーの視点のみでは問題点が見えない場合もあるため、リーダーの広い視野から躓いているポイントをブレイクダウンするサポートをしましょう。
障害がどうしてもネックとなる場合は、目標の期中修正を行うことになります。
目標修正は上や横との調整が必要となるため、メンバーから修正に値する根拠をきちんと聞き出す必要があります。
根拠が曖昧なままメンバーが期中修正を求めてきた場合は、メンバーをきちんと説得できる厳しさも時には必要でしょう。
【メンバーのコンディションを整えるポイント】
メンバーの状況を整えるためには「半期動いてみた本人の感触」と「残り半期、何に注力するか」を確認します。
あまり形式的にする必要はないため、メンバー自身がモヤモヤしていることを吐き出させる場と捉えるとよいでしょう。仕事に限らず、メンバーが困っていることをサポートするスタンスで臨んでください。
優れたリーダーは、期初や期末面談は人事評価という制度運用に使うものの、期中の面談はメンバーの育成観点でコミュニケーションを取る傾向にあります。
個々のメンバーが抱く中長期のキャリア目標やライフビジョンもあらためて聞いて、メンバー理解を深めます。
きっちりとしたミーティングでなくとも、最近メジャーになりつつある1on1のような「気軽で・こまめな」面談もおすすめです。
日本のビジネスパーソンは、役割意識が強いため、企業目標とは関係がないプライベートのビジョンやプランニングをそれほど多く語らない傾向があります。
ただ、本音では「自分のライフビジョンを叶えてくれる企業なのかどうか」は常に気になっているはずです。もう一歩突っ込んで考えると「他企業の方が自分のライフビジョンを叶えてくれるのではないか」とのシビアな思考も持ち合わせているでしょう。
メンバーのライフまで理解したうえで、会社で過ごす時間や得られる経験を意味づけしてくれるリーダーがいれば、そのリーダーの存在そのものが他社との差別化につながるはずです。
たとえ報酬のような労働条件が優れた他社からのオファーがあったとしても、「今のリーダーのもとの方が、成長できるのではないか」と、一度は思いとどまってくれるでしょう。