変革リーダーの条件の第一は、組織の将来に責任を持つ「責任感」です。元農林水産事務次官の奥原正明氏は、日本の組織の停滞は、時代の変化に合わせて仕事を変えることを怠った「事なかれ主義」と、誰が責任者なのかがわかりにくい構造に原因があるとし、判断の責任を負う覚悟こそが的確な判断を生むと語ります。
時代が大きく変わるなかで、これまでのやり方を続けているだけでは、組織は少しずつ力を失っていきます。変革を担うリーダーには、何が求められるのでしょうか。
本記事では、農林水産省で農地や農協の制度改革を進め、人事を担う秘書課長も長く務めた奥原氏へのインタビューをもとに、改革の原点となった経験、日本の組織を停滞させた要因、リーダーに必要な資質、そしてリーダーが育つための考え方を解説します。
この記事でわかること
・奥原氏の改革の原点となった、ドイツ統一の経験
・日本の組織を停滞させた「事なかれ主義」と、責任の所在の不明確さ
・変革リーダーに必要な資質と、最も大切な「責任感」
・「自分ならどうするか」を考え続ける、リーダーの育ち方
・部下は上司の背中を見ている――率先して動くことの大切さ
元農林水産事務次官、前東京大学公共政策大学院客員教授。1955年生まれ。1979年東京大学法学部卒業、農林水産省入省。在ドイツ日本大使館での勤務(東西ドイツ統一時)、大臣秘書官、大臣官房秘書課長などを経て、2011年から5年間経営局長を務め、2016年農林水産事務次官、2018年退官。在任中は農地バンク制度の創設、農協改革、林業改革、水産業改革などに取り組んだ。退官後、東京大学公共政策大学院客員教授を務める。著書に『農政改革――行政官の仕事と責任』『農政改革の原点――政策は反省の上に成り立つ』(日本経済新聞出版)、『組織はリーダー次第――失敗する9タイプ』『農業政策は消費者のためにある』(信山社)など。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
奥原氏は外務省に出向し、在ドイツ日本大使館で勤務していた1989年にベルリンの壁の崩壊を、1990年に東西ドイツの統一を間近で経験しました。そこで見たのは、自由な経営が行われていた西ドイツの農業と、計画経済のもとで生産性が低かった東ドイツの農業の違いでした。
奥原氏は、当時の日本の農業は東ドイツに近いと感じたといいます。この経験が原点となり、事務次官に至るまで一貫して、意欲と能力のある担い手が自由に経営できる農業への転換を進めてきました(農政改革の成果と残る課題については、後編で詳しく解説します)。
奥原氏が著書を書いた理由の一つは、後輩たちに政策改革や組織運営の考え方を伝えることでした。大きな改革には既存の利害関係者からの抵抗が伴うため、社会の正確な理解と支持が欠かせないとも考えています。
奥原氏は、人事を担当する秘書課長を長く務めた経験をもとに、著書『組織はリーダー次第――失敗する9タイプ』で組織とリーダーのあり方を論じています。奥原氏が挙げる日本の組織の停滞要因は、次のとおりです。
| 停滞要因 | 内容 |
|---|---|
| 事なかれ主義のリーダー | 時代の変化に合わせて仕事のやり方を変えることを怠るリーダーが多かった |
| 守りの経営 | バブル崩壊後、リスクを避ける守りの経営が長く続いた |
| 責任の所在の不明確さ | 会長や相談役が実権を持つなど、誰が最終的な責任者なのかが見えにくい構造がある |
出典:奥原氏への取材をもとに編集部作成
奥原氏は、行政の世界でも、責任者が見えにくい構造があると指摘します。一方、ドイツ統一の際には、首相や外相が毎週のように米国を訪れて自ら調整にあたっていたといいます。大きな問題ほど、トップが自ら交渉の前面に立つべきだというのが奥原氏の考えです(意思決定のやり方を柔軟に変えられる強い組織については、高田朝子教授の解説記事でも紹介しています)。
奥原氏は、海外のリーダーに学ぶべき点として、判断の責任を自分が負うという覚悟を挙げます。その覚悟があるからこそ、的確な判断ができるのです。奥原氏が著書で挙げるリーダーの資質は、次のとおりです。
| リーダーの資質 | ポイント |
|---|---|
| 責任感 | 最も大切な資質。組織の将来に責任を持つという自覚 |
| 問題意識と改革意欲 | 現状に満足せず、変えるべきことを見つけて変えようとする |
| 時代感覚 | 時代の変化と、自分の仕事との関係をつかむ |
| 闘争心と警戒心 | 世の中の動きを警戒して見極め、抵抗にめげずに改革を進める |
| 熱意・情熱 | 改革をやり抜く強い思いを持つ |
| 人を見る目 | 部下の能力を見極め、適材適所の人事を行う |
| 目的の自覚と私心の排除 | 組織の目的を自覚し、自分の利害を判断に持ち込まない |
| 説明能力 | 改革の必要性を、関係者に筋道立てて説明する |
| 心身の健康と精神力 | 健康を保ち、孤独や批判に耐える |
出典:奥原氏への取材をもとに編集部作成
組織の将来に責任を持つ自覚があれば、時代に合わなくなった仕事を放置することはできません。責任感は、他のすべての資質の土台になるのです。
では、こうした資質を持つリーダーは、どうすれば育つのでしょうか。奥原氏が勧めるのは、上司の判断をよく見て、「自分ならどうするか」を考え続けることです。
自分の判断が上司と違っていても構いません。大切なのは、自分の頭で判断してみることです。この積み重ねを10年続けるかどうかで、大きな差が生まれると奥原氏は言います(行動と内省を繰り返してリーダーが育つ仕組みについては、犬飼知徳教授の解説記事でも紹介しています)。
奥原氏は、上司が率先して動き、その姿を見せてから部下に仕事を任せることが、組織を動かす条件だと言います。部下は上司の仕事ぶりをよく見ています。現実には理想どおりにいかないこともありますが、リーダーはそう心がけるべきだというのです。
また、トップに立てるかどうかには運の要素もあります。「トップになりたい」という思いが「失敗しないこと」を優先させると、かえって逆効果になりかねません。奥原氏は、局長などの幹部には、職を失う覚悟で「やるべきことをやりきる」姿勢が必要だと強調します。
責任感を持って変革を担うリーダーを育てるには、日々の仕事の中で判断の経験を積ませ、その姿勢を組織として後押しすることが欠かせません。
変革を担うリーダーを育てる
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A. 奥原氏は、最も大切なのは組織の将来に責任を持つ「責任感」だとしています。ほかに、問題意識と改革意欲、時代感覚、闘争心と警戒心、熱意、人を見る目、私心の排除、説明能力、孤独や批判に耐える精神力などを挙げています。
A. 奥原氏は、時代の変化に合わせて仕事のやり方を変えることを怠った「事なかれ主義」のリーダーが多かったこと、バブル崩壊後の守りの経営、会長や相談役が実権を持つなど責任の所在が不明確な構造を挙げています。
A. 奥原氏は、上司の判断をよく見て、「自分ならどうするか」を考え続けることを勧めています。自分の判断が上司と違っても構わず、自分の頭で判断してみる積み重ねを10年続けるかどうかで、大きな差が生まれるとしています。
A. 判断の責任を自分が負うという覚悟があるからこそ、的確な判断ができるからです。組織の将来に責任を持つ自覚があれば、時代に合わなくなった仕事を放置することはできず、責任感は他の資質の土台になると奥原氏は考えています。
A. 奥原氏は、上司が率先して動き、その姿を見せてから部下に仕事を任せることが、組織を動かす条件だとしています。部下は上司の仕事ぶりをよく見ているため、その視線に応える仕事ぶりが大切です。
では、改革を進めるうえで避けられない抵抗に、リーダーはどう向き合えばよいのでしょうか。中編では、闘争心と警戒心、徹底した議論で抵抗を乗り越える方法、「熟考か試行か」の判断、そして改革を動かす人事について紹介します。
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▶ 中編:組織改革の抵抗をどう乗り越える?闘争心と警戒心、徹底した議論、「熟考か試行か」の判断と、改革を動かす人事(内部リンク)
▶ インタビュー全文:農政改革と組織論に学ぶ―責任と覚悟で切り拓く変革リーダーの条件(前編)(JOB Scopeマガジン)