[JOBSCOPE]教授インタビュー解説

個人を尊重する組織とは?人事は「インフラ」に|太田肇名誉教授

作成者: JOB Scope編集部|Oct 13, 2026, 8:09:02 AM

 

個人を尊重する組織とは、会社や経営者の都合からではなく、一人ひとりの意思から出発して、その力を引き出す組織です。同志社大学の太田肇名誉教授は、「メンバーシップ型からジョブ型へ」という流れや戦略人事をうのみにせず、人事は個人のキャリアと能力の伸びを支える「インフラ」になるべきであり、社員の「これを伸ばしたい」という意思を引き出す仕組みが必要だと語ります。

ジョブ型、戦略人事、タレントマネジメント――人事の世界では、次々と新しい考え方が取り入れられています。しかし、それらは本当に一人ひとりの力を引き出すものになっているでしょうか。

本記事では、1990年代から「個人を尊重する組織」を提唱してきた組織論の研究者、太田名誉教授へのインタビューをもとに、人事のトレンドへの疑問、戦略人事の両面、人事の役割を「インフラ」と捉える考え方、そして個人の意思を引き出す仕組みを解説します。

この記事でわかること

・「ジョブ型」が今の時代の最適解なのかという疑問

・流動性を前提にしたマネジメントへの変化

・戦略人事の重要性と、見落とされがちな弊害

・人事の役割は「インフラ」――個人を支える場をつくる

・個人の意思から出発する組織と、意思を引き出す仕組み

取材協力:太田 肇 氏

同志社大学 名誉教授。兵庫県出身。神戸大学大学院経営学研究科修了。経営学博士。専門は組織論。公務員を経て、三重大学人文学部助教授、滋賀大学経済学部教授を歴任し、2004年より同志社大学政策学部教授(本インタビューの取材時)。2025年4月より現職。個人を尊重し、その能力を引き出す組織のあり方を研究している。著書に『個人尊重の組織論』(中公新書)、『「自営型」で働く時代――ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社)、『何もしないほうが得な日本』(PHP新書)、『日本人の承認欲求』(新潮新書)など多数。『プロフェッショナルと組織』で組織学会賞、『仕事人(しごとじん)と組織』で経営科学文献賞、『ベンチャー企業の「仕事」』で中小企業研究奨励賞本賞を受賞。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

太田名誉教授は、最近の人事のトレンドで気になる点として、次の3つを挙げています。

トレンド 内容
メンバーシップ型からジョブ型へ 世の中全体がジョブ型へ動いている。ただし、現実を2つの型に押し込みすぎることに疑問がある
流動性を前提にしたマネジメント 転職を見越した運用や、元社員が戻れるカムバック制度、退職者(アルムナイ)とのつながりの活用が広がっている
副業を認める企業の増加 ジョブ型の導入が、副業の容認にもつながっている

出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成

従来のメンバーシップ型の仕組みは、IT化やグローバル化で限界が見え、コロナ禍で多くの経営者がその限界を実感しました。しかし太田名誉教授は、ジョブ型への移行が「既定路線」のように語られることに違和感を持っています。ジョブ型が日本企業や日本社会に合うのか、そして「日本型ジョブ型」「ハイブリッド型」として取り入れられているものが、これからの時代に最適な仕組みなのかには疑問があるというのです(ジョブ型と成果主義の違いについては、米倉誠一郎氏の解説記事でも紹介しています)。

戦略人事の重要性と、見落とされがちな弊害

経営戦略と連動させて人事を戦略的に行う戦略人事は、理にかなった考え方です。太田名誉教授もその重要性は認めています。ただし、戦略が先行しすぎると、思わぬ弊害が生まれると指摘します。

戦略人事の弊害 内容
個人の能力が生かされない 戦略に合わせた人材配置が優先され、個人の能力やキャリアの志向とのずれが生じる
配置転換・学び直しを迫られる 日本では従業員を簡単には解雇できないため、戦略が変わるたびに、学び直しや配置転換を迫られる
職務とのマッチングが課題に ジョブ型では職務単位でキャリアを築くため、職務と個人をどう合わせるかが課題になる

出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成

戦略人事に無条件に飛びつくのではなく、弊害を理解したうえで取り組むべきだというのが、太田名誉教授の立場です(戦略人事の基本的な考え方については、守島基博教授の解説記事でも紹介しています)。

人事の役割は「インフラ」になること

一人ひとりが主役になる時代には、人事部が主導して採用し、ローテーションで人を動かすというやり方は通用しなくなります。太田名誉教授は、人事の役割は「インフラ」であるべきだと言います。個人がキャリアを築き、能力を伸ばしていくのを支え、そのための「場」をつくることです。

太田名誉教授が著書『仕事人(しごとじん)と組織』で提唱したインフラ型組織では、会社は個人が自己実現する「場」と捉えられます。そこでは、会社が向かう方向と、個人が望む方向をすり合わせていくことが必要になります。デジタル化で組織の壁が薄くなるなか、インフラの中身も、機械や設備といったハードから、情報やネットワーク、刺激し合える仲間、顧客や市場と向き合う個人を支える後ろ盾へと移りつつあります(インフラ型組織については、太田名誉教授の前回の解説記事でも紹介しています)。

個人の意思から出発する組織

これまでの組織論は、企業や経営者の視点から組織をつくるのが常識でした。これに対し太田名誉教授は、まず個人の視点から出発し、その次に組織を考えるという順番をとります。

その理論的な背景の一つが、経営学者チェスター・バーナードの「権限受容説」です。上司の権限は、部下がそれを受け入れて初めて効力を持つ。つまり、最終的に決めるのは個人だという考え方です。太田名誉教授は1996年に『個人尊重の組織論』(中公新書)でこの方向性を提唱しましたが、当時はまだ世の中がその方向に動いていませんでした。近年は「先見の明があった」と言われるものの、本人は「たまたま世の中の動きが近づいてきただけ」と話します。

日本企業は、まだ個人を尊重する組織になっていない

太田名誉教授は、日本企業はまだ個人を尊重する組織になっていないと見ています。「自律型社員」やタレントマネジメントも、企業の視点にとどまっていることが多いというのです。タレントマネジメントの多くは、企業が伸ばしたい能力と個人が伸ばしたい能力が一致することを前提にしていますが、実際には企業にとっての適材適所にすぎない場合が少なくありません。

太田名誉教授が2022年に行った調査では、「仕事に関する知識や技術、特技など、自分が得意なことでも隠すことがありますか」という質問に、44.6%が「ある」と答えたといいます。会社の都合で配置されるなら、得意なことはむしろ隠した方がよいと考える人がいるのです。

「これを伸ばしたい」という意思を引き出す仕組み

太田名誉教授は、個人の意思から出発し、「これを伸ばしたい」「この部署に行きたい」という意思を引き出すことが大切だと言います。その手段として、組織の中に一種の市場の仕組みを取り入れることが理にかなっているといいます。

意思を引き出す仕組みの例 内容
ジョブポスティング(社内公募) 欧米で広く使われる、社内のポストを公募し、社員が自ら応募する仕組み
社内FA制度 社員が自ら希望する部署や仕事を申し出て、異動を求める仕組み
社内の人材マッチング 部署と社員が互いに相手を選び合う仕組み

出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成

意思を引き出す第一歩は、社員一人ひとりが仕事に何を求め、何を伸ばしたいと考えているのかを知ることです。

社員一人ひとりの意思と価値観を把握する

個人の意思から出発する組織をつくるには、社員が仕事に何を求め、何を伸ばしたいと考えているのかを知ることが出発点になります。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」では、従業員が仕事に求める価値観を分析し、配置や育成を考えるヒントを得られます。

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よくある質問(FAQ)

Q. 個人を尊重する組織とは何ですか?

A. 会社や経営者の都合からではなく、一人ひとりの意思から出発して、その力を引き出す組織です。太田名誉教授は1996年に『個人尊重の組織論』でこの考え方を提唱し、まず個人の視点から出発し、その次に組織を考える順番が大切だとしています。

Q. ジョブ型は日本企業にとって最適な仕組みですか?

A. 太田名誉教授は、メンバーシップ型の限界は明らかになったものの、現実を「メンバーシップ型かジョブ型か」の2つに押し込みすぎることや、ジョブ型が日本企業や日本社会に合うのか、これからの時代に最適なのかには疑問があるとしています。

Q. 戦略人事にはどんな弊害がありますか?

A. 戦略が先行しすぎると、個人の能力やキャリアの志向とのずれが生じ、戦略が変わるたびに学び直しや配置転換を迫られることがあります。太田名誉教授は、戦略人事の重要性は認めつつ、弊害を理解したうえで取り組むべきだとしています。

Q. 人事の役割を「インフラ」と捉えるとはどういう意味ですか?

A. 人事部が主導して人を採用し動かすのではなく、個人がキャリアを築き能力を伸ばすのを支え、そのための「場」をつくる存在になるという意味です。会社の向かう方向と個人が望む方向をすり合わせることが求められます。

Q. 社員の意思を引き出すにはどうすればよいですか?

A. 太田名誉教授は、組織の中に一種の市場の仕組みを取り入れることを勧めています。社内のポストを公募するジョブポスティングや、社員が希望の部署を申し出る社内FA制度などがその例です。調査では、自分の得意なことを隠すことがあると答えた人が44.6%にのぼっています。

まとめ:会社の都合ではなく、個人の意思から出発する

  • ジョブ型への移行を「既定路線」とせず、これからの時代に最適かを問い直す
  • 戦略人事は重要だが、個人の能力やキャリアとのずれという弊害も理解して取り組む
  • 人事の役割は「インフラ」。個人がキャリアを築き、能力を伸ばす場をつくる
  • 日本企業はまだ個人を尊重する組織になっていない。得意なことを隠す社員もいる
  • ジョブポスティングや社内FA制度などで、個人の意思を引き出す

では、日本企業が個人を尊重する組織になれないのは、なぜなのでしょうか。後編では、太田名誉教授が日本の多くの問題の根にあると指摘する「未分化」と、個人の貢献が見える組織への転換について紹介します。

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