ジョブ・クラフティングとは、働く人が仕事におけるタスクや人との関わり方を物理的・認知的に変えること、平たく言えば仕事を自分好みにアレンジすることです。若手社員の育成を研究する筑波大学の池田めぐみ助教は、価値観が多様化する若手が仕事を楽しめるようにするには、上司が「余白」を残すことが大切だと語ります。
一つの会社に勤め上げることが当たり前ではなくなり、自分主体のキャリアを志向する若手社員が増えています。一方で、会社が一人ひとりの希望に合わせて仕事や配属を用意するのは簡単ではありません。
本記事では、池田助教へのインタビューをもとに、若手にジョブ・クラフティングが必要な理由、3つの種類と具体例、希望どおりでない配属への向き合い方、上司が残すべき「余白」と協同的ジョブ・クラフティング、そして若手の離職を防ぐ関わり方について解説します。
この記事でわかること
・ジョブ・クラフティングの定義と3つの種類(タスク・人間関係・認知)
・若手社員にジョブ・クラフティングが必要な理由
・上司が残すべき「余白」と、マイクロマネジメントの落とし穴
・上司やメンターと一緒に進める「協同的ジョブ・クラフティング」
・若手の離職を防ぐ1on1と、利害関係のないメンターの役割
筑波大学大学院 人文社会ビジネス科学学術院 ビジネス科学研究群 助教(取材時)。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。東京大学大学院情報学環 特任研究員、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター 助教を経て、2024年4月より現職。主な研究テーマは、職場のレジリエンス、若手従業員の育成。共著書に『チームレジリエンス:困難と不確実性に強いチームのつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター、2024年)。分担執筆として関わった書籍に『活躍する若手社員をどう育てるか』(慶應義塾大学出版会)、『ジョブ・クラフティング:仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』(白桃書房)など。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
池田助教は、20代に限った話ではないかもしれないとしつつ、今の働き方は昭和のスタイルから変わってきていると言います。
かつては一つの会社に勤め上げるのが一般的なモデルでした。上司に厳しいことを言われても従い、歯を食いしばって頑張っていれば、出世したり、思い描くキャリアを積み重ねたりすることができました。「モーレツ社員」と呼ばれる人たちが、会社が用意したラダーに向かって社内で出世していくモデルです。
しかし今は、半分ぐらいが転職をする時代になっていると池田助教は言います。社内だけでキャリアを歩まない人や、キャリア教育を通じて自分主体のキャリアを描く考え方を若いうちから学んでいる人も増え、会社に言われたままキャリアを歩みたい人は減少傾向にあります。もちろん今もそうした人はいて、それだけ価値観は多様化しています。
| 観点 | かつてのモデル | 現在の傾向 |
|---|---|---|
| キャリアの場 | 一つの会社に勤め上げる | 転職も一般的になり、社外でのキャリアも視野に入れる |
| キャリアの主体 | 会社(会社が用意したラダーを上る) | 自分(自分のビジョンに沿ってキャリアを描く) |
| 上司との関係 | 厳しいことを言われても従い、頑張れば出世できる | 指示どおりに働いてくれる前提は確約されない |
| 若手の価値観 | モーレツ社員と呼ばれる働き方が一般的 | 多様化し、何に充実感を覚えるかは一人ひとり違う |
出典:池田助教への取材をもとに編集部作成
こうしたなかで、会社がどんな仕事を渡し、どの部署に配属するかを工夫しても、本人が納得感や「仕事そのものが楽しい」という感覚を持つのは難しいこともあります。さまざまな人に合わせることは大切でも、全員に合わせるのは難しい。だからこそ、本人がその感覚を自分で持てるよう工夫していくこと、つまりジョブ・クラフティングが大事になると池田助教は言います。
ジョブ・クラフティングは、個人が仕事におけるタスクや関係的境界を、物理的あるいは認知的に変えることと定義されています。平たく言えば、仕事を自分好みにアレンジすることです。具体的には、次の3つの種類があります。
| 種類 | 何を変えるか | 具体例 |
|---|---|---|
| ① タスク次元 | 与えられた仕事そのもの(タスクの追加、範囲の拡大・縮小) | イベントの集客で、ホームページの宣伝に加え、趣味で使い慣れたSNS(X)で広告を展開する |
| ② 人間関係次元 | 他者との関わり方 | アパレル店員が、ノルマのための販売から、お客様の服の相談に乗る接客へと売り方を変える |
| ③ 認知型 | 仕事の意味のとらえ方(頭の中で行う) | 自分の仕事が誰の役に立っているか、キャリアにとってどんな価値があるかを考え直す |
出典:池田助教への取材をもとに編集部作成。定義は Wrzesniewski & Dutton(2001)による
与えられた仕事そのものを変えていく取り組みです。タスクを追加したり、範囲を増やしたり減らしたりします。例えば、イベントの集客を任された新人が、上司からは「ホームページの宣伝だけをやればよい」と言われたものの、それだけではつまらないと感じ、日頃から趣味で楽しんでいるSNS、特にX(旧Twitter)を活用して広告を展開する、といったケースです。
他者との関わり方を変えるやり方です。例えば、アパレルショップの店員が、ノルマをこなすためにお客様に洋服を売ろうとしても気持ちが乗らない。そこで、自分がその仕事に就いた理由を考えてみて、コーディネートを考えてお客様に喜んでもらうことが好きだったと思い出します。お客様の服の相談に乗ることこそ大事だと考えて売り方を変えたことで、やりがいを感じられるようになる、というケースです。
前の2つと違い、頭の中で行うジョブ・クラフティングです。仕事の意味や、自分の仕事が誰かの役に立っていること、自分のキャリアにとってどんな価値があるのかを考え直すやり方です。
自分主体のキャリアを志向していても、配属などが希望どおりになるとは限りません。そうしたとき、タスクを少しアレンジすることも一つの解決策になると池田助教は言います。
例えば、本当は編集部を希望していたのに、営業部に配属された人がいたとします。「営業の仕事はしたくない」と思うのではなく、営業のコツや知識を共有する冊子をつくって、編集らしい仕事を楽しむ。あるいは「これは数年後に編集部へ異動したときにきっと生きてくる」と考えながら取り組む。そうすると、目の前の仕事が自分の仕事、自分のものになっていくのです。前者はタスク次元、後者は認知型のジョブ・クラフティングにあたります。
今の若手と一口に言っても、さまざまな人がいます。何に充実感を覚えるかは一人ひとり違い、会社がそのすべてに合わせるのは困難です。
ジョブ・クラフティングは、基本的に個人が自主的に行う行動です。そのため、上司が何かをしてあげるよりも、個人が自分の好きなように仕事を多少デザインできる「余白」を、上司が意識して残すことが大事だと池田助教は言います。
例えば、マイクロマネジメントで手続きを細かく決めすぎると、自分好みにアレンジする余白は生まれません(部下に任せられない管理職の変わり方については、松尾睦教授の解説記事でも紹介しています)。
最初は難しいかもしれませんが、部下を信じてあげて、「ここまではある程度自分で好きに組み立てたり、やり方を考えても良いよ」と余白を作ってあげることをお勧めします。
――池田助教
プライベートでSNSを楽しんでいる人がSNSを仕事に生かせれば、もっと仕事を楽しめるかもしれません。「難しい仕事に挑んでみたいのに、うちの職場では若手に重い仕事を任せてくれない」とモヤモヤしている人は、自分からタスクを増やして、よりチャレンジングな仕事に取り組むことで、成長の機会を感じられるかもしれません(成長につながるストレス「チャレンジストレッサー」については前編で解説しています)。
個人が自分の仕事をオーダーメイドしていけるような余白をつくり、上司がそれをある程度認める。そして、それを生かすにはどうすればよいか相談に乗る――それが、池田助教が上司に期待する関わり方です。
頭ではわかっていても、つい手や口を出してしまう。反対に「何も言わないほうがよいのでは」と極端な行動を取ってしまう――余白の塩梅は難しいものです。
そうしたときに池田助教が勧めるのが、協同的ジョブ・クラフティングから始めることです。個人のジョブ・クラフティングは本人の判断で進むため、勝手に仕事を変えられてしまうのが怖いと感じる上司もいるでしょう。それなら、上司やメンターと一緒に「どの範囲なら変えてよいか」を考えながら、「今の仕事をもう少し自分のやり方に変えるために何ができるか」というプランを探っていく。これなら、上司や先輩にとっても怖くない範囲で取り組めます。
| 観点 | 個人のジョブ・クラフティング | 協同的ジョブ・クラフティング |
|---|---|---|
| 誰が行うか | 本人が自主的に行う | 本人と上司・メンターが一緒に行う |
| 変える範囲 | 本人の判断で決まる | どの範囲なら変えてよいかを一緒に考える |
| 上司の不安 | 勝手に仕事を変えられることへの不安が残りやすい | 一緒に決めた範囲内なので、上司や先輩にとっても怖くない |
出典:池田助教への取材をもとに編集部作成
池田助教のもとには、ジョブ・クラフティングを促し、支援できる上司になるためのセミナーの依頼もあり、企業に招かれて話をする機会も多いといいます。
協同的ジョブ・クラフティングを進めるには、「どこまで任せ、どこから変えてよいのか」を上司と本人が共通の言葉で話せることが前提になります。その土台となるのが、職務の範囲や期待される役割の言語化です。
職務の範囲と期待役割を言語化する
任せる範囲や変えてよい範囲を話し合うには、まず職務の内容と期待される役割が明確になっていることが役立ちます。DEFiDEでは、ジョブ型人事の基本となる職務の枠組みをまとめた資料を提供しています。
「若手にもっと活躍してほしい」「若手が成長し、活躍できる職場をつくりたい」と考える経営者や人事責任者に対して、池田助教は部下を一人の人間として信じ、ある程度任せることが大事だと助言します。
どこかで部下を「コマ」と感じて扱っている限り、部下もそう扱われていると感じ、上司のために頑張ろう、活躍しようとは思いにくいものです。特に今の若手は、その会社にずっと勤めていくビジョンを持っていないことも多く、その傾向は強いと池田助教は見ています。だからこそ、信頼して認めること、自分でカスタムする余地を残すことが大切になります。
離職の理由は多種多様で、対応は簡単ではありません。それでも池田助教は、1on1などを通じて、本人が今仕事でモヤモヤしていることを一緒に悩むことが大事だと言います。
「もっと活躍したい」「若いうちから良い経験をしたい」という理由で転職を考える人もいれば、人間関係が難しく「直属の上司が怖い」という理由の人もいるかもしれません。
| 施策 | ポイント |
|---|---|
| ① 1on1でモヤモヤに寄り添う | 本人が今の仕事でモヤモヤしていることを聞き、一緒に悩む |
| ② 他部署のメンターをつける | 同じ部署ではない先輩や、利害関係の少ない社員がメンターとして本人を支える。話を聞いてもらえるだけでも嬉しく、「この会社って良いかも」と思ってもらえることもある |
| ③ 社内公募制度などを伝える | 「今の職場では活躍できない」「難しいことに挑戦できない」という悩みは、既存の社内公募制度で解決できることもある。若手は制度を知らないことがある |
出典:池田助教への取材をもとに編集部作成
メンターは同じ部署でないことがポイントです。直属の上司や同じチームの人に相談しても、「とはいえ、今は目の前の仕事をしろ」で終わってしまいがちだからです。利害関係はないものの、社内で味方をしてくれる人がいることには大きな意味があります(若手の早期離職を防ぐ対策については、尾野裕美准教授の解説記事でも紹介しています)。
最後に池田助教は、若手社員の育成、さらには付き合い方に悩む中小・中堅企業の経営者や人事責任者に向けて、こう語ります。
時代とともに、働く側の個の力はどんどん強くなり、働く側が市場や会社を選べるようになりました。昔のように「こうやれ」「あれをやれ」と言われた仕事を必ずやってくれる、不満を言わずに働いてくれるといったことは、もはや確約されていません。まずはその前提を意識することが大事だと池田助教は言います。
その上で、権力で若手を繋いでいくのではなく、目の前にいるのは変わりがきく他者ではなく大事な仲間なんだと認識して、その彼ら彼女らのために何ができるのか一緒に悩んだり、考えたりしていくと、きっと良い職場になっていくと思います。
――池田助教
若手社員も「こんなに自分たちのことを考えてくれる人がいるのか」「この会社はすごく素敵だ」と感じてくれるかもしれません。若手を未熟なコマではなく、一人の大事な人間として接することが、若手が活躍する職場づくりの出発点です。
A. 個人が仕事におけるタスクや関係的境界を、物理的あるいは認知的に変えることと定義されています。池田助教は、平たく言えば「仕事を自分好みにアレンジすること」だと説明しています。
A. 仕事の内容や範囲を変える「タスク次元」、他者との関わり方を変える「人間関係次元」、仕事の意味や価値のとらえ方を頭の中で考え直す「認知型」の3種類があります。
A. 池田助教は、マイクロマネジメントで細かく決めすぎず、部下を信じて「ここまでは自分で考えてよい」という余白を残すことを勧めています。任せるのが不安な場合は、上司やメンターと一緒に変えてよい範囲を考える「協同的ジョブ・クラフティング」から始めるとよいとしています。
A. 本人だけで仕事を変えるのではなく、上司やメンターと一緒に、どの範囲なら変えてよいかを考えながら、今の仕事を自分のやり方に近づけるプランを探っていく進め方です。上司や先輩にとっても不安の少ない範囲で取り組めます。
A. 池田助教は、1on1などで本人が仕事でモヤモヤしていることを一緒に悩むことが大事だとしています。同じ部署ではない、利害関係の少ない先輩をメンターにつけることや、若手が知らないことも多い社内公募制度を伝えることも有効だとしています。
若手の価値観が多様化するほど、会社がすべてを用意することは難しくなります。だからこそ、一人ひとりが仕事を自分のものにできる余白と、それを支える上司やメンターの存在が、若手が成長し、活躍し続けられる職場をつくります。
若手一人ひとりの価値観を把握する
何に充実感を覚えるかは、若手一人ひとりで異なります。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」では、従業員が仕事に求める価値観を分析し、一人ひとりに合った関わり方や仕事の任せ方を考えるヒントを得られます。
▶ 前編:チームレジリエンスとは?困難から回復し成長するチームのつくり方と、管理職が「一人で抱え込まない」ための3つのポイント(内部リンク)
▶ インタビュー全文:今こそ問われる、若手との向き合い方とは(後編)(JOB Scopeマガジン)