第5回
健康経営や人的資本経営が叫ばれる昨今、日本企業ではサーベイを通じた社員のコンディションチェックが広がりつつあります。
しかし「従業員満足度サーベイ」などと銘打って、年に一度のサーベイ実施だけをして、社員ケアは十分だと思っている人事の方も少なくありません。
日本企業では、社員へのサーベイ実施が欧米企業と比べるとまだそれほど進んでいないため、年に一度社員の声を吸い上げていれば安心、という見方もあるのかもしれません。
一方、社員のコンディションは日々の仕事を通じて、絶え間なく変化をしています。
例えば日々取り組む仕事に変化があれば、その仕事を担当する社員の満足度も変化するでしょう。
年に一度のサーベイ実施だけでは、極端ですが「365分の1」の社員コンディションしか、捉えていないことになります。
本記事では、そのような日常的に変化する社員の状態を可視化する「パルスサーベイ」を取り上げます。
「こまめに」「ライトに」社員の状況チェックをしたいとお考えの人事の方は、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
「Pulse(パルス)」は英語で「脈拍」を意味します。
パルスサーベイとは、まるで脈を打つように、質問項目の少ない調査を頻度高く実施する点が特徴です。
パルスサーベイは、もともと欧米企業で導入が進んでいきました。
1990年にアメリカで、社員エンゲージメントと企業業績に相関があるとの研究結果が発表されました。
その影響もあり、サーベイで社員の状況や意見を把握する取り組みが、欧米企業で進んでいったのです。
しかし半年に1度や一年に1度のサーベイでは、社員や組織状態をタイムリーに把握することは難しいという課題も抱えました。
その課題を補うために登場したのが、パルスサーベイです。
「脈拍」のように、短くてリズミカルな質問で、社員のリアルな状況を把握できる利点に注目が集まりました。
欧米企業ではアディダス社やユニリーバ社などで導入が進み、組織活性化などの成果が報告されています。
そのような海外の成功事例を受けて、日本企業でもパルスサーベイが注目され、導入が進みつつあるのです。
各種サーベイが急速に広がりつつある日本企業ですが、パルスサーベイとセンサスサーベイの違いは頻繁に話題に上がります。
目的が異なることはもちろんのこと、実施の概要もかなり異なります。
以下に両者の違いを簡単にまとめます。
パルスサーベイ | センサスサーベイ | |
目的 | リアルな状況把握・速やかな打ち手 | 中長期目線での組織的な戦略の検討 |
実施頻度 | 多め | 少なめ |
実施規模 | 小さい | 大きい |
質問数 | 少ない | 多い |
パルスサーベイは、「頻繁に行われる短いエンゲージメントサーベイ」といえます。
通常は週や月ごとに実施され、社員と組織の「脈拍(パルス)」を定期的にチェックすることが目的です。
社員や組織の動向をタイムリーに把握することができるだけでなく、収集したデータをもとに、具体的な改善策を速やかに実施できる利点があります。
一方のセンサスサーベイは、全社員を対象に実施される、比較的大規模なエンゲージメントサーベイです。
センサスサーベイは、一年に1度や半年に1度など、間隔を長目に空けて実施することが一般的です。結果は会社全体の組織風土の浸透度合いや、長期的な組織の改善施策を検討する目的があります。
両サーベイともに一長一短ありますが、日常的な社員ケアと中長期の企業戦略の考案のためには、併用することが最も望ましいといえます。
しかしながら、パワーや予算に制約がある場合は、両サーベイの狙いや違いを理解した上で、どちらを優先的に実施するかを考えるようにしましょう。
ここからは具体的にパルスサーベイのメリットについて紹介していきます。
既に先行的にパルスサーベイを導入した企業から聞かれたパルスサーベイのメリットを、3点に絞ってお伝えします。
パルスサーベイの最大の特徴は、「今この時点」での組織や社員の状態を、可視化できることです。
刻々と変化する社員の状態を把握するためには、ある程度頻繁な情報収集が不可欠です。
特に労働力不足に課題がある日本企業では、社員のわずかな不満などのネガティブ感情のケアは、リテンション対策には欠かせません。
さらに、メンタルヘルスの不調は、家庭の事情など業務外の要因で突然起こるケースもあるため、こまめなサーベイで社員の状態を確認しておくことが重要です。
このようなオン・オフを含めた社員の心理状況を把握するために、パルスサーベイは効果を発揮できるでしょう。
パルスサーベイを導入することで、課題解決に向けたPDCAサイクルも速くなります。
社員のリアルな状況を察知できるパルスサーベイであれば、対策すべき事項を発見でき、問題が深刻化する前に手が打てるからです。
通常の質問数が多いサーベイの場合、質問への回答や結果の分析に時間を要してしまうため、改善のアクションをスピーディーに行うのは難しいでしょう。
この点、パルスサーベイは質問項目が少ないため、ほぼリアルタイムで回答結果の確認が可能です。
現場ですぐに対策のための施策に動けるのうえに、もちろん一定期間のデータをまとめて集計・分析することで、組織や会社としての取り組み課題も抽出することもできるでしょう。
質問項目が少ないパルスサーベイは、回答者の負担軽減になることもメリットのひとつです。
特にサーベイ導入当初は「忙しいのに、人事から一方的に回答依頼が来た」と、反発感情を抱く社員も少なくはありません。
その点、少ない質問数が特徴なパルスサーベイであれば、現場の協力が得られやすいでしょう。
「サーベイ」という言葉を使わず、「意見収集アンケート」などのネーミングにして、さらに社員の回答ハードルを下げることも、回答率向上に効果的です。
欧米企業の事例を見ても、工場現場や非正規社員など、事業運営に関わる幅広い社員の声を吸い上げる際に、パルスサーベイを導入する傾向が見受けられます。
正規社員以外の労働力確保が喫緊の課題になる日本企業においても、回答者の負担が少ないパスルサーベイは、今後も導入が拡大するといえるでしょう。
メリットが大きいパルスサーベイですが、実施にあたっての注意点もあります。
「質問が少ないパルスサーベイなら、簡単に実施できそうだから」と安易に導入を進めてしまうと、本来的なメリットが享受できないリスクもあります。
本章では、パルスサーベイ導入企業でよく聞かれる注意点について、具体的に解説していきます。
パルスサーベイは質問数が少ないことが利点ではあるものの、逆に細かい部分まで把握するのは難しいといえます。
例えば、現在の業務への効力感は質問できたとしても、その理由まで深掘りして探ろうとしてしまうと、自ずと質問項目が多くなりすぎてしまいます。
質問が多くなると、社員にとっては回答する負担が大きくなります。
負担が増えると回答してもらえなくなる可能性も高くなるため、パルスサーベイの場合、質問は「必ず把握したいコンディション」に抑えることがおすすめです。
パルスサーベイだけでは把握しきれないこともあるので、センサスサーベイをはじめとした他サーベイとの併用も検討し、適切なサーベイ設計をしましょう。
頻度高く実施することがパルスサーベイの特徴ですが、マンネリ化には注意が必要です。
毎週もしくは毎月、同じような質問に答えていると、回数を重ねるごとに社員は飽きてしまい、真剣に回答してくれなくなる可能性があります。
「なんとなく」で回答されたデータでは、社員や組織の問題点が発見しにくくなってしまいます。
同じ項目であっても、依頼メールの文面を変える、前回結果のサマリーレポートを添える、など工夫をすることで、マンネリ化を防ぎやすくなるでしょう。
また実施する側の人事も、パルスサーベイがルーチン化する点は注意が必要です。
実施そのものを目的化するのではなく、毎回結果の解釈や得点の推移を確認し、人事として取り組むべき課題を発見する意識を持つようにしてください。
なかには“サーベイ疲れ”の言葉に代表されるように、あまりに多くのサーベイを導入して疲弊気味の人事の方もいらっしゃるようです。
くれぐれも「きちんと結果を有効活用できる」状態が、サーベイ実施のゴールであることを忘れないようにしましょう。
ここまでお読みいただき、パルスサーベイにご興味をお持ちいただいた方は「自社で実施するにはどうしたら良いのだろう?」とお考えかもしれません。
本章では、パルスサーベイを実施するまでの、一般的なステップを紹介します。
最初に、パルスサーベイを実施する目的に合わせて、質問項目・調査票を作成していきます。
前述した通り、パルスサーベイの質問数は少なくすべきなので、多くても15問程度にとどめるようにしましょう。
質問数が多くなると、社員の回答負荷はもちろんのこと、人事担当が結果を集計・分析する労力も大きくなってしまいます。
質問の内容だけでなく、社員にどのように回答してもらうのかも重要なポイントです。
社員と人事の負担を減らすためにも、「Yes / No」の選択式にしたり、0~5で点数をつけてもらったりする形式がおすすめです。
また、目的や内容にもよりますが、本音で回答してもらいたい場合は、匿名式にするのも一手段でしょう。
調査票が準備できたら、回答依頼の前にパルスサーベイ実施のお知らせを、社員に広報します。
仕事が忙しい状況で、突然回答依頼が現場に届いてしまうと、社員からの不平や不満に繋がりかねないからです。
また、パルスサーベイの実施目的や活用方法も、社員に事前広報することがおすすめです。
より丁寧に広報したい場合は、人事が部署単位で説明会を実施し、質疑応答の機会を設けると、より社員からの理解が得られやすいでしょう。
調査方式は紙やメールやクラウドツールなど様々考えられますが、「複数の社員で同一PCを使っている」など、現場の状況には配慮が必要です。
いずれの形式にしても、一斉依頼だけでなく、リマインドメールを送る、マネジメントに協力依頼をする、などの回答率を上げる工夫も合わせて考えるようにしましょう。
回答が集まったら、すぐに結果をとりまとめ、社員や現場マネジメントにフィードバックを行います。
回答からフィードバックまでスピーディーに行うことで、社員に「会社は自分たちとしっかり向き合ってくれている」という誠実な印象を伝えることができます。
このような取り組みを通じて、会社や人事に対する信頼が高まり、エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
回答がある程度たまったら、パルスサーベイの結果を分析し、改善策を検討します。
ただしパルスサーベイの目的に立ち返ると、全体傾向の分析よりも、ケアが必要な個別社員の対応の優先順位が高いといえるでしょう。
そのため、現場マネジメントにもフィードバックと合わせて、フォロー依頼を行うことが望ましいといえます。
さらにフォロー内容やメンバー反応をヒアリングすることで、他の部門でも参考になるマネジメントナレッジのストックにもつながります。
現場マネジメントと連携しつつも、人事としてはある程度まとまったデータをもとに組織的な改善策を検討し、効果的な協働サイクルを目指すようにしましょう。
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本章でお伝えしたように、サーベイの調査票の設計や分析には、一定のノウハウが必要になります。 多くの企業に人事変革コンサルティングを実施しているJOB Scopeでは、「分かりやすい」と好評なパルスサーベイも提供しております。
【JOB Scopeのパルスサーベイの特長】 ・「従業員満足度」「経営理念浸透度」など3つの観点について、社員は5段階で回答するのみ。忙しい社員であっても、業務の合間での回答が可能 ・日常的なケアが必要なパート・アルバイト社員が多い職場であっても、気軽にコンディションチェックできる ・分析結果は自動で集計、見やすいグラフで報告
▶▶気になった方はぜひお気軽にお問い合わせください |
今回は数あるサーベイの中でも、「こまめに」「ライトに」社員のコンディションチェックができるパルスサーベイを紹介しました。
当然のことですが、社員の心理状態は仕事以外の要素でも変化します。
例えば、プライベートで解決しなくてはならない課題を抱えている社員は、仕事へのモチベーションが、通常より上げられない可能性もあります。
そんな際も、モチベーション低下をいち早く察知することで、同僚や上司が「元気ないみたいだけど、どうしたの?」と声をかけられ、心理ケアの一助になる可能性があります。
プライベートな問題は自力解決が求められるものの、そのようなお互いにフォローしあえる職場や会社には、ポジティブな感情を抱くでしょう。
「脈拍」の言葉には、このような職場で人と人とが関わる‟温もり”のようなものも、込められているのかもしれません。
もともと集団行動が得意で、組織力で仕事を進めることが得意な日本企業こそ、パルスサーベイは相性が良いといえるのではないでしょうか。