JOB Scope マガジン - コラム

第9回 売上10億円を超えたベンチャー企業の管理職たちの奮闘

作成者: JOB Scope編集部|2023/11/8

第9回

売上10億円を超えた
ベンチャー企業の管理職たちの奮闘

部下育成とチームビルディングの本質


2023/11/8




今回(第9回)と次回(第10回)は10億円の壁にぶつかり、それを乗り越えようとする企業の経営者にインタビュー取材した内容を紹介する。 

 

ヒーターの製造メーカー・スリーハイ(横浜市)は、創業1990年。2023年9月で売上は4億円4千万の見込み。男澤 誠 代表取締役社長のもと、エンジニア(技師)がオーダーメイドで首都圏を中心に全国の企業、団体、公的機関などから産業用、工業用ヒーターの制作を受注し、制作・販売する。現在、正社員が18人、パート社員は24人、派遣社員1人。横浜市に工場を設け、タイなど海外にも進出している。 


会社名:株式会社スリーハイ 

代表者 :男澤 誠 

所在地 :神奈川県横浜市都筑区東山田4-42-16 

設立  :1990年 

事業内容:産業用ヒーター及び温度コントローラ等の製造及び販売 

 
公式サイト:https://www.threehigh.co.jp/ 

公式Facebook:https://www.facebook.com/threehigh/ 

公式Instagram:https://www.instagram.com/threehigh.official/ 



01 ―――

売上は1億4千万円から4億4千万円に 

 

Q、男澤社長は、2023年で就任14年目ですね。売上は、どのように推移してきましたか? 

 

私が先代(実の父親)である創業者から後を継ぎ、2代目の代表取締役になったのが2009年。当時の売上は、1億4千万円ほどでした。今年(2023年)の9月決算で44千万円前後になる見通しです。 

 

このくらいの規模の企業は売上をおおやけにはしないケースが少なくないのですが、弊社ではオープンにしています。そもそも、隠すようなことではないでしょうから。ここ10年、事業が拡大し、新卒や中途の採用を一定の頻度で続けており、ここで働こうと思う方たちの不安を取り除きたいからでもあります 

 

そのようなこともあり、2023年には事業活動やCSR活動・SDGsへの取り組み、財務内容の公表にも踏み込んだアニュアルレポート(Annual Report、年次報告書 ※)「THREE HIGH ANNUAL REPORT OMOU 2022」をつくりました。社員、株主や取引先、就職希望者、大学や専門学校、高校などの学校、公的な機関などに様々な機会を通じて配布しています。 

 

たとえば、就職希望者には会社説明会や採用試験の時などです。入社後ももちろん、ここで書かれてあることについて話し合い、意識を共有するようにしています。弊社の規模でこのような試みをしている企業は少ないと思います。




男澤 誠 代表取締役社長

 

※企業が事業や財務、人事など経営内容について自社を正しく知ってもらおうと、ディスクロージャー(情報公開)の観点から制作し、株主や金融機関、就職希望者などの関係先に配布する。

 



02 ―――

規模は小さいが、高利益を出す製品をつくり続ける


Q、
 2代目として入社したときは、どのような状況でしたか?

スリーハイに入社する前は、大手通信建設メーカーにシステムエンジニアとして勤務していました。今振り返ると、社内ネットワーク、デバイスをはじめ、様々な態勢が広い範囲できちんと整備されていたように思います。 

 

私が入社した2000年当時の弊社は、組織の態勢が未熟でした。正社員は5人程度。パート社員は数人で、全員共有のパソコンはあるものの、それぞれの社員に一台ずつ貸与されていない。ネットワークが整備されていないから、インターネットを見ることができない。どうしたらいいんだろう、とがく然としました。 

 

それ以前に父から、経営状態や社内の状況についてレクチャーは受けていません。おそらく、そんなことを考えていなかったのだろうと思います。きっと、経営者としてそこに不満を感じる機会がほとんどなかったのでしょうね。日々売上げをたてていくことで一生懸命だったでしょうから。前職と比べ、私は環境がガラリと変わってしまったことを目の当たりにし、2代目として将来への不安を感じたのです。 

 

組織としていいところもありました。正社員とパート社員を合わせて10人に満たない規模でしたが、小さな町工場といった雰囲気で、アットホームでした。短い期間で辞める人はほとんどいない。正社員の平均年齢が50代後半で、ほかの町工場と比べるとおそらく高いのかもしれません。 

 

①正社員は経験と実績が豊富なエンジニアで、チームとしてまとまっているように見えました。そのチームをエンジニアであり、営業マンでもあった父が引っ張り、高利益を出す製品を、つまり差別化ができてお客様に満足していただける製品をつくっていたのだろうと思います」

 



03 ―――

一緒に会社をつくり直すことができる人を雇い、育てる


Q、先代は成功する創業者によく見られるようなすばらしい発想や思考、行動力があるのでしょうね。正社員5人で1億4千万円を毎年キープするのは相当に難しいでしょう。2代目の社長就任以降、組織づくりに向かい合う必要があったのではないでしょうか? 

その通りではあるのですが、仕組みづくり以前にまずは、社員各自のパソコンを買うことから始めました。私もエンジニアだったこともあり、パソコンがないと落ち着かない。ここが、第1歩。さまざまなネットワーク機器を設置し、社内ネットワークを整備し始めたのですが、今度は先輩社員とのコミュニケーションに悩み始めました。職人気質であり、うまくチームとして連携がとれないのです。ずいぶん悩み、父と話し合いました。 

  

「父が経営してきた会社をうまく引き継ぐ自信がない」と伝えました。正社員の人は当時30代であった私よりもはるかに年上であり、経験が豊富で、コミュニケーションが難しい。古参の社員からいじめを受けるときもありましたから。 

 

②父は、こう答えました。「今のメンバーは、お前の言うことを素直には聞かないだろう。私が雇い、育て上げ、使いやすい人材にしたのだから。おまえがこれから一緒に会社をつくり直すことができる人を雇い、育てたらいい」。 

 

それで、考えを変えたのです。退職者が現れたら、私が責任者として中途採用を行い、補充をする。私よりも年齢が若く、20代後半から30代半ばまでくらいで、ともに組織をつくってもらえそうな人を雇うようにしました。 



 

04 ―――

私の足りないところを補ってくれるタイプを求めた 

  

新卒採用は、この時点ではしていません。私がまだ経験が浅く、育成はできないだろうと思いました。むしろ、数年で構わないので社会人経験があり、経営者として私の足りないところを補ってくれるタイプを求めていたのです。ほかの業界での経験でも構いません。世間的な相場として優秀であるか否かではなく、弊社の現状やステージ、社風、現在の社員たちと合う人を採用したかったのです。それが、双方にとっていい結果になる気がしました。

2023年現在、社の中核になっている数人の正社員は40代ですが、私が社長に就任した頃に30代前半から半ばに中途採用試験を経て入っています。いずれも前職の経験を必要以上に前面に出すことはせず、素直にこの会社に溶け込んでくれました。中途採用で入る人としては珍しいタイプかもしれませんね。職場の雰囲気が、明るくなりました。人間関係をよくしてくれたのが、この時に入社した数人です。その意味で、感謝しています。 



Q、中途採用で入りながらも、うまくいかない社員もいたのではないでしょうか? 

 

かなり以前の話ですが、面談の時点で、うちの会社に合うのかなと迷う人はいました。それでも、エントリー者が少ないために雇わざるを得ない場合があったのです。こんな町工場に来てくれるならば、ありがたい。そんな思いが強かった。あの頃は、採用の際に人を選ぶことはできない状態でした。そのよう形で入社し、残念ながら早いうちに退職した人もいます。

 

 

 

 



 

05 ―――

人間関係ができていない中で、理念は社員の意識に浸透しない 

 

Q、そのようになると、“人材の自転車操業”にならないでしょうか?つまり、出入り(入社・退職)が激しくなりませんでしたか? 

 

そのような状態になることは、なんとか避けたかったです。まず、定着率を上げようとしました。お互いをよく知ることが必要なので、仕事を終えた後、お酒を軽く飲むことしました。 

 

特に力を入れたのは、正社員やパート社員とよく話すこと。勤務時間中、そばに行き、趣味などプライベートのことを聞いたりします。わずか数分であってもくり返すと、仕事についても深い話し合いができるようになります。 

 

⑤ここが、大切です。社長と社員といった関係よりも踏み込んで、人と人との関係になります。そのうえで、経営理念などを共有できるようにしたのです。人間関係ができていない中で理念は社員の意識に浸透しにくいと思います。 

 

業績が拡大し、組織が大きくなると不安は感じるものです。それが、10億円の壁と言われるものなのでしょうね。この時期、仕事は増え、各部署から「人が足りない」といった声を時折聞きました。しかし、正社員、パート社員ともに採用試験にエントリーする人は少ないのです。こちらが思い描いた人と巡り合うことがなかなかできないのです。 

 

ここでどうするかー。もう、正社員だけで隅々まで対応することはできない。2013年前後から政府の主導のもと、働き方改革がはじまり、残業時間をこれ以上増やすことは難しくなっています。 

 

このときに派遣社員をはじめて雇ったのです。ムリをして正社員やパート社員を雇うよりも、いい結果になる気がしました。実際にそのとおりとなり、現在は1人います。 

 

 




06 ―――

新卒採用にも力を入れるように

 
Q、新卒採用もはじめたのですね。 

中途採用は今後も続けてはいきますが、少子化が進むと、私たちの求める人を採用するのは難しい時代になるかもしれません。 

 

たとえば、多数の中小企業やベンチャー企業が参加する転職者向けの合同説明会に弊社も加わることがあります。その場で弊社への就職を希望する人と話し合いますが、私たちの考えとは合わないと思えるケースも少なからずあるのです。短い期間で何度も転職を繰り返したり、履歴者に写真が貼っていなかったりする人です。 

 

 最近は、転職を希望する人は転職の求人サイトに登録し、そこを通じて企業から誘いを受けることが増えているようです。優秀な層は、こういう求人サイトのルートで中途入社する傾向があるのかもしれませんね。 

 

 

 

07 ―――

アニュアルレポートをつくり、差別化

 

れで、5年程前から新卒採用にも力を入れるようにしました。スリーハイを正確に知っていただくために、さきほど話したようなアニュアルレポートをつくったり、特に首都圏の大学や高校などで私や社員らが出前講義をしたりしています。大学生はアニュアルレポートをきちんと読んで、授業のときに盛んに質問をしてきます。それに答えるのですが、やりとりをしていると私自身が熱くなるときがあります。 

 

こういう機会を通して、私たちを知ってもらえるようにしています。入社後のミスマッチを防ぎ、定着率を向上させたいのです。ただし、出前授業は採用と直結したものではありません。私たちなりの社会貢献活動です。



アニュアルレポート
「THREE HIGH ANNUAL REPORT OMOU 2022」 

 

 

 

08 ―――

学生を強く意識したアニュアルレポート

 

大企業やベンチャー企業がつくるアニュアルレポートは私が拝見する限り、投資家や株主向けのものが多い気がします。弊社は、学生を強く意識した内容でもあるのです。 

 

ある大企業の責任ある立場の方から「スリーハイのアニュアルレポートはわかりやすいから真似をしたい」と言われたほどです。実際、弊社の規模でこういうことをしているのは少ないはずで、とんがった試みと言えるのではないでしょうか。内容には、自信があります。ぜひ、ご覧になっていただきたいです。 

 

お読みになった中小企業経営者から「うちでもつくりたい」と相談を受けるようになりました。今後、私たちは中小企業向けのアニュアルレポートの編集制作のコンサルティングを事業としてはじめようと考えています。

 


アニュアルレポート
「THREE HIGH ANNUAL REPORT OMOU 2022」 

 






著者: JOB Scope編集部
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