組織改革/人事制度設計
【人事制度設計:実践編】

人事評価制度の設計について

 

企業に在籍する社員の言動を、つかさどっているといっても過言ではないのが「人事評価制度」です。
社員の視点でも身近な存在である一方、人事制度のなかでは比較的、改定がしやすい要素といえます。

ただし、人事評価制度を10年以上改定していないという企業の比率は5割以上にも登るという調査結果も出ています。

参考:「人事評価制度運用に関する調査」(株式会社あしたのチーム)

10年前と現代で、求められる能力・行動・結果は果たして全く同じなのでしょうか。
自信を持って「Yes」と言える場合は、10年前の人事評価制度をそのまま使い続けて問題はないでしょう。

仮に、現在のビジネス環境にそぐわない評価制度になっているのであれば、ぜひいま一度自社の制度をチェックしてください。
評価項目の一部分を改定するだけでも、社員にとっては大きなメッセージとして響くでしょう。

 


1.人事評価とは何か?

人事評価とは、ある決まった期間における社員の仕事状況や功績などを確認し、公平に評価する制度です。
人事評価の基準や項目を明確に定めることにより、企業としての方向性を社員に示すという効果もあります。

人事評価は全ての社員によって身近に感じる人事制度の一つで、関心も高いでしょう。
一方で「人事評価に不満はつきもの」というフレーズに、心当たりがある方も多いのではないでしょうか。
ある意識調査では、世の中の半数程度の社会人は、人事制度に不満を持っているそうです。

参考:人事評価制度に対する意識調査【リクルートマネジメントソリューションズ】

では、そんな不満に思われながらも、企業が人事評価を行うのはなぜでしょうか?
その一つの解は「仕事をやってもやらなくても同じ」という悪平等を回避するためです。

現実として、社員の処遇には必ず格差が生じます。
人事評価により差が生じないのであれば、「やってもやらなくても同じ」と社員は捉え、自分の能力発揮を手控える可能性もあります。
しかし人事評価の基準が開示され、本人がその基準に納得していれば「頑張って仕事をしよう」と思えます。

以下の図のように、人事評価は人事制度の中心にあり、社員の動きをつかさどる位置づけです。

人事評価とは何か?

参考:『図解 人材マネジメント入門 人事の基礎をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ』をもとに、編集部にて作図

人事評価は、他の要素にも強い影響を持っていることになります。
つまり人事評価の結果は、人事制度における判断の根拠となる情報なのです。

 


2.人事評価によってめざすべきもの

できれば人事評価への不満は解消したいものです。
人事評価は「人絡み」の制度のため、ついつい個別の不満解消など、“モグラ叩き”的な対応に終始しがちな側面もあります。

しかし人事としては、個別の不満解消よりも、本来的に人事評価によってめざすべきものを考えるべきでしょう。高い視座から人事評価の意義を保つよう、心がけてください。

公平性がある処遇の分配を行う

処遇の分配とは、ある意味「宝の山分け」のようなものです。
宝(企業の利益)は有限なので、誰がどのくらいの分け前(賃金)をもらえるかは、どんな社員にとっても関心事となります。

現実には、賃金だけではなく、仕事のアサインや勤務地、福利厚生まで社員の遇し方のすべてが含まれます。

難しいのは「公平」は与えるものではなく、感じるものだという点です。ここに「不満」が生まれる原因があります。

感じる側の主観だからと諦めるのではなく、公平を2つに分解して対策を考えることが重要です。

分配の公平感

分配の公平感とは、他者と比較して分け前が公平であるかどうかを考えることです。

人は自分が仕事に投入したものすべて(努力・経験・スキルなどのインプット)と、仕事から得たものすべて(賃金・ポジション・成長などのアウトプット)の割合を重視します。
自分の割合と他者の割合を比較して、公平や不公平を感じる精神構造があります。

企業では賃金もポジションも制限があるため、全社員が満足する分配の公平感は実現困難なこともあります。
どれほど人事評価制度が精緻で合理的であっても、この個人の性格特性や主観によって左右される分配の公平感は、対策に限界があるでしょう。

手続きの公平感

前述の分配の公平感よりも、人事評価の設計と運用において担保しやすいのが、手続きの公平感です。

評価内容の合理性や評価プロセスの透明性を確保することで、手続きの公平感はどのような企業でも高めることが可能です。

また近年は手続きの公平感を担保するために、人間関係に焦点をあてることが注目されています。
丁寧なフィードバックや、意見を真摯に聞こうという姿勢が感じられることで、公平感を感じやすい状況が生まれます。今後、ますます評価者教育の重要性が増していくでしょう。

社員の活用と育成

社員の活用と育成は、人事評価の大切な目的です。
評価結果と賃金額を決めて伝えるだけの評価では、「上からのお達し」と受け止められ、下手をすると労使間の感情的対立を煽る結果となるでしょう。

人事評価とは、一人ひとりがどうすれば活躍できるか、これからどう成長できるかを検討し、必要な援助をともに考えるためのものです。

現状をしっかり評価することは、人的資本を適切に活用し、育成につなげるスタート地点と認識ください。

企業文化の醸成

忘れてはならない人事評価の目的は、企業文化の醸成です。

求めたい評価項目の開示、および評価結果のフィードバックの積み重ねが、社員の行動を変え、企業文化を作っていきます。

「何を評価するか」は企業の重視する価値観を直接的に表現したものであるからです。
したがって、次の章で説明する「○○評価」という評価の対象は、企業価値を体現できるもの、体現しやすい設計にする必要があります。

中長期的な視点で考えると、企業にとって人事評価の欠かせない価値は、実はこの点にあるのではないでしょうか。


3.人事評価制度の設計ポイント

人事評価制度の設計ポイント

人事評価制度は、社員の能力や企業への貢献度を評価するものです。

多くの場合、評価制度は等級制度や賃金制度と連動していて、評価が良ければ等級・賃金が上がります。もちろん評価が悪ければ、下がることもあり得ます。

評価制度の構成要素としては、以下の3つが主なものです。

【評価制度の構成要素例】

  • 能力:職務を遂行するために必要な能力
  • 行動・プロセス:日常の発揮能力や取り組み姿勢
  • 結果:業績、目標達成度などの結果

人事評価には、何より合理性が求められます。
能力やプロセスの評価の曖昧さが問題になりがちなことから、近年は結果評価に軸足を置く企業が増えています。

昨今話題になっている「ジョブ型人事制度」を導入する場合でも、仕事を通じた成果に着目する結果評価は相性がよいでしょう。

能力評価とは

能力評価は、社員が持つ能力やスキル、知識に対して評価することです。

例えば、「リーダーシップ」「調整力」などの項目が代表例です。なかには「前向きさ」などの取り組み姿勢を、情意評価として含めることもあります。

能力の特徴は「可視化のしにくさ」と「変化のしにくさ」に集約されます。
そのため、ポテンシャルを重視する新卒採用でよく使われる評価方法です。同時に、マネジメント昇格など、重要なポジションにつける際に、本来的な適性を確認するためにも能力評価が使われます。

能力評価は仕事の成果を上げにくい若手層には、相性が良い評価方法です。
一方マネジメント層では、持てる能力ではなく、出した結果評価の比重が高まる傾向にあります。

行動評価とは

仕事の結果・成果に至るまでの過程や行動、プロセスを見るのが行動評価です。

行動評価はちょうど「能力」と「結果」の中間に位置づけられます。
能力は目に見えにくいため、測りにくいものです。しかし行動した事実は、観察ができます。行動から推察して、能力があるのであろう、という解釈になります。

一方、結果側からの観点から行動を捉えると、「結果には至らなかったが、非常に良い動きを取っていた社員」を行動評価で称えることができます。
周囲のお手本となるような行動を取っていた社員が、取引先事情で結果に至らなかった場合などに、本人のモチベーション低下を救うことができるのが利点です。

ほとんどの企業で行動評価は取り入れられており、昇進・昇格や昇給に反映させています。

また行動評価に、職務ごとに成果を上げやすい行動特性をもとにした、コンピテンシー評価を導入するのも、昨今のHRトレンドでしょう。

結果評価とは

結果評価とは、一定期間内の仕事の成果・業績が評価対象となります。

売り上げや利益などの営業数字、開発した製品などはもちろん、業務改善やミスの削減など定常業務の遂行なども、立派な結果と見なせます。

自らの力で結果を生み出せる、一定のスキルを持っている社員やマネジメント層には、結果評価を取り入れることが多いでしょう。

また「一定期間の結果生産」の意味合いも含めて、結果評価の賃金の反映先は賞与としている企業がほとんどです。


まとめ

今回は、人事評価の意義から種類まで解説をしてきました。

なお、人事評価は「正規雇用者だけのもの」と思い込んでいる方もいるかもしれません。
しかし今回紹介したように「やってもやらなくても同じ」は、働く人なら等しく抱く感情でしょう。

昨今はアルバイト・パートタイムに代表される非正規社員にも人事評価を適用し、処遇に合理的な差を設けている企業が増えています。
人間は誰しも、正当で納得できる評価結果が得られれば、さらに頑張ろうと思えるはずです。

労働力不足に悩む日本において、雇用形態にとらわれず、働く人全てのモチベーションにアプローチするような人事評価制度の設計は、欠かせない観点といえるでしょう。

 

JOB Scope編集部

著者: JOB Scope編集部

新しい働き方、DX環境下での人的資本経営を実現し、キャリアマネジメント、組織変革、企業強化から経営変革するグローバル標準人事クラウドサービス【JOB Scope】を運営しています。