評価者教育の実施について
評価者教育は、評価権を持っている管理職・マネジメント層に向けた教育施策全般のことです。
新入社員や若手社員向けの教育施策はやっていても、管理職向けの教育は手薄になっている企業も多いのではないでしょうか。
特に新しい人事評価制度を導入する際には、人事制度の説明会以外に、評価制度を運用するための評価者教育を行うべきでしょう。
新人事制度が狙い通り機能するためには、管理職の動きが要になります。
管理職が人事評価をはじめとしたあらゆる場面で、会社がめざすべきビジョンに向けて、メンバーを指導しなくてはならないからです。
今回は、人事制度運用の要となる評価者にむけての教育をテーマとして取り上げます。
人事制度を新しくする場合はもちろんのこと、ここ数年管理職向けの育成を見直していないという企業は、参考にしていただければ幸いです。
1.評価者教育はなぜ必要か
等級基準を職能ベースから、ジョブベースへ。評価基準をプロセスベースから、成果ベースへ……。
このようにドラスティックに人事制度を変える場合は、評価者への教育もあらためて施す必要がある場合が多いでしょう。
評価者教育は、管理職向けの勉強会や研修の実施が考えられます。
その場合、忙しいマネジメント層を現場から離すことになるため、実施時期などは慎重に見極める必要があります。
また評価者教育は時間もコストも発生するので、制度運用を開始してから必要施策を考えてしまうと、後手に回りがちになります。
このような事態を防ぐためにも、先んじた準備および「なぜ評価者教育を行うのか」の目的を明確にするようにしましょう。
あらためて評価者教育の目的を2点紹介するので、自社の状況に置き換えてご一読ください。
人事制度を人材のモチベーションアップにつなげるため
管理職には、組織メンバー一人ひとりがモチベーションを高めて働けるよう配慮する必要があります。
組織メンバーのモチベーションは、管理職によって左右されるといっても過言ではありません。
近年は社員の労働観や働き方が多様化しているため、部下への動機づけをする方法も一様ではなくなり、マネジメントは非常に難しくなっています。
また、昨今はリモートワークの浸透によってコミュニケーションが減少し、社員の帰属意識や愛社精神も希薄化してきているのが現状です。
そのため評価者である管理職は、部下の多様な働き方・価値観に対応しながら、新人事制度の狙いや価値を伝えていく存在となるべきなのです。
人事制度を企業の競争力につなげるため
人事制度を企業の競争力向上につなげるためには、経営層と現場をつなぐ管理職の役割は非常に大きいでしょう。
現在は市場の国際化や消費者ニーズの多様化などにともない、企業にとって変化の絶えない時代となっています。
人事制度の目的を理解した上で、現場でスピーディに指示・判断を行う体制構築が重要となります。
そのため、評価者教育を行うことで管理職による現場への人事制度の方針浸透力を高め、組織としての競争力を高める狙いもあるのです。
2.評価者教育で扱う代表的なテーマ
評価者教育で扱うテーマは、人事制度の狙いや管理職が置かれている課題によって異なります。バリエーションはさまざま考えられますが、ここからは代表的な5つのテーマを紹介します。
また今回はベーシックな研修形式を想定してテーマを紹介しますが、広義の教育施策としてはコミュニケーションツールを使った日常的なフォローなども含まれます。
組織マネジメント
長らく人事制度を改定していない企業では、管理職に関する教育・育成は「新任管理職研修」などベーシックなものしか施していないケースも散見されます。
そのため、新人事制度の施行のタイミングで、あらためて管理職の役割・人事評価の手法など、基本的な組織マネジメントを教育することが考えられます。
特にベテランの管理職が多い企業では、我流でのマネジメントを展開していることも想定されます。
新人事制度を一つのきっかけとして、あらためて自社の管理職で求めたい・あるべき組織マネジメントを浸透させるとよいでしょう。
評価フィードバック
人事評価制度を社員のモチベーション管理として特に活用したい場合は、評価のフィードバック場面に特化した教育を施すことも考えられます。
単に当該期の人事評価結果を伝えるだけでは、社員の行動改善にはつながりません。
「どのような場面を見て」「どのような判断をしたか」の根拠を伝えた上で、「来期は具体的に何の改善を期待しているか」を、フィードバック場面では伝える必要があります。
評価フィードバックをテーマにする場合は、ケーススタディやロールプレイングなど「実践」に絞ったコンテンツにするのが特徴です。
現在の評価制度で課題となっている場面や、新人事制度で予想されるネックなど、できるだけ自社のリアルに近い場面を取り扱うよう留意しましょう。
キャリア開発
キャリア開発とは、管理職に部下のキャリア形成を支援するためのスキルを習得させる教育です。
終身雇用の崩壊が叫ばれる今、メンバーのキャリア自律を支えることは管理職にとって重大な課題です。組織メンバーの得意分野だけでなく、今後身につけたいキャリアを引き出すためのスキルを体得する教育施策となります。
具体的には、キャリアの棚卸しや個人の強みをもとに、将来のキャリアをイメージするキャリアデザインの設計プロセスなどが教育テーマとなります。
また、個人のキャリア開発だけではなく、「女性活躍推進」や「多様な雇用形態のマネジメント」など、自社が注力しているテーマを取り扱う場合もあります。
キャリアデザインは汎用的に活用できるスキルなので、管理職自身にも得るものがあるでしょう。
チームビルディング
チームビルディングとは、マネジメントだけでなくチーム全員が力を出し合う組織を作るための教育です。
たとえば、部下の多様な価値観に対応するための手法を教示する「ダイバーシティマネジメント」や、会議で参加者の意見を引き出す「ファシリテーション」などのテーマについて学びます。
管理職のチームビルディング能力を高めることで、チームの結束力を高め、組織全体のパフォーマンス向上をはかりやすくなるでしょう。
コンプライアンス・リスクマネジメント
やや方向性は異なりますが、新人事制度施行のタイミングで、コンプライアンスやハラスメントをはじめ、経営リスクを防止するための教育を行う企業もあります。
昨今は「人的資本経営」の流れを受けて、企業姿勢が問われる風潮が強くなっています。
そのため管理職に組織内のリスクを予防・早期発見させることで、企業としての信頼性も高めやすくなるでしょう。
具体的なテーマ例としては、法令順守の姿勢やコンプライアンス違反の基準を学ばせる「コンプライアンス」、パワハラやセクハラの防止方法を教示する「ハラスメント」などがあります。
また、部下のメンタル不調を早期にケアするための「メンタルヘルス」も、リスクマネジメントの一環として重要性が高まっています。
3.評価者教育を成功させるポイント
ここまで評価者教育のテーマについてお伝えしてきましたが、最後に教育施策を成功させるポイントを3点お伝えします。
課題設定や目的は具体的にする
課題や目的はなるべく具体的に、かつ言語化することがおすすめです。
仮に研修開催の場合、管理職に案内する際に漠然とした課題や目的設定では、参加する意義を感じてもらえません。参加者によってモチベーションが異なると、研修全体の雰囲気にも影響が出てしまいます。
課題や目的を具体的にしておくと、振り返りもしやすくなるため、次年度以降の教育施策の企画にも活用しやすくなるでしょう。
マインド・スキルの両面からアプローチする
マインド・スキルの双方が身につくような教育内容にすることも、評価者教育の成果を高めるポイントです。
「フィードバック力を鍛える研修」を例にすると、座学でフィードバックの重要性を教示したり、ワークショップで自組織の課題を話し合わせたりすることで「マインド」の醸成ができます。
さらにロールプレイングで動機づけの方法を実践させることで、フィードバックに関する「スキル」の習得につなげられます。
マインドだけでなく実践的なスキルも学べる内容であれば、管理職も学んだことをより現場で活かしやすくなるでしょう。
効果検証・ブラッシュアップを行う
評価者教育を実施後というのは、目的に照らすとゴールではなくスタート地点です。
実際に、管理職が評価者教育の狙い通りの行動を取れているかどうかがゴールです。
そのため、評価者教育を実施したあとに、実際の管理職の動きをウォッチし、必要に応じてフォローを行ったり、追加施策を検討したりすることが求められます。
また、評価者教育を受けた管理職から感想をフィードバックしてもらうことも重要です。
教育実施直後のアンケートはもちろんのこと、期中や期末評価の実施後に「教育内容が実践の役に立っているか」をヒアリングするようにしましょう。
人事制度は人による運用を通じて生き物のように形を変えていくものです。常に情報収集を怠らず、その時々で必要な評価者教育の内容にブラッシュアップをする姿勢が重要です。
まとめ
経営と現場をつなぐ立場である管理職への教育は、企業の競争力をも左右する重要なイベントです。
特に人事制度を改定した際は、人事制度の浸透や実際の社員の行動を変化させるための、ハブ機能となるのが管理職です。
人事部門はとかく忙しい現場に遠慮しがちですが、人事制度を狙い通り機能させるために、目的意識を強く持ちながら教育施策を実施するようにしましょう。
また管理職側も、教育を受けることによって自身のスキル向上や成長が感じられるのは、概して嬉しい感情を抱くものです。
決して形だけの評価者教育を実施するのではなく、人事・経営側にも管理職側にも享受できるメリットがある教育施策を企画してください。