【人事制度設計:実践編】なぜ企業に「人事ポリシー」が必要なのか?他社事例と具体的な作成ステップを解説
経営ビジョンや企業ミッションは作っていても、独立した人事ポリシーを設定している企業は、それほど多くないかもしれません。
通常の人事業務の運用においては人事ポリシーがなくても、そこまで困らない可能性もあります。
しかし人事は「正解がない」世界です。
正解がない状況で最適解を選ぶためには、拠り所となる人事ポリシーは必ず必要といえるでしょう。
今回は、あらためて人事ポリシーの意義や表現方法、具体的なメリットを解説します。現在人事ポリシーを設定していない企業も、あらためて自社ならどのようなポリシーになるかを想定しながらお読みいただければ幸いです。
1.人事ポリシーとは
人事ポリシーはどのような場面で効果を発揮し、どのような表現方法になるのでしょうか。あらためて考えてみたいと思います。
人事ポリシーの役割
企業や経営者の人に関する指針が人事ポリシーです。
具体的には、ビジョンやミッションを実現することを目的に、組織や人に対する企業としての捉え方や方向性を指し示したものといえます。
人事ポリシーは、人事に関連する仕組みを構築していく上での大方針となります。
したがって、通常の人事業務では人事ポリシーがないことで問題が起きないとしても、人事制度設計を行う際は、必ず設定することが必要です。
人事制度改定は、賃金・評価・等級制度のみならず、昇格ルールや評価者育成など、決めるべき事項は多岐に渡ります。
この決定場面で拠り所となるのが、人事ポリシーです。
人事ポリシーは、「経営ビジョンやミッションを進めやすくするための、人(社員)に対する考え方・求めたいこと」と言い換えることもできます。
つまり、一つひとつの人事制度設計の決め事について「経営ビジョンと整合性がとれているか」を確認する役割が、人事ポリシーといえます。
人事ポリシーがないと、部分最適で設計を進めることにもなりかねません。
こうなると社員は、出来上がった人事制度での経営メッセージの不統一さに混乱してしまいます。
例えば「評価制度では努力やプロセスを推奨しているが、賃金に大きく影響を与えるのは結果や業績になっている。いったい、自分は会社から何を求められているのだろう?」と疑問を持つでしょう。
人事ポリシーの表現タイプ
人事ポリシーの表現方法は、おおよそ以下の3タイプに分類されます。
特にどの表現が推奨されるものでもないため、自社の社風に合う表現や、社員が求めるであろう表現を選べばよいでしょう。
重要なのは「社員(もしくは社外のステークホルダー)に、自社が重要視している人への考え方が、伝わりやすく表現できているか」です。
2.人事ポリシーの作成ステップ
人事ポリシーは、特に決まった手順を踏んで作成する必要はありません。
ここでは一般的な作成ステップを紹介するので、参考にしてください。
- 企業理念や組織のあり方を考える
人事ポリシーは人に関する会社の考え方ですが、その前提には会社の理念や組織のあり方があります。
会社は何を目指しているのかを考えることは、人事ポリシー策定の最初の一歩です。企業理念やビジョンを咀嚼し、望ましい組織について考えます。 - 望ましい人物イメージを明確にする
企業理念が明確になったら、望ましい人物像を明らかにします。
会社が求める人物として欠かせない要素を、洗い出すイメージです。
人材採用にも人事ポリシーを使いたい場合は、「求めたいスキル」「望ましい行動」と人物像を、徐々に具体的な項目へとブレイクダウンするとよいでしょう。 - 社員を評価する際の基準を決める
会社が社員に対してどの様な行動・能力を期待するか明確にします。
人事評価項目ほど細かくする必要はなく「行動規範・指針」程度と捉えるとよいでしょう。
やるべきことが明確になることで、主体的な社員の行動が期待できます。
3.人事ポリシーの他社事例
現在人事ポリシーがない企業は、人事ポリシーの表現方法に悩まれるかもしれません。
人材採用に積極的な企業であれば、企業WEBサイトで人事ポリシーを公開していることが多いため、参考にしてみてもよいでしょう。
ただし他社を参考にする場合でも、自社のポリシーを設計する際は必ず経営陣で議論を行い、自社なりの言葉で魂を込めた表現にするよう留意しましょう。
【人事ポリシー例:ソフトバンク株式会社】「勝ち続ける組織」の実現 300年続く企業になるために、「勝ち続ける組織」を実現します。 「挑戦する人」にチャンスを 自らの成長に向けて挑戦する人を本気でバックアップします。 「成果」に正しく報いる 仕事の成果に正しく報います。 |
同社は、端的に以下の3点で人事ポリシーを表現しています。
- 「勝ち続ける組織」の実現
- 「挑戦する人」にチャンスを
- 「成果」に正しく報いる
ここを読むだけで、ソフトバンクがベンチャーマインドを大事にしてこの先を勝ち抜いていくこと、そのために社員個々人には挑戦を推奨していること、結果が出たら還元をするスタンスであること、などが理解できます。
要所要所で、くだけた口語口調を交えている表現も、同社の社風が垣間見られます。
企業としてどのような人を奨励するのかを、誰にでも分かりやすく表現している好事例でしょう。
【人事ポリシー例:株式会社リクルート】人材マネジメントポリシー リクルートの人材に対する考え方の中核を成す概念です。「価値の源泉は人」であるという考えを中心に、価値の創造を継続的に最大化するため、個人と会社の関係性として双方がどのような約束を果たし合うべきかを想定しているものです。個人に対しては、リクルートに在籍する限り個人/チームの進化を続けることを求めます。会社としては、個人の能力をいかんなく発揮するための機会・環境を提供することを約束しています。 |
人材輩出企業として名高いリクルートらしい「価値の源泉は人」という考えを、全面に出した人事ポリシーです。
このモデル図のあとに、「個人に求めるもの」「会社が提供するもの」と続き、労働側と雇用側の対等な関係を強調しているのも特徴でしょう。
さらに続けて、リクルートは人事制度や人事の仕組みの詳細も公開しています。
人事ポリシーそのものも参考になりますが、社内にも社外にもオープンな企業スタンスを伝えている好事例といえます。
4.人事ポリシーがあることのメリット
最後に、あらためて人事ポリシーがあると具体的にどのようなメリットがあるかをお伝えします。
社員の言動の拠り所となる
自社の社員はあらかじめ人事ポリシーに共感・合意して入社しているため、通常の業務でそこまで人事ポリシーを意識することはないかもしれません。
しかし、企業で過ごす時間は平坦なことばかりではありません。
キャリアに迷ったとき、大きなトラブルに遭遇したとき、今までにない挑戦をするとき……。
このような日常の延長ではない場面に、人事ポリシーが拠り所となることでしょう。
具体的には、人事ポリシーは社員に「この会社にいることの意味や意義を再確認できる存在」になるはずです。
日常の行動指針として機能する効果はもちろんのこと、社員が大きな場面に遭遇した際、人事ポリシーが決断の後押しとなるでしょう。
人材獲得力が向上する
人事ポリシーを企業WEBサイトで公開する狙いの多くは、人材採用面にあります。
求職者が企業のことを調べる際、必ず企業サイトで情報収集するはずです。人事ポリシーを公開していれば、求職者はその企業で働く自分が想像しやすくなります。
それだけではなく、人事ポリシーに共鳴する人が応募する確率が上がるため、より定着や活躍しやすい人材の応募が期待できるでしょう。
逆に考えると、人事ポリシーは採用ミスマッチ防止にも効果を発揮します。
事前に人事ポリシーを確認することで、ポリシーに共感できない人やその職務環境を望まない人は、応募を辞退するはずです。
求職者側のセルフルクリーニングでミスマッチが防止できることは、採用の効率化にもつながるでしょう。
社外ステークホルダーへ自社風土が伝えられる
企業WEBサイトや会社案内パンフレットに人事ポリシーを掲載することは、多くの社外ステークホルダーの目に触れることになります。
ステークホルダーとは企業のあらゆる利害関係者のことで、株主、顧客、競合企業、行政、地域社会、報道関係者などあらゆる人々が含まれます。
人事ポリシーは、いわば「会社の風土の自己紹介」のようなものです。
ステークホルダーが目にすれば、会社のイメージや在籍社員の想像が進む効果があるでしょう。
また、昨今はSDGsに代表されるように、企業には情報開示の姿勢が求められています。人事ポリシーを公の場に公開するだけで、企業の誠実性や信頼性が向上する効果も期待できます。
まとめ
少子高齢化で労働不足が続く日本においては、限られた社員に力を発揮してもらうことは必須でしょう。
その「人」に対して期待していることを明示する人事ポリシーは、採用面はもちろんのこと、社員に対してもメッセージ性が強い存在です。
特に職能型の人事制度からジョブ型の人事制度に移行する場合などは、社員に求めるメッセージが大きく変化することになります。
必ず会社としての人事ポリシーは設定し、人事制度の詳細を説明する前に、ポリシーを社員に共有するようにしましょう。
人事ポリシーを会社が明示することで、社員側も会社に求めることなどを、健全に表に出しやすくなる効果もあります。
人事ポリシーの作成をゴールに置くだけでなく、人事ポリシーを活用している場面を思い浮かべながら、自社らしい表現を心がけてください。