組織改革/ジョブ型人事制度

ジョブ型人事制度を企業競争力につなげている事例

 

昨今、大手企業だけではなく、中小企業でも導入が進んでいるジョブ型人事制度。

しかし、ジョブ型人事制度の意義や概要は理解できるものの、自社で導入できるかどうか不安を抱えている方も一定数はいらっしゃるようです。
同じ人事制度でも、企業のカルチャーや現在の人事制度の課題に応じて、どのような化学反応を示すかは各社各様です。事例をいくら読んでも、覚悟が決まらないのも無理はありません。

今回は、ジョブ型人事制度を導入した企業事例を、背景や導入プロセスを含めて丁寧に紹介します。
あくまで他社事例にはなりますが、自社に照らし合わせてお読みいただくことで、導入の課題やメリットなどのイメージがわきやすくなります。

「自社の場合ならどうなるか」というリアリティを高める参考になれば幸いです。

 


1.ジョブ型人事制度の先行事例

ジョブ型人事制度に限らずですが、HRのトレンドは大手のいわゆる有名企業で先行的に取り入られるケースがほとんどです。

まずは大手企業がどのような課題解決のために、ジョブ型人事制度を導入することになったか、3社の事例を紹介しましょう。

事例1.日立製作所

日立製作所は、2021年3月までにほぼ全社員の職務経歴書を作成し、2024年度中には完全なジョブ型への移行をめざしています。

2008年度、過去最大の赤字に陥ったことを契機に抜本的な経営再建を図り、ものづくりの会社から「社会イノベーション事業」を軸にしました。このことでインフラサービスの会社へとして、主軸を国内市場からグローバル市場へのシフトを狙っています。

現在、同社の売上高の半分は海外が占め、社員30万人中14万人が海外人材です。海外諸国で一般的な「ジョブ型雇用」への転換は、必然ともいえるでしょう。

事例2.ソニー

ソニーの現人事制度であるジョブグレード制度は、2015年に等級制度を導入、それに基づく評価制度が2016年からスタートしました。

この当時、多くのHR関連の雑誌やWEBメディアに取り上げられていたため、ジョブ型といえばソニーを思い浮かべる方も多いのではないでしょう。

当時のソニーはスピードの低下、カルチャーの保守化などへの課題意識がありました。経営改革の一環で、人事制度をジョブ型へと転換しました。
「よりよい自社を次の世代に残す」の言葉通り、経営を体現する存在として従業員に焦点を当てていることが分かります。

事例3.資生堂

資生堂は2021年1月から社員の専門性を強化し「グローバルで勝てる組織」を目指し、日本国内の管理職・総合職を対象としたジョブ型の人事制度に移行しました。

社員のレベルを測るものさしを「能力」から「職務(ジョブ)」に移行することで、グローバルスタンダードに沿った、客観的な格付けや処遇を可能にしています。

各部署における職務内容と必要な専門能力を明確化することで、社員一人ひとりのキャリアの自律性を高めることを狙っています。

上記の事例は大手企業で、よくメディアに露出している有名な話かもしれません。
しかし、ジョブ型人事制度は、今や中小企業やベンチャー、スタートアップ企業も続々と導入を進めています。

なお「ジョブ型」という言葉が最初に世間で話題となったのは、2013年です。政府の規制改革会議が雇用改革の切り札として取り上げたからです。

その時から、約10年が経過しています。
ジョブ型人事制度のバリエーションもさまざま広がり、今やどのような規模や業態の企業でもフィットする形で導入が可能でしょう。



2.ジョブ型人事制度は企業競争力にどう寄与するのか

ジョブ型人事制度を利用して企業競争力をつけるイメージ

次に、ジョブ型人事制度の導入プロセスや成果についてさらに深くイメージできるよう、具体的な事例を2社紹介します。

いずれも中小企業ですが、自社の成長ステージや外部マーケットの環境変化に応じて、最近になってジョブ型人事制度を導入した事例です。

IPOを視野に入れ、急成長事業に対応できる人事制度へ
【アプリ関連A社】

[背景]

A社は30名ほどのスタートアップ企業。女性の心と体のバランスを整えるためのアプリケーションサービスを提供しています。創業から3年間で売上も社員数も倍増して、急成長してきました。

創業以来、経営陣が目が届く範囲で評価や賃金決定をしながら、組織を運営してきた同社。しかし今後数年、この勢いで企業規模が拡大していくと、公正性が担保された人事制度の構築が急務になっていました。数年後のIPOを見据えても、投資家の信頼を得るためのしっかりと制度が必要となっていたのです。

同時に、マネジメント層の強化も喫緊の課題でした。そのため外部から優秀なマネジメントを採用し、人事評価の権限委譲を進めていました。
しかし社内にきちんとした評価制度がないため、結局属人的な評価結果に陥り、一部社員から不満の声が上がっていました。

ここ3年は、創業メンバーの目が行き届く範囲で、スピーディに経営を回すのが同社の強みでした。しかし、今や組織としてのシステムや人事制度がないと、社内のコミュニケーションに軋轢が起こる状況になったのです。

いわゆる企業の成長ステージにおける「成長期」における、典型的なひずみの症状が出始めたA社。
人事部門では人事制度構築に向け、他社の人事制度をリサーチしはじめました。

日本で一般的な職能資格制度も検討しましたが、若い社員が企業競争力を生み出している同社は、「年齢に関係なく、成果を上げた社員に報いる人事制度にしたい」と考えました。

そこで、欧米で主流になっている職務ベースのジョブ型人事制度を導入することを決意しました。

[導入プロセス]

まずA社は、ジョブ型人事制度の構築を手がけている社外コンサルファームを探しました。
企業規模からすると自力での制度構築も検討したのですが、今までの“内輪”視点が強い経営を課題視し、良い機会なので外部のプロ視点でメスを入れる効果も狙いました。

こうして、経営陣・人事部門・外部コンサルタントとの「人事制度構築プロジェクト」がスタートしました。
最初に現状の職務を洗い出そうとしたのですが、コンサルタントからストップがかかったのです。

今の不透明で曖昧な職場状況だけに目を向けても、現在の問題対応型の組織しか出来上がらない。未来に向けて勝ち抜くための組織を作るためには、まずはビジョンを描くことが先決、だと。

そこで、あらためて経営ビジョンやミッションをひもとき、あるべき組織体制を描くことにしました。

今は存在しない仕事や、今後求められる人材像も想像し、だいぶ発想が広がりました。
これまで人事制度構築はMUSTの業務と捉えていましたが、ビジョンを元に制度構築を考えることで発想も変わりました。人事制度構築は、未来に向けてのエネルギーがわくWILLの取り組みとなったのです。

なお、ジョブ型人事制度を構築するためのツールとしては、外部の公的な職務情報を参照できることを重視しました。自社内の視点だけでなく、マーケットから見た職務価値の定義をしたかったためです。

約半年間のプロジェクトを経て、力強く自走できる確信が持てる新人事制度の運用がスタートしました。

[成果]

評価制度の公平性が保たれるというのは、一人ひとりの自立行動を促す効果がありました。

これまでの上司による属人的な評価ではなく、全社員誰もが確認できる職務基準や評価基準があるからです。
誰もがその客観的な基準をもとに、自分ができることや成長課題を見つけるような動きが生まれはじめました。
透明性が高い人事制度があることは、社員の心理的安全の向上にも寄与したのです。

同時に、社外から新たな仲間を採用する際も、職務基準で面接などの会話ができるメリットもありました。会社にとってもご本人にとっても、業務のすりあわせがしやすい効果も生まれました。

専門性が高いITプロフェッショナルに報いる人事制度へ
【IT業B社】

[背景]

B社は70名ほどのITハードウェア企業です。創業からは約10年、高いシステム専門性を発揮し、業界の中堅ポジションとして堅調に成長してきました。

しかしここ2-3年は、ITの新技術の発達、海外のスタートアップベンチャーの参入など、業界の構造が崩れ始めていました。
自社の花形エンジニアが他社に引き抜かれる一方で、自社も新規事業立ち上げのために、外部から技術者を調達する必要もあります。

これまで自社に貢献してくれた社員に報いたいという思いはありながらも、成果観点では若手技術者の貢献が大きい場面が増えてくることも気になっていました。

B社は創業以来、日本型の職能型人事制度を運用してきました。これでは、貢献度の高い若手メンバーが、ベテラン社員の給与を抜くことはできません。
賞与のバランスを調整して若手の離職を食い止めてきましたが、いつまで経っても合理的な給与配分ができないジレンマがあったのも事実でした。

B社は、今の環境にフィットする人事制度を構築するとともに、次のビジネスの芽を探す必要がある状況だったのです。
いわゆる企業の成長ステージにおける「成長期→成熟期」に移行する際の、典型的なひずみの症状が出始めていました。

最終的には経営者が「今後も専門性を武器に勝っていくためには、そこに報いる人事制度に変更すべき」と英断しました。
幸い、業績は順調だったので、ベテラン社員をはじめ制度変更における混乱が起こったとしても、今なら耐えられるとの見通しもありました。

そこで、専門職の職務価値を客観的に設定できるジョブ型人事制度へと制度改定することを決意しました。

[導入プロセス]

改定の狙いは専門職の職務定義だったので、外部の職務評価ツールの導入を検討しました。

社員数が増えている状況だったので、今後の運用を考えても、外部のプロが提供するクラウドツールを活用する方が効率が上がると考えたからです。

まず着手したのが「職務記述書」の作成です。
自社の職務内容は把握していると思っていたのですが、あらためて課業(タスク)で洗い出そうとすると、見えていない業務が多いことに愕然としました。

また外部環境に合わせて、各現場で業務をアレンジしているため、定義が曖昧になっている仕事が多い状況も浮き彫りになりました。
柔軟に対応してくれているメンバーの負担を認識するとともに、不足している職種や今後必要な人材がより明確になりました。

当初は職務等級だけを導入しようと思っていたのですが、途中で評価制度の変更の必要性に気づけたのも大きなポイントです。
職務ごとに必要なコンピテンシーリストが出るツールだったので、この機会に人事評価の項目も見直しました。

構築した制度は、まずはスモールスタートで、管理職層の導入から開始しました。
管理職自身もこれまでの職能型からジョブ型への移行は理解が追いつかない状況がありました。
管理職当人が一社員としてジョブ型人事制度を体験したことで、メンバーに自らの言葉で制度改定の意義を語れることを狙いました。

[成果]

ジョブ型人事制度の導入によって、客観的な評価基準ができたことは、痛みを伴う社員の存在も含めて、大きな刺激材料となりました。

もともと「専門性を高めたい」と志向する社員が多いため、ジョブ型人事制度は自社の風土にフィットし、強みを伸ばす効果があると期待していています。将来的には、経営ビジョン達成のために、年齢やスキルを超えて、自律した社員同士が結束する状態をめざしています。

また、ツールにリスキリングなど社員の未来に向けたキャリア開発機能があることも、運用がスムーズに進むポイントでした。たとえ、今時点ではスキルが陳腐化した社員であっても、意気消沈せずに次にめざすキャリアが分かるからです。

今後はジョブ型人事制度のもと、企業の競争力強化と社員の成長を同時に実現できる期待が高まっています。

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まとめ

今回は、ジョブ型人事制度の先行的な事例と、最近のマーケット変化を受けてジョブ型人事制度を導入した事例を紹介しました。

終身雇用制度に代表されるように、ジョブ型人事制度は「従業員の雇用を守れない」と躊躇される経営・人事部門の方も一定数いらっしゃると思います。

一方、働く側の意識も一昔前から変化しています。
働く人に対するある調査では、ジョブ型雇用を希望する人は、64.9%にものぼっているそうです。

参考:「第7回 働く人の意識調査」日本生産性本部
(ジョブ型雇用を「仕事内容や勤務条件を優先し、同じ勤め先にはこだわらない」、メンバーシップ型雇用を「同じ勤め先で長く働き、異動や転勤の命令があった場合は受け入れる」として解釈)

いつの時代も万能な人事制度はありませんが、思い込みや誤認ではなく、自社がどのような方向に舵取りをするかを考えていただければ幸いです。



JOB Scope編集部

著者: JOB Scope編集部

新しい働き方、DX環境下での人的資本経営を実現し、キャリアマネジメント、組織変革、企業強化から経営変革するグローバル標準人事クラウドサービス【JOB Scope】を運営しています。