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結果評価(目標管理制度)の運用のコツについて【人事制度運用:実践編】

作成者: JOB Scope編集部|2023/04/6
【人事制度運用:実践編】

結果評価(目標管理制度)の運用のコツについて

 

1990年代のバブル経済崩壊後、成果主義とともに日本企業で導入が進んだのが「目標管理制度」です。

仕事の結果・成果を客観的に評価する人事評価手法で、今では多くの企業で目標管理制度の導入が進んでいます。

労務行政研究所が2022年に行った「人事労務諸制度の実施状況調査」によると、日本企業では78.4%の企業で目標管理制度を導入しています。

参考:人事労務諸制度の実施状況【前編】

一方、日本企業に馴染むにつれ、目標管理制度の本来の意義が享受できない運用も見受けられるようになりました。会社からの一方的な目標を強要したり、あるいはメンバーからの安易な目標設定を許容したり、などの運用です。

今回は、目標管理制度の本来的な運用をテーマとして取り上げます。

新しく目標管理制度の導入を検討している場合はもちろんのこと、目標管理制度の現在の運用をチェックする場合にも、参考にしていただければ幸いです。

※なお、今後「目標管理シートの記述方法・期中の関与方法のコツ」という記事も公開予定です。合わせてお読みいただけると、より具体的な運用改善ポイントが見出せるでしょう。

 

目次

1.目標管理制度とは

目標管理制度とは、四半期や半年という期間で達成すべき目標を決め、期間終了時にその目標の達成度合をはかる評価制度です。

英語の「Management by Objectives and Self Control」の頭文字をとって、「MBO(エムビーオー)」と略されています。

もともとMBOは、経営学者として有名なピーター・ドラッカーが、『現代の経営』の中で紹介したマネジメント哲学として広く知られています。
「Management by Objectives and Self Control」とあるように、「目標と自己統制によるマネジメント」が目標管理制度の神髄でしょう。

下記図のように、現状とあるべき姿のギャップを埋めるために、評価のレンジを刻んだものが目標管理制度といえます。

多くの日本企業は目標管理を取り入れていますが、実態としてはただの“ノルマ管理”となってしまうことがよくあります。
要因として、目標管理制度は人件費抑制や成果主義の徹底という、やや誤解のあるレッテルとともに日本に広がっていったことも関連しているでしょう。

必達すべき数字として上層部から落ちてくるだけでは、MBOではありません。重要な「and Self Control」の部分が消えてしまっています。

本来のMBOは、一人ひとりが責任を持って目標を立て、目標に照らして自らの成果を評価できなければなりません。

2.OKRメソッドとは

マネジメントサイドの観点では、MBOを一定期間の結果評価として機能させる必要があります。
そのため、「OKRメソッド」という手法を活用する企業も増えてきました。

OKRメソッドとは、インテル社のアンディ・グローブ元社長が1970年代に構築した、MBOの一手法です。

下記図のように、従来のMBOの運用で陥りがちな欠点を改善したのがOKRです。

インテルには「アウトプット(成果物)重視」という強い意志があります。
アンディは「あなたが何を知っているかなど、どうでもいい。自分の知識を使って何ができるのか、何を獲得できるか、具体的に何を達成できるかを重視する」と語っています。
そのうえで「インテル・デリバーズ(インテルは結果を出す)」と宣言したのです。

OKRの最大の特徴は目標(Objectives)に必ず主要な結果(Key Results)をセットする点でしょう。
これらは、KPI(Key Performance Indicator)やKFS(Key Factor for SuccessもしくはKey Success Factor)と略されているケースもあります。

インテルの例でいくと、目標は「ミッドレンジのマイクロコンピュータのコンポーネント市場で支配的地位を獲得すること」です。その主要な結果(KR)の一つは「『8085』を使った設計を新たに10件受注すること」となっています。

ドラッガーの目標管理(MBO)という哲学を進化させたのは、アンディの経営者としての実践だったといえます。
従って、MBOは「哲学」であり、OKRは「実践手法」という使い分けを、マネジメントは理解する必要があるでしょう。

3.目標管理制度が導入された背景

もう少し詳しく、目標管理制度が普及した時代的な背景を探っていきます。

時は1990年代のバブル経済崩壊後、業績の立て直しを迫られた日本企業は経営の大規模な見直しに着手しました。

その際お手本としたのが、急成長していた米シリコンバレーのIT業界です。
イノベーションを生む風土、意思決定のスピードなど学ぶべき点が多々あるなか、日本企業が注目したのは「成果主義」を基軸とする人事制度でした。

その結果、注目されたのが「目標管理制度」です。

また一方で、日本企業における仕事の質の変化も、目標管理制度の普及に影響を与えました。
実業家でコンサルタントの五十嵐英憲氏は、目標管理制度の誕生の背景には、科学的管理法による「他律統制のマネジメント」の限界があったと指摘しています。

  • 他律統制とは、「他者の力によって自分のヤル気が左右されたり、他者の意思によって自分の仕事がコントロールされること」である
  • 最も初期に考案された伝統的な経営管理法では、この他律統制を科学的管理によって実現しようと試みられた
  • 労働力を科学的に管理するという手法は、当時としては画期的な発明ともいえる概念であり、当時の企業の生産力の向上に多大なる貢献をした

出典:五十嵐英憲『新版 目標管理の本質』(ダイヤモンド社)

命令を基本とする他律統制のマネジメントは、工業を中心とする定型労働型の産業にはうまく適合しました。しかし、アイデアやコンセプトのように目に見えない要素が重要となる専門知識活用型の産業には、うまく適合しないという問題が生まれるようになりました。

この「労働の質的変化」とも呼べる現象は、特に工業を中心とした定型労働型の産業を海外に移管し、代わりに専門知識活用型の産業の比重が高まった近年の先進諸国によく見られたものです。

そして、このような他律統制のマネジメントに代わる新たなマネジメント手法として、目標管理制度が注目されるようになりました。

この点から考えても、目標管理制度の神髄は「and Self Control」にあるといえるでしょう。

4.目標管理制度の運用で守るべき2つのポイント

目標管理制度において、運用で絶対に外してはならないポイントが2つあります。

1つ目は、社員一人ひとりの個人目標が、上流にある組織目標とリンクしていることです。 目標管理制度は、メンバーに組織の一員としての自覚を持ってもらう狙いがあるため、個人目標と組織目標のつながりを明確にします。

つまり、個人の目標達成の総和が必ず組織の業績目標の達成とイコールになる構図となっているのです。

2つ目は、個人目標はメンバー本人による自己によって決めることです。
ドラッカーも述べている通り、「自主性(Self Control)」が何よりMBOの重要な要素になっています。メンバー自身のWILL・自主性を無視した運用は、単なる業績ノルマの管理に陥りかねません。

マネジメントはあくまで目標推進のサポート役で、メンバーの進捗を確認して助言する役割です。メンバーの主体的な動きがあるからこそ、目標管理制度は人材育成にもつながるのです。

5.目標管理制度の4つの運用タイプ

目標管理制度の運用においては、組織・個人双方の「握手」を意識することが重要です。

組織の「やってほしいこと」を押し付けるだけでもなく、個人の「やりたいこと」を主張するだけでおなく、双方が「握手している」状態で、理想的な目標を立てることです。

以下の二軸であらためて自社の運用をチェックしましょう。

簡単に1~4の説明を続けます。

1. 課題克服型MBO

「葛藤克服型MBO」は、本来のMBOのあるべき姿といえます。

業績向上と人間性尊重の統合に向けては「激しい葛藤」が生じるはずで、克服するためにはさまざまな工夫と双方の努力が必要になります。

葛藤を乗り越えて初めて、組織と個人の握手が成立します。

ドラッカーは『プロフェッショナルの条件』において「MBOの第一の目的は、上司と部下の知覚の仕方の違いを明らかにすることにある」と語っています。

上司と部下が見ている視界の違いを明らかにして、まずはお互いの「やってほしいこと」と「やりたいこと」を場に出すことから、真のMBOは始まるのです。

2. 人間性偏重型MBO

マネジメントが逃避傾向にあるのが、「人間性偏重型MBO」です。

働く社員の幸せを最優先するがあまり、ひたすらメンバーの言うことに耳を傾けてしまうのです。メンバーが達成しやすい安易な目標申請をしたとしても受け入れてしまうため、組織の業績へのインパクトが弱まってしまいます。

組織の風土も、工夫や自己研鑽が二の次となり「知恵創造の喜び」や「挑戦する面白さ」が放棄された状態となりがちです。

3. ノルマ管理型MBO

目標管理制度導入初期に、多くの日本企業が陥った失敗MBOの典型例が「ノルマ管理型MBO」です。

MBOを業績追求の仕組みと勘違いして導入をしてしまい、メンバーに組織要望の目標をひたすら押しつけるケースです。

企業が成長局面にある場合はそれなりに機能するものの、安定成長期やゼロ成長期には、社員のモチベーション低下という悪影響を及ぼすでしょう。

4. 形式重視型MBO

目標管理制度の導入そのものが目的となり、運用が形骸化しているのが「形式重視型MBO」です。

制度導入時は社員説明会をやったものの、運用は現場任せになり、現場では「面倒が増えた」という冷めた雰囲気になりがちです。

上層部が間違った目標や甘い目標を設定したとしても、どんどんその目標がメンバーに連鎖してしまい、組織業績にも社員の幸福にも全くMBOが寄与しないケースでしょう。

まとめ

本章で述べたように、あるべきMBOの姿には、必ず「葛藤」が生じるものです。

それほど、組織業績と社員意向はすんなりと一致することが少なく、矛盾を高次元でアウフヘーベン(止揚)することで、本来的なMBOの運用が実現するのです。

その難易度の高さから、多くの企業ではMBOが間違った運用のまま定着することも少なくないのでしょう。

ただ、企業と社員の関係をあらためて考えると、MBO同様の難しさが存在しているとも解釈できます。

企業の存在意義とそこで働く社員の幸福は、自然には合致しないものです。

だからこそ、「人事」というセクションがあり、MBOをはじめとした人事制度というツールを用いながら、両者を合致させる努力が必要となるのでしょう。