昨今、ジョブ型人事制度を構築する際に、外部のHRプロフェッショナルと協働するケースが増えています。
人事はどの企業にとってもセンシティブなテーマでしょう。
そのため、人事制度構築プロセスの参考になりそうなリアリティが高い事例は、あまり世に出回っていません。
そんな時でも、経験豊富な外部のHRプロフェッショナルと協働すれば、外部企業の知見やマーケット動向を知ることができます。
一方、コロナ禍でHRテクノロジー市場が急激に拡大したことにより、HRプロフェッショナルと呼ばれる当該ベンダー数も急激に増えている状況があります。
参考:ミック経済研究所「HRTechクラウド市場の実態と展望 2020年度版」
いざ外部のHRプロフェッショナルを探そうとしても、自社の課題にフィットしたパートナーが見つかるかどうか不安という人事担当の方も多いようです。
特にジョブ型人事制度を設計したい場合は、まだまだ知見を持っているHRプロフェッショナルもそれほど数が多くないでしょう。
今回は、多様化が進みつつあるHRプロフェッショナルを取り上げます。自社の課題を思い浮かべながらご一読いただければ幸いです。
目次
HRプロフェッショナルとは、Human Resourceに関する専門知識を有し、企業の人事課題を解決する企業の総称です。
HR領域のなかでも、人事制度設計に特化した企業は「HRコンサルティング」などの呼称で呼ばれることもあります。
ここ数年、企業人事を取り巻く環境は、急ピッチで多様化が進んでいます。
「少子高齢化における人材確保」「ジョブ型人事制度の導入」「働き方改革」「リスキリング」などに代表されるように、企業の人事部門が対応すべきテーマは多岐にわたっています。
そのため、社内の人事部門だけでは知見やノウハウが足りないことが増え、近年は外部のHRプロフェッショナルとともに、課題解決にあたるケースが増加しているのです。
もちろん、外部のHRプロフェッショナルとひと言で括ってしまっても、得意領域は各社さまざまです。支援範囲や使用ツールや必要費用も異なります。
自社の課題解決にフィットしやすいHRプロフェッショナルと出会えるかどうかは、人事制度の成否を分かつといっても過言ではありません。
HRプロフェッショナルの代表的な対応領域・テーマを紹介します。
ただしHRは専門領域になるので、同じテーマの中でも特化型の企業など、さらに細分化も進んでいる実情もあります。
あくまで一般的な区分としてお読みいただければと思います。
人事組織関連の代表的なテーマは人事制度の設計や、組織診断・業務の構造改革です。
人事制度を大掛かりに構築・改定する際は、この領域に知見があるHRプロフェッショナルを探す必要があります。
昨今は政府の呼びかけの影響もあり、多くの企業でジョブ型人事制度の導入が進んでいます。
ジョブ型人事制度を導入するには、等級制度・賃金制度・評価制度と構築範囲が多岐に渡るため、外部のプロフェッショナルの知見が必要となるケースが多いのです。
特に人事制度改定はめったにない機会なので、社内の人事部門に制度改定や構築の経験者がいないという企業も多いことでしょう。
その点、他社での人事制度設計経験が豊富で、企業が陥りやすいケースなどを踏まえている外部のプロフェッショナルは、頼もしい存在となるでしょう。
人材育成関連の代表的なテーマは、社員の能力開発や教育体系の構築です。
独自メソッドの学習ノウハウや、研修プログラムを有しており、企業に提供を行うことで、社員のモチベーションや生産性の向上を狙います。
研修提供企業の場合、「新入社員研修」「マネジメント研修」のような階層ごとに得意分野がある場合と、「営業スキル開発」「ITリテラシーの向上」など学習テーマごとに得意分野がある場合があります。
また、社員研修を実施する際に社内の人間が講師を担うと説得力に欠けるため、「講師派遣」のようなスポットで依頼をするケースもあります。
いずれにしても、自社の社員育成の課題に応じて、その課題解決にノウハウや実績があるHRプロフェッショナルを選ぶ必要があるでしょう。
人材採用関連の代表的なテーマは、採用戦略の立案・実行や人材要件の設計などです。
人材採用領域のHRプロフェッショナル企業は、非常にメニューが多岐に渡る特徴があります。採用戦略設計などの上流を得意とする企業もあれば、エントリーシートチェックや面接代行など、実務のアウトソーシングを提供する企業まで、さまざま存在します。
日本のHRプロフェッショナルの中でも企業数が最も多く、個人コンサルタントも多く活躍している領域でしょう。
ベンダー数が多いだけに、自社の人材採用の課題・外部への期待を明確にしたうえで、企業選びをする必要があります。
外部に依頼することは、選定する手間やコストが発生することになります。
ここでは、HRプロフェッショナルに依頼した場合に得られるメリットについて、あらためて紹介します。「自社内で解決する場合との違いが分からない」という方は、ぜひ参考にしてください。
HRプロフェッショナルは、企業の内情やしがらみにとらわれることなく、中立的な立場で問題を分析し、解決策を提示することができます。
また、自社の社員だけで話し合っていると視野が狭い議論になりがちです。一方、さまざまな企業の課題解決に携わってきたプロフェッショナルが介入することで、他社の前例などもふまえた多角的な議論が可能です。
社員の立場としても、社外のプロからの指摘であれば受け入れやすかったり、経営層にシビアな意見も伝えやすかったりするため、その点はメリットになるのではないでしょうか。
ただし、上記のメリットを享受するためには、外部プロフェッショナルが自社の企業理念や組織風土を理解していることが前提となります。
安易に丸投げをしてしまうのではなく、自社の企業理念・ビジョンや経営戦略を共有したうえで、共感する企業を探すようにしましょう。
HRプロフェッショナルは、さまざまな企業の問題と向き合い、多くの成功例や失敗例を見てきています。
他社の前例を踏まえて解決策を提示してもらえる点や、課題解決までにかかる時間の短縮、提案内容の質の高さといった点については期待できるでしょう。
特に自社のノウハウが不足している場合「解決策がどれもフィットせず、なかなか問題が解決しない」という悩みをかかえることは少なくありません。
外部企業の力を借りることで、社内では考えつかなかったアイデアや解決策に触れることができ、HRノウハウ蓄積にもつながる点はメリットになります。
HRプロフェッショナルは日常的に多くの企業課題に触れているため、企業ニーズだけでなく、その時々のトレンドに合った制度設計や制度の改定を提案することができます。
評価制度や賃金制度、採用手法などは、時代の流れや社会情勢によって少しずつ変化しています。
特に昨今導入が進む「ジョブ型人事制度」は、具体的な設計方法もさることながら、人事ポリシーレベルで考え方の転換が必要となります。
単に「流行っているから」で取り入れてしまうと、結局運用で職能資格的になってしまう企業も少なくはありません。
外部プロフェッショナルがサポートをすれば、トレンドの真の狙いをぶらさないで制度構築を進められるメリットがあるでしょう。
前述したように、近年はHRプロフェッショナルの数が増えています。
わざわざコストをかけて依頼するので、自社の課題解決に尽力するであろうパートナーを探したいものです。
ここからは、HRプロフェッショナルを選ぶうえで注視すべき3つの選定ポイントについて紹介していきます。
自社課題や問題点と、HRプロフェッショナルが得意としている領域がマッチしているかどうかは、最優先で確認しましょう。
前述したように、人事制度設計が得意なHRプロフェッショナルもいれば、採用活動の効率化が得意なHRプロフェッショナルもいます。まず解決したい課題を洗い出し、目指すゴールを明確にするようにしましょう。
依頼先のHRプロフェッショナルの企業としての人事ポリシーも、実は相性をはかるうえで重要なポイントです。
依頼先の企業WEBサイトをチェックし、人事ポリシーや経営ビジョンに共感できるかは忘れずに確認したいポイントです。
人事は正解のない世界なので、多くの企業の課題解決を手がけているかどうかは重要です。
同業界、または同等規模の企業に対する支援実績があるかどうか確認しましょう。
業界や企業規模特有の課題に深い理解があるHRプロフェッショナルに依頼することで、より的確なアドバイスを受けることができます。さらに自社にも適応しうる、さまざまなアドバイスも期待できるでしょう。
豊富な前例から自社の課題に合った解決策を探し出したり、前例をベースに新たな解決策を導き出したりできる企業を探すようにしてください。
HRプロフェッショナルのなかには、名物コンサルタントがいて戦略設計が得意な企業もあれば、単にSaaSツールを提供するだけの企業もあります。
人事実務の生産性を向上させたいだけであれば、戦略コンサル企業は依頼先としては、ややリッチすぎる可能性があります。一方で、大がかりな人事制度構築を狙う場合は、ツールの提供だけでなく、伴走してくれるHRプロフェッショナルを選ぶ必要があるでしょう。
まずは自社が「どの範囲を改定し」「外部にどの範囲まで依頼したいのか」をクリアにするようにしてください。
さらに、対応する担当者の力量や自社との相性もチェックしたいポイントです。
問い合わせをすると、課題のヒアリングに進むはずなので、解決策の提示・効果検証など、課題解決に向けた内容のフィット感を確認するようにしてください。使用するツールがある場合は、UIや操作性も忘れずにチェックしてください。
総合的に情報収集し、狙いたい効果に対し、コストメリットが出そうかどうかで依頼を判断するとよいでしょう。
最後に、外部のHRプロフェッショナルを選定する際、今後必要となる「HR Tech」という視点について言及します。
HR Tech(HRテック)は、「human resources(人事)」と「technology(テクノロジー)」を合わせた言葉で、ビッグデータやクラウド、IoTやAIなどのテクノロジーを用いて、人事が抱える課題を解決に導くサービスや技術のことです。
日本はIT・DX後進国と呼ばれていますが、2018年に経済産業省が発表した「2025年の崖」以降は、企業でも急速にデジタル化の波が押し寄せました。
ただ、そのなかでもHR関連は特にテクノロジーに関する進化が遅れている領域といえます。
HR総研による「HRテクノロジーの活用」に関するアンケートによると、日本企業でHRテクノロジーを導入している企業は約2割程度にとどまり、とりわけ300名以下の中小企業ではさらに導入率の低さが目立ちます。
この状況を踏まえると、今後はHRテクノロジーを先んじで取り入れることは必須になることが予想されます。
従って、外部のHRプロフェッショナルを選定する際には、どのようなHR Techのツールを持っているかは必須でチェックしたいポイントといえます。
仮に日本型の職能資格ベースの人事制度から、ジョブ型人事制度に改定することを例に挙げます。
HR Techツールを持っていないHRプロフェッショナルは、制度構築まではコンサルテーションで担ってくれます。しかし人事制度の運用は社内の人事部門で行う必要があります。
ジョブ型人事制度は、職務記述書の管理・更新や社員のタレントマネジメントなど、実は運用面でやるべきことが多岐に渡ります。
結局これらを紙ベースでの煩雑な運用をすると、新しい制度の定着が危うくなってしまいます。
運用まで見越してジョブ型制度を定着させるためには、構築までではなく自力で運用できるHR Techツールがあるかどうかは、視野にいれるとよいでしょう。
人事制度はある種の生き物なので、外部に依頼したからといって、100点満点のものができるわけではありません。さらに、人事制度に魂を込めるためには社内の人間でないと担えない部分もあるでしょう。
仮に外部に依頼する際は、「社内だけで制度構築する際に、どの部分に不安があり」「どのような伴走をしてくれる外部パートナーが望ましいか」など、できるだけ事前に洗い出すようにしてください。
安易に外部に依頼してしまうと、狙った通りの人事制度構築ができない、構築途中で頓挫してしまう、などの事態に陥りかねません。
全社員に影響を与える人事制度構築の失敗は、社内からの信用を損なうリスクがあります。
ぜひ人事としての矜持を持ちつつ、その想いに応えられる外部パートナーを探す意識を大事にしてください。