社員の行動・プロセスに関する人事評価は、多くの企業でスタンダードに取り入れられている手法でしょう。
ある調査では、プロセス評価の企業への導入率は86%となっており、多くの企業で馴染みがある人事評価制度といえます。
ただし馴染みがあるからこそ、メンバーの観察が甘くなったり、フィードバックの運用が形骸化していたりする企業も少なくありません。
今回は、あらためてプロセス評価の望ましい運用について着目しました。
運用面なのでマネジメントが担う部分が多くなりますが、人事部門の方は「現場マネジメントがこのような運用を行っているかどうか」の視点でご一読ください。
新しいプロセス評価を導入する場合はもちろんのこと、現在のプロセス評価が社員の成長・企業の成長につながる運用になっているかどうかをチェックする場合にも、参考にしていただければ幸いです。
人事評価制度の構成要素としては、以下の3つが主なものです。
【評価制度の構成要素例】
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このうち2つ目の行動・プロセスに該当するのが、今回取り上げる「プロセス評価」となります。
潜在的で観察しにくい「能力」と、顕在化した成果である「結果」の中間に位置づけられ、多くの日本企業で取り入れている評価です。特に、成果が出にくい若手社員でも望ましい行動を取ることによって、昇格や昇給ができる点がメリットといえます。
この「望ましい行動」を考える際に取り入れたい考え方の一つが「コンピテンシー」です。
コンピテンシーとは、好業績者が成果を達成すべき「特性」を、ベストプラクティスとして社内に公開し、最大多数の社員に移植する(ベンチマークする)仕組みです。
アメリカの心理学者マクレランドによる1970年代の研究を起源に、1980年代後半から1990年代初頭にかけて普及しました。
日本にコンピテンシーを持ち込んだのは、HRコンサルティング企業であるヘイ・コンサルティンググループ(当時)といわれています。
ヘイの川上真史氏によれば、当時コンピテンシーは「行動」ではなく「動機」や「意識」をモデル化するものでした。
しかし人事評価制度としてコンピテンシーを活用するには、動機や意識は人の目で観察しにくいため、「行動」に集約されていきました。
現在、多くの企業でコンピテンシーは「行動のディクショナリー化、モデル化」として認識されているでしょう。
仮に今後プロセス評価の項目を見直す際は、思い込みだけで設計をするのではなく、コンピテンシーの考え方を取り入れて、成果に近づく項目設計をすることがおすすめです。
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プロセス評価で起こりがちな課題が、いわゆる“後出しジャンケン”のような現象です。
全社員に評価項目が浸透していない状態で、期が終わってから「この行動が足りなかった」とフィードバックを行うようなケースです。
メンバーの心情としては、それなら期初に言ってほしかったと思うことでしょう。
ここでは後出しジャンケンを防ぐために、期初にやるべき2つのポイントを紹介します。
会社が設定した等級基準や人事評価項目は、まずは全社員が閲覧できるよう公開されていることが前提となります。
公開された人事評価項目は等級や職務の種類によって、区別されているかと思います。ある程度「似たようなレベル」「似たような職務」に対応しているかもしれませんが、さすがに全ての部署にフィット感が高い項目設計は難しいかと思います。
そのため、全社共通のプロセス評価項目を、自部門の仕事に照らしてブレイクダウンすると、より浸透効果が発揮されます。
例えば「常に情報収集を怠らない」のようなプロセス評価項目があった場合を例に取ります。
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などです。
あまりにも細かくすると行動の制約になってしまうため、あくまで一例として提示することがポイントです。
他にもこの評価項目に該当するような良い行動が自部署で見られた場合は、どんどんストックを拡充するとよいでしょう。
メンバーも含めて、望ましい行動の例示を集めるのも効果的です。
行動のイメージがつきやすくなる上に、組織のナレッジマネジメントにもつながるでしょう。
全ての行動を一定レベルで取れることがもちろん望ましいですが、メンバーによって強み・弱みがあるのが現実です。
したがって、期初には「今期はこの行動を特に頑張ろう」という重点行動をメンバーとすりあわせするべきでしょう。
メンバーごとの課題によって、弱みを克服する方向を重視するのか、強みをさらに発揮するのかは異なります。
さらに、プロセス評価の評価基準も、メンバーとすりあわせできればベターです。
成果評価の基準ほど厳密でなくても大丈夫ですが、重点行動については仮に5段階評価であれば1と3と5の行動イメージのすりあわせができれば、メンバーも動きやすくなるでしょう。
また、個人別の成長課題だけではなく、チームメンバーのバランスを考えて、組織力を高めるために各個人の重点領域を絞る視点も重要です。
まさにマネジメントの腕の見せ所になりますが、期初に努力ポイントを絞ることで、メンバーの行動も変化しやすくなるでしょう。
プロセス評価に限ったことではありませんが、期中はメンバーの行動を確認し、良い行動・あらためてほしい行動があった場合には「Here & Now」のフィードバックを心がけてください。
期末評価のフィードバックのために、期中の注意すべき行動や、褒めるべき行動をストックしておくマネジメントも一定数存在するでしょう。
しかし人事評価の本来の目的は、評価の納得感の向上ではなく、行動そのものの改善です。改善すべき行動や伸ばしてほしい行動は、「その場ですぐ」メンバーに伝える方が、行動変化が期待できます。
期が終わったら、当該期間のメンバーの行動評価を行います。そのうえで、メンバーに評価結果及び評価の根拠を伝えます。
評価フィードバック場面における最大の目的は、メンバーの成長につなげることです。
メンバーの成長につなげるためには、メンバー自身の評価への納得感が不可欠です。
ここでは期末評価のフィードバックで、メンバーの納得感を上げるポイントを取り上げます。
フィードバックは丁寧に、かつ具体的に行うことを心がけてください。
例えば以下のような観点で、メンバーに情報提供するとよいでしょう。
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評価フィードバックは、メンバー視点で捉えると「マネジメントの力量が試される」場面です。
あやふやなフィードバックやピント外れの期待を伝えると、「この上司のもとで働いても、自分は成長できない」と、メンバーは感じてしまいます。
また、情報提供をする際はGood&Badではなく、Good(良いポイント)&Better(より良くするためのポイント)の姿勢で挑むようにしましょう。
これはEMS(Essential Management School )で教えられている「肯定ファースト」というコミュニケーションスキルです。
悪い点を指摘されて、気分が良くなる人は少ないでしょう。
ただし肯定ファーストで伝えることで、「自分の成長を考えてくれる」という伝わり方になり、メンバーのモチベーション向上にも効果があるでしょう。
プロセス評価のフィードバックとは、人事評価の結果通達というだけではなく、メンバー本人にとっても「当該期の振り返り」の場面です。
そのため、マネジメントの評価や見立てを伝えた際は、必ず本人の認識や感触を聞くことが重要です。
「自分にはこう見えていたけど、〇〇さんはどう思う?」や「△△の場面であの行動を取った背景には何があったの?」など、本人の見立てをヒアリングするようにしましょう。
仮に本人にとって納得がいかないことであっても、ヒアリングをすることで心情を引き出しやすくなります。
もしマネジメント側の誤認や見立てのすれ違いがあったとしても、きちんとコミュニケーションをとることで、来期からは視点のズレを是正することができるでしょう。
企業の成長のための第一歩は、社員一人ひとりの言動が変化することです。
その一歩目を促す仕組みが、プロセス評価といえるでしょう。
アメリカの心理学者・哲学者であるウイリアム・ジェームスの言葉で以下のような名言があります。
言葉が変われば心が変わる 心が変われば行動が変わる 行動が変われば習慣が変わる 習慣が変われば人格が変わる 人格が変われば運命が変わる |
一連の人事評価でメンバーにかける言葉は、プロセス・行動が変わるのみならず、いずれはメンバーの人格や運命にも影響を与える可能性があるのです。
企業の成長にも、社員の運命にも影響を与える重要な仕組みとして、あらためてプロセス評価の意義を捉えなおしてみてはいかがでしょうか。