昨今は金融不安やマーケットのグローバル化を背景に、これまでと同じ事業運営方法では、生き残りが厳しい状況が続いています。
そんなマーケットを勝ち抜く強い企業体質に変換するため、昨今はジョブ型人事制度に代表される、新しい人事制度の導入を進める企業が増えています。
一方で、ジョブ型人事制度が、ややもすると“流行り言葉”になっていることから、拙速に導入を進める企業が少なくない状況もあります。
本来決めるべき事項が未検討のまま導入を進めてしまい、運用が回らなくなる事態に陥ってしまうのです。
そして「ジョブ型人事制度は、やはり自社にはフィットしないものだったのだ」と結論付けてしまうケースも散見されます。
人事制度そのものには善し悪しはありません。
人事制度を狙い通りに機能させるためには、自社で決める、あるいは整える事項を把握する必要があります。
今回はあらためて人事の全体像と、考えるべき人事制度の要素について解説します。
ジョブ型人事制度に限らず、新しい人事制度を検討している方はぜひ参考にしてください。
ジョブ型人事制度と聞くと、賃金制度の変更だけを思い浮かべる方も少なくはありません。しかし社員の賃金を決めるためには、人事評価が必要です。評価が芳しくない社員がいる場合は、成長を促す人材育成制度も必要です。
特に新しい人事制度を導入する際は、点の施策ではなく全体像を認識したうえで、抜けもれなく必要な要素を検討することが重要でしょう。
具体的には人事の全体像は以下のような図となり、各々が影響を及ぼし合っているのです。
重要なのは、出発地点を経営理念に置くことです。
経営理念を推進していくためには、どのような人事制度に舵を取るかを考えていきます。
どの企業でも通用する万能薬のような人事制度はありません。
だからこそ「自社の経営理念を進めるために、この人事制度を選ぶ」という説明がなければ、社員の納得や賛同は得られないでしょう。
経営者の想いや経営哲学を言語化したものを「経営理念」といいます。
経営理念は、企業という人々の集合体である組織の行動や目標を同じ方向に導くための、重要なルールブックです。
経営理念の定義は広範囲におよび、よく見聞きする以下の言葉も経営理念の一種です。
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経営理念そのものは、ほとんどの企業で設定しているかと思います。
しかし人事実務などの日常運用に手がいっぱいの人事部門では、あまり経営理念を意識していないという方も多いようです。
人事制度を改定する際には、あらためて企業理念を咀嚼し、経営理念を実現または後押しするために、人事はどのように機能すべきかを考えるようにしてください。
人材登用とは、社員をそれまでより高い地位に引き上げることを指します。
既存社員を部署異動させたり、新しいポジションに任命したりする配置転換によって行われます。
広義の意味では、外部からの人材採用も人材登用に含まれることもあります。
しかし、少子高齢化で労働人口不足が課題となっている日本においては、社内の社員をどう活用するかが重要視される傾向にあります。
効果的な人材登用をすることで、社員のモチベーション向上や組織の活性化を行う必要があるのです。
効果的な人材登用をするためには、社内にどのような人材がいるのかを把握できる人事管理を行う必要があります。
人事管理とは、企業の目標達成のために、社員が最大限の成果をあげられるような体制やルールを整えることです。
昨今では、人材登用のためにタレントマネジメントという概念を取り入れる企業も増えています。
タレントマネジメントとは、自社で働く社員の資質や才能、スキルなどを引き出し、組織的な枠組みの中で戦略的にマネジメントすること、またはそれを行うシステムをさします。
具体的には、採用や部署への配属、人材育成のための研修や教育、評価システムなどを体系立てて運用し、企業成長につなげていく取り組みです。
人事制度を改定する際は、どのような人材をどのようなタイミングで登用や配置転換を行うのが望ましいかについて、検討をしてください。
そのうえで、その望ましい登用を運用するためには、システムを含めた人事管理の仕組みも検討すると良いでしょう。
人事評価は社員の働きぶりやスキルの評価をするものです。また、処遇は評価結果に応じた賃金の変動をさします。
平易な言葉で説明すると、「社員の何を見て、どう判断するか(評価)」「評価結果によって、何の賃金をどの程度変化させるか(処遇)」を決めることになります。
評価・処遇と合わせて、忘れてはならないのが育成の観点です。
もちろん、全ての社員が会社が求める評価基準を超えることが望ましいですが、現実的には基準に満たない社員も存在することになるでしょう。
そのような場合に、会社として求める基準に達するための育成施策もセットで用意することが重要になります。
また、育成は評価される側の社員だけとは限りません。
評価制度が整っていたとしても、適切に評価ができないマネジメントがいる可能性もあるからです。その場合は、評価する側の育成施策も必要となるでしょう。
人事制度改定の際には、評価や処遇の整備に目が行きがちです。
しかし、作った評価制度に多くの社員が到達するための育成が考えられていないと、絵にかいた餅のような状態になってしまいます。
必ず、育成のフォローを含めて評価制度を設計するようにしましょう。
育成前提で考えると、評価制度をあえてチャレンジングに設定することも可能になります。結果的に、社員の成長と企業の成長がリンクしやすくなるはずです。
人事制度の中心となるのは「等級制度」「評価制度」「賃金(報酬)制度」の3つです。
ジョブ型人事制度を導入する際は、この3つはしっかり設定し、互いが連動しながら機能させられる状態をめざすべきでしょう。
さらに、人事制度改定に際しては3つを機能させるためにも、他にも決めておくべき要素があります。
具体的には以下の8つの要素について考え、お互いの整合性がとれているかどうかを考えていきます。
人事の全体像の出発点が経営理念であったように、人事制度を構成する各要素は「経営理念の浸透がはかれるかどうか」という観点で、具体内容を検討する必要があります。
各要素の詳細内容は別記事で解説する予定なので、当記事では各要素があることで、社員個々人に「何が伝わるのか」という観点で解説していきます。
人事制度設計はこのように、要所要所で社員視点で考えることが重要です。
社員構成は、当たり前ですが各企業で異なります。ある企業では重要でない要素も、自社では社員からの関心が強い要素だったりもします。
リアリティを高めて自社状況について考えるようにすれば、自ずと施策の優先順位も見えてくるでしょう。
今回解説したように、人事制度の各要素はお互いに関係しあっています。どこかを変えると、必ず他のどこかに影響を与えます。
ジョブ型人事制度を導入して失敗するパターンは、点でしか人事制度を捉えていないことによるケースが多いように思います。たとえばジョブ型の等級制度を導入しても、人事評価の対象が保有するスキルや勤務態度だけのようなケースです。
これでは、たとえ職務価値が低い業務を担っていたとしても、職務に関係のないスキルを所持している社員や、毎朝早目に出社している“頑張っている”社員が評価されることになってしまいます。
人事は、人にまつわる全てが対象となるため、非常に幅が広い世界です。
人事制度を改定する際には、今回紹介したようなフレームは大事にしつつも、想像力を大切にしてください。ある箇所を変更したら、何に影響を与えて、どこまで整備が必要かについて、飽くなき探求心で考えるようにしましょう。