組織改革/ジョブ型人事制度

いま、日本型人事制度に求められる変革とは

 

先行きが不透明なVUCAの時代を勝ち抜くためには、従業員の意識や動き方を変革する必要があるでしょう。

そのための人事制度とは、従業員の意識や動きを「このように変化してほしい」「こんな動きを自社は奨励する」というメッセージが込められていなくてはなりません。

現状でも各企業の人事制度は、その企業なりのメッセージが込められているかと思います。
ただし、総じて「日本型人事制度」の典型的な特徴は、VUCAの時代と逆行する特徴があります。

今回は、あらためて日本型人事制度の変遷や特徴をひもとき、どのような点がいまの時代にフィットしにくいかについて解説します。

 


1.日本型人事制度の変遷

人事制度は、時代とともに変化を遂げてきました。1970年代の年功序列重視の制度をはじめに、職能重視から成果重視、そして役割主義型へと移り変わっています。その変遷は年代別に以下のようになっています。

1970年代:年功主義型

この時代は、終身雇用が当たり前と考えられていました。

ほとんどの企業では、勤続年数や年齢が上がるほどに昇給や昇格など良い処遇になる、年功主義型の人事制度を採択していました。

従業員一人ひとりの個性や能力には焦点が当たっていません。全員が同じように会社の管理化で勤務することが、重視された人事制度だったといえます。

1980年代:職能主義型

1980年になると、個人の能力を加味した人事評価がトレンドになりました。

仕事内容に活用できる資格を持っているかなどの、職能査定が実施されるようになりました。

ただし、給与体系は能力に応じてではなく、依然として年功序列とする企業が主でした。

1990年代:成果主義型

個人の能力主義に一石を投じたのが、1990年代の成果主義型です

会社の利益や発展につながる成果を重視した人事制度が、トレンドになりました。
終身雇用は当たり前ではなくなり、スキルやキャリアプランに応じた転職が一般的になったのです。

一見すると個々の成果に応じて正当な評価がされるはずの制度ですが、日本では以下のようなデメリットが散見されました。

  • 従業員が「個人主義」になり、短期的な成果を求めるようになる
  • 社内の連携が弱まり、チームワークに影響する
  • 成果のみで評価するため、離職率の上昇につながる
  • 何を成果として評価するか、定義が難しい職種もある
  • 成果が出ない場合には、従業員の精神的負担が大きい

これらの問題点があったために、2000年代には新しい人事制度がトレンドになったのです。

2000年代~:役割主義型

2000年代に入ると、個人の能力や成果に着目していた人事制度から、仕事内容やポジションの役割を多角的に評価するようになりました。

会社が配置した役割に期待する行動を示すことで、正当な評価が可能になります。

客観的に正当な評価に基づいて報酬や待遇を決定するため、従業員の納得度も高くなります。また、評価基準を成果だけではなく、行動も含めること企業が大半でした。

役割を基軸としつつも、社内の活性化やメンタルヘルスを維持することへ配慮する、日本独自の人事制度へと発展していったのです。



2.日本の人材管理の根底にある考え方

人材管理のイメージ

特徴的な日本型人事制度ですが、その特徴は日本独特の人事管理における前提となる考え方があります。
制度として形を成す以前の、規定条件を考えてみます。

仕事の編成=属人主義(⇔職務主義)

日本企業では、部門にとって重要なコア機能には、明確な担当者を決めて職務に当たらせます。一方で、重要でない周辺的な機能には状況・人の能力に合わせて職務を配分するという傾向があります。

「こんな仕事聞いてません」と雑務を振られる経験や、「忙しい部署を手伝いなさい」などの指示を受けることは、かなり日本的な現象です。

つまり「職務に合わせて人を配分する」欧米の職務主義に比べると、「人に合わせて職務を配分する」ことが日本独特の考え方なのです。

また、職務ありきで人を配分しないことで、特定の専門業務に特化するスペシャリストではなく、ゼネラリストが育ちやすく評価されやすい傾向があります。

この特徴は、最近では「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」という言葉で表現されることが多くなってきました。組織戦略における主義の違いが、雇用手法の大きな違いを生んでいるといえます。

経営資源の配分方法=平等主義(⇔格差主義)

日本企業では、決済権を部長が持っていたとしても、部下が原案を作成したり、意見を求められたりすることが往々にしてあります。

対して欧米企業では、部長は自分の考えをもとに決定して、部下には上から指示する傾向が強く見られます。
つまり、「トップダウン型の意思決定を行う」欧米企業と比べると、日本は「ボトムダウン型の意思決定を行う」ことになります。

これが日本の経営資源配分の基盤となっているため、若手社員でも役員でも格差がない風土が育ちやすくなります。
「意思決定に時間がかかる」など揶揄される一方、KAIZENなど日本らしい、現場主導での経営効率の向上が行われてきました。

社員の生活の保障とそれを実現するための制度

日本企業は、全社員の生活を最低限以上のレベルで保障しようという理念を持っています。

コロナウィルス等の外部環境要因で会社の業績が揺らいだ時でも、日本企業は社員の雇用を優先しようとします。
理念だけでなく、具体的な人事制度の骨組みとしてもその考え方は反映されています。それが今の日本型人事管理を形作っているのです。


3.日本型人事制度の特徴

前章の独自の人事管理の考え方が、特徴的に現れている日本型人事制度の特徴を紹介します。

終身雇用制と年功序列と企業内労働組合

その昔、日本的な経営や人事制度の特徴として「三種の神器」と呼ばれたものをご存じでしょうか。

終身雇用、年功序列、企業組合のセットのことです。その裏側に含意があるのはいうまでもありません。

すなわち、日本以外の国ではより良い待遇を求め、労働者が頻繁に転職する、評価においては勤続年数や年齢は考慮されず実力主義である、組合は職業別あるいは産業別である、と暗に示しているのです。

この三種の神器は、実はアメリカ人が書いた本で発見されました。
1958年に経営学者のジェームス・アベグレンが、日本の産業について予備知識が全くないアメリカ人を対象に、『日本の経営』という本を書いたのです。

それほどに日本独特の人事制度は、アメリカをはじめとした日本以外の国には不思議に映ったのでしょう。

かつては年功序列には、一定の合理性がありました。
なぜなら、経済は安定して成長しており、経験や見識などが仕事の成果を左右していたからです。日本の人材管理の根底にある「社員の生活をできる限り保証する」を大手を振って実践できたといえます。

しかし、市場はかつてとは一変しました。
世界的な経済成長の鈍化、国内においてはDXの遅れなどを背景に、日本の賃金が上昇しないことがあらためて話題に上ることが増えています。

長らく続いてきた日本型の「三種の神器」も、「三種の足枷」と姿を変えようとしています。

人材確保と配置の仕組み

日本企業は欧米企業に比べて、昔から中途採用より新卒採用を重視してきました。

それゆえ、以下のような特徴を持つようになりました。

  • 企業の外から人材を確保するとき(外部調達)には新卒を採用し、組織の最も下のランクの仕事に配置する
  • 高度なランクの仕事に欠員ができたor新しい仕事ができたとき/ある仕事に余剰人員が発生したとき、社内で適切な人材を配置/差配する(内部調達)

毎年定期的に入ってくる新入社員を歓迎したり、一定の勤続年数を迎えた従業員たちが仲良く昇格したりする現象は、かなり日本的な光景です。

こうした人材確保の手法と人材配置の仕組みは、先に見た「終身雇用」「年功制」と不可分な関係にあります。

「A部門の仕事が減少し、B部門の仕事が増加したとき」は、社員数と構成を調整するのは人事管理の基本機能です。
日本型の終身雇用制のもとでこの機能を発動させようすると、どうしても内部社員を再配置することでしか対応できないからです

一方欧米型では、A部門の人を解雇し、B部門の人を中途採用で雇う対応が当たり前でしょう。

従業員の雇用を守るのは、日本型人事管理の優しさといえます。ただし、この先海外新興企業などと競争を強いられる環境になったとしたら、優しさだけではなく強さも必要になるかもしれません。

報酬配分の仕組み

報酬配分の基本原理は「難易度が高い仕事をしている人」「大きな成果を上げた人」に、より多くの報酬を配分することです。
しかしこの原理だけでは、具体的にどれだけの報酬を配分するかまでは決められません。

そこで日本企業が採択した配分政策は、平等主義に則った上で、すべての社員を同一の方法によって処遇することを優先したのです。

すべての社員が月給制で、福利厚生も一律。さらに社員全員の生活を最低限守るために、家族がいる(=生活費のかかる)シニア世代には月給をより高く、独身が多い若手世代には、低めの月給が設定されています。

欧米のような成果に応じた報酬の調節弁は、かろうじてボーナスに持たせています。しかし、その変動幅は非常に小さいという特徴があります。

「同一労働=同一賃金」を求める優秀な若手社員から見ると、この報酬の配分の仕組みは首を傾げることが多いでしょう。


4.日本型人事制度は限界を迎えつつある

これからのマーケット環境を考えると、日本型の人事制度では苦戦が強いられることが考えられます。
既にその悪影響が現れつつある状況をみてみましょう。

世界の変化スピードへの対応

グローバルでの競争の激化、テクノロジーの革新による急速な環境変化によって、経営の不確実性が高まっています。

これまでとは比べ物にならないほど、変化の速度が早くなっており、長期的な視野に立った経営が困難でしょう。つまり、長期的な労使関係を前提とはできない環境と置き換えられます。

「終身雇用制」「年功制」を前提とした人事管理が、この先のマーケットでは機能不全を起こしやすくなっているといわざるを得ません。

日本での高度専門人材の不足

まず、1989年と2022年での、世界企業の時価総額ランキングの推移を見てください。

世界時価総額ランキングTop10 -1989-

世界時価総額ランキングTop50-2022-

1989には上位10社のうち7社が日本企業で、上位50社においても32社の日本企業がランクインしていました。
しかし2022年にはトップ10はおろか、上位50社でランクインしたのトヨタ自動車(31位)の1社のみです。

様々な理由はあると思いますが、日本企業で深刻な課題となっている、高度専門人材不足に一因があるでしょう。
ランクインした企業の顔ぶれを考えると、とりわけIT人材の不足が日本企業には浮き彫りになっています。

前述した通り、日本はゼネラリストを育成し、評価することを基本とした人事管理を進めてきました。そのため、スペシャリストや世界で通用するスキルを持った専門人材を、育成しづらい環境にありました。
仮にスキルが高いIT人材がいた場合でも、日本企業では一定の年次に達したら、本人が不得意とするマネジメント業務などを強いる状況をつくっていたのです。

しかしこのランキングを見ると、その人事戦略では世界と戦えなくなっていると考えられます。
世界水準の企業を輩出し続けるためには、根本の人事管理システムを部分的にでも見直さなければいけない状況となっています。

このような背景を受け、日本政府も動き出そうとしています。
2019年の経団連の中西会長は、終身雇用の見直しだけではなく、ジョブ型雇用を推し進めるべきとの発言をしています。
今後数年で、ジョブ型の人事制度に移行する企業は増えていくでしょう。

個人の価値観の多様化

これまでの個人の価値観で重要視されたのは「生活の安定」でした。
そのため、金銭的に生活を保障し続けてくれる日本型人事制度との相性は良かったでしょう。

しかし一昔前とは違い、人々の情報リテラシーが格段に向上し、現代の個人の価値観は多様化しています。いまでは、転職や副業も当たり前になってきています。

以下の図にみるように「金銭的報酬(Financial)」「環境的報酬(Environmental)」「関係的報酬(Social)」という観点で、個人は働く環境を選択するようになっていくと想定されます。

FESTimeリレーションの細目

引用元:リクルートワークス研究所『Works Report 2020 マルチリレーション社会 多様なつながりを尊重し、関係性の質を重視する社会』

したがって、これまでの報酬配分の仕組みだけでは、個人のモチベーションを最大化し、人材を有効に活用し続けることは困難になっているといえるでしょう。


まとめ

人事制度にもトレンドはあり、時代の流れに合わせて各企業は柔軟に制度を変化させる必要があります。

人事制度の変更や新しい制度の導入は、会社を発展させるためには不可欠といえます。
ただし、従業員への影響も大きいことから、人事制度の変更はかなりセンシティブにならざるを得ません。毒にも薬にもなるような影響を考慮しなくてはならないのです。

人事制度変更は、毒にならないことはもちろんのこと、できれば薬といわず栄養をめざしたいことでしょう。
必要な栄養は、外部環境と自社の状況のバランスによって変わります。万能な人事制度はないため、あらためて外部と内部の状況を確認するようにしてください。



JOB Scope編集部

著者: JOB Scope編集部

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