組織改革/人事制度設計
【人事制度設計:実践編】

組織設計と人材ポートフォリオについて

 

人事制度の基本的なポリシーが決まったら、次はポリシーを推進する組織や人材に観点を移す設計フェーズに入ります。

ただし、具体的な設計になればなるほど、既存の「組織図」や「在職人員」など、現状踏襲路線になることも少なくはありません。
組織や人材は日々馴染みがある存在だけに、あらためて真っ新な視点で考える難しさもあるでしょう。

今回は、人事制度をゼロから設計する際の“組織と人”の根本的な考え方に焦点をあてます。人事制度改定の予定がなかったとしても、現在の組織や人材管理を点検する場合でも、活用できるフレームとなります。ぜひ参考にしてください。

 


1.組織設計の前提となる考え方

組織設計とは「成果を上げやすくするための組織づくり」のことです。

「組織は戦略に従う」――これは、アルフレッド・D・チャンドラーJr.が著書『Strategy and Structure』の中で述べている考え方です。つまり「組織」は理念やビジョンに基づき策定された「戦略」に従うという考え方です。

この言葉の通り、組織設計は既存の組織図の上書きだけでなく、自社の経営戦略やビジョンを実現しやすい「理想の組織」を描くことが要諦になります。

また組織設計で大事なことは、組織のなかにいる社員が、成果を上げやすくすることです。組織はあくまで、働く社員のパフォーマンスを高めるための道具や箱として考えたほうがよいでしょう。

つまり、形だけの組織構造の探求ではなく、組織の中で働く社員が成果を出しやすくすることこそが、組織設計の本質です。

場合によっては、本来的な組織設計のためにはBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)も必要となるでしょう。
BPRとは、業務内容や組織構造、情報管理など業務フローに関わるあらゆるものを見直し再定義、再デザインすることです。

現状業務の可視化が進んでいない場合は、抜本的なBPRも視野にいれてください。

▶▶BPRの必要性については、『社会のデジタル化によるBPRの必要性』でご説明しております。


2.代表的な組織形態

日本企業で代表的な、3つの組織形態を紹介します。

多くの企業では、人事制度設計をした際に、最終的には組織図というアプトプットを作成すると思います。その組織図を「どのように区切るか」を考えるのが組織形態です。

環境変化の予測が難しいVUCAの時代には、組織の形態だけでなく組織の運営スタイルも合わせて検討することが求められます。

例えば、自律型組織・自己組織化組織を意味する「ティール型組織」や、オープンで臨機応変な開発ができる「アジャイル型組織」などが代表的なものです。

組織の外形だけにこだわるのではなく、まずは「どういう動きが求められるか」を考えた上で、その理想を動かしやすい組織形態を考えるとよいでしょう。

機能別組織

機能別組織は、業務内容や機能を分けることによって、仕事に特化した人員配置を行う組織構造です。
おそらく日本ではもっともスタンダードな組織形態で、多くの企業で取り入れられています。

機能別組織イメージ図

機能別組織では、業務内容に特化した配置によって、社員の能力やスキルの専門性を高めやすいのがメリットです。ノウハウや知識・スキルが蓄積されやすく、社員による仕事品質のブレを最低限に抑えることができます。

役割が明確に割り振られているため、業務の重複を防ぐことができ、生産性や効率のアップにも効果的です。

一方、経営層の意思決定をトップダウンで実行していくため、機能が複雑になりすぎると、意思決定まで時間を要することがデメリットでしょう。

部署がそれぞれの分野で独立しやすい傾向もあり、広い視野を持った人材が育ちにくいのも気を付けたいポイントです。

機能別組織は、比較的変化が少ない業界や、社員の能力向上をはかりたい企業に向いているでしょう。または、取り扱っている商品や事業が少ない、小規模の企業向けの組織形態だといえます。

事業部制組織

事業部制組織は、複数の事業部に業務内容を割り振っていく組織構造です。
各事業部は、いわば「一つの会社」として活動していくイメージを持つとよいでしょう。

事業部制組織イメージ図

事業部それぞれに権限を付与するため、事業部単位で意思決定できるのが強みです。
経営層まで確認する必要がなく、スピーディーに企画やプロジェクトを実行できます。

また、事業部をまとめるリーダーは、事業部における経営者のような存在です。次世代リーダーを配置し、企業の発展に寄与する人材を育てられるメリットもあります。

スピーディーな意思決定ができる反面、事業部判断に権限移譲をしていることから、会社の方向性とズレる事業部が生まれるリスクもあります。
会社の方針やビジョンが浸透している状態なら、事業部制組織の活動はスムーズに進みやすいといえます。

事業部別組織は、複数の独立事業を展開しており、リーダー候補が潤沢に存在する大手企業で採択されやすい組織形態でしょう。

マトリクス型組織

マトリクス型組織は、機能別組織と事業部制組織を組み合わせた組織構造です。
社員は複数の部門・事業部に在籍し、柔軟に業務に取り組めるのが特徴です。

マトリクス型組織イメージ図

機能別組織での専門性の向上、事業部制組織でのスピーディーな意思決定を同時実現する狙いがあるのが、マトリクス組織です。

ただ、社員は複数の組織に所属することになるため、社員が混乱しやすい点がデメリットでしょう。
ビジョンを社内全体で共有したり、上司がフォローしたりするなど、混乱やズレが起きにくい組織づくりが求められます。

かつて、企業が合併した際には、現場の混乱を防ぐためにも、便宜的にマトリクス型組織を採用するケースが増えました。しかし現在の日本企業では、指揮命令系統が曖昧となり、あまり馴染まない組織形態とされています。


3.組織設計で考えるべき6つの要素

組織設計は単に「理想の組織を描く」だけはなく、以下の6つの要素からなる包括的な観点が必要です。
要素をバランスよく検討しながら、描いた組織の効果を最大限に発揮できるようにしましょう。

構造

構造とは、組織の骨組みを意味します。
その組織にどのような機能を持たせるのか、どのような階層をつくるのかを検討する必要があります。

特に、どこの企業でも存在する「総務」「営業」などの機能は、集中させるのか分散させるのかなどの検討が必要になりやすいでしょう。

階層構造については、組織の大きさに応じて検討をします。
業務範囲が広く、人員も多い組織については、細かく階層を分ける必要があるかもしれません。
しかし小規模の組織は、階層を設けずにフラットな設計の方が、小回りが利きやすい可能性があります。

業務

組織でどのような業務を担わせるのかを、具体的に考えます。

効率的な組織運営を行うためには、今まで行ってきた業務の見直しや改善も必要でしょう。無駄な業務はできるだけ削減し、本来注力したい業務に集中できるような業務設計を考えます。

業務を検討する際には、仕事内容の情報が必要です。
ジョブ型人事制度を導入する際は「職務記述書」を作成するため、職務内容を参考にしながら、本来的な業務設計を検討するとよいでしょう。

人材

さまざまな能力を持った人材をいかに活用するかは、組織設計の生命線です。

組織の中で、同じ分野のスキルを持つ人ばかりが集まっても、宝の持ち腐れになることもあります。経営戦略に合わせたスキル分布になるよう、人材を組織に配置していきます。

また、働き方改革や労働市場のニーズの変化によって、正社員以外の雇用形態も今後は積極活用が望まれます。中長期の目線で、多様な人材を活用する視点を忘れないようにしましょう。

情報

現在の情報化社会において、情報システムをいかに構築するかも組織設計の重要な要素です。

情報や情報システムは、組織を可視化する効果もあります。組織に応じて、正しい情報システムを用いることが重要です。

会社共通で持つ情報もあれば、特定部門だけに必要な情報もあります。
どの組織が何の情報が必要かを考え、組織間でモレやダブりがないシステムを検討するようにしましょう。

意思決定

意思決定とは、各組織や階層における、責任範囲や権限を決めることです。

組織に応じて、同じ役職でも権限の範囲を変化させるなどの設計も可能です。ただし職能ベースの人事制度の場合は「横並び」意識が強いため、組織による意思決定方法の違いは慎重に検討するようにしてください。

特にスピードが求められる今の環境下においては、スピーディに意思決定をして物事を決められることが重要となるでしょう。

報酬

社会の変化に従って、組織設計の重要要素の一つである報酬(賃金)制度も変革の時期を迎えています。

かつての日本企業は年功序列や職能ベースの賃金形態がほとんどでしたが、近年はジョブ型や成果型の賃金形態に変えていく企業が増えています。

組織ごとの市場価値や年齢構成を確認しながら、マーケットで勝てる可能性が高まる報酬を検討しましょう。


4.人材ポートフォリオの必要性

人材ポートフォリオは直訳すると、書類ケースのことです。
つまり、「組織という箱の状況に応じて、適切に書類を差し替える」という意味があります。

人材ポートフォリオの目的は、企業成長に欠かせない人的資源を見える化し、人事に関わる業務や戦略の効率性・生産性を高めることです。

当然ですが、組織はそこで働く人がいないと機能しません。
組織で上げる成果を最大化するために、どのような社員がいるかが把握でき、どこの組織に位置づけるのかを計画するのが、人材ポートフォリオです。

その観点において、人材ポートフォリオも現状だけでなく、未来志向が重要になります。
経営目標を達成するうえで「どのような人材がどのくらい必要なのか」を分析するようにしてください。


5.人材ポートフォリオの設計ステップ

人材ポートフォリオは、最初にアウトプットのイメージをつけることが大事です。
どのような図でも構わないのですが、関係者で「こういうアウトプットを自社で作る」という目線のすり合わせができるからです。

人材ポートフォリオのアウトプット例

人材ポートフォリオイメージ図

次に、人材ポートフォリオを作る際の3つのステップを説明します。

  1. 重要な2つの軸を決める
    まず、人材を分類するための基準を考えます。
    ここで重要なのは、「どんな分類なら今すぐできるか」で考えることではありません。自社の経営戦略上不可欠な指標で、有効に活用できる視点で分類することです。
    一般的には次のような分類方法があります。あくまで例ですので、自社の事業活動に「必要な」要素によって適宜アレンジすると良いでしょう。

    【人材ポートフォリオの分類例】

    • Y軸に「創造-運用」、「通常業務-繁忙期業務」
    • X軸に「個人-組織」、「高い専門性-低い専門性」
  2. 設定した軸をもとに、人材を4つのタイプに分ける
    4つの象限に分けたあとは、そこに入る人材のタイプに名称をつけてください。
    端的に「そのタイプが経営活動において、どのような位置づけになるか」「どんな役割を担うの。」が分かる表現を心がけるとよいでしょう。

  3. 4つのタイプごとに必要な人材数や適正配置を考える
    中長期の経営戦略を考えた際に、どの人材タイプが何人必要になりそうかを未来志向で考えてください。
    そこに現状人員をマッピングした際の差異を埋めるのが、いわゆる人員計画となります。新たに外部から採用するのか、異動や教育によって理想に近づけるのか、などを検討します。
    人材ポートフォリオは定期的に更新しながら、運用をします。採用や育成の結果、マッピングがどう変化したか、あるいは経営環境の変化で必要人員にも変化が及んでいるのか、などを定期的にチェックするようにしましょう。

まとめ

組織設計フェーズイメージ今回は、組織設計と人材ポートフォリオの設計についてお伝えしてきました。

この設計フェーズに入ると、どうしても今の組織図や今の社員など「現状」の視点が気になってくることでしょう。

人事制度設計時には、時間軸の概念を持ち込むことも重要になります。
現状は現状として受け入れつつも、「数年後にはここまで変化させたい」という感覚を持つと、無理のない設計が進められます。

時間軸の概念があれば、作った組織や人材ポートフォリオを放置することなく、運用していくという意識も根付くはずです。

 

JOB Scope編集部

著者: JOB Scope編集部

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