組織改革/人事制度設計

ジョブ型人事制度設計時にこそ考えたい“人事の枠組み”の視界

 

現在人事業務に携わっている方であれば、おおよその人事の仕組みは理解されているかと思います。
ただし、日常的に問題なく人事業務を運用できていたとしても、人事制度変更に伴う人事制度設計となると、少々事情は変わります。

人事制度設計は、人事部門の方でもそれほど経験できない機会です。
だからこそ、通常業務の運用と同じ視界のまま制度設計を進めてしまうと、重要なポイントを見逃すこともしばしば起こります。

今回は、人事制度設計にフォーカスをあてて、検討に必要な視界や何を整備すべき必要があるのかについて解説します。

 


1.あらためて“人事”とは

“人事”イメージ人事とは文字通り「人」と「事」を扱うことになります。もう少し分解すると、“人を通じて事を成す”となります。

人に関する全ての事項を人事のミッションと捉える姿勢が、企業の人事部門には求められます。しかし人事の中身を確認していくと、時代の変化に応じて、人事で扱う中心課題は変化しているのも事実です。

あらためて日本の人事の歴史をひもとくと、「人」と「事」が交互に訪れていることがわかります。

例えば1991年以前の高度経済成長の時は「人」の時代です。
企業は従業員に高い忠誠心を求める代わりに、終身雇用と年功序列でその生活を守りました。

バブルが崩壊すると、一転して「事」がフォーカスされます。
新卒採用を抑制し即戦力を求めたことで、企業の人員構成はゆがんでいきました。金融破綻によって人材のリストラクチャリングが進み、失業率の不安も高まりました。
同時に、グローバルスタンダードの流れを受け、多くの企業で成果主義が導入され、働く人には自立が求められていったのです。

2005年前後には再度「人」が注目されます。
経済がやや安定し、少子高齢化が進んでいきます。そして、ダイバーシティやワークライフバランスなどの言葉が流行のように語られていきました。

そして2008年の世界同時不況によって、また「事」へ……。

歴史を振り返ると、経済が成長・安定している平時には「人」への投資がなされ、経済危機になると企業の成果「事」に向かう傾向が見て取れます。

人事部門としては、現在及び今後の環境変化を踏まえ、人事の重心をどちらに舵きりをすべきかを見極めなくてはならないのです。


2.これからの人事はどうなる?

これからの人事を考える際に、「不易流行」という概念が参考になるでしょう。
不易流行とは、松尾芭蕉が奥の細道において俳句の極意として示した言葉です。いつまでも変化しない本質的なもの(不易)を中心として、時代の変化(流行)を取り入れていく、という意味です。

人事の世界を見渡してみても、現在流行している施策は実はずっと以前から言及されてきた原理原則であることも多いのです。
例えば、この近年流行したマインドフルネスは2500年前の仏教から来ていますし、ティールやホラクラシーは道教の自然(じねん)で、すでに近いことが語られています。

ときに、日本は長寿企業の数が世界一多い国ということをご存じでしょうか。
世界最古の企業も日本にありますし、世界でも創業200年以上の企業のうち、半数以上は日本企業なのです。

30年以上好業績、かつ100年以上の長寿企業を研究した書籍『「いい会社」とは何か』によると、「いい会社」の特徴を以下のように示しています。

「いい会社」が行っていること

つまり、環境変化における必要な流行を人事に取り入れつつも「世のため、人のため」という理想に向かうことが、人事の不易といえます。

トレンドを踏まえつつも、自社で譲れない要素を見出し確立する姿勢が、企業の明暗を分かつ時代になるのではないでしょうか。


3.人事を考える枠組みとは

多くの企業は自社の人事制度を考える際に「自社に適した人事とはどのような形なのだろうか」を考えるかと思います。

どんな企業でも効果を発揮する万能薬のような人事制度はありません。
外部環境変化に目を向けるとともに、自社がどのような人事制度でもっとも力を発揮できるかを考える必要があります。

仮にジョブ型人事制度を導入する場合では、「人事制度」「人事施策の目的」「人事ポリシー」「人材開発」の4点について、自社が採る方針を言語化する必要があります。

これらを言語化するために、あらためて自社が重要視する価値観を考えることが重要でしょう。

価値観を考えるにあたり、リクルート社が発行しているHRトレンドを扱った機関誌『Works』の76号「人材マネジメントを視覚化する」特集がヒントになるかもしれません。
12の価値軸から企業を分類しマッピングしているのですが、以下に一例を紹介します。

企業が持つ価値観の一例

自社が「何を大事にしているか」という価値観は、暗黙知化しているため、なかなか気づきにくいものでしょう。

上記フレームに限らずですが、新しい人事制度を考える際には、このような価値観を踏まえて言語化を進めてください。
では具体的に4点について内容を解説していきます。

人事制度

人事制度とは企業が人材を管理するための仕組み全般のことです。

広義にとらえる場合は働き方に関する仕組みなども含まれますが、近年では「従業員の処遇を決定する仕組み」に絞って、人事制度という言葉を使うことが多くなっています。

従業員の処遇を決定する仕組みは「等級制度」「評価制度」「報酬制度(賃金制度)」の3つの柱から成り立っています。

【人事制度の基本機能】

  • キャリアパスや目標が明確に表現され、社員の成長を促進する仕組み
  • 企業と社員の向かう先やめざすものの方向性を合わす機能
  • 人事制度そのものの仕組みや方策よりも、人事・経営の考え方を伝える役割

人事施策の目的

人事施策とは、人事部門が行う採用から人材管理など人事業務における施策全般のことを意味します。

ただ実施するだけでなく、一つひとつの施策について「何の目的があるのか」を人事部門はしっかり定める必要があります。

【人事施策の基本機能】

  • 企業ベクトルとして経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー/パーパス)を浸透させる役割
  • 社員のベクトルとしてキャリアビジョンやキャリアパスを描くことができる
  • 人事施策の全てに企業と社員のベクトルを合わせ、企業理念の実現の動きがとれる

人事ポリシー

人事ポリシーは企業や経営者の「人」に対する考え方を示したものです。
人事に関係する様々な決定をする際に大前提となる、いわば「人事制度の核となるルール」ともいえます。

人材活用が盛んな会社では、人事ポリシーを企業のWEBサイトで公開し、誰でも閲覧できる状態にしています。人事ポリシーを読むことによって、その企業がどのような人材を求めているかが分かるため、人材採用にも活用できるのです。

【人事ポリシーの基本機能】

  • 企業がその企業で働く人に求めたい(推奨したい)考え方や行動
  • 経営者が社員に対して大切にしている想いや考え方を言語化したもの

人材開発

人材開発とは、教育や訓練によって従業員の知識、スキル、態度を高めてパフォーマンスを向上させる人材育成管理のプロセス全体を指します。

社員が新しい知識・技術を身につけることを狭義の意味で「人材育成」といい、社員の持つ能力を開花させるために中長期のスパンで育成をすることを「人材開発」というケースも多いでしょう。

【人材開発の基本機能】

  • 人事評価と合わせて育成を行うことで、社員が絶えず成長していく礎となる
  • 求める水準とギャップがある社員に対し、教育施策メニューを用意しておく

無論、人事業務は「社員採用」「労務管理」など、まだまだ広範囲に及びます。

一旦は、ジョブ型人事制度に転換を検討する場合に、少なくとも上記4点についての整備が必要とご認識ください。

制度設計を進める上で根幹となる考え方なので、自社らしい言葉で必ず設定し、なおかつ人事のみならず経営陣で共有することを推奨します。


まとめ

冒頭で述べたように、人事制度設計はめったにない機会です。
人事業務に携わっている方でも、人事制度をゼロから作った経験がある方は少ないのではないでしょうか。

だからこそ、あらためて自社の人事施策の目的や人事ポリシーを確認するチャンスでもあります。拙速に制度構築のプロセスに入るのではなく、厳しい外部マーケットで自社が強みを発揮するために、どのように人事を機能させるかをまずは考えることが重要です。

そのため、人事制度設計の視野は単なる人事業務ではなく、経営視点に立つ必要があります。視座を引き上げて、自社を見つめなおすようにしましょう。



JOB Scope編集部

著者: JOB Scope編集部

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