JOB Scope マガジン - インタビュー記事

関西大学 社会学部 教授・森田 雅也氏/自律して働くとは何か――裁量と責任を両立させ、誰もが幸せに働ける組織をどうつくるか(後編)

作成者: JOB Scope編集部|2026/10/8

働き方改革が進み、時間や場所に縛られない働き方が広がる一方、「自律して働く」とは何を意味するのかが改めて問われている。関西大学教授・森田雅也氏は、長年にわたり裁量労働制や自律的な働き方を研究し、現場への聞き取りを重ねてきた。その知見から見えてくるのは、自由を与えるだけでは自律は生まれないという現実である。企業には過重労働を防ぐ自己規制と納得感のある評価が、管理職には部下の個性を見極め、目的と裁量を明確にした上で信頼して任せる姿勢が求められる。そして働く側にも、自己決定だけでなく周囲への配慮と結果への責任が必要だ。学生の就労観や「かしこく働く」という考え方にも触れながら、森田氏に、これからの人的資源管理と「良い会社」のあり方を聞いた。後編では、森田氏が近年の学生の就労観や自分にとっての良い会社を見つける大切さなどを語る。


【後編のエッセンス】 
本編では、他者の経験を通じた抽象化と思考サイクルの重要性や、学生の就労観の変化について語られる。まずは、学生の「時間管理を好む傾向」を現実として受け止めつつ、ゼミで掲げる「大人としての自律」や「かしこく働く(働くルールの理解)」の重要性を説く。さらに、華やかな企業ばかりを目指すのではなく、各人にとっての「自分にとっての良い会社」を見つける視点や、中小企業の経営者が目的や姿勢を明確に示すことで、誰もが普通に幸せに働ける社会を目指す重要性を伝えていく。

 

【後編のキーメッセージ】 
① 経験の抽象化と多様な就労観の受容:他者の経験から学びを深める思考サイクルが重要であり、時間管理を望む働き方も人それぞれの自然な選択として受け止める必要がある。
② ルールを知りかしこく働く自律。働くルールを正しく理解して「かしこく働く」こと、当たり前のマナーを守り周囲に良い刺激を与えることが「大人としての自律」へ繋がる。
③ 自分にとっての良い会社と経営者の役割。誰もが知る大企業だけでなく自分に合う職場を見出す視点が重要であり、経営者は目指す姿勢を明確に示すことが求められる。

01他者の経験から学ぶ抽象化思考と多様化する学生の就労観

未経験の分野であっても、他者の経験を聞くことで学びを深めることができるというお話がありましたが、これはどういうことでしょうか。

例えば学生は、まだ生きてきた時間が短いので、自分自身の経験はどうしても限られています。ですが、大人の方と話をする機会があれば、その方の経験を聞いて想像することができます。

その方のお仕事とはどのようなものかを想像し、そこから具体的な内容へと落とし込み、さらにそれを抽象化していく。そうしたサイクルを回してもらうと良いのではないかと感じています。こうした学び方は、ビジネスパーソンの方にもさらに深めていただきたいと思っています。

学生のお話が出ましたので、併せてお聞きします。最近の学生は、時間に管理される働き方を好む傾向があるのでしょうか。

自分の授業で労働時間管理の話をする際に、簡単なレポートを書いてもらっています。時間管理される働き方と、いわゆる裁量労働のような自律的な働き方のどちらを好むかを尋ねたところ、時間管理される働き方を選ぶ学生が多い傾向にありました。

ただ、今回ご質問をいただいて改めて振り返ってみると、ここ二、三年の私の授業の受講者では、両者の割合はほぼ同じくらいになっています。それ以前は時間管理される働き方を選ぶ学生の方が多く、中には「学校にいる間はずっと管理されてきたのに、働き始めてから急に自分で考えろと言われてもできない」といった内容を書いている学生もいました。そうした変化はあるものの、全体としては管理される方がよいと考える学生が多いという印象です。

その理由としては、管理されている方が楽だという発想もあるのでしょうか。

そうではないかと思います。

ここ二、三年については、その傾向が加速しているというよりは、大きな変化はないとのこと。もう少し長期的に見ていく段階ということでしょうか。

そうです。もちろん、あくまでも私の授業の受講者に限った結果ですので、そこには偏りがあります。それをすぐに一般化するのは危険だとは考えています。

02時間管理を好む働き方の現実と自律に対する意識の変遷

先ほどの、時間で管理される働き方を希望する学生が多いというお話ですが、その場合の「時間管理」とは、始業・終業の時間の管理でしょうか、それとも細かいタスクごとの時間管理のことでしょうか。

時間管理される働き方と、フレックスや裁量労働のような働き方、という尋ね方をしていますので、始業・終業の時間管理の方を考えて学生は答えていると思います。

それが半分ほどいらっしゃるというのは、少し意外な結果にも思えますが、森田先生はこの結果を悲観的に捉えていらっしゃいますか。それとも、そういうものだろうと捉えていらっしゃいますか。 

かつては、この結果をとても悲観的に捉えていました。大学院の頃から師匠に自律的に働くことの大切さを言われて考えてきましたし、自律することが正しく、自律できないのはよくないという見方を、私自身もずっと持っていました。

ですが、実際に現場に足を運んでお話を伺ったり、研究を重ねたりする中で、人間は本来自律的な存在であっても、仕事に関しては自律的に働くことが得意ではない人もいる、ということを、ある種確信するようになりました。ですから、学生全員が自律的に働きたいと考えるのはむしろおかしなことで、時間管理される方がよいという学生がいても、それは自然なことだと思っています。ただ、その割合がどの程度なのかについては、まだ確たることは申し上げられません。

「最近の学生は」という言い方で質問をさせていただきましたが、森田先生のご回答としては、あくまでご自身が受け持っていらっしゃる学生に限った傾向であるという前提だということですね。

はい、その通りです。そのようにまとめていただけると、ありがたいです。

03「かしこく働く」ためのルール理解と「大人としての自律」

森田先生のゼミのモットーである「大人としての自律」というのは、どのような意味合いなのでしょうか。

簡単に言えば、自分で考えて決め、先ほどから申し上げているようなことができる人、ということになります。

その一方で、私は「かしこく働く」ということもホームページや授業で申し上げています。ひらがなで「かしこく」と表現していますが、要は自分の権利をきちんと理解していること、そして何のために、如何にして、それを守るのかを分かっていることだと考えています。

もう少し簡単に言えば、ゲームに参加するにはルールをよく知らなければならない、ということです。ルールを知らずに野球をする人がいないのと同じように、働く以上は、法律やマネジメントの仕方といった働くうえでのルールをよく理解し、そのうえで自分が働きたいように働く、ということが大切だと思っています。

自律的に働くことが嫌だとしても、そこにきちんとした意味があれば、それも一つのかしこい働き方だと思いますし、逆に、組織から「自律的に働け」と言われて、何も考えずに自律的と言われる働き方で働いている人は、かしこく働いているとは言えないだろうと思います

そのうえで、ゼミで口を酸っぱくして言っているのは、挨拶、返事、笑顔、そして時間の約束を守るということです。これは保育園でも言われるような当たり前のことですが、その当たり前のことを当たり前にできるというのが、すべての基本にあると思っています。

さらにゼミの中で言っているのは、「互いに刺激を与え、共に向上する集団を目指そう」ということです。刺激の与え方については各自が自分で考えればよく、勉強を頑張るのでも、クラブ活動を頑張るのでも、アルバイトを頑張るのでも構いません。仲間が自分の様子を見て「この人が頑張っているから自分も頑張ろう」と思えるような刺激を与えられる人間になってほしいと思っています。

そして、そうした学生が集まって互いに高め合っていく。そのために、自分は仲間にどのような刺激を与えられるかを考えて行動する、というところにつながっていくと思います。そうした学生が育ってくれたら嬉しいという思いを込めて、「大人としての自律」という言葉を掲げています。

04誰もが幸せに働ける社会と「自分にとっての良い会社」を発見する大切さ

経営学の視点から、普通の人が幸せに働ける社会を目指したいというお考えもお持ちだと伺いましたが、その背景を教えてください。

経営学やビジネスの世界では、華やかな企業や人物ばかりが取り上げられがちですが、実際に国内で働いている方は6千8百万人ほど、そのうち雇われて働いている方は6千百万人ほどいらっしゃいます。そのほとんどは、いわゆる華やかな存在ではありません。

会社数で見ても、99.7%は中小企業です。ですから、私は経営学に携わりながらも、そうした普通の方々が普通に、ごく素朴な言い方をすれば幸せに生きられるような働き方ができる、そういう社会になればよいと思っています。

とはいえ、私一人で社会を変えることは難しいので、せめてご縁があって私のゼミに来てくれた学生や私の授業を受けてくれた学生には、そうした力を身につけて、幸せに働き、生きていってほしいという思いがあります。

森田先生が2012年に書かれたコラム「自分にとっての良い会社」についてですが、良い会社というのは一律に定義できるものではなく、それぞれの人にとっての良い会社を見つけていくべきだ、ということでしょうか。

はい、そうです。学生は就職活動を始めた頃、誰もが知っているような大きな会社に行きたいという気持ちで動き出します。ですが、残念ながら、そうした会社に行ける学生は本当に限られているのが現状です。

一方で、そうした会社に入れたとしても、本当に幸せかどうかは、何をもって幸せとするかは別として、なかなか難しいところがあります。ですから、「身の丈に合った」という表現が適切かどうかは分かりませんが、自分にとって良い会社というのは必ずあるはずで、それを探せばよいと思っています。

もう一つ最近学生に伝えているのは、「好きなことを仕事にしたい」という学生が多いのですが、仕事というものはやっているうちに好きになっていくこともあるということです。そうやって取り組むうちに、その会社が自分にとって良い会社になっていく、あるいはその仕事を一生懸命やって好きになっていく、ということもあると思っています。コラムではそこまで書いてはいませんが、そうした思いも込めて、誰もが良いと言う会社に行くことだけが幸せではない、ということを学生に考えてもらいたくて書いたものです。

05経営者が示すべき明確な方向性と中小企業における柔軟な対応

経営者の方にお伺いすると、皆さん「良い会社にしたい」とおっしゃると思います。その場合、自分にとっての良い会社とは何かを明確に描き、その会社像を目指して努力していく、ということになるのでしょうか。

経営者の方がどうあるべきかについて申し上げる立場ではありませんが、おそらくそうだと思います。「私はこういう会社にしたい」ということをトップが打ち出されれば、それに同意する方もいれば、それでは困ると離れていく方もいるでしょう。ですが、どのような会社にしたいかを示さなければ、ついていく人が困るというのは事実だと思います。目的を明確にしなければ、裁量労働で働く人が困るのと同じことです。会社がどのような方向に進み、何をしたいのかを示さなければ、ついていく人は困ってしまいます。

以前お付き合いのあった中小企業のトップの方が、「採用の際には必ず自分がまず出ていく」とおっしゃっていました。理由を伺うと、「結局、自分と一緒にやるのが嫌なら働けない」ということで、まず自分が出るとのことでした。言葉で表現するか、態度で分かってもらうかなど、方法はいろいろあると思いますが、自分たちが目指すところを明確に示す必要はあると思います。

最後に、中小・中堅企業の経営者や人事責任者の方へメッセージをお願いします。

経営者の方に対してあれこれ申し上げるのはおこがましいのですが、以前、裁量労働の話をした際に、ある中小企業のトップの方から「先生、そんな制度は要らない。自分がオーケーすれば、社員は自由に動けるのだから」と言われたことがあります。

つまり、子どもが熱を出したので早く帰らせてほしいと言われたときに、「心配だろうから、帰っていいよ」の一言で済む話であって、わざわざ制度を作らなくても構わないでしょう、ということです。

中小企業のトップの方は非常に大きな力をお持ちで、その力を使って無理やり働かせることもできれば、今の流れに沿って、制度を新たに作らなくても柔軟な働き方をさせてあげることもできます。そのあたりを意識していただくと、働いている方が喜ばれたり、精神的に楽になったりすることがたくさんあるのではないかと思います。

森田先生、貴重なお話をありがとうございました。

 

  【編集後記】
「自律して働く」と聞くと、自由に働くこと、あるいは上司から細かく管理されないことを思い浮かべる人は少なくないだろう。しかし、森田雅也氏の話を聞くと、自律とはもっと複合的な概念であることに気づかされる。自分で決めるだけではなく、周囲や組織への配慮を持ち、結果に責任を負う。そのためには、企業側にも「自由に任せる」だけではない覚悟が必要になる。過重労働を防ぐ自己規制、成果を適切に評価する仕組み、目的と裁量範囲の明確化、そして異なる考え方を受け入れる管理職の姿勢。自由と管理は対立するものではなく、むしろ適切な管理があるからこそ、安心して自律できるのである。 さらに興味深いのは、森田氏が学生の「時間管理される働き方を好む傾向」を単純に否定していない点だ。自律的に働くことが常に正解なのではなく、人によって心地よい働き方は異なる。「かしこく働く」とは、権利やルールを理解した上で、自分にとって納得できる働き方を選ぶことでもある。誰もが知る有名企業だけを「良い会社」とせず、「自分にとっての良い会社」を探すという視点も、働くことを考えるうえで重要だろう。制度や流行の言葉に振り回されるのではなく、その根底にある人と組織の関係を考える。今回のインタビューは、これからの働き方を考える私たちに、そんな本質的な問いを投げかけている。

森田 雅也 氏

関西大学

社会学部 教授

 

1987年 神戸大学経営学部卒業
1989年 神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)
1992年 神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程 単位取得退学
1992年 関西大学 社会学部 専任講師
1995年 関西大学社会学部 助教授
1996年 神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了 博士(経営学)
2002年 関西大学 社会学部 教授(現在に至る)

JOB Scope メディアでは人事マネジメントに役立つさまざまな情報を発信しています。