「若手社員が成長していない」「離職してしまう」と嘆く経営者や人事担当者、管理職が多い。中には、「どう付き合っていけば良いのかさえ悩んでしまう」と指摘する方もいたりする。若手社員の価値観がますます多様化し、職場の環境も変わりつつあるだけに、悩みは尽きないようだ。そうした課題にどう取り組んでいけば良いのか、20代の若手社員のキャリア形成を研究されている筑波大学大学院 人文社会ビジネス科学学術院ビジネス科学研究群・助教の池田めぐみ氏にアドバイスをお願いした。インタビューの後編では、若手が働きやすい職場、活躍しやすい職場などについて語ってもらった。
「若い頃は苦労を買ってでもしろ」と良く言われています。確かに、私の周りでも若いうちから歯を食いしばって仕事をしている友人・知人がいます。特に、ベンチャー企業や外資系企業でバリバリ仕事をして活躍している方は、そんな印象です。ただ一方で、そういった会社で頑張りすぎて燃え尽きてしまった人もいます。そういった中で、「若いときに苦労ってすべきなのか」とか、気持ちが折れてしまった人にどんな言葉を掛けて上げれば良いのかと関心がありました。
それで、チャレンジストレッサーに着目したんです。職場におけるストレスを生み出す要因が幾つか挙げられます。2000年頃に行なわれた研究では、職場によるストレスの中でも、成長に効くものとそうでないものがあると分類されました。そのうち成長に効くものが、チャレンジストレッサーと呼ばれているものです。
例えば、時間的なプレッシャーがある仕事や職務範囲が広い仕事、責任の重い仕事をやると疲れてしまい、くたくたになってしまうかもしれません。一方で、結構ハードに責任の重い仕事をやっていく中で、その業務に必要なスキルを身に付けたりできると言われています。これが、チャレンジストレッサーと呼ばれています。
一口に今の若手と括っても色々な人がいます。何に充実感を覚えるかはひとりひとり違う気がします。昔は社内でキャリアを築いていくのが当たり前でしたが、今は社外でもと考える人が多いです。それから、キャリア形成の主体が会社なのか、自分のビジョンなのかという軸があると思います。一昔前は、モーレツ社員と呼ばれる人たちが、社内で出世していき、会社が用意してくれたラダーに向かって頑張っていくみたいなモデルが一般的だったと思います。しかし、今はもっと多様化しています。会社としても、色々な種類の人に合わせてやっていくのが大事だと思いますが、皆に合わせるのは難しいものです。
なので、ジョブ・クラフティングが大事になってくると思うのです。ジョブ・クラフティングというのは、基本的に個人が自主的にする行動ですから、上司が何かをするよりは、個人が自分の好きに仕事を多少デザインする余白が大事になります。そうした余白を上司が残すことを意識してあげる。それが大事だと思います。
例えば、マイクロマネジメントとかをして、すごく細かく手続きを決めるなど、やりすぎてしまうと、自分好みにアレンジする余白が生まれません。最初は難しいかもしれませんが、部下を信じてあげて、「ここまではある程度自分で好きに組み立てたり、やり方を考えても良いよ」と余白を作ってあげることをお勧めします。
先ほどもお話ししましたが、プライベートでSNSを楽しんでいる人が、SNSを活用できると、もっと仕事を楽しめるかもしれません。あるいは、「もっと難しい仕事に挑んでみたいけれど、うちの職場だと若手には重い仕事を任せてくれない」とモヤモヤしている人は、タスクとかを自分から増やして、よりチャレンジングな仕事をするといったことをやっていくと、成長の機会を感じられるかもしれません。こんなふうに、個人が自分の仕事をオーダーメイドしていくような余白を作ってあげて、上司がそれをある程度認めてあげたり、それを謳歌するためにどうしたら良いのか相談に乗ってあげていただけたらと思っています。
そうですね。そこの塩梅は難しいです。結構難しいですけれど、そういうときは、まずは協同的ジョブ・クラフティングみたいなものから始めるのが良いと思います。個人のジョブ・クラフティングだとかなり個人化されて勝手にやられてしまうことが怖いのであれば、上司あるいはメンターと一緒にどの範囲だったら変えて良いのかと考えながら、「今の仕事をもう少し自分のやり方に変えるためには何ができるのか」とプランを一緒に探っていってはいかがでしょうか。上司や先輩にとっても怖くない範囲でできるのではと思います。
そうですね。会社さんに呼んでいただいてお話をすることが結構あったりします。
部下を1人の人間として信じて、ある程度任せてあげることが大事だと思います。どこかで、コマと感じて扱っている限りは部下としてもそう扱われていると思い、上司のために頑張ろうとか、活躍しようみたいなことは思いにくいはずです。特に、今の若い子とかだと、その会社にずっと勤めていくビジョンがないので、その傾向は強いと思っています。なので、その人たちのことを信頼して認めてあげたり、自分たちがカスタムする余地を残してあげたりとかすることは結構大事になってきます。
離職の理由も多種多様です。なので、対応は難しいと思います。それでも、1on1とかをしながら、その人が今仕事でモヤモヤしていることを一緒に悩んであげることが大事になると思います。
「もっと活躍したい」「若いうちから良い経験をしたい」みたいな理由いから転職したい理由は方もいれば、人間関係が難しくて、「直属の上司が怖い」という理由の人もいるかもしれません。同じ部署ではない先輩や利害関係が少ない社員がメンターみたいな形で本人をサポートし、今の仕事でモヤモヤしていることを聞いてあげるだけでも、本人は結構嬉しかったりします。そういう人がいるだけで、「この会社って良いかも」と思ってくれるかもしれません。「今の職場では活躍できない」「難しいことにチャレンジできない」と若手が悩んでいる場合、既に会社にある社内公募の制度を使えば問題解決できることもあるかもしれません。こうした制度は、少し長く会社にいる人は知っていても、若手は知らないこともあります。なので、利害関係のない社内の別部署のメンターをつけて、一緒にモヤモヤの解消を図ってみてはと思います。
同じ部署でないことが結構ポイントになってきます。直属の上司だとか、同じチームだと、何かを言っても、「とはいえ今は目の前の仕事をしろ」みたいな感じで終わってしまいからです。実際、そういったことはあるのではないでしょうか。その点、利害関係のない人ではあるものの、社内で味方をしてくれるみたいな人がいるのは結構良いことだと思います。
これにどうお答えするかは結構難しいです。時代が変わるとともに、働く側の個の力がどんどん強くなっています。もはや、働く側が市場や会社を選ぶことができます。そういったことを踏まえても、昔みたいに「こうやれ」「あれをやれ」と言われた仕事を絶対にやってくれる、何も不満を言わずに働いてくれるといったことは確約されなくなっています。そうした前提があることを、まずは意識することが大事だと思います。
その上で、権力で若手を繋いでいくのではなく、目の前にいるのは変わりがきく他者ではなく大事な仲間なんだと認識して、その彼ら彼女らのために何ができるのか一緒に悩んだり、考えたりしていくと、きっと良い職場になっていくと思います。若手社員も「そんなに自分たちのことを考えてくれる人がいるのか」「この会社ってすごく素敵だな」と思ってくれるかもしれません。若手は未熟なコマだと思うのではなくて、一人の大事な人間だと思って接していくことを考えていくのが良いと思います。
池田先生、貴重なお話をありがとうございました。
東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。東京大学大学院情報学環 特任研究員、東京大学 社会科学研究所附属 社会調査・データアーカイブ研究センター 助教を経て2024年4月より現職。主な研究テーマは、職場のレジリエンス、若手従業員の育成。分担執筆として関わった書籍に『活躍する若手社員をどう育てるか』(慶應義塾大学出版会)、『ジョブ・クラフティング:仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』(白桃書房)、『チームレジリエンス』(日本能率協会マネジメントセンター) など。