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宇都宮大学 教授・大嶋 淳俊 氏/人と組織の成長が経営を変革する――次世代経営リーダー育成・企業内大学・デジタル活用を考える(後編)

作成者: JOB Scope編集部|2026/11/5

生成AIやデータサイエンスの進展によって、企業に求められる人材や組織のあり方は変わりつつある。だが、デジタル人材を増やし、AI研修を施すだけでは、企業の変革や価値創造にはつながらない。宇都宮大学データサイエンス経営学部・大学院地域創生科学研究科 教授の大嶋淳俊氏は、政府の政策形成支援や企業コンサルティング、国際協力などの多様な実務経験と学術研究を背景に、人材・組織研究に経営戦略、マーケティング、デジタル活用などの視点を取り入れてきた。「次世代経営リーダー」の育成には、経営陣、人事、現場などが連動する仕組みと、自社の戦略や組織特性に応じた育成モデルが必要だと説く。さらにAIの活用においては、全社員のリテラシーを高めるだけでなく、AIの出力を適切に評価・判断し、事業に生かす力が重要になる。「企業内大学」や越境学習、データサイエンスと経営をつなぐ人材育成、地域との連携。実務と研究を往還してきた大嶋氏が、これからの経営と人材・組織づくりを考える視点を示す。後編では、デジタル活用とこれからの人材・組織、データサイエンスのノウハウを生かした経営のあり方に関する見解を聞いた。 

 

【後編のエッセンス】 
大嶋氏は、AI・デジタル技術の普及に伴い、専門的なデジタル人材の育成に加えて、技術を活用して課題を設定し、判断し、経営や事業の成果につなげられる人材の育成が重要になると指摘する。「企業内大学」も、単なる研修提供の場から、全社員のデジタル・AIリテラシーを底上げし、採用・育成・配置やタレントマネジメントと結び付く仕組みへ転換する必要がある。また、データサイエンスの専門知識だけでは経営成果につながらないため、データサイエンスと経営を橋渡しできる人材の育成が重要であり、宇都宮大学のデータサイエンス経営学部にもその役割を期待している。経営者への提言としては、①トップ自身がAIへの関心を持ち風土をつくる、②事業課題から活用テーマを見つける、③小さく試して検証し組織へ広げる、④大学など外部との越境機会をつくる、という4点を挙げる。

 

【後編のキーメッセージ】 
① 専門的なAI・デジタル人材の育成に加えて,全社員の基礎的な活用能力を高め,技術を経営判断や業務改善につなげることが重要である。 


② データサイエンスを学ぶだけでは経営成果につながらない。両者を橋渡しし、経営判断に生かせる人材が必要である。 


③ AI活用は経営者自身の関心から始め、事業課題を起点に小さく試し、検証と越境を重ねながら組織へ広げるべきである。 

01AI時代に企業内大学が担うべき役割は「判断力」の育成 

今度は「デジタル活用とこれからの人材・組織」というテーマに移ります。デジタル活用にはAI活用も含まれると思いますが、どのような見解をお持ちですか。

近年,生成AIの業務利用が急速に広がっています。私は,東証上場企業に勤務し,生成AIを業務で利用している正社員約1,200人を対象に調査を実施し,AIの活用状況と職場の人材育成や組織的な支援との関係について分析を進めています。重要なのは,個人がAIを利用することだけでなく,それを仕事の改善や組織の成果にどう結びつけるかという点です。私は長年、IT活用からDX、AIへと続くデジタル技術の変化を研究してきました。生成AIがこれまでの技術と異なる点の一つは、専門家ではない社員でも、さまざまな知的業務に活用しやすくなったことです。ただし、個人が利用できることと、組織として成果につなげることは別の問題です。 

これまでは,データサイエンティストやデータアナリストなどの専門人材をいかに確保・育成するかが大きな課題でした。現在はAIがデータ分析や情報処理の一部を支援できるようになり,専門人材に求められる役割も変化しつつあります。 

ただし,専門人材が不要になるわけではありません。むしろ,AIを活用しながら,分析の妥当性を評価し,複雑な課題を解決できる高度な専門人材は引き続き重要です。同時に,専門家ではない社員や経営者にも,AI・デジタル技術を理解し,業務や経営判断に活用する能力が求められるようになっています。 

「企業内大学」の運営トップの方々と議論していても、このことは話題になります。「社員が研修や企業内大学の教育を受けるより、AIに任せればよいのではないか」という意見も出てきます。しかし、AIが学習を支援できるようになっても、社員自身が課題を捉え、AIの出力を評価し、実際の仕事に生かす能力を育てることは引き続き必要です。 

AIが高度化しても,経営上の判断や意思決定に対する責任は人間が負う必要があります。AIに何を任せるのか,出力をどう評価するのか,その結果をどのような行動や意思決定につなげるのか。こうした能力は、経営者や管理職だけでなく、幅広い社員に求められるようになると考えています。 

こうした技術環境の変化は,企業内大学のあり方にも影響します。企業内大学が単に研修を提供するだけでは,十分な価値を発揮できません。AI・デジタルを活用した学習の高度化に加えて,学んだ能力を職場で実践し,経営課題の解決や組織能力の向上につなげることが重要です。 

また,人材育成を採用・配置・評価などの人材マネジメントと連携させることで,個人の成長を組織全体の成果につなげていく必要があります。企業内大学は,その重要な基盤の一つになると考えています。 

私は著書でも「戦略的人材成長」という視点を重視しています。AIも社員の学びや成長を支える手段として位置づけ、採用・育成・配置などの人材マネジメントと一体的に考える必要があります。 

これからは,一部の専門人材だけでなく,すべての社員が業務に必要なAI・デジタルリテラシーを身につけることが重要です。ただし,全員が高度な専門家になる必要はありません。専門人材には高度な技術的能力が求められる一方,経営者や管理職,一般社員には,それぞれの役割に応じてAI・デジタル技術を使いこなし,判断や業務改善に生かす能力が求められます。意思決定のレベルアップにAIを使いこなせるか、その能力を持っているかが問われています。これは経営リーダーだけでなく、私たち全員が程度の差こそあれ求められていることです。大学院や学部の学生にも、私はそう考えて教育を行っています。 

02データサイエンスと経営をつなぐ人材を育てる 

文部科学省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」(大学等が数理・データサイエンス・AI教育に取組むことを後押しする制度)の考え方と、大嶋先生のお考えは方向性が一致しているように思います。全員がまずベーシックなリテラシーを持つ。全員がエキスパートを目指すわけではないが、一部は応用レベルまで学ぶ、という流れが時代の方向性なのでしょうか。 

おっしゃるとおりの方向性になっています。ただ、決定的に足りないものがあります。これが、私が本学のデータサイエンス経営学部に着任した理由につながります。

文部科学省は数理・データサイエンスの分野で、全員のリテラシーを高め、さらに将来エキスパートになる土台が欲しい人にはその土台も提供する、という取り組みをしています。データサイエンスに関する知識や技術を身につけることは重要ですが,それを企業の経営課題の解決や意思決定,価値創造へと結びつける教育も欠かせません。データサイエンスと経営学をそれぞれ独立して学ぶだけでなく,両者を統合的に活用する能力を育てることが重要だと考えています。

ご存じのとおり、今、日本の多くの大学でデータサイエンス学部・学科、あるいはそれに類する名前の組織が増えています。そうした中で、宇都宮大学データサイエンス経営学部は、国立大学の中でも先駆的に、データサイエンスと経営学の融合を学部の基本理念に掲げて設立された点に特徴があります。データを分析する能力と,その結果を経営判断や価値創造につなげる能力を,一体的に育成することを目指しています。本学のデータサイエンス経営学部は2024年に設立され、私もその際に着任しました。

データサイエンスの専門知識だけで経営上の成果を生み出すことは容易ではありません。分析結果を経営課題の解決につなげるには,事業や組織への理解,適切な課題設定,意思決定などの能力も必要です。データサイエンスを経営的な視点でどう生かすのか。私自身、シンクタンクにいた頃は、ITの専門会社に外注し、それをうまくまとめて成果につなげる仕事をしていました。

つまり、経営とデータサイエンスの双方を理解し、専門家とも協働しながら、分析結果を経営判断や事業の改善につなげられる人材が必要です。こうした能力を育てるためには、データサイエンスと経営学を統合的に学ぶことが重要だと考えています。

私は2021年に『デジタル経営学入門:IT経営,eビジネス,マーケティング編』(学文社)という本を書きました。当時は「データサイエンス」という言葉は使っていませんでしたが、経営のあらゆる活動でデジタルやデータが発生し、関わってくるので、それをより重視し、戦略的に活用する思考を持つべきだ、というのが私の主張でした。

  • 今は「データサイエンス経営」という言葉も広がっていますが、「データサイエンス」という響きだけだと、ビッグデータを収集・分析する定量的な視点だけで議論してしまうきらいがあります。私が提唱してきた「デジタル経営学」は,データの分析・活用にとどまらず,デジタル技術を経営戦略,業務改革,マーケティング,価値創造などにどう結びつけるかを広く捉える視点です。データサイエンスと経営学を結びつける取り組みとも,共通する問題意識を持っています。 
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  • 先生が以前から取り組まれてきた「デジタル経営学」と、宇都宮大学の教育や地域連携の取り組みは、どのようにつながっているのでしょうか。 

    私が以前から取り組んできた「デジタル経営学」の問題意識と、データサイエンスと経営学の融合を目指す本学部の教育理念には、共通する部分が多いと考えています。重要なのは、データやデジタル技術を学ぶだけでなく、それを経営課題の解決や価値創造にどう生かすかということです。 

    また、宇都宮大学では「シンクタンク地域経営」(Think Tank for Regional Management)を立ち上げ、地域の産官学連携を深める取り組みを進めています。地域でもデータサイエンスへの関心は高まっていますが、その知見を実際の経営や事業にどう生かすかが重要な課題です。そこで、学術的な助言や共同研究などを通じて、地域企業や自治体の課題解決を支援していきたいと考えています。 

  • 栃木県のデジタル関連イベントでの基調講演 

03地域に根差し、現場を肌で感じながら信頼関係を築く 

大嶋先生は、東北でも宇都宮でも、地域に身を置きながら産官学連携に取り組んでこられました。その背景にはどのようなお考えがあるのでしょうか。 


地域の課題を理解するには、現場に足を運び、そこで何が起きているのかを肌で感じることが重要だと考えています。私自身、東北でも宇都宮でも、地域での生活を通じて、日々の変化や人々の思いを感じ取ることを大切にしてきました。 

また、行政や企業の方々との交流を重ね、継続的な信頼関係を築くことも重要です。学生と取り組むPBL(課題解決型学習)や産官学連携プロジェクトでも、実際の地域課題を題材にし、自治体や企業の方々と一緒に考える機会を設けています。こうした現場との関わりを、研究や教育、地域への貢献につなげていきたいと考えています。 

04AIありきではなく、経営課題から活用を考える4つの実践 

データサイエンスを経営的な視点に生かすという話をいただきましたが、そのような視点をどうしたら身につけられるのか、またどう生かしていけばよいのか。読者である経営者や人事責任者へのメッセージをいただけますか。 

ちょうど2026年8月に開催された,栃木県のデジタル関連プラットフォームのキックオフイベントでも,同様の問いかけをいただきました。そこでお伝えしたのは、デジタルありきで考えても、なかなかよい結果は生まないということです。デジタル人材の育成やAI研修だけに投資して、あとは何とかなるだろうというのでは、データサイエンスを学んでも経営にどう生かすかが欠落しているわけですから、成果が出ないのは当然です。 

そこで、経営者の方には次の4点をお勧めします。 

 1.経営者自身が関心を持ち続け、風土を作ること
 AIで何ができて何ができないのかを、普段からウォッチする。研修の機会だけでなく,経営者自身も日常的にAIを試し,その可能性と限界を理解することが重要です。他の経営者や地域の大学教員、社内でそれが得意な社員など、意見交換できる相手を活用する。そして、新しく何ができるのかという好奇心を持つことが当たり前になる企業風土を、自分も含めて作ることです。人材育成と同じで、トップが関心を持ち、後押しすれば、周りはやりやすくなります。ただし、データサイエンティストの試験を受ける必要はないと思います。

 2.事業課題の洗い出しから始めること 
 最近は「情報通信白書」(総務省)などの白書にも企業事例が出ていますが、さまざまな部署から数人ずつ選抜し、検討させます。その際、AI研修や検定を受けさせるより、まず自社の課題を洗い出すことが大切です。たとえば営業部門に課題が10個あり、そのうちAIで解決できそうなものが3つ、そのやり方は何か。研究開発部門はどうか、人事部門はどうか、といった具合です。ビジネスの中身が分かっている人を必ず入れてください。ITが好きな人だけでは不十分です。 

 3.小さく試して検証し、組織に適用すること 
経営トップが「AIを使うのは当たり前」「失敗してもきちんと検証すればよい」という雰囲気を作ります。いきなり大きな投資をするのではなく、小さく試してPDCAを繰り返し、検証した上で組織に適用します。その際、企業内大学という仕組みがあれば、特定の人の手柄にせず、企業内大学の枠組みで共有する文化やルールがあるため、横展開もしやすくなります。 

こうしたことをきちんと描いて組織に浸透させることが、大企業はもちろん、参謀役のいない中堅中小企業では、経営トップの責任と役割がより大きくなります。まずここから取り組んでいただきたいです。 

 4.越境の機会を自ら作る 
もう一つ重要なのは,企業経営者や社員が,日常の業務や従来の人間関係を越えて,多様な人材や知識に触れる機会をつくることです。 

たとえば,大学や研究機関,異業種の企業,地域の専門家などと交流することで,自社の中だけでは得られない新しい視点や発想に出会うことができます。特に中堅・中小企業では,社内で得られる情報や専門知識に限界がある場合もありますので,こうした外部との交流や協働が重要です。 

私自身も,宇都宮大学の「シンクタンク地域経営」などを通じて,企業や行政と大学が連携し,経営課題の解決や新しい価値創造につなげる取り組みを進めています。企業経営者の皆様にも,大学を含む外部の知的資源を積極的に活用し,越境的な学びや共創の機会をつくっていただきたいと思います。 

最後に,人材育成全般について申し上げれば,「何を学ばせるか」から考えるのではなく,「自社は何を実現したいのか,そのためにどのような人材が必要なのか」から考えることが重要です。経営戦略と人材育成を結びつけ,学んだことを職場で実践し,組織全体の能力向上へとつなげていく。そうした仕組みを経営者自身が継続的に支えることが,企業の持続的な成長につながると考えています。 

読者の皆さんには、この4点をぜひ実践していただきたいですね。大嶋先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

  【編集後記】
今回のインタビューで印象に残ったのは、大嶋氏がAIやデータサイエンスを語りながら、決して「デジタルありき」にならないことである。むしろ一貫して語られていたのは、人が何を考え、どう判断し、どのような組織をつくるのかという経営の本質だった。「次世代経営リーダー」の育成も「企業内大学」も、越境学習も、単体の研修や制度として捉えるのではなく、企業の戦略、人材、配置、挑戦の機会などをつなぐ仕組みとして考える。その発想は、生成AIの急速な普及によって、いっそう重要になっている。AIが専門的な作業の一部を担えるようになるほど、人間にはAIを何に使うのか、出力をどう読み、次の一手をどう決めるのかという判断が求められるからだ。さらに興味深かったのは,政策形成支援,企業コンサルティング,国際協力,大学での研究と教育など,多様な経験を一貫した問題意識のもとに結びつけている点である。異なる分野の知見を組み合わせ,実務で生じた課題を学術的に捉え直し,その成果を再び実践へ還元するという姿勢も印象的だった。この「越境」という考え方は、AI時代の人材育成を考えるうえでも大きな示唆を与えてくれる。 

大嶋 淳俊 氏

宇都宮大学

データサイエンス経営学部

大学院地域創生科学研究科

教授 

 

博士(人間科学)。大手総合シンクタンクで,政府の政策形成支援や民間企業のコンサルティングなどに従事。APEC(アジア太平洋経済協力)の経営人材育成分野の事務局への出向も経験。その後,東日本大震災からの復興支援への貢献を目指して福島・宮城の大学で計8年間教授を務め,産官学連携や地域活性化に取り組む。 

現在は宇都宮大学データサイエンス経営学部・大学院地域創生科学研究科教授。次世代経営リーダー育成,企業内大学,デジタル経営などを研究。主な著書に『次世代経営リーダー育成』『企業内大学』『デジタル経営学入門』,英文学術書『The Evolution and Challenges of Corporate Universities in Japan』など。国内外で経営リーダー育成や産官学連携にも取り組んでいる。現在はリーダーシップ開発に関する新たな英文学術書を執筆中。

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