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関西学院大学商学部教授濵村氏のインタビュー/管理会計は意外と面白い(後編)

作成者: JOB Scope編集部|2026/01/16

多くの経営者は、「会計は苦手だ。好きになれない」と発言しがちだ。中には、「財務責任者や税理士の先生に丸投げ」とまで言い出す方も珍しくない。特に、管理会計となると尚更だ。「それは経営にどう役立つのか」と疑問を投げかけられてしまう。そんな状況を少しでも打破できないかと、経営者を含め一般大衆に管理会計を布教するために著書を書き上げた大学教授がいる。関西学院大学商学部教授の濵村 純平氏だ。経営に悩んだときに、「そういえば、管理会計ってのがあったな」と思い出してもらうきっかけになってくれれば嬉しいと語っている。実際、管理会計の面白さはどこにあるのかを聞いた。インタビューの後編では、2025年に出版された著書2冊の執筆意図や経営者へのメッセージなどを語ってもらった。 

01評価のメカニズムを理解してもらうために新書を執筆 

次に、2025年11月に出版された『評価と報酬の経営学 アイツの査定は高すぎる?(光文社新書)についてです。こちらは、Amazonでも大人気ですね

ありがとうございます。ただ、私自身管理会計の内容で書いているので人事の本だと思って読んだは、「何これ」と思うでしょうね。 

濵村先生、ズバリ言ってヒットの要因は何だとお考えですか。

タイトルが良かったのでしょうね。これ、正直言って手に取りやすいタイトルだと思います。あまり絞られてないタイトルですからね恐らくビジネスパーソンであれば、この辺の話気にならない人少ないと思います。そういう意味でも手に取りやすいタイトルであったということです。「今日何か会社で嫌なことあったなあ。これでも読んであいつの変なところを見つけてやるかみたいな気持ちで買ってる人もいるのではないでしょうか。

タイトルは濵村先生がお考えになられたですか

え、これは光文社の編集長と編集者の方に案を作っていただくようお願いしました。ただ、最後ちらかを選んでくださいと言われたときに挙がっていたのが、『評価と報酬の経営学』と『評価と報酬の会計学』でしたそれで、経営学を選んだのです。会計学は売れません。会計アレルギーの方多いですからね 

光文社は、『竿竹屋はなぜ潰れないのか?身近な疑問からはじめる会計学』をベストセラー化した出版社ですから、タイトルに会計学という言葉が入っても、売る自信はお持ちであったかのかもしれません。そもそもですが、この本はどういう問題意識から執筆をお考えになられたですか

私自身にいただいたオーダー自体は、「評価に対して不満を抱えている人が多いので、そういう人たちの留飲を下げるような内容を書いてください」ということでした。特に私自身が、役員経営者をメインに研究してきたので、『「なぜあれほどもらうのか」と思っている人が結構多いはずだから、それを何とか納得させるような内容を書いてくれ』とのオーダーでした。その前提があったので、評価のメカニズムそのものを書いてやれば、まあ多少は「今こんな風になっているのか。ならば仕方ないか」と捉えてもらえるのではと思いました。なので、私のメインの研究テーマの一つである業績評価をベースに書こうというような形になっています。だから、どちらかというとテキスト的な紹介みたいなのが多い書籍になっていて、これを読んで今の人事制度を変えようと思っている人事部の人たちや、そういう回答が欲しい人にはもしかすると向かないと個人的には思っています。 

なので、どちらかというと評価される側や何かしら不満を持っている人たちに読んでもらって、「そういう仕組みになっているのか」と知ってもらえればという意図です。その結果、管理会計が意外と面白いと思ってもらえればいいなと思いました。

今語っていただいた内容が、濵村先生ご自身として読者に最もアピールをされたかったポイントと捉えて良いですか。

そうですね。私自身、あまり言い方が良くないかもしれませんが、多分そういう売り方にすると売れないんですよ。だから、あまり私自身、そういう感じのことは前面には言わない、書かないようにぐっと堪えていました。それが何となく伝わってくれたらと思っています。 

やはり、物事が起こっているメカニズムを最新の研究エビデンスみたいなところから捉えると、色々考える要素があります。「こういう点にフォーカスすると、こういうことが言えるよね」と一つひとつ分解して議論することがあっても良いと思います。そういう知識があれば、組織も上手く作れるのではないのかと思っているので、わざわざ皆さんが知っていそうなことに関してもしっかりと書いて、名前をつけたりとかしてということをやっています。考える道具の一つとして使ってほしいというのは、私自身の考えているところです。 

02日米の経営者報酬は今後も開きが縮まらない 

ちなみに、第一章が「経営者を評価する」という見出しになっています。日本の経営者の報酬は、今後米国の経営者報酬に近づいていくのか、日本はやはり日本独自の価値観や考え方があるのでそうはならないのでしょうか。もちろん、ビジネスのスケール感も全然違うので開きがあるのは、今後も変わらないという格好になるのでしょうか。

私自身は、研究者として予測的なことは言わないようにしています。あくまでも、今考え得る範囲に留めるようにしています。恐らく、多少は近づくけれど米国並みにはならないと考えています。 

その理由は幾つかあります。まず一つ目は、日本は経営者自体の労働市場自体がかなり小さいことです。基本的には、内部昇進で役員になる人が多いと言えます。特に大きい企業はそうです。報酬が大きい人というのも大きい企業、単純に利益が大きくなれば、自分でもらえるお金も大きくなるので、それだけもらえるお金も増えるので大きい企業の方がもらいやすいです。 

その中で考えると、経営者の労働市場が小さいということ自体が、報酬を上げることが難しい要因になると考えています。その理由としては、外部機会と我々は呼んでいるのですが、ほかの選択肢がなく引き抜きみたいなのがなかなか起きません。引き抜きが起きないということは、他社と報酬水準を比較して高くするインセンティブが弱くなります。そうすると報酬自体をそこまで上げるインセンティブがないのです。もちろん、最近日本の労働市場自体は昔に比べて相対的に開かれて来てはいます。ただ、これが米国ぐらいまでになるというのは、なかなか難しいと捉えています。 

もう一つは、「そんなにももらっているなんてズルいと思われてしまうことです。出る杭は打たれるという内容を著書の中で書いていますが、実際にはなかなか報酬を上げにくいです。日産自動車のCEOであったカルロス・ゴーンが、かなり高額な経営者報酬をもらっていたときに相当叩かれました。そういうところもあって上げにくいです。 

もし、上げる可能性があるとすれば、従業員の給料を上げた上で経営者報酬も上げるみたいな感じでしょう。その両者のペイ・ギャップですね。いわゆる報酬格差。これを一定に保つように報酬を上げるという方策しか恐らくないと思います。 

雇用の形態自体がそもそも違うので、プロフェッショナル的な育ち方を日本企業ではあまりしないという特徴があります。そこの能力というか、持っているスキルに対するプレミアムみたいなものをあまり払わないという形に基本的にはなるので、そこが米国との恐らく大きな差となります。人事制度や、そういう雇用制度そのものが最近も当然変わって来てはいますが、米国ほどには多分ならないと思います。履歴書を常に持ち歩いているみたいな状態には、恐らく日本企業はなかなかならないと思うので、米国ほどの水準にいくことは今のところ考えづらい気がします。 

03中小企業では経営者保証のリスクヘッジを考慮するケースもある

それからもう一点です。中小企業の経営者報酬に関する先生の見解をお聞かせください。

中小企業の場合は、恐らく企業の規模感によって決め方が全く違います。今ルールがどうなっているか詳しくはわかりませんが、経営者保証(金融機関から融資を受ける際に経営者個人が会社の連帯保証人になること)みたいな感じのことがあったりします。どうしても責任自体、最終的に自分が会社に対して請求できる責任自体もかなり少ないとなると、そのリスクに対する保証として報酬を多くもらうこと自体は、私は悪くないと思っています。 

ただ、やはり中小企業は大企業と比べて従業員との距離がどうしても近くなりがちです。近くなる分、相対的に従業員との開きを大きくするのも難しくなります。実際に著書の中でも紹介していますが、例えば部長クラスというか、ミドルマネージャークラスの何倍になるのかみたいな感じの報酬の決め方をしている企業もありますし、経営者保証というところを見据えて、貯金という形で事前に報酬を多くもらっておく、貯めておくみたいなことをしている経営者もいます。 

なので、私自身はかなりリスクを負っていると判断しており、その分上がってしまうのは仕方ないですし、それを上手く調整というか、従業員にしっかりと理解してもらった上で、報酬をある程度もらうというのが、個人的には正当化できるのではないかと思っています。今言った理由は、リスクに対する保証というところになるわけです。大企業の場合は、保証に関しての保険や固定報酬があったりするので、ある程度生活自体を保障されることになります。しかし、中小企業の場合は必ずしもそうではなかったりするわけです。 

特にかなり小さい企業の場合、面白い事例研究を聞いたことがあります。大阪の会社のケースです。経営が難しくなってきた会社の経営者は、まず何をすると思いますか。まず離婚するんですよ。身内に責任を負わせないためという理由があるわけです。会社の経営が傾いてきたときにそういうことをしますが、そのための生活はさすがに保証された方が良いと思うので、そのための何かしら、貯金ではないですけれど、事前にそれをプールしておく分の保証はもらっておいても良いと思います。 

大企業の場合は、ある程度任期が決まっていて先が見えているので良いのですが、中小企業の場合は必ずしも1期5年とかで終わるわけではないですからね。その先も見据えた上で報酬を設計しておかないといけないです。任期が長くなれば長くなるほど、当然ながら晒されるリスクも多くなりますからね。そういった意味では、将来のリスクをしっかりと見据えた上での報酬設計はすごく大事だと個人的には思っています。

評価と報酬の経営学 アイツの査定は高すぎる?』を拝見して気づいたことがありました。本文中で、さまざまな大学の先生が「んな研究をされている」「こういうコメントを述べている」と書いておられます。あとがきでも、多数の大学の先生方に「執筆に関するコメントをいただき感謝申し上げます」と書かれています。なかなか丁寧だなと思ったのですが、れは共同研究を中心にされてらっしゃるがゆえなのですか。

いやあ、研究仲間というか飲み友達が多いというのが事実です。自分自身、色々なことに興味を持ちがちですし、面白いと思うとさまざまな研究会や学会に顔を出して、人と交流をしています。実際、私自身メインが理論の研究者です。今回の謝辞の中には理論の研究者は全然入っていないと思います。むしろ、実務家の方が何人か入っています。例えば、P&Gジャパンの鈴木康嗣先生や川崎重工業の北林孝顕先生、京阪ホールディングスの福島誠宣先生です。それらの方々は、神戸大 MBA やゼミでお会いした方々です。 

他の大学の方の中には、共同研究者も当然ながら沢山含まれています。例えば、早稲田大学で開催しているセミナーに参加させていただいて、そこで交流させてもらっている先生たくさんもいますし、一橋大学の藤谷涼佑先生(一橋大学経営管理研究科講師)とは、今一緒に研究をしていますが、もともとはある研究会でお会いしたのがご縁です。本当に色々なところで色々な人と研究の話をして、「これどう思われますか」みたいな感じのことを聞いたりしているというのが多いです。

04原価計算基準を解釈するためのテキストも執筆 

わかりました。2025年にもう一冊著書が出版されました。『レクチャー原価計算論』(中央経済社)です。こちらはどういう意図で執筆されたのですか。

これは、うちの大学の授業で使おうと思いました。基本的には学生とのコミュニケーションをベースに内容を決めています。一応裏話をしておくと、「今まで使っていたテキストの在庫が切れます。どうしますか」という問い合わせが出版社から入り、「では書きます」ということで書きました。 

ポイントは二つあります。僕自身、原価計算のテキストを色々と見て来た中で、個人的に計算過程が結構省略されていることに気づきました。そこで、今回意識したのが、そういう細かいところを省略しないというところでした。それがまず一つです。もう一つは、この本の特徴になっているのが原価計算基準(原価計算に関する実践規範)です。言うなれば、原価計算のやり方のルールです。その原価計算基準をベースに議論しています。当然、私が在籍する大学でも公認会計士試験受験者が多くて、例えば他大学のアカウンティングスクールとかにも行っています。そういった学生から話を聞くと、基準を読んで解釈する授業があったりすると言います。それが、原価計算と分かれていたのです。ならば、「まとめてしまった方が良いのでは」と思いました。なので、どちらかというと公認会計士試験を一つ念頭には置いているのですが、簿記の2級や1級クラスの原価計算で出てくる内容の中で、特に学生から多く質問があったような箇所、計算でつまずきやすいところ、「これはどういう構造になっているかわからないです」という点をなるべく説明するように心がけました。 

だから、単なるトピックを沢山紹介するというよりは、一つひとつをできるだけ丁寧に説明することを意図しています。なので、簿記2級クラスで良いのであれば、ここは読み飛ばしても良いみたいなところも作っていたりしています。 

現在のテキストに何かプラスできるものがあればというふうに思い書いているという形です。

05管理会計が役立つと少しでも思ってもらえれば嬉しい


『レクチャー原価計算論』は、原価計算基準をベースに実務を意識して原価の計算構造を理解できるよう解説された本だと理解しました。最後の質問です。中小・中堅企業の経営者、人事責任者、財務責任者の方にメッセージをいただけますでしょうか。

小さい企業だと、管理会計システムがあまり入っていなかったりします。実はエビデンスとしてスタートアップでの話ですが、管理会計システムが入っている企業と入っていない企業では結構差があります。忙しいとかイケイケだと、そんな管理がなくても上手くいくような状態だと思うのですが、意外と管理会計システム、要は会社の中の数字管理をすること、会計のシステムを回すことは、組織を上手く回す上では実は役に立つ可能性があります。 

ある程度成熟した企業に関しても、恐らく事業が上手くいって、「次はどうするか」みたいなことを考えている状況の会社の方もいると思います。そういった企業でも、責任を誰かに委譲したり、権限を委譲したりとか、「新たにこういうことをやってみようか」みたいなことを考えたりするはずです。そのときの成功や失敗の判断、その組織が大きくなったとき、どうやって組織を回していくのかを考えると、そういう見えないところを上手く数字を使って管理するシステムは意外と便利だと言えます。 

なので、「何を入れるか」「どうやってやるか」というのを、恐らく組織の形に合わせてやる必要があるとは思いますが、管理会計というものがあるということを頭に入れておいてもらい、その中に業績評価や組織の中を上手く動かすための仕組みがあって、それが結構研究として議論されているということを知っていただければと思います。 

とりあえず知っておいてもらえれば、どこかしらで検索したり、テキストを開くきっかけになると思います。私は、「それで十分だ」と思っています。なので、『評価と報酬の経営学』でもあまり数字を使わないように気をつけました。 

―濵村先生は著書の末尾で、「経営学において管理会計は絶対に主役になれない」と書いておられます。経営者の中には「管理会計が苦手だから毛嫌いしてしまう、遠ざける」という方が多かったりします。こちらの本が、「管理会計は意外と面白そうだ」と興味を持つきっかけになるのではないかと思いました。濵村先生、難しくなりがちなテーマをわかりやすく、そして楽しく語っていただき感謝いたします。今後のご活躍も期待しております。ありがとうございました。

濵村 純平

関西学院大学

商学部 教授   

2017年3月に神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程にて博士(経営学)を取得。2017年4月より桃山学院大学経営学部講師、2020年10月より同大学経営学部准教授、2024年4月より関西学院大学商学部准教授、2025年4月より現職。現在龍谷大学農学部非常勤講師近畿大学経営学部非常勤講師関西大学会計研究科(会計専門職大学院)非常勤講師桃山学院大学経営学部非常勤講師も兼務。管理会計業績評価経営者報酬コスト・ビヘイビア流通チャネルなどを研究テーマとする。著書に『寡占競争企業の管理会計-戦略的振替価格と多元的業績評価のモデル分析-』『レクチャー原価計算論』(いずれも、中央経済社経営者報酬の理論と実証』(共著、中央経済社などがある。

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