「人手が足りない」「資金の確保に悩む」「相談相手がいない」…、中小企業の経営者はさまざまなストレスを抱えている。特に若い経営者ほど、その傾向が顕著だ。しかし、中小企業は我々の生活を支える重要な役割を担っているだけに、その経営者には大いなる働きがいをもってもらい、これからも事業をけん引してほしいと誰もが願っている。そうした中小企業の経営体制の変化を専門に研究しているのが、東洋大学の山本 聡教授だ。アントレプレナーシップ研究でも知られている。その山本教授に、インタビューの後編ではドイツと日本の中小企業の違いや海外進出に向けた留意点などを聞いた。
日本の中小企業は、QCD(品質/Quality・コスト/Cost)・納期/Delivery)のうち、CとDになりやすいです。つまり、Qが顧客から評価されづらく、コストと納期で勝負をしがちです。それに対して、ドイツにはQが評価されやすい素地があります、
その背景には、ドイツならではの人材育成法があります。ドイツの企業は工学的なものづくりを志向します。大学との産学連携も積極的に実施する傾向があります。またドイツ製品が日本製品に比べて世界的に見ても大きなブランドになっているので付加価値をつけやすいということも指摘できます。ドイツのブランド戦略が優れているということです。
そうですね。ヨーロッパと同じように国としてのブランドを構築するのは、すごく難しい話になってきます。ただ、ブランドをいかに構築するかは、とても重要なテーマです。日本のものづくりは、どうしてもいかに安く、そして早く作るかに重きを置きがちです。そうではなくて、価格が高くて、かつ時間を掛けてじっくりと作っても売れるものを考えていく必要があります。
特にないと思います。まずは、海外輸出をするのか、それとも海外に生産拠点を作るのかどちらかです。海外輸出をするのであれば、部品なのか最終製品なのか、この二点によって違って来ます。部品の輸出はかなり難しい部分があります。
一つは、自分たちの特有の製品を輸出することを考えることです。なので、中小企業の海外展開は脱下請けみたいな文脈で考えることもできます。つまり、自分たちのオリジナル製品を輸出するわけです。
ただ、中小企業は人が少ないので、海外輸出、あるいは海外生産拠点の構築、この二つのどちらであっても、自治体や産業支援機関、あるいは顧客、海外パートナーなどとの関係性をきっちり構築して展開することが重要になってきます。
例えば、海外に生産拠点を構築するといっても、それこそ現地の法律対応や現地での人材獲得などさまざまな課題があります。それらを一つの企業で解決していくのは、なかなか難しいものです。大企業以上に外部の協力を大切にしていかないといけないでしょう。
それと、これもぜひ強調しておきたいのですが、そもそも自分たちが本当に海外展開や海外に輸出をする必要があるかどうかもしっかりと考えた方が良いです。トラブルが多く、さらに、人材もそこに取られてしまいます。
中小企業は小さいがゆえに、国内市場の中で生きていく方法がたくさんあるわけです。まずは自分たちが現状維持したいのか、それとも成長したいのかということを踏まえて、さらに成長の方法として海外輸出をするのか、あるいは海外生産拠点や海外販売子会社を構築するのかを考えて、本当に自分たちにとって必要であるなら、その選択をしていくと考える方が良いと思います。
世間には、上手くいかなくて海外から撤退しましたという例が沢山あります。自分たちがどういう成長ビジョンを考えられているのか、そこに海外輸出なり、海外生産拠点の構築みたいなものが必要か否か、必要だとしたらどのようにやっていくのかを考えれば良いのです。
2016年の数字ですが、日本の全就業者に占める中小企業の就業者の割合は68.8%です。日本人の7割近くが中小企業で働いているわけです。雇用という側面では、大企業はごく一部の存在です。なので、中小企業イコール社会と言えるのです。。日本の社会にとってもそうですし、地域にとっても、あるいは産業にとっても中小企業は非常に大きな存在感を示しているわけです。
中小企業もさまざまです。自営業もあれば、大きな工場で、ものづくりをしている会社もあります。地場産品を作っていたり、国内最先端の部品や製品を作る企業もあります。極めて多様性に富んでいます。そういった中で、7割の日本人がその多様な中小企業に勤めて日々の生活を営んでいるということになります。
中小企業は我々の生活の糧を得る場でもあるし、我々自身の自己実現を果たす場でもあるし、あるいは地域にとっての優良なステークホルダー、地域を支える人たちでもあります。そうした中小企業が元気であれば、我々の社会、我々の地域、我々の生活がより良いものになるし、もし元気がなかったりすると我々の生活も社会も産業も地域もよろしい方向に行かなくなります。
日本の人口や経済規模が段々縮小していく中で、中小企業の倒産や廃業が増えています。言い換えれば、日本の国力の縮小と中小企業の縮小が同時並行的に進んでしまっています。なので、歩みを同じにしていることを社会の鏡と表現しました。
中小企業が落ち込んでしまうと日本社会も落ち込んでしまいます。だから、起業などもどんどん促進していく必要があります。
日本社会と日本企業の最大の目的が雇用の維持だったというのが一つの理由でしょう。特に大企業は従業員を簡単に解雇できません。また、退職にはネガティブなイメージがつきまとっていました。その結果、企業にずっとしがみつくしかないような現象が起きてしまい、ストレスや理不尽ないじめのような歪みが発生してしまうわけです。
嫌なことがあっても多くのケースでは、「その会社で働き続ける」みたいな選択をしてしまいます。そうなると、社会全体からイノベーションが失われていくのは明白です。よりイノベーティブな社会にするか、あるいはより安定した社会を維持するか。イノベーションと安定が相克してしまっているのです。例えば、米国はイノベーションが起きやすい土壌がありますが、その一方で社会不安も大きくなっていると思います。
ただ、安定ばかりを追い求めていくだけでは、日本が没落してしまいます。かつて日本は人口ボリュームも大きく、日本経済も右肩上がりを続けていました。、そこでは社会の安定を取るという選択肢もあったのかもしれません。けれども、今の日本はそんな状況ではないのです。
終身雇用が維持される、人口が増加することを前提とした日本ではありません。限られた人材により効率的に活躍して頂いて、より先端的な付加価値を生み出していく方向にいくべきと思っています。
ただ、その一方でセーフティーネットも必要になってきます。日本人は会社を辞める、あるいは転職する、そういうことをに負の印象を感じる方がいまだ少なくありません。
なので、市場競争による弱肉強食の世界にするのではなくて、解雇規制を緩和しながらも同時にセーフティーネットによって、より円滑に仕事を移動できるようにしたり、会社を辞めるのは悪いことであるという価値観をなくしていった方が良いと思います。
可能性はあるのではないでしょうか?。今のところは、色々なものを便利に検索するツール、あるいは文章やプログラム、画像を作成してくれるツールで、だ業務の効率化の一部を担っているくらいではないかと思います。
ただ、今後5年、10年のうちには、我々が想像もしてなかったようなAIの活用法が出て来る気がします。インターネットも当初はやや便利な情報検索ツールだったのが、もの凄いスピードで広がっていき、世界を一変させましたよね。AIはもっと世界を大きく変えると思います。それがどういう形になるのか、私にはわかりません。ただ、誰も想像していなかったような社会をAIが実現していくと信じています。
中小企業は日本の社会や経済、産業、地域を支えている存在です。それだけに、中小企業振興がとても重要です。今後、日本経済が相対的に縮小していく中で中小企業がどれぐらいイノベーティブになれるかが問われています。日本は、恐らく世界的に見ても最も中小企業政策や中小企業支援が充実している国の一つです。なので、そういった政策を上手く活用していただきたいですし、単に受身ではなくて、中小企業、あるいは中小企業の経営者が能動的にアントレプレナーシップを発揮し、どんどんリスクテイクをしていただきたいです。
山本 聡氏
東洋大学 経営学部
経営学科 教授
機械振興協会経済研究所、東京経済大学経営学部を経て、2019年4月より東洋大学経営学部教授(担当:中小企業経営論)。金型や部品加工など素形材産業を主な対象としながら、国内・海外の中小企業の経営体制の変化を解明することを研究テーマとしている。学術論文や書籍だけでなく、企業経営者や技術者向けに産業・企業動向に関する多数のレポートを寄稿する一方、国内外でさまざまなセミナー講師も務めている。