JOB Scope マガジン - インタビュー記事

東京女子大学現代教養学部心理学科准教授正木郁太郎氏 / 社会心理学が解き明かす強い組織のつくり方――ダイバーシティ時代に求められる「感謝」と「称賛」の実践知(前編)

作成者: JOB Scope編集部|2026/07/31

ダイバーシティ推進や人的資本経営、心理的安全性、エンゲージメント向上――。企業には多様な組織課題への対応が求められている。しかし、制度や仕組みを整えるだけでは組織は変わらない。組織を動かすのは人であり、人と人との信頼関係である。本インタビューでは、社会心理学を専門とする東京女子大学准教授・正木郁太郎氏に、集団心理やダイバーシティ研究の知見を基に、現代の組織が抱える課題とその解決策を聞いた。管理職のマネジメント、感謝と称賛の実践、企業文化の醸成、中小企業における組織力強化まで、学術研究と企業実践を結び付けながら、組織を強くするための具体的なヒントを探る。前編では、正木氏の専門分野や組織のダイバーシティ研究に取り組んだきっかけなどを聞いた。

 

【こんな方に、ぜひ読んでいただきたい】 
① 人的資本経営やダイバーシティ推進、エンゲージメント向上を担い、組織文化の醸成やマネジメント改革に具体的なヒントを求めている人事・組織開発担当者
② 価値観が多様化する時代に組織をどうまとめ、管理職をどう支援し、組織力やチームワークを高めるべきかを模索している経営層・管理職
③ 社会心理学や組織行動論の知見を実務へ応用し、ダイバーシティ推進や企業文化改革、コミュニケーション改善に携わる専門家・研究者 

【前編のエッセンス】 
本編では、社会心理学を専門とする正木郁太郎准教授が、組織における集団心理やダイバーシティ研究について語る。集団心理という言葉への学術的な違和感や、組織文化を「DNA」と表現することへの問題意識を示しながら、比喩に頼らず現象の本質を分析する重要性を説く。また、大学院時代から取り組むダイバーシティ研究では、 「多様性は善」という単純な発想ではなく、人間が本来持つ同質性への志向や対立の生じやすさを踏まえた現実的な視点が不可欠だと指摘。さらに、表層・深層ダイバーシティを整理し、自社にとって重要な多様性を定義し、具体的な施策へ落とし込むことこそ組織改革の第一歩になると提言している。

 

【前編のキーメッセージ】 
① 社会心理学は個人ではなく、人が集団となったときに生まれる心理や行動、組織文化やチームワークなど「集団だからこそ起きる現象」を解き明かす学問である。
② ダイバーシティ推進は多様性を増やせば成功するものではない。人間の本質や現場で起きる葛藤を踏まえ、利点と課題を丁寧に分析する姿勢が欠かせない。
③ 重要なのは一般論ではなく、自社にとって意味のある深層ダイバーシティを定義し、それを基に具体的な組織づくりやコミュニケーション改善につなげることである。

01社会心理学が解き明かす組織と集団の本質

正木先生のご専門分野を教えていただけますか。

専門は社会心理学です。いわゆる心理学というと、個人の心の仕組みやパーソナリティ、そういったものを扱っている研究のような印象を受ける人も多いかもしれません。しかし、社会心理学は心理学の中でも、特に頭に「社会」という言葉が付いている分、人が沢山いる時に起きる色々な心理と行動、あるいはその中で起きる色々な集合現象を扱います。それこそチームワークや組織文化も、人が集まって作るものなので、一通り研究分野になってきます。そのため、最も一般的な表現をすると、俗に言う「集団心理」に関する研究が社会心理学です、とよくお話をさせていただいています。

ただ、社会心理学者の中には、 「集団には実体が無いので、そこには心理はないのではないか。心理を持つのはそこに属する個人であり、その相互作用が集団心理『っぽいもの』を作るのではないか」という考えから、集団心理という言葉を避ける人もいます。そういう意味では、率先して「集団心理の研究です」とは言いにくいものの、それもひっくるめて「集団で起きる心理や行動の研究」と紹介することが多いです。

その中でも、特に私が一番専門分野にしているのが、組織の中で働く人の心、その集団心理をいろいろな観点で研究しています。

組織の中で働く人たちの集団心理に着目されているのですね。

もっと具体的なお話をすると、もともとは、いわゆる組織の文化や風土みたいなものに着目していました。それこそ、人が入れ替わっても、何だかよくわからない「その会社らしさ」が生き残り、続いたりします。そういう集団ならではの現象みたいなものに関心を持っていました。

ただ、その中で色々な会社とご縁があり、研究テーマも少しずつ変わる中で、大学院で取り組み始めたのがダイバーシティの研究でした。ダイバーシティが高い集団では、良いことも大変なことも色々起きます。具体的に何が起きるのか。色々な人同士の相互作用みたいなものに関心を持って研究していました。

その後は、コミュニケーションの方に特化して行ったり(感謝と称賛の研究)、オフィス環境や働き方の制度のような組織のハード面と、そこで働く人たちの心理や行動、チームワークといったいわばソフト面の関係を扱っていたりしました。その意味では、本当に色々なテーマに取り組んでいます。やはり、特定組織の中で働く人たちだからこそ生じる現象、集団だからこその現象を研究しています。

02「集団心理」という言葉への学術的な違和感

社会心理学の先生の中には、集団心理という概念や用語に抵抗を持たれる方もおられるのですか。その理由は何なのでしょうか。

歴史を遡ると話はわかりやすいので、よくその流れで紹介しています。集団に関する初期の研究でよく議論になっていたのが、 「集団になるとなぜ人は思いもよらない行動を取るのか」といった内容です。典型的な議論が、 「人が集まると集団がパニックを起こしやすい」ということでした。日本でも雑踏事故が度々起きますが、日本だけでなく海外でもよく起きます。このような集団の問題がなぜ起きるのか、そうしたことから研究がスタートしたと言われます。

これに対して、初期の議論では、集団にはそういうパニックを起こす性質がある。そういう話が当初されていましたようです。ただ、よくよく考えると、集団は実在しないものです。別に「集団さん」というものが存在するわけではなく、そこに DNA や魂があるわけでもないのです。

基本的には、魂があるのは人間であり、考えるのも人間です。なので、集団になった時にあたかも集団に魂があるかのような現象が起きるというのは事実ではあるものの、その原因を「集団に心理があるから」と言うのは違和感が生まれます。たとえば、機械に心があるみたいな、そういう気持ち悪いことになってしまいます。現代の社会心理学の研究ではそこに違和感を覚え、俗に「集団心理」と呼ばれる集団ならではの現象自体には関心を持ちつつも、あくまでもそこに属する個人が何を考え、どう行動し、相互作用するか、というポイントに注目する研究者が多い印象です。

違和感をお持ちの先生に対する、正木先生の見解はどうなのですか。

それでいくと、私は反論するつもりは全くありません。 「先生のおっしゃる通りです」と思ってお聞きしていますし、私自身も考えは共有していると思います。組織で働く方々にとっては、組織文化の議論が一番身近かもしれません。よく、組織文化を「組織に受け継がれた DNA だ」と指摘する方もいたりします。しかし、どう考えても組織は法人なので、 DNA を持つことはありえないはずです。現代の科学では DNA は生物しか持っていないと推測できるためで、少なくとも法人は DNA を持ちようがないためです。

なので、そう考えると “DNA ぽいもの”があるのは間違いないものの、組織の DNA と譬えてしまうと、そこで議論が終わってしまう印象があります。もう一歩踏み込んで、 「どうして DNA ぽいものが生まれているのか」みたいなレベルまで含めて見ていかないと、多分問題は何も分析できませんし、解決もできないだろうと思います。メタファーや譬え話で終わってしまうのは、現象の記述にはよいのですが、強みや問題の解明・対処には不十分です。

そのため、集団心理という考え方に反対というか、私はむしろそちらの立場なのですが、単に反対というよりは、もう一歩踏み込んで考えた方が建設的な議論につながるという意図からそう考えています。

03ダイバーシティ研究を志した原点と問題意識

わかりました。集団心理に対する見解が気になってしまい、本論に入る前に色々とお伺いしてしまいました。さて、正木先生は冒頭で大学院の頃からダイバーシティの研究をされておられたというお話がありました。組織のダイバーシティにまつわる諸問題や組織運営に関しては、最近も研究に取り組んでおられるご様子ですが、実際は大学院当時からだったのですね。

そうですね、大学院当時からです。それこそ、私の博士論文のテーマが、それでした。以来、ダイバーシティの研究自体をずっと扱って来ています。最近も色々な企業と共同研究をさせていただいています。ダイバーシティには、昔から今まで一貫して取り組んでいるという言い方が、一番正確かもしれません。

そもそも、正木先生がダイバーシティに着目されたきっかけは何だったのですか。

元々、社会心理学の研究は先ほどのように「大勢の人が集まったら何が起きるのだろう」という研究が柱の一つでした。しかし、その研究の蓄積からいえば、単に多様な人を集めただけでは上手くいくはずがない、というのが順当な予測です。

何故なら、どうしても違う人がいたら揉めますし、人は自分の常識でしか物事を測れません。異質な人間がいたら対立しますし、逆に自分と特性や特徴が近い方だと集団の一体感が生まれやすかったりします。そう考えると割と人は同質性を好みますし、その方が上手くいく場面が多かったりするものです。それが、社会心理学において色々な理論を使いながら、指摘されてきました。

そうなった時、大学院で私がダイバーシティを研究し始めたのが、2013年か 2014年ぐらいでした。先ほど述べたように、社会心理学の研究として、同質性には良い面もあるし、悪い面もあると考えられていました。折しも、その頃に女性活躍推進が積極的に推奨されていました。今となってはそう簡単なことではないという理解が多数派だと思いますが、当時は「女性の従業員比率を増やすと会社の業績が何倍になります」みたいなことがまことしやかに言われていたことすらありました。そういう、社会としてダイバーシティ万歳みたいに色々と言われていました。

しかし、そんな主張にあるように「色々な人が集まりさえすれば上手くいく」という考え方や期待と、 「いや、さすがに人間はそこまで理想的な綺麗なものではない」という社会心理学の理論との間にズレを感じました。そして、ズレがあるということは、そこに研究のギャップがあり、きちんとデータで色々と検証していく意義があると感じました。あるいは、仮にダイバーシティそのものは諸刃の剣だったすれば、そうなってしまう人間や集団の限界を踏まえて現実的な解決策を提示していかないと、組織変革は建設的には前に進まないだろうと思います。こうした問題意識や、現場の中で向き合っているテーマを建設的に前に進めることに関心を持って、ダイバーシティに関する研究に取り組んできました。

04DEI 議論の成熟と現実的なダイバーシティ推進

ということだったのですか。2013年だと、もう今から 13年前。その頃から、ずっと着手されてこられたのですね。この 10年余でダイバーシティに関する論点は何らか変わって来ていますか。特に最近は、こういった論点に着目されているというものが、あったりしますか。

ありがとうございます。それでいくと、まず問題の源泉が大きく変わっているかというと、それほどは変わってはいません。やはり人間は色々な人と常に仲良く、常に生産的にというのは中々難しいですからね。どうしても、色々な人がいたら相変わらず揉めますし、仲の良い人と一緒の方が上手く行きます。そこは、人間の本質として変わらないままというのが実態だと思います。

ただ、その上でも、捉えようによっては比較的改善されていると感じたり、葛藤を抱えながらも議論が前に進んでいると感じたりすることもあります。

一例が、ここ数年の米国で起きている「反 DEI」 (Diversity:多様性、Equity:公平性、Inclusion:包括性)の議論です。もちろん、総論としては色々な人が生きやすく活躍できる組織や社会を目指すことは必須です。しかし、私の考えとしては、それを強引に進め、ときに先ほどのような「多様性が高まるだけで企業業績が伸びる」というような都合のいいエビデンスだけを強調するようなことが目立った結果、 「本当にそうなのだろうか」という疑問や反発につながった面もあるのではないかと思います。

色々な人が集まることに、どういうプラスがあって、どんなマイナスがあるのかとしっかり分析して、プラスを伸ばす、マイナスを減らしていく。やはり、丁寧に診断して分析していかないと反発も出てきます。当然ながら、無理やり押さえつけたら反発が起きてしまいます。反 DEI の運動全体への賛否はともかく、その点は、私も理解できます。

日本の企業でも実際に、積極的に推し進められるダイバーシティ推進に対して、現場レベルで疲れも生まれて来ています。俗に「ダイバーシティ疲れ」と呼ばれるような問題です。そうした問題も広く知られるようになってきて、ダイバーシティに対する建設的な疑問が生まれやすく、また疑問を投げかけても許される雰囲気になってきたようにも感じます。だからこそ、ダイバーシティって一体どういうものだったのだろうか、現実的にはどういう問題があるのだろうか、といったことをお互いに話し合えるようになってきているのは、世の中がオープンになったからというか、デメリットも含めて理解が浸透してきたからではないかと思います。そこは変化として感じる部分です。

もう一つの論点は、これはシンプルな話なのですが、先ほどのような議論を踏まえて取り組みの内容も変わってきていると思います。単に社会的マイノリティの従業員数や管理職割合を増やそうとか、 「それが絶対に正義だ」と言う議論を超えて、現実的に何ができるのかも議論されるようになってきました。具体的には、ダイバーシティ推進を「経営マター」としてトップダウンで進めたり、 「啓蒙」活動して正しさを訴えかけたりするだけでなく、一人ひとりの従業員の立場で無理なくできることがなにかに注目する動きも増えてきました。内容は会社によってそれぞれですが、私が最近取り組んでいる「感謝と称賛」の研究もこの一種です。

経営層だけのせいにも、管理職だけのせいにもせず、組織のメンバーがそれぞれの立場でそれぞれができることは一体何だろうかと考え、具体的な施策や取り組み、工夫をしっかりと提案していくことも必要になってくると思います。だからこそ、具体的に色々提案できるような研究をしていく必要があるだろうなと思っているところです。

05深層ダイバーシティを自社で定義する重要性

ダイバーシティというと、すぐ浮かぶのは性別、年齢、人種・民族、身体的な特徴など目に見えるものであったりします。しかし、実はダイバーシティはそれだけでなく、目には見えないものもあるとお聞きしています。例えば、働き方や雇用形態、ライフスタイルなどもダイバーシティだと。この辺り、正木先生に解説していただけますか。

はい、前者を「表層ダイバーシティ」、後者を「深層ダイバーシティ」と呼ぶことがあります。その上で、ここも一般的な議論と私自身がどう思うのかを分けてお話しさせてください。

まずは、一般的な議論としては、やはり目に見える属性ではなくて、一人ひとり価値観や性格など目に見えない部分も違ってきます。 「実は、そちらの方が大事だよね」という意味で、 「深層のダイバーシティこそが大事だ」という議論が世の中的にはよく成されています。それは事実で、表層のダイバーシティよりも、何らかの深層のダイバーシティの方がチームのパフォーマンスにつながりやすい、とする研究もあります。

ただ、色々な会社の方と接していて、 「果たしてそれで良いのか」と思う部分もあります。理屈上はやはり、そういった深層のダイバーシティ、内面こそが大事で、属性はあくまでも表面的な話にすぎないというのは、一応事実ではあります。

ただ、その一方で、深層のダイバーシティの構成要素は無限にあります。性格、価値観、好き嫌い、仕事経験、など様々です。だからこそ、 「深層のダイバーシティは大事だ」としか言わないと、 「みんな違ってみんないい」以上に議論が進まなくなってしまいます。さらにいえば、議論が進まないということに加えて、本当に「みんな違ってみんないい」で組織が成り立つのか、という疑問もあります。何もかもがメンバー同士でばらばらだと、組織をまとめ上げるものが無くなり、おそらく組織はうまくいかなくなります。こうしたマイナスの要素もあることが、深層のダイバーシティの弱点というか、デメリットの面です。結局、 「深層のダイバーシティこそが大事」 「価値観の違いが大事」といって無限に受け入れてしまうと、何もかもを受け入れなければいけないとなって、現場の中で葛藤や衝突を抱えてしまう。そういうこともよくある気がします。

その意味で、深層のダイバーシティの大事さも認めつつ、現実的に取り組みを進めるためにもう一つ追加でお考えいただいても良いと思うのが、 「自社の中で大事な深層のダイバーシティって何だろう」 「自社の中で一番もめごとにつながりやすい深層のダイバーシティの特徴って何だろう」といったことです。 「自社ならではのキーワードで 1、 2個に絞るとしたら何だろう」と考えてみることがとても重要かなと思っています。

たとえば、以前、一緒に研究させていただいた数百人くらいの規模の会社がありました。その会社は 100%中途採用で、色々な業種出身の人がいました。だからこそ、この会社では「男性が女性が」というよりは、 「前職がどこか」によって、どうも得意分野や専門用語の使い方が違っていて、同僚の人だったらわかるような言葉の使い方が異業種の人には伝わらなかったりしていました。そこの間でコミュニケーションが上手くいかない。この場合、深層のダイバーシティの中でも、特に「前職がどこか」が自社にとって重要だ、というパターンです。

このように、会社によって「自社ではどういう特徴が重要なのか」は異なります。この例のように異業種から来ている人の割合かもしれませんし、もしくは会社によっては、新卒の従業員と中途の従業員の間での違いかもしれません。

そういった格好で、表層のダイバーシティ以上に、深層の方が、自社でしっかりと定義することが大事になってくるのだと思いますし、定義してよいものだと思います。深層のダイバーシティが大事であることは私も賛成しますが、指す範囲がとても幅広いので、その辺りの扱い方は要注意だと感じます。

正木 郁太郎

東京女子大学 
現代教養学部 

心理学科 准教授

2017年 東京大学 大学院 人文社会系研究科 博士課程修了、博士(社会心理学)。その後、東京大学 大学総合教育研究センター 特任研究員、同 人文社会系研究科 研究員などを経て、2021年 4月より東京女子大学現代教養学部 専任講師、2024年 4月より現職。民間企業との業務委託やアドバイザーなどの経験複数。

JOB Scope メディアでは人事マネジメントに役立つさまざまな情報を発信しています。