「最近、社内に以前のような熱量や活気がない気がする。」
「ビジョンやミッションを語っているつもりだが、従業員に浸透している手ごたえがない。」
このような課題を感じている中小企業の経営者は少なくないのではないでしょうか。
創業から順調に業績を上げているベンチャー・スタートアップ企業であっても、企業の成長と反比例して、社内に課題を感じるケースも多いようです。
創業オーナーは立ち上げ時は「事業を創る」ことだけを考えているとしても、企業として事業をスケールさせるためには、人・組織課題への対応は避けて通れません。
今回は中小企業が成長していくプロセスで直面する、典型的な人と組織に関する課題とその解決策を解説します。「組織拡大に伴い、今までのやり方が通用しなくなってきた」、「社内がかつてのようにスピーディに動かない」などのお悩みをお持ちの方は、参考にしていただければ幸いです。
目次
1.人・組織の課題は企業の成長ステージで変化する人間が生まれてからいくつもの発達段階を経て成長するように、組織にも成長や発展の段階が存在します。
特に少数精鋭で事業運営を行っている中小企業では、急激な規模の拡大などが起こると、これまでの成功パターンが通用しなくなる事態に遭遇しがちです。
慌てて課題解決しようとして、課題の本質を理解しないまま施策を投じてしまうと、むしろ社内の混乱を招きかねません。
例えば、急成長した数名のベンチャー企業が「社内に活気がない」と危機感を感じたとします。そこで万人企業の事例を参考にして、社内に大型の社内イントラのネットワークを構築したとしたら、果たして効果はあるでしょうか。
……残念ながら、あまり効果は期待できないでしょう。
このように企業の発展段階ごとに人・組織課題は異なり、当然ながら課題の解決方法も違ったものになります。
特に創業間もない企業が、企業としての外形を整える過程には、社内には急激な変化が訪れます。業績が順調な場合、社内課題に対処する労力を社外顧客につぎ込みたい思いがあり、勢いで乗り切ろうとする傾向があります。
しかし創業期はまだまだ資金や人員に余裕があるわけではないでしょう。適切に人・組織課題に対処しないと、わずかな経営資源が枯渇する事態をも招いてしまうのです。
企業の典型的な発展のプロセスとして参考になるのが、『5段階企業成長モデル』です。
ラリー・E・グレイナーが1979年にハーバードビジネスレビューに発表した論文『企業成長の”フシ”をどう乗り切るか』に記載された、企業の発展の典型的なモデルを表したものです。
グレイナーによると、企業の成長サイクルには以下の5段階があります。
古いモデルですが、おおよそ企業が事業規模を拡大していくステップとしては納得感があるでしょう。
本記事では、グレイナーの5段階成長モデルの各段階を参考にし、特に「中小企業の人・組織課題に課題が生じやすい4つのステージ」にアレンジして解説していきます。
企業が創業し、売上げを拡大し、組織として安定し、次の事業の柱を生み出すまでの4つの成長ステージで、多くの企業は人・組織のひずみ(課題)に直面します。
次のステージに進み切る前に、ネクストステージに耐えられるよう課題解決をしておくことが、成長を加速させるポイントといえます。
創業期(~成長期)は、事業立ち上げ間もない時期です。
創業5年以内、従業員は数人程度の企業が該当します。志を同じくする数名で事業を立ち上げ、徐々に組織の形を整えていく創業期に発生しがちな課題には、どのようなものがあるでしょうか。
創業期は、社内ルールが未整備でミッション・ビジョンが曖昧な企業がほとんどです。
しかし、創業メンバーが数人であれば、暗黙のうちに会社の方向性や優先順位が共有できます。明確なルールがなくとも、製品・サービス開発や市場での売り込みに全力で向かうことができるのです。
しかし、規模の拡大に伴い、少人数での経営の限界という“ひずみ”に直面します。
事業規模の拡大に対応する新メンバーが増え、これまでの「暗黙知」「あうんの呼吸」が通用しない状況に陥るからです。
このひずみを乗り越えるには、経営者の想い・考えを明確化し、発信することが必要になります。
労務など法規ルールの整備も重要ですが、ビジョンや経営ポリシーの言語化は優先順位が高いポイントです。
事業拡大に伴い新しく参加してくれるメンバーは、幸い事業の成長や発展に対し創業初期メンバーに準ずる心意気を持っているはずです。
細かい業務プロセスやルールが未整備だったとしても、会社として「これだけは叶えたい」というビジョンや、「こういう進め方が自社らしい」というポリシーに共鳴が得られてさえいれば、ある程度自律的に組織は回っていくのです。
成長期(~成熟期)は事業が急成長する時期です。
従業員数は50名以上で、事業が軌道に乗り商品やサービスへの問い合わせが増え始めます。売上額、社員数やクライアント数など、これまで経験していない規模で事業はスケールアップしていく段階です。
成長期は急激に規模拡大が進むため、一部の社員に業務負荷のしわ寄せが集中する事態が散見されます。
いわゆる数名の花形選手のようなメンバーが、属人的に事業を推進していく状態といえます。また、マネジメント不足も成長期には顕著な課題となります。少ないマネジメントで多くのメンバーを抱える事態になるでしょう。
属人的な経営は、一歩間違えると不安定な状態に陥りがちです。
業務の大半を担っていた社員が休んだだけで、他の社員は何をどう進めていいかわからず、途方に暮れることになります。
場合によっては花形選手が他社に引き抜かれるリスクも考えられるでしょう。メインの社員がいなくなったことでクライアントの離反につながり、事業存続にインパクトを与えるダメージにもなりかねません。
このひずみを乗り越えるには、社内のルール化や人事制度の体系化など体制強化を行う必要があります。
しかし急拡大する現場で、走りながらルール整備をするのは容易ではありません。事業成長に伴い予算に余力があれば、外部のパートナーと協働しながら、人事制度整備やナレッジマネジメントのアウトソーシングをすることも視野にいれましょう。
同様に、既存メンバーからマネジメントを育成するパワーがない場合は、外部からマネジメント経験者を採用することも一手段です。ただしこの場合も、内部でマネジメント育成ができる体制を整えることも並行して進めてください。
成熟期(~最適期)は事業が安定する時期です。
製品・サービスのバリエーションが増え、広告費の比重が高くなる傾向があります。全国展開や海外展開も始まり、株式上場などを検討する企業が該当します。
一通り会社としてのルールやシステムが整備され、既存事業は盤石な経営基盤として機能しはじめます。この段階の課題とはどのようなものでしょうか。
成熟期は、社員の行動は体系化され、賃金や評価など決まった制度に則って組織運営が行えます。
事業が安定したからこそ、経営としては既存事業以外の新規ビジネスを狙うことも多いでしょう。
しかしルール化が行き過ぎてしまい、社員の行動や発想が小粒になり、新しいビジネスの種が見つからないジレンマに陥るケースがあります。また組織の体系化が進んだことで、部門をまたいだ案件などの意思決定や実行スピードが落ちることもあります。
このひずみを乗り越えるには、経営としてのメッセージを象徴するような施策や制度改定が必要となります。
また、組織間連携が上手くいってない場合は、経営層のみのワークショップなどを実施し、次の会社の発展のために経営陣が一枚岩になることも重要です。
このステージの解決策の実施には時間がかかるため、中長期目線で取り組むことが要諦です。うまく課題を乗り越えられたら、最終的には一人ひとりの自律した行動が期待できるようになります。
そうすることで、いわゆる「ティール組織」と呼ばれる“階層的な指示命令系統はなく、組織目的の実現のためメンバー全員が独自のルールや仕組みを工夫する組織”に近づいていくでしょう。
“ひずみ”と聞くとネガティブな印象を抱くかもしれませんが、これは人間でいうところの“成長痛”のようなものです。事業が同じステージに留まり続けている限りは、“ひずみ”も起こらないからです。
しかし、人間の成長痛は放置しておいても時間と共に解消されていきますが、組織の成長痛は放置しておくと徐々に悪化していきます。まだまだ体力がない中小企業では、わずかな人員の離反が本業に大きなダメージを及ぼすこともあるため、特に注視した方がよいでしょう。
今回ご紹介したように、次のステージに移行しようとしている手前に目を向けることが、早期解決の秘訣です。“ひずみ”を見かけたら、次の成長への“兆し”と思い、前向きに対処するようにしてください。