組織改革/人的資本

経営戦略と人事戦略が連動するメリット

 

「健康経営」「チェンジマネジメント」「ティール組織」「ジョブ型雇用」……。
人事部門を取り巻くHRトレンドは様々に変化していきます。

しかしどのようなトレンドを取り入れたとしても、変えてはならないのが経営戦略と人事戦略の連動でしょう。当たり前のようなことですが、この前提条件ともいえる状態が叶っていない日本企業は意外にも多いのです。

当たり前といっても、実は実際のアクションを考えると非常に壮大なテーマともいえます。何から手を付けていいか分からず、動きが止まってしまうという人事部門の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は「経営戦略と組織戦略の連動」をテーマにしつつも、指南書的な教訓ではなく、必要性や業務での具体的な変化など、実践に焦点をあててお伝えします

 


1.経営戦略と紐づかない人事戦略の実態

人事部門に限らずですが、企業に存在する部門組織のミッションや目標は、例外なく経営戦略に紐づいているはずです。

一橋大学の経営学者・沼上幹氏が著した『組織デザイン』によると、「組織とは目的・ルール・役割が共有された集団」と定義されています。目的や目標に向かって複数人で活動や分業、調整することで効率的に活動が進むのが「組織」となります。

仮に企業ミッションや経営目標に紐づかない戦略を採っている部門があれば、それは「組織体」ではなく、単なる人が集まった「集団(または集合体)」となってしまいます。

しかしながら、人事部門に限っていうと経営戦略とは連動しない独立した戦略を採っている日本企業が多い実態があります。

人材マネジメントの課題を聞いたある調査結果では、「人材戦略が経営戦略と紐づいていない」の選択率が第一位で、34%もの人が回答していました。

人材マネジメントの課題

この調査結果は2つの見方ができます。

1つは「人事部門が経営戦略を意識しておらず、現場だけを見て戦略を描いている」可能性、もう1つは「経営陣が人事戦略に関心を持っておらず、人事部門任せにしている」可能性です。

いずれにしても、どの企業でも人員計画、育成計画、組織開発などの人事戦略は策定しているかと思います。
しかし単に顕在化した問題へ対応する戦略だけでは、現場での運用は滞らなかったとしても、企業の競争力や発展に寄与する人事戦略かは疑問が残ります。


2.経営と人事は車の両輪

もう一段ブレイクダウンして、経営戦略と人事戦略はなぜ紐づく必要があるかを具体的に考えていきます。

他部門と比較しても、人事戦略が経営戦略と連動しない影響は大きいと考えられます。なぜなら、営業部門であっても開発部門であっても、経営戦略や経営ビジョンを実行するのは、すべからく人(従業員)だからです。

“会社自体”には何の実態もありません。その会社に属する社員が行動することで初めて業績やブランドが出来上がるのです。
各組織・各従業員が思い思いの行動をとってしまうと、経営として目指す状態に近づいているのかどうかすら分かりません。

そうはいっても、現場の各部門で多少経営戦略から外れたとしても、その時々で最適な判断をすることもあるでしょう。経営がこと細かく現場をマイクロマネジメントするのは現実的ではありませんし、決して強い組織にはなりません。

そのような各部門の自律的な判断を貫くのが人事戦略といえます。
例えばある部署で業務提携の判断をする際に、「このアライアンスは経営ビジョンに照らすと相応しいのだろうか?」と考えられるかどうか……。
このような思考を従業員一人ひとりに浸透させるのが、人事戦略の一つの役割です。

経営戦略と異なる動きをとる従業員の存在は、直接的な業績はもちろんのこと、中長期的な企業の存在意義にも影響を与えます。「言っていること(ビジョン)」と「やっていること(従業員の行動)」が違う会社は、顧客や社会からの信頼を棄損するからです。

このように、人事戦略は従業員全てに影響を与えることから、経営戦略と連動して初めて車の両輪としての機能を保てるのです。


3.経営戦略と連動する人事戦略のメリット

具体的に例を挙げてみましょう。
現場の状況(As-is)を見て描いた人事戦略と、経営の目指す姿や理想(To-be)で描いた人事戦略とどのような違いが出るかを解説していきます。

ビジョン・方針レベル

人事としての3か年計画を例に挙げて考えてみます。

人事部門としては現状の現場の疲弊(As-is)を問題視しており、「労働時間削減」を次期3か年の重点テーマに掲げました。一方、経営ビジョンや戦略では「成果や職務の透明性担保」「DX化による競争力の確立」などチャレンジングな理想(To-be)を掲げています。

もし経営戦略と人事戦略が連動していれば、人事部門の重点テーマとしては「ジョブ型人事制度の構築」や「人事管理へのSaaS導入」などを、重点テーマに掲げることになるでしょう。

目標レベル

当該期の目標でも、経営戦略と人事戦略にギャップが生まれるケースはよく目にします。

成長期の企業の経営戦略の例として、分業が進んだ状況を危惧して「管理職層の部門横断」を今期目標として掲げていたとします。一方、人事は育ち盛りの若手の育成に着目して、今期目標で「若手へのOJT施策の実施」などを掲げてしまうようなケースです。

特に実務ばかりを行っている人事部門は、管理職層への介入は苦手とすることが多いようです。しかし企業としてさらに強くなるために、臆せずに上位層についても人材開発や組織変革のメスを向けるべきでしょう。

施策レベル

施策レベルでは、経営戦略と乖離がある人事施策はより散見されるようになります。

例えば中途採用場面を例に挙げてみます。外部からどんな人材を調達するかを検討する際、現場を見渡し「システム部署で退職者が出たから欠員補充でIT人材を採用しよう」などと決めているのは、単なる穴埋めに過ぎません。

一方経営戦略と連動させて外部からの人材調達を考えると「3か年計画達成のためには、新規事業開発が必要。そのためにイノベーションが起こせる人材を採用しよう」となります。これは目指すべき姿 (To be)に立脚した策といえるでしょう。


4.戦略は人に浸透して効果を発揮する

戦略は人に浸透して効果を発揮する一方、経営戦略との連動を意識しすぎて忘れがちなのが、従業員の視点です。

目指すべきゴールは経営戦略と人事戦略が連動するだけではなく、従業員一人ひとりが経営戦略を意識した言動をとることに他なりません。

つまり人事戦略を描いたあとに、従業員に浸透させる施策や仕掛けが必要になるということです。
具体的には、期のキックオフや全社総会の場で直接従業員に人事戦略を語りかける機会を設けることを推奨します。戦略次第ですが、社内報やイベントなど、従業員との接点を活用したインターナルコミュニケーションも浸透には効果的です。

同時に、戦略の浸透には各部門のマネジメント層の協力も必要です。
人事が全従業員へ直接戦略を浸透させるには限界があるため、部門マネジメントを通じて伝えるための施策も検討するようにしてください。
例えば、マネジメント層へのワークショップや研修の実施を行い、「経営・人事戦略をいかに自部門の戦略に落とし込むか」を考えてもらうような施策です。

現場任せにしていると、ある部門に戦略は伝わっているが、別の部門には伝わっていないなど全社で情報伝達にムラが生じてしまいます。
人事としては、最終的に「全社員が経営戦略を実現するために望ましい動きをする」ことをゴールとして、各種施策を展開していってください。


5.人事戦略の描き方

最後に具体的な人事戦略の描き方のヒントをお伝えします。

戦略策定のセオリーとなるのが「上流→下流」という思考の順序です。現場の課題をないがしろにしていいわけではありませんが、現場の視点が先に来ると、問題対処型の戦略しか出てきません。

人事戦略の描き方従って、まずは経営ビジョンや経営戦略を人事が深いレベルで解釈することがスタートとなります。

場合によっては、経営戦略への関与も辞さないでください。
従業員の視点・市場の視点・競合の視点など幅広い視点から喫緊かつ重要な課題を洗い出し、経営戦略に内包するように働きかけることが、真の戦略人事の姿となります。

次に、経営戦略が実行できる最適な人・組織体制を検討します。
既存組織ありきではなく、理想的な組織の観点を忘れないようにしてください。現実問題として、体制変革に踏み込めない事情もあるかと思いますが、一度は理想の絵を描くことが重要です。

人・組織はセンシティブな施策も含まれるため、中長期で理想形に近づける目線が必要です。その際、理想の絵があれば「今期はここまで進め、来期はここに着手しよう」という戦略実現のための地図とすることができます。


まとめ

今回は経営戦略と人事戦略の連動について、様々な角度から解説してきました。

前述したように、現在「連動できていない」と感じている方が多いことから、経営戦略と人事戦略が紐づくのは非常に難易度が高い取り組みといえます。

長く険しい道のりになるかもしれませんが、プロセス改善の積み重ねで最高レベルのゴールを目指す「リーンマネジメント」を念頭に置くことが成功の秘訣です。
どこかのステップで品質を妥協すると、最終的に目指す状態にも影響を及ぼすことになります。ある程度の試行錯誤は覚悟のうえで、プロセスを進めていってください。

難易度が高いからこそ、その高い壁を乗り越えて経営と人事が一枚岩になった企業は、それだけで競争優位性が上がっている状態といえるでしょう



JOB Scope編集部

著者: JOB Scope編集部

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