日本企業のAI活用が進みにくい背景には、雇用を守る責任を企業が過度に背負う仕組みがある――立命館大学の守屋貴司教授はそう指摘します。守屋教授は、国がドイツや北欧のような雇用のセーフティネットを整え、仕事を失った人の所得補償とキャリア支援、リスキリングを担うことで、企業は真の人的資本経営に専念できると提言しています。
前編では、「働かないおじさん」を生んだ企業の人材育成の責任と、数字合わせで終わらない人的資本経営について紹介しました。後編では、AIの進展と雇用をめぐる守屋教授の提言を中心に考えます。
本記事では、守屋教授へのインタビューのうち、雇用と人材に関わる論点を中心に、AIと雇用の関係、企業が雇用責任を過度に背負う日本の仕組み、国による雇用のセーフティネットという提言、中小企業と地域への期待、そしてアジアとの協力を視野に入れたタレントマネジメントについて解説します。
この記事でわかること
・AIの進展が雇用に与える影響と、日本企業のAI活用が進みにくい理由
・雇用の責任を企業が過度に背負う日本の仕組みの課題
・守屋教授が提言する「国による雇用のセーフティネット」とは
・中小企業と地域が日本の未来を担うと守屋教授が考える理由
・アジアとの対等な協力を視野に入れたタレントマネジメント
立命館大学 経営学部・大学院経営学研究科 教授(取材時)。1989年商学修士(関西学院大学)、2004年博士(社会学、立命館大学)。1992年奈良産業大学(現・奈良学園大学)専任講師、助教授、教授、経営学部長を経て、2006年より立命館大学経営学部教授。立命館大学事業継承塾副塾長、一般財団法人アジア太平洋研究所上席研究員。京都府最低賃金審議会公益委員、日本労務学会機関誌編集委員長、日本経営学会理事などを歴任。専門は人的資源管理論、経営学、社会学。著書に『人材危機時代の日本の「グローバル人材」の育成とタレントマネジメント』(晃洋書房)、『価値創発(EVP)時代の人的資源管理』(ミネルヴァ書房)など。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
AIは、インターネットや検索エンジンのように社会のインフラになりつつあります。一方で、日本企業のAI活用は欧米に比べて遅れていると指摘されています。守屋教授は、その大きな理由は、国が雇用をセーフティネットで支えておらず、企業が雇用の責任を過度に背負わされていることにあると言います。
AIで業務の効率化を進めれば、その仕事を担ってきた人の配置転換や、場合によっては雇用の見直しが必要になります。しかし、雇用を守る責任を企業がすべて背負う仕組みのもとでは、企業は思い切った生産性向上に踏み出しにくいのです。
| 時代 | 雇用を支える力 |
|---|---|
| 戦後〜1980年ごろ | 企業に雇用を支える体力があった |
| 現在 | 企業は雇用に縛られて身動きが取りにくい。AIによる生産性向上が進みにくい |
出典:守屋教授への取材をもとに編集部作成
そこで守屋教授が提言するのが、国が雇用を支える仕組みへの大改革です。
「国が雇用をしっかり面倒見る。企業はしっかりと真の人的資本経営を展開し、世界的な競争力を高めていけば良いのです。」
――守屋教授
| 提言の要素 | 内容 |
|---|---|
| ① 所得補償 | リストラや業務の置き換えで職を離れた人に、国が2〜4年程度、十分な所得補償を行う |
| ② キャリア支援 | キャリアデザインやキャリアコンサルティングを国がしっかり行う |
| ③ リスキリングと労働移動 | 新たなスキルを身につけ、成長が見込まれる産業部門へ移れるよう支援する |
| 参考とする国 | ドイツや北欧のような、雇用に関わるセーフティネットの仕組み |
出典:守屋教授への取材をもとに編集部作成(守屋教授の提言)
守屋教授は、日本は世界有数の対外純資産を持つ国であり、こうした仕組みを整えるだけの力があると考えています。企業は真の人的資本経営に専念し、国が雇用の安全網を担うという役割分担です。
なお、政府も2023年に「三位一体の労働市場改革」として、リスキリングによる能力向上支援、職務給の導入、成長分野への労働移動の円滑化を打ち出しています。雇用のセーフティネットのあり方には、財源や制度設計をめぐってさまざまな議論があります(日本の雇用と人的資本をめぐる論点は、島永和幸教授の解説記事でも紹介しています)。
国の制度がどう変わるにせよ、企業にできることもあります。前編で紹介したように、社員が学び続けられる自社独自の育成システムを持ち、一人ひとりのスキルを見える化しておけば、AIの導入に合わせた配置転換やリスキリングを進めやすくなります。
AIの導入に合わせて人の役割を組み替えるには、社員一人ひとりのスキルと育成の状況を把握しておくことが出発点になります。
社員のスキルと育成状況を見える化する
AIの導入に合わせて配置転換やリスキリングを進めるには、社員一人ひとりのスキルや役割、育成の状況を把握できる仕組みが欠かせません。DEFiDEの「JOB Scope」では、実際の画面を見ながら説明を受けられる個別オンラインデモを行っています。
守屋教授は、中小企業の経営者と日々話す中で、多くの経営者が「このままではまずい」と気づいていると感じています。そして、日本の中小企業と地域こそが、これからの日本の希望だと語ります。
| 守屋教授が描く地域・中小企業の姿 | 内容 |
|---|---|
| DX・AIの推進 | 人材不足の地方こそ、DXやAIの導入を進めて人手不足を補う |
| 地域ブランドの確立 | 地域一丸となって地元のブランド品を確立する |
| 世界への販路拡大 | 地域から世界に販路を広げる |
| 地方の主体性 | 江戸時代の各藩が独立採算で頑張ったように、地域が主体的に動き、国にも提言していく |
出典:守屋教授への取材をもとに編集部作成
守屋教授が親しくする中小企業経営者の多くは、自主・自立・対等・平等を体現する存在だといいます。中小企業の経営者が主軸となる社会を実現できれば、日本はもっとよい国になる――大企業に負けずに頑張ってほしいというのが、守屋教授のメッセージです。
守屋教授は2020年に『人材危機時代の日本の「グローバル人材」の育成とタレントマネジメント』(晃洋書房)を著しました。その後の状況を踏まえ、守屋教授は、日本が一方的に「グローバルリーダー」を名乗るのではなく、マレーシアやインドネシア、タイなどのアジアの国々と対等に協力し合うことが大切だと言います。タレントマネジメントも、アジアの人々の力を借りながら対等に協力する方向へ改めるべきだというのが、守屋教授の考えです。
A. 守屋教授は、国が雇用をセーフティネットで支えておらず、企業が雇用の責任を過度に背負わされていることが大きな理由だと指摘しています。AIで業務を効率化すれば人の配置転換などが必要になりますが、雇用を守る責任をすべて企業が負う仕組みでは、思い切った生産性向上に踏み出しにくいためです。
A. リストラや業務の置き換えで職を離れた人に、国が2〜4年程度の所得補償を行い、キャリアデザインやキャリアコンサルティング、リスキリングを支援して、成長産業へ移れるようにする仕組みです。ドイツや北欧の雇用政策を参考にした提言で、企業は真の人的資本経営に専念できるとしています。
A. 政府は2023年に「三位一体の労働市場改革」として、リスキリングによる能力向上支援、職務給の導入、成長分野への労働移動の円滑化を打ち出しています。雇用のセーフティネットのあり方については、財源や制度設計をめぐってさまざまな議論があります。
A. 守屋教授は、中小企業と地域が日本の希望だとしています。人材不足の地方こそDXやAIを推進し、地域一丸となって地元のブランドを確立し、世界に販路を広げることを期待しています。中小企業の経営者が主軸となる社会を実現できれば、日本はよりよい国になると述べています。
A. 守屋教授は、日本が一方的にグローバルリーダーを名乗るのではなく、マレーシアやインドネシア、タイなどアジアの国々と対等に協力し合う方向に、タレントマネジメントも改めるべきだとしています。
AIの時代に、雇用を誰がどう支えるのか。守屋教授の提言は、企業と国の役割分担を見直すことで、企業が人を育て、生かす本来の人的資本経営に向き合えるようにするという問いかけでもあります。
AI時代の人材戦略を、プロと一緒に
AIの導入に合わせて人の役割や育成、評価を見直すには、自社の戦略に合った人事制度の設計が欠かせません。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、経営に直結する戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援します。
▶ 前編:「働かないおじさん」はなぜ生まれるのか?企業の人材育成の責任と、数字合わせで終わらない人的資本経営(内部リンク)
▶ インタビュー全文:国が雇用システムを大改革し、企業は真の人的資本経営を(後編)(JOB Scopeマガジン)