[JOBSCOPE]教授インタビュー解説

キャリア焦燥感とは?若者が早期離職に走る心理|筑波大学・尾野裕美准教授

作成者: JOB Scope編集部|Oct 15, 2026, 11:40:08 AM

 

キャリア焦燥感とは、自分のキャリアを早く築かなければならないと焦る気持ちのことです。筑波大学の尾野裕美准教授は、若者が早期離職に走る背景には、先の見えないキャリアへの漠然とした焦りがあり、そこから手っ取り早く解放される方法として転職を選んでしまうことが多いと語ります。

人手不足の中、ようやく採用した若手が数年で辞めてしまう――そんな嘆きを多くの企業から耳にします。しかし実は、若者の早期離職は今に始まった課題ではなく、30年余り続いています。

本記事では、企業の人事、転職支援、研究員を経て、18年にわたり若者のキャリアを研究する尾野准教授へのインタビューをもとに、退職代行サービスの利用から見える職場の問題、データで見る早期離職の実態、早期離職の要因、20代の転職が焦りに起因する理由、そしてキャリア焦燥感の3つの要素と焦りを感じる4つの状況について解説します。

この記事でわかること

・キャリア焦燥感とは何か――3つの要素

・退職代行サービスを使わざるを得ない若者の状況と、企業が検証すべきこと

・大卒の3年以内離職率は30年ほぼ3割で変わっていないという事実

・20代の転職が「焦り」に起因しやすい理由

・若手がキャリアに焦りを感じる4つの状況

取材協力:尾野 裕美(おの ひろみ)氏

筑波大学 人間系 准教授(取材時)。日本製粉株式会社(現:株式会社ニップン)の人事、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)のキャリアカウンセラー、株式会社リクルートマネジメントソリューションズの研究員を経て独立し、大学生のキャリア形成支援に従事。横浜商科大学専任講師、明星大学准教授を経て、2023年4月より現職。筑波大学大学院人間総合科学研究科生涯発達科学専攻修了、博士(カウンセリング科学)。著書に『働くひとのキャリア焦燥感――キャリア形成を急ぐ若者の心理の解明』『個人と組織のための男性育休――働く父母の心理と企業の支援』(いずれもナカニシヤ出版)など。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

キャリア焦燥感とは?――3つの要素

キャリア焦燥感とは、自分のキャリアを早く構築しなければならないと焦る気持ちです。尾野准教授が社会人大学院時代に名づけ、若手へのインタビューと数百人規模のアンケート調査を通じて、次の3つの要素に分けられることを明らかにしました。

要素 内容 性質
① 切迫感 気持ちばかりが焦って、どうしようもない。追い詰められているような、非常に苦しい焦り ネガティブ。早期離職につながりやすい
② キャリア構築への衝動 目標に向けて早くキャリアを築こうと駆り立てられる気持ち。強すぎると苦しいが、挑戦の原動力にもなる 比較的ポジティブ。エネルギッシュ
③ キャリアの懸念 「このままでよいのか」「この先も大丈夫か」という気がかり それほど強くない気持ち

出典:尾野准教授への取材、尾野裕美『働くひとのキャリア焦燥感』をもとに編集部作成

研究から、早期離職につながりやすいのは①の「切迫感」だとわかっています。焦っていれば必ず辞めるわけではなく、追い詰められた苦しい焦りを抱えたときに、辞めたい気持ちに結びつきやすいのです。一方で、焦りは行動の原動力にもなる――ポジティブな面もあることを、企業にも知っておいてほしいと尾野准教授は言います。

退職代行を使わざるを得ない若者の状況を理解する

退職代行サービスが話題になったとき、中年世代からは「退職の申し出くらい自分でできないのか」という声もありました。尾野准教授は、そう思うのは当然だとしつつ、お金を払ってまでそのサービスを使わざるを得ない若者の状況を、まず理解してほしいと言います。

自分で上司に話してスムーズに退職できる会社なら、わざわざお金を払う必要はありません。そもそも上司が部下に向き合う会社なら、早期離職せずに済む可能性すらあります。人手不足の今、社員を大事にするのではなく「必死に引き止める」会社や、「部下が辞めたら自分の評価が下がる」と考える上司もいるかもしれません。

尾野准教授は、転職支援の仕事をしていた約20年前にも、「上司が取り合ってくれない」「退職届を受け取ってもらえない」と疲れ果てた若手に何人も出会ったといいます。最終的に内容証明郵便で退職届を送った人もいました。

「自社にも何か問題があったのではないか」と検証していただきたいという気持ちがあります。

――尾野准教授

退職代行で辞める人が出たら、批判するだけでなく、採用方法、配属、働く環境、人間関係に問題がなかったかを冷静に検証することが大切だと尾野准教授は語ります。

早期離職は30年ほぼ変わっていない――データで見る実態

「若者の早期離職が増えている」とよく言われます。しかし尾野准教授によると、早期離職の割合はこの30年ほど大きくは変わっていません。人手不足感が強まるたびに「辞められては困る」という関心が高まり、増えているように感じられるのではないか、と尾野准教授は見ています。

かつては「七五三現象」――就職して3年以内に中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が辞める――と言われてきました。厚生労働省のデータを見ると、次のような推移です。

卒業年 大卒の3年以内離職率 備考
2004年卒 36.6% 最も高かった年
2009年卒 28.8% リーマン・ショックの影響で唯一3割を下回った
2020年卒 32.3% 取材時に尾野准教授が紹介した数値
2022年卒 33.8% 最新の公表値

出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(各年3月卒業者)。1995年卒以降、大卒の3年以内離職率は2009年卒を除き3割を超えている

一方、高卒は2015年卒以降4割未満、中卒は2017年卒以降6割未満となっており、「七五三」と言われた頃に比べて中卒・高卒の早期離職はむしろ減っていることがデータからうかがえます。

早期離職の要因と、「3割の中身」

30年ほど変わらないということは、時代背景の影響は誤差程度だと尾野准教授は言います。面接や選考を丁寧に行っても仕事の合う・合わないは起こり、人間関係は選べず、年収や労働時間などの条件が合わない人もいます。そう考えると、3割が辞めること自体は、すごく問題視するほどではないといいます。

ただ、その3割の中には、本来辞めなくてよい人が辞めているケースも含まれているはずです。1つ成功体験を積んでから転職した人や起業した人など前向きな離職が増えているならよいのですが、ネガティブな離職が増えているとしたら心配です。そこはデータがなく、ブラックボックスだと尾野准教授は言います。

20代の転職は「焦り」に起因しやすい

尾野准教授は、早期離職そのものが悪いわけではないと前置きします。上司のパワハラに「石の上にも3年」と耐えて心身を壊すくらいなら、転職したほうがよい場合もあります。次のステップが見えた前向きな転職も歓迎すべきです。

ただし、スキルが身につかず、成果も出せていないうちに辞めると、転職活動がうまくいかなかったり、次の会社で活躍できなかったりするリスクがあります。尾野准教授は、早まった転職を後悔している人に何人も会ってきました。30代・40代の転職と違い、20代の転職は焦りに起因していることが多い――それが若手の転職の特徴だといいます。

なぜ若者はキャリア形成を急ぐのか

背景 内容
① 雇用環境の変化 バブル崩壊後、終身雇用や年功序列に代わって成果主義が台頭し、「入社すれば何とかなる」時代ではなくなった
② 教育の影響 個性重視の教育とキャリア教育を受け、就職活動では「強みは?」「将来どうなりたい?」と自己分析や目標設定を求められ続けてきた
③ キャリア自律の要請 会社が定年まで面倒を見るわけではなく、「主体的にキャリアを築け」と求められる。思い描いた働き方と違うと、再び焦りを感じる
④ 発達課題 20代は、今の仕事を続けるかを検討しながら自己を確立する時期。焦りを感じるのは健全に発達している証拠でもある

出典:尾野准教授への取材をもとに編集部作成

自分のことや将来のことは、簡単にわかるものではありません。それでも常に問われてきた世代だからこそ、「早く自分の可能性や適性を見つけなければ」と焦り、その手っ取り早い解決策として転職を選んでしまうのが若者の特徴だと尾野准教授は語ります。

若手がキャリアに焦りを感じる4つの状況

尾野准教授は、若手がどんな状況でキャリアに焦りを感じるのかを聞き取り、次の4つに整理しています。

状況 内容
① キャリア探索の停滞 「やりたい仕事がはっきりしない」「今の仕事が自分に合っているかわからない」など、自分らしさを発揮できる仕事の答えが見つかっていない
② 所属組織からの評価が低い 今の会社や職場で、自分が思うような評価が得られていない
③ 人との比較 友人や知人が活躍している、転職後にうまくいっているなど、自分よりよい状態にある人と比べてしまう
④ 仕事とプライベートのアンバランス 公私のバランスがとれていない、結婚や子育てを視野に入れた働き方ができていない

出典:尾野准教授への取材をもとに編集部作成

若手の焦りが「切迫感」に変わる前に、その兆しに気づけるかどうかが、望まない早期離職を防ぐ鍵になります。

若手の焦りや不安の兆しを、早めにつかむ

若手の早期離職につながりやすいのは、追い詰められた苦しい焦りです。評価への不満や仕事とプライベートのバランスなど、焦りを生む状況を早めに把握することが大切です。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」は、生成AIで従業員の属性や組織の特性に合わせた質問を作成し、組織の状態を迅速にきめ細かく可視化します。

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よくある質問(FAQ)

Q. キャリア焦燥感とは何ですか?

A. 自分のキャリアを早く築かなければならないと焦る気持ちのことで、尾野准教授が名づけた概念です。追い詰められた苦しい「切迫感」、早くキャリアを築こうと駆り立てられる「キャリア構築への衝動」、このままでよいのかという「キャリアの懸念」の3つの要素からなります。

Q. 若者の早期離職は増えているのですか?

A. 尾野准教授によると、大卒の3年以内離職率は1995年卒以降、2009年卒を除いてほぼ3割台で推移しており、30年ほど大きくは変わっていません。中卒・高卒はむしろ減っています。人手不足感が強まると、増えているように感じられやすいと尾野准教授は見ています。

Q. キャリア焦燥感があると必ず辞めてしまうのですか?

A. そうではありません。研究から、早期離職につながりやすいのは追い詰められた苦しい「切迫感」だとわかっています。焦りは行動の原動力にもなり、相談や目標設定などの行動によって視野が広がり、焦りが和らぐこともあります。

Q. 若手がキャリアに焦りを感じるのはどんなときですか?

A. 尾野准教授は、やりたい仕事や自分に合う仕事がわからない「キャリア探索の停滞」、思うような評価が得られない「所属組織からの評価が低い」、活躍する友人などとの「人との比較」、「仕事とプライベートのアンバランス」の4つの状況を挙げています。

Q. 退職代行サービスで辞める社員が出たら、企業はどうすべきですか?

A. 尾野准教授は、批判するだけでなく、お金を払ってまで利用せざるを得なかった状況を理解し、採用方法、配属、働く環境、人間関係など、自社に問題がなかったかを冷静に検証すべきだとしています。

まとめ:若者の焦りを理解することが、早期離職を防ぐ第一歩

  • キャリア焦燥感は、切迫感・キャリア構築への衝動・キャリアの懸念の3つの要素からなる。早期離職につながりやすいのは切迫感
  • 退職代行の利用は、若者を責めるだけでなく、自社の採用・配属・環境・人間関係を検証する機会
  • 大卒の3年以内離職率は30年ほぼ3割で、大きくは変わっていない。問題は「3割の中身」
  • 20代の転職は焦りに起因しやすい。雇用環境・教育・キャリア自律の要請・発達課題が背景にある
  • 焦りを感じる状況は、キャリア探索の停滞、評価の低さ、人との比較、公私のアンバランスの4つ

後編では、若手のキャリア焦燥感に企業がどう向き合えばよいか、視野を広げる行動と短期目標の立て方、先輩の体験談を共有する効果、男性の長期育休が職場にもたらすメリット、そして「社員全員を大切にする」姿勢の伝え方について解説します。

評価とキャリアの見通しを、若手と共有する

若手が焦りを感じる状況の一つが「評価が低い」と感じることです。役割や期待、評価の基準、成長の道筋を明確にし、上司と本人が共有できる仕組みは、焦りを和らげる土台になります。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、経営に直結する戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援する人事制度改革プラットフォームです。

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▶ 後編:若手の早期離職を防ぐには?キャリア焦燥感への向き合い方と、男性の長期育休が職場にもたらすメリット(内部リンク)

▶ インタビュー全文:若者はキャリア焦燥感から早期離職に走る(前編)(JOB Scopeマガジン)