[JOBSCOPE]教授インタビュー解説

CHROはどう育てる?戦略人事を担う人材の条件|東京都立大学・西村孝史准教授

作成者: JOB Scope編集部|Oct 13, 2026, 12:32:17 PM

 

戦略人事を担えるCHRO(最高人事責任者)を育てるには、現場の細部を積み上げる力に加えて、組織全体を俯瞰する視座が欠かせません。東京都立大学の西村孝史准教授は、より高い立場の経験を早くから積ませることが有効だと語ります。

前編では、人的資本経営の主導権が人事から離れつつある「人事の危機」と、個人の力を組織力に変えるソーシャル・キャピタルの考え方を紹介しました。では、人事が再び経営の中心で力を発揮するには、どんな人材が必要で、どう育てればよいのでしょうか。

本記事では、西村准教授へのインタビューをもとに、リーダー開発論から見た戦略人事を実践できるCHROの条件、CHROに必要な俯瞰的な視点と育て方、若手人事に期待される「データと現場」の両立、「成果=能力×意欲」に人事施策で働きかける考え方、そして中小・中堅企業の経営者へのメッセージについて解説します。

この記事でわかること

・リーダー開発論で明らかにしたい「戦略人事を実践できるCHRO」の条件

・外資系CHROと日本の人事部長の違いと、俯瞰的な視点の育て方

・若手人事に求められる、データ活用と現場重視の両立

・「成果=能力×意欲」に人事施策で働きかける人的資源管理の考え方

・人事施策の「帰属」とタイムラグ、産学連携という選択肢

取材協力:西村 孝史(にしむら たかし)氏

東京都立大学大学院 経営学研究科 准教授(取材時)。大手企業で人事の実務を経験した後、研究者に転じる。一橋大学で博士号を取得。徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部准教授、東京理科大学経営学部准教授、首都大学東京(現・東京都立大学)准教授を経て、取材時は東京都立大学大学院経営学研究科准教授。専門は人的資源管理論で、企業内のソーシャル・キャピタル、戦略人材マネジメント、リーダー開発、初任配置、限定正社員などを研究。共著に『1からの人的資源管理』(碩学舎、2022年)など。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

戦略人事を実践できるCHROとは?――リーダー開発論からのアプローチ

「戦略人事を担え」と言われても、それができる人とできない人がいます。西村准教授は、組織変革を実行できるCHROは何が違うのかを明らかにしたいと考えています。

手がかりにしているのがリーダー開発論です。リーダー開発論とは、経営者になった人が、そこに至るまでにどんな出来事(イベント)を経験し、そこから何を教訓(レッスン)として学んだのかを積み重ねて分析するアプローチです。例えば課長時代に海外で修羅場を経験し、タフさや異文化理解を身につけた、といった具合です。その人事版を調べることで、戦略人事の波にうまく乗れた人とそうでない人の差を明らかにできるのではないか、というのが西村准教授の問題意識です。

西村准教授は並行して、日本経済新聞の連載「私の課長時代」のテキストマイニングにも取り組んでいます。現在の社長たちが課長時代に何をしていたかを、時代や業種などの切り口で分析すると、経験する出来事は時代や業種によって均一ではないことが少しずつ見えてきているといいます(取材時点で100人強をデータベース化)。

CHROに欠かせない「俯瞰的な視点」と育て方

外資系企業のCHROと日本企業の人事部長と話すと、西村准教授は演繹法と帰納法のような違いを感じるといいます。

  外資系企業のCHRO 日本の古典的な人事部長
考え方 演繹的。部署が変わっても必要な要素を抽出し、すばやく理解して行動に移す 帰納的。現場からのたたき上げで、細部を積み上げて計画を練る
イメージ 数年ごとに部局を異動する官僚のように、適応力が高い 人に優しく、一人ひとりの事情をよく知っている
注意点 ― 細部の情報に引っ張られ、大局的な組織設計にバイアスが入りやすい

例えば組織再編のとき、「この部署の誰々さんには息子が2人いる」といった細部はよく把握していても、それがかえって大局的な組織の組み立てを妨げてしまうことがあります。CHROには、もう少し俯瞰できる能力が必要だと西村准教授は言います。

高い視座の経験を、早く積ませる

最も典型的な方法は、経営者候補に入れて、今より高い視座の経験を与えることです。例えば関連会社に出向させ、1段階、2段階上のポジションを任せるといった方法です。

さらに、経営層の若返りも進んでいます。西村准教授が紹介した調査では、事業部長になる年齢は、2005年には55〜56歳でしたが、2015年には45歳前後と約10歳若返り、外資系ではその後40代前半まで早まっているといいます。日本企業も同じスピード感で育てなければ、不確実な環境の中でうまくやっていけないと西村准教授は考えています。

時期 事業部長になる年齢の目安
2005年 55〜56歳
2015年 45歳前後
その後(外資系) 40代前半

出典:西村准教授への取材より(調査名は元原稿に記載なし)

日本企業のCHROは、他の経営幹部に比べるとまだ少ないと西村准教授は見ています。一部の「名物CHRO」が存在感を発揮し、人事に発破をかけている一方で、それ以外の人材がなかなか現れていないのが現状です(日本企業のCHROの設置状況や役割については、小杉俊哉氏の解説記事でも紹介しています)。

若手人事に期待される「データ」と「現場」の両立

人事が企業内でもっとリーダーシップを発揮するために、西村准教授は若手人事に2つのことを期待しています。

期待すること 内容 注意点
① エビデンスに基づく人事 社内のさまざまなデータを分析し、エビデンスを示したうえで現場に働きかける。表計算ソフトでも無料で使える分析ツールが増えている 「金づちを持つと何でもたたきたくなる」ように、データに溺れて現場を置き去りにしない
② 現場重視 現場に足を運び、何が起きているかを自分の目で見る。現場の人とのつながり(ソーシャル・キャピタル)をつくり、肌で感じる データだけで人を判断しない

海外の研究でも、人事が現場とソーシャル・キャピタルを持つことで、人事と現場の言語や知識が共有され、結果として離職率が下がることが示されているといいます。データを駆使しながらも、それだけで判断せず現場を見る――そのハイブリッドが、若手人事への期待です。

データと現場の両方から組織を理解するには、社員の声を定量的に把握する仕組みも役立ちます。

エビデンスに基づく人事の第一歩に

データで現場に働きかける人事を実践するには、社員が仕事や職場をどう感じているかを、客観的に把握することが出発点です。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」は、生成AIで従業員の属性や組織の特性に合わせた質問を作成し、組織の状態を迅速にきめ細かく可視化します。

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過去のデータは「新しいこと」には向かない

西村准教授は、初任配置や限定正社員の転換制度、人材ポートフォリオなどの研究にも取り組んでいます。初任配置は、その後のキャリアに最も強く影響する「アンカー(錨)」であるにもかかわらず、人事がどのタイミングで、なぜその仕事に就かせているのかについての研究はほとんどないといいます。

AIや機械学習の活用が進む中で、西村准教授は注意点も挙げています。機械学習は過去のデータの蓄積をもとにしているため、既存のビジネスを回す人材の選定には一定の合理性がある一方、新規事業など従来とは違うことに挑む人材を見いだすには必ずしも有効ではないのです。

「成果=能力×意欲」に人事施策で働きかける

西村准教授が共著『1からの人的資源管理』(2022年)で最も伝えたかったのは、「個人の成果=能力×意欲(×方向性)」という考え方です。能力が高く、その能力を会社のために傾ける意欲を持つ人がいれば、成果は高くなります。能力と意欲の両方、あるいは一方に人事施策で働きかけることが、人的資源管理だというのです。

働きかける要素 主な人事施策
能力(入社前) 能力の高い人を採用する
能力(入社後) 能力開発・研修を充実させる
意欲 評価や処遇を工夫する
人のソフト面(近年拡大) メンタルヘルス、健康経営、安全衛生など

近年は、メンタルヘルスや健康経営など、企業がこれまであまり力を入れてこなかったソフト面にまで人的資源管理の範囲が広がっています。それぞれの施策が「式のどこに働きかけているのか」を意識すると、人的資源管理の全体像が理解しやすくなります。

西村准教授は、人材マネジメントとソーシャル・キャピタルの関係を実証分析した単著の出版も予定しており、取材時点では、長期雇用が大切であること、そして成果主義が意外にもソーシャル・キャピタルの形成にプラスに働いているという結論になっていると語っていました。

中小・中堅企業の経営者への3つのメッセージ

最後に西村准教授は、中小・中堅企業の経営者や人事責任者に向けて、3つのメッセージを送っています。

① 人事制度は真空には存在しない――「帰属」を意識する

人事制度には、導入時の状況によって「色」がつきます。例えば成果主義が導入されたのは不景気の時期でした。会社が「社員の頑張りに報いたい」と説明しても、社員には「本音はコスト削減ではないか」と受け取られがちです。

同じ制度でも、導入の意図をどう受け止めるか(帰属)によって、「頑張りに報いるための制度だ」と感じる人もいれば、「搾取のためだ」と感じる人もいます。その違いは、モチベーションや満足度に大きく影響します。

② 人事施策のタイムラグを待つ

人事施策には、すぐに効果が出るものと時間がかかるものがあります。どこまで忍耐強く待てるかが、中小企業の経営者の腕の見せどころだと西村准教授は言います。2〜3年で「この施策は駄目だ」と諦めてしまうと、果実が実る前に撤退することになりかねません。

「その果実がなるまでじっと待ってもらいたいです。」

――西村准教授

③ 産学連携を活用する

最近は、人材マネジメントの研究者が企業と共同研究を行うことが増えています。研究者が企業のデータを分析して因果関係を推論し、企業にフィードバックする。研究者は企業名を伏せ、個人情報に配慮したうえで論文を書くことができるため、企業と研究者の双方にメリットがある関係を築けます。研究者とのコラボレーションに関心があれば、積極的にコンタクトを取ることを西村准教授は勧めています。

よくある質問(FAQ)

Q. 戦略人事を担えるCHROはどう育てればよいですか?

A. 西村准教授は、経営者候補に入れて今より高い視座の経験を与えることが典型的な方法だとしています。例えば関連会社に出向させ、1段階、2段階上のポジションを任せることです。経営層の若返りが進んでいるため、日本企業も早い段階から育てるスピード感が必要だと述べています。

Q. CHROに必要な能力は何ですか?

A. 西村准教授は、現場の細部を積み上げる力に加えて、組織全体を俯瞰する能力が必要だとしています。日本の古典的な人事部長は人に優しく細部をよく把握している一方、その情報に引っ張られて大局的な組織設計にバイアスが入りやすいため、俯瞰的な視点を養うことが重要です。

Q. リーダー開発論とは何ですか?

A. リーダー開発論とは、経営者になった人が、そこに至るまでにどんな出来事を経験し、そこから何を教訓として学んだのかを積み重ねて分析するアプローチです。西村准教授は、その人事版を調べることで、戦略人事を実践できるCHROとそうでない人の違いを明らかにしたいと考えています。

Q. 「成果=能力×意欲」とはどういう意味ですか?

A. 個人の成果は、能力と、その能力を会社のために発揮しようとする意欲の掛け算で決まるという考え方です。西村准教授は、採用や能力開発で能力に、評価や処遇で意欲に働きかけることが人的資源管理だと説明しています。

Q. 人事施策の効果が出ないときはどうすればよいですか?

A. 西村准教授は、人事施策には効果が出るまでに時間がかかるものがあり、2〜3年で諦めると果実が実る前に撤退することになると指摘しています。また、同じ制度でも社員が導入の意図をどう受け止めるか(帰属)によって効果が変わるため、意図をきちんと伝えることも重要です。

まとめ:俯瞰する視点と、データ・現場・忍耐で人事を強くする

  • リーダー開発論の視点から、戦略人事を実践できるCHROが経験してきた出来事と教訓を明らかにすることが、人事の危機の突破口になりうる
  • CHROには、現場の細部を積み上げる力に加え、組織を俯瞰する視点が必要。高い視座の経験を早く積ませることが有効
  • 若手人事には、エビデンスに基づく人事と現場重視のハイブリッドが期待される
  • 人的資源管理とは、「成果=能力×意欲」の能力と意欲に人事施策で働きかけること
  • 人事施策は導入意図の伝わり方(帰属)で効果が変わる。効果が出るまで忍耐強く待ち、産学連携も活用する

人事が再び経営の中心に立つためには、俯瞰する視点を持つ人材を育て、データと現場の両方から組織を理解し、腰を据えて施策を続けることが求められています。

意図が伝わり、効果が出るまで続けられる人事制度を

人事施策の効果を高めるには、導入の意図を社員に伝え、能力と意欲の両方に働きかける仕組みを一貫して運用することが欠かせません。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、経営に直結する戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援します。

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▶ 前編:ソーシャル・キャピタルとは?個人の力を組織力に変える人材マネジメントと、人的資本経営で高まる「人事の危機」(内部リンク)

▶ インタビュー全文:高まる人事の危機 旧来の人事の役割に逆戻りしている(後編)(JOB Scopeマガジン)