[JOBSCOPE]教授インタビュー解説

Convivial Companyとは?社員を主語にする経営|明治大学大学院・野田稔教授

作成者: JOB Scope編集部|Oct 13, 2026, 8:24:53 AM

 

Convivial Company(コンヴィヴィアル・カンパニー)とは、会社ではなく社員を主語にし、全社員が全能力を発揮できる「自立共生型」の会社のことです。明治大学大学院の野田稔教授が提唱しています。

人的資本経営への関心が高まり、人的資本の情報開示も始まりました。一方で、開示項目を埋めることが目的化し、「とにかく女性管理職比率を上げよう」といった形だけの対応に追われる企業も少なくありません。40年以上にわたって組織開発に携わってきた野田教授は、「人的資本経営のその先を見据えていく必要がある」と語ります。

本記事では、野田教授へのインタビューをもとに、開示ありきの人的資本経営の問題点、戦略的人事の原理原則、会社を「隷属」から解き放つKX(カイシャ・トランスフォーメーション)、Convivial Companyの意味、そして社員主語の会社を表す5つのコンセプトについて解説します。

この記事でわかること

・開示ありきの人的資本経営が「原理原則」に反する理由

・戦略的人事で欠かせない「役割行動」という考え方

・KX(カイシャ・トランスフォーメーション)とは何か

・Convivial Company(自立共生型の会社)の意味と特徴

・社員主語の会社を表す5つのコンセプト

取材協力:野田 稔(のだ みのる)氏

明治大学大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授、リクルートワークス研究所 特別研究顧問(取材時)。1981年一橋大学商学部卒業後、株式会社野村総合研究所に入社。1987年一橋大学大学院修士課程修了。野村総合研究所で経営戦略コンサルティング室長、経営コンサルティング一部部長を経て2001年退社。多摩大学経営情報学部教授、株式会社リクルート新規事業担当フェローを経て、2008年より現職。一般社団法人Japan Innovation Network理事。著書に『組織論再入門』『中堅崩壊』(以上、ダイヤモンド社)、『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』(フォレスト出版)、『野田稔のリーダーになるための教科書』(宝島社)、『あたたかい組織感情』(ソフトバンククリエイティブ)など多数。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

開示ありきの人的資本経営はなぜ問題なのか

野田教授によると、人的資本経営は人事の専門家にとって新しい概念ではありません。戦略的人事管理(SHRM:Strategic Human Resource Management)として、以前から考えられ、主張されてきたものです。いま新たに注目されているのは、その「開示」の部分だといいます。

2023年3月期決算からは、有価証券報告書で人的資本に関する情報の開示が求められるようになりました。人材育成方針や社内環境整備方針に加え、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差といった指標も開示の対象です。

「開示というのは、あくまでも結果の話です。」

――野田教授

本来は、戦略の実行に向けて人事管理や組織管理をどれだけ正しく行っているかがまずあり、その結果を開示する、という順番でなければなりません。ところが実際には、「女性管理職の比率が低いから、女性を無理やり管理職にしよう」「女性役員が足りないから、取りあえず社外取締役に女性を入れよう」といった、開示項目ありきの議論になってしまっていると野田教授は指摘します。

数値目標だけを追うと、指標の意味が失われる

日本企業の女性管理職の割合は、まだ高いとはいえません。帝国データバンクの調査では、管理職に占める女性の割合は平均11.1%で、管理職が全員男性という企業が42.3%と最も多くなっています。

項目 2025年の調査結果
女性管理職の割合(平均) 11.1%(過去最高)
管理職が全員男性の企業 42.3%
女性管理職が30%以上の企業 11.9%

出典:帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2025年)」。政府目標は「2020年代の可能な限り早期に30%程度」

数字の改善が必要なのは確かです。しかし野田教授は、「なぜ女性管理職比率を開示することが、自社の戦略実行にとって意味があるのか」という問いに答えられる経営者はほとんどいないのではないかと問いかけます。

指標に意味を持たせる「ストーリー」とは――D&Iを例に

指標が意味を持つのは、戦略から指標までが一本のストーリーでつながっているときです。野田教授はダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を例に、その考え方を説明します。

野田教授によると、D&Iを進める最も重要な意味は、イノベーション能力を高めることにあります(かつてテキサス・インスツルメンツの社長も、そう語っていたといいます)。その手前には、リスクマネジメントや、マイノリティの声を押し殺さないことといった段階もあります。こうした流れを踏まえると、指標までのストーリーは次のように整理できます。

段階 内容
① 基本戦略 よりイノベーティブな会社になる
② 戦略実現の手段 D&Iを推進し、会社の視点を広げる
③ 最初の一歩 まずジェンダーに目を向ける
④ 指標 女性管理職比率を高め、社外取締役に女性を起用する
⑤ 期待される効果 イノベーションの確率が高まり、多様な視点からの観察でリスクマネジメントにもつながる

このように説明できて初めて、指標に意味が生まれます。ストーリーを取り払い、「取りあえず女性を入れよう」となってしまっては、戦略的とはいえません。

戦略的人事の原理原則――鍵は「役割行動」

野田教授は、だからこそ戦略的人事に真剣に取り組むべきだと強調します。その出発点は、次のようなロジックを立てることです。

  1. 自社のパーパス(存在意義)は何か
  2. それをどんなドメイン(事業領域)で実現しようとしているのか
  3. 競合を踏まえ、今どのような戦略が必要か
  4. その戦略を実現するために、どのような人事管理・組織が必要か

戦略は「行動」から実現する

野田教授が学生に「必ず考えなければいけない」と伝えているのが、役割行動(期待されている役割にふさわしい行動)という媒介変数です。

「全ての戦略実現は行動から起きます。」

――野田教授

社員の役割行動を引き出すための道具として、評価や報酬、配置などの制度があります。それらが束ねられることで、社員に強いメッセージが伝わるのです。これは昔からある考え方であり、人的資本経営を流行りもののように捉えるのは間違いだと野田教授は言います。

制度を一つひとつ個別に整えるのではなく、戦略から逆算した「役割行動」を起点に、制度全体を束ねて設計することが求められています。

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KX(カイシャ・トランスフォーメーション)とは?――会社への「隷属」からの解放

KX(カイシャ・トランスフォーメーション)とは、制度が古く、人を道具のように扱う「昭和のカイシャ」を、人が人らしく全能力を発揮できる新しい会社へと生まれ変わらせる取り組みです。「会社」をあえてカタカナで「カイシャ」と書くのは、古い体質の会社を表すためです。

社員主体の「優良企業」が見つかった

きっかけは、野田教授がライフシフトジャパンと共に取り組んできた、人生100年時代の生き方を探る「ライフシフター」の研究です。ライフシフターとは、キャリア自立し、自分にとってのウェルビーイングが何かをわかったうえで、それに向けて自律的に動いている人のことです。

研究を進める中で、野田教授は「会社員はライフシフターになれていない」ことに気づきました。そこで、キャリア自立しながら自らの幸せを追求する社員が多い会社を探したところ、100人100通りの人事制度を掲げるサイボウズや、軽井沢のビールメーカーであるヤッホーブルーイングなど、社員セントリック(社員主体)の経営をしている会社が見つかりました。

それらの会社を調べると、働きぶりも、生産性も、イノベーションの輩出率も、非常に優良だったといいます。一見すると人に甘い会社に見えますが、実は本質を捉えている――そこから生まれたのがKXという概念です。

「産業は人間を無能化する」――イリイチの思想

KXの活動を進めるうちに、野田教授は、会社が人の能力の発揮をむしろ限定してしまう、呪縛的な存在になっていることに気づきます。そこで思い出したのが、「産業は人間を無能化している」と論じた思想家、イヴァン・イリイチでした。

イリイチは、人が便利で快適に暮らすために作った産業や技術が、やがて人を隷属させ、それなしでは生きられないほど人を無能力化してしまうと主張しました。野田教授は、最も人を隷属させているのは会社ではないかと考えます。本来、一人ではできないことを皆で成し遂げるために作った会社が、ルールや制度、決まりによって人が生き生きと働けない状態をつくってしまっている。この隷属状態から人を解放することが、KXの本質です。

Convivial Company(自立共生型の会社)とは?

「Convivial」は、英語の辞書では「(パーティーなどが)愉快で楽しい」という意味の言葉です。語源はラテン語で、「con」は「共に」、「vivial」は「生きる」を表し、社会学では「自立共生」と訳されています。つまりConvivial Companyとは、自立共生型の会社を意味します。

野田教授が描くのは、社員と会社がお互いの自由度を高め合う関係です。共有すべきものはパーパスくらいで、あとは相互作用の中で、皆にとって最も効率のよいあり方を、それぞれが主体となってつくっていけばよい――という考え方です。

  従来の「カイシャ」 Convivial Company
経営の主語 会社 社員
社員と会社の関係 会社への包摂・隷属 自立した個人どうしの共生
共有するもの ルール・制度・価値観の全般 主にパーパス
社員の自由と責任 自由度が低く、指示に従う 高いレベルの自由と自己責任
能力の発揮 制度や慣習が能力の発揮を限定する 全社員が全能力を発揮できるよう制度が整っている

社員それぞれが意思決定し、目的を実現していくティール組織や、その具体的な形の一つである全社員が意思決定権を持つフラットな組織も、まさに「Convivial」な状態だと野田教授は言います。

ただし、これは言うは易く行うは難しです。経営陣にとっては大きなパラダイムチェンジが必要になります。

社員主語の会社を表す5つのコンセプト

野田教授は、有名企業のHRエキスパートであるコアメンバーと2年近く議論を重ね、社員セントリックな会社の構造を5つのコンセプトと25のゴールにまとめました。

コンセプト 意味
① 想いドリブン 誰かが作ったパーパスの押し付けではなく、一人ひとりの想いを結集してパーパスを作り上げている
② つながりリデザイン 会社の一員という包摂関係ではなく、必要だからつながっている、緩やかで主体性のある関係
③ 旅の仲間バラエティ 多様な人がいて、会社を中心とした放射状ではなく、人と人とが直接つながり主体的に関わり合っている
④ わがままセントリック 利己的という意味ではなく「我がまま(自分らしく)」。皆が想いを口にし、互いに応援し合っている
⑤ 変態インフィニティ 自己効力感が高まり、会社全体として変化を恐れなくなっている

コアメンバーの一人であるカゴメの有沢正人氏は、こうした状態を「主権在民」という言葉で表現しているといいます。

野田教授らは、この5つのコンセプトを指標化した「KX Score」を開発し、一般の会社員約1,500人を対象に「カイシャの未来度実態調査」を実施しました。その結果と、社員主語の職場をつくる具体的なステップは、後編で詳しく解説します。

よくある質問(FAQ)

Q. Convivial Companyとは何ですか?

A. Convivial Company(コンヴィヴィアル・カンパニー)とは、会社ではなく社員を主語にし、全社員が全能力を発揮できる自立共生型の会社のことです。明治大学大学院の野田稔教授が提唱しています。社員と会社が互いの自由度を高め合い、社員は高いレベルの自由と自己責任を享受します。

Q. 「Convivial」とはどういう意味ですか?

A. 英語の辞書では「愉快で楽しい」という意味ですが、語源はラテン語で、「con」は「共に」、「vivial」は「生きる」を表します。社会学では「自立共生」と訳されており、野田教授はこの意味でConvivial Companyという言葉を使っています。

Q. 開示ありきの人的資本経営の何が問題ですか?

A. 野田教授は、開示はあくまでも結果を見せるものだと指摘しています。本来は戦略の実行に向けて人事管理や組織管理を正しく行い、その結果を開示する順番であるべきです。開示項目を埋めることが先に立つと、女性を無理に管理職にするなど、戦略とつながらない形だけの対応になってしまいます。

Q. KX(カイシャ・トランスフォーメーション)とは何ですか?

A. KXとは、制度が古く人を道具のように扱う「昭和のカイシャ」を、人が人らしく全能力を発揮できる新しい会社へと生まれ変わらせる取り組みです。野田教授は、会社が人の能力の発揮を限定する呪縛的な存在になっていると捉え、その隷属状態から人を解放することがKXの本質だとしています。

Q. 社員主語の会社を表す5つのコンセプトとは何ですか?

A. 野田教授らがまとめたのは、「想いドリブン」「つながりリデザイン」「旅の仲間バラエティ」「わがままセントリック」「変態インフィニティ」の5つです。一人ひとりの想いからパーパスをつくり、緩やかで主体的なつながりの中で、自分らしさを応援し合い、変化を恐れない会社の状態を表しています。

まとめ:人的資本経営の「その先」は、社員を主語にする経営

  • 人的資本経営は昔からある戦略的人事管理であり、開示はあくまで「結果」。開示項目ありきの対応は原理原則に反する
  • 指標が意味を持つのは、パーパスや戦略から指標までが一本のストーリーでつながっているとき
  • 戦略は社員の「役割行動」から実現する。制度は役割行動を引き出すために束ねて設計する
  • KXとは、人を隷属させる「昭和のカイシャ」から、全能力を発揮できる会社への転換
  • Convivial Companyとは、社員を主語にし、自由と自己責任のもとで全社員が全能力を発揮する自立共生型の会社

後編では、5つのコンセプトを指標化した「KX Score」の調査結果、Convivialがイノベーションの必要条件である理由、職場から始める実践のステップ、そしてリーダーと人事に求められる新しい役割について解説します。

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▶ 後編:自律型組織のつくり方とは?「Convivial WorkPlace」から始める社員主体の職場づくり(内部リンク)

▶ インタビュー全文:人的資本経営の先を見据えよう。全社員が全能力を発揮する「Convivial Company」とは(前編)(JOB Scopeマガジン)