[JOBSCOPE]教授インタビュー解説

組織変革を人事が止める理由と脱却法|早稲田大学ビジネススクール・池上重輔教授

作成者: JOB Scope編集部|Oct 13, 2026, 12:16:25 PM

 

組織変革において人事に求められるのは、戦略に合わせて組織や人材のあり方を柔軟に変えていく役割です。しかし早稲田大学ビジネススクールの池上重輔教授は、真面目で優秀な人事ほど、善意から変革の「ストッパー」になってしまうことがあると指摘します。

前編では、戦略と組織を整合させる「アラインメント・フレームワーク」と、戦略によってふさわしい人事の型が変わることを紹介しました。環境が変われば戦略も組織も変わる――その変化を進めるうえで、人事やリーダーはどうあるべきなのでしょうか。

本記事では、池上教授へのインタビューをもとに、状況によって変わるリーダーシップ、人事が組織変革を止めてしまう理由と古いパラダイムからの脱却法、日本企業の将来戦略としてのインバウンドビジネス、戦略と組織の整合を説く書籍『リアライン』、そして中小・中堅企業に求められる「観察に基づく承認」について解説します。

この記事でわかること

・最適な組織やリーダーシップが「場合による」理由

・真面目で優秀な人事が、善意から変革を止めてしまう仕組み

・古いパラダイムから抜け出すための2つの方法

・日本企業の将来戦略として、池上教授がインバウンドビジネスに注目する理由

・中小・中堅企業に必要な「観察に基づく承認」

取材協力:池上 重輔(いけがみ じゅうすけ)氏

早稲田大学大学院 経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)教授(取材時)。早稲田大学商学部卒業。一橋大学博士(経営学)。英国ケンブリッジ大学ジャッジ経営大学院MBA、英国シェフィールド大学大学院・英国ケント大学大学院にて国際関係学修士。ボストン・コンサルティング・グループ、MARS JAPAN、ソフトバンクECホールディングス、ニッセイ・キャピタルを経て、2016年より早稲田大学ビジネススクール教授。早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所 所長。専門は経営戦略、国際経営、グローバルリーダーシップ、インバウンドビジネス。著書に『シチュエーショナル・ストラテジー』(中央経済社)など。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

最適な組織やリーダーシップは「場合による」

多くの伝統的な日本企業は、オペレーションの効率を求める事業モデルに合うとして、ピラミッド型組織を続けてきました。それが最適解だったからです。ところが最近は、「次の最適解はネットワーク型組織だ」と、何でもネットワーク型がよいかのような論調が目立ちます。

池上教授は、絶対的な正解は1つではないと言います。どんな戦略で勝とうとしているのかによって、必要な組織の形は変わります。環境が変われば戦略も変わり、組織も常に同じ形がよいわけではありません。そこで「場合による」を具体的に場合分けしたのが、前編で紹介したアラインメント・フレームワークです。

求められるリーダーシップも、同じように戦略によって変わります。

戦略で重視すること 合いやすいリーダーシップ
効率を上げるため、全員が一つの方向に一気に進む 「俺の後についてこい」型のカリスマ的リーダー
一人ひとりが自律的に、素早く動く 皆が動きやすい環境をつくるサーバント型のリーダー

(全員がリーダーシップを発揮する時代のリーダー像については、小杉俊哉氏の解説記事でも紹介しています。)

人事が組織変革の「ストッパー」になる理由

池上教授は、人事が柔軟にオープンに考えられることの重要性は極めて大きいと言います。オープンイノベーションや新しい挑戦を掲げながら、結局は人事が企業変革のストッパーになっている企業を、ときどき見かけるからです。

社長は会社を変えたいと考え、周囲にも同じ考えの人が増えている。それでも、「会社を守るのは自分たちだ」という強い責任感を持つ人事が、極めて善意で変革を止めてしまうことがあるといいます。

なぜ善意の人事が変革を止めてしまうのか

こうした人事担当者の多くは、真面目で能力が高く、周囲の信頼も厚く、経験も豊富です。しかし、人事である程度偉くなる人は、既存のパラダイム(考え方の枠組み)の中で成功してきた人です。勉強熱心なので新しいキーワードも知っていますが、自分の基本的な価値観は自分では見えません。そのため、古い価値観で判断していることに気づかないまま、会社のために最善と信じて行動した結果、変革を止めてしまうのです。

古いパラダイムから抜け出す2つの方法

古いパラダイムから抜け出すのは簡単ではありません。池上教授は、次の2つの方法を示しています。

方法 進め方 注意点
① 外部から人材を迎える(急ぐ場合) ある程度のリスクを承知で人事担当者を入れ替える。目指す組織・人事をすでに実行できている会社から人材を招く とがりすぎた人は職場で浮いてしまう。1〜2人では社内に染まってしまうため、価値観を変えられる人数で重層的に入れ替える
② 社内人材を社外で修行させる(時間をかけられる場合) 人事担当者自身が、他社でどっぷりと他流試合を経験する実践的な学びの場を設ける 短期間ではわからないため、できれば1年程度。社内の常識が世間でどう見えるかをすり合わせて戻ってくる

「人事は社員を他流試合に送り込むことが多くても、自分が行くという人は少ないような気がしますね。」

――池上教授

だからこそ、人事担当者自身が外の世界に触れる仕組みが必要だと池上教授は語ります。

外の知見を取り込みながら人事のあり方を見直すには、専門家の視点を借りることも有効な手段です。

外部の知見を取り入れて、人事のあり方を見直す

社内の常識にとらわれずに人事を変えるには、外部の専門家の視点を取り入れることが近道です。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、戦略に直結する人事制度の設計から組織への定着までを支援します。

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日本企業の将来戦略――池上教授がインバウンドビジネスに注目する理由

国際経営やグローバルリーダーシップ、新事業創造など幅広い分野を研究する池上教授が、いま最も注目しているのがインバウンドビジネスです。ここでいうインバウンドは観光だけでなく、海外からの企業や不動産への投資なども含め、国外の資源を活用するビジネス全般を指します。注目する理由は、消去法だといいます。

  • 数十社の日本のトップ企業の経営幹部と将来戦略を議論する中で、国内で利益を伴って成長できる事業分野は極めて少ないとわかった
  • ヘルスケアや介護は量的には伸びるが、投入されるお金の総量は増えにくく、1人当たりの金額は減っていく可能性が高い
  • 海外に出て何年もコミットする人は、地域でもグローバル企業でも極めて少ない(池上教授の感覚では2割もいない)
  • それならば、海外から来てもらうインバウンドに活路を見いだすべき

一方で、インバウンドには明るい材料もあります。観光は日本が世界で最も高い評価を受けている分野の一つです。世界経済フォーラムの「旅行・観光開発指数」で、日本は2021年版で初めて世界1位となりました。2024年版では3位でしたが、2026年版で再び1位に返り咲いています。

指標 数値
訪日外国人旅行者数(2025年) 約4,268万人(過去最高)
訪日外国人旅行消費額(2025年) 約9.5兆円(過去最高)
政府目標(2030年) 旅行者数6,000万人、消費額15兆円

出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」、観光庁「インバウンド消費動向調査」(2025年は速報値)

戦略・組織・人事の「分断」を解く『リアライン』

池上教授は、アラインメント・フレームワークの提唱者であるジョナサン・トレバー博士の著書『リアライン:ディスラプションを超える戦略と組織の再構築』で、聞き手と監訳を務めました。環境が大きく変わる中で、事業戦略や組織を「リアライン(再整合)」することの重要性を説き、具体的な解決策を示した本です。

出版の背景には、「分断されているのは不幸である」という問題意識がありました。学問の世界では、戦略は戦略、組織は組織の専門家に分かれています。会社も同じで、CSO(最高戦略責任者)、CFO(最高財務責任者)、CHRO(最高人事責任者)など多くのCxOがいながら、全体の整合をとるのは結局社長だけになりがちです。その整合のとり方を多くの人が知らないことが、混乱の原因になっていると池上教授は指摘します。

中小・中堅企業へのメッセージ――「観察」したうえで「承認」を

一般に、中小・中堅企業の人事は、大企業に比べて採用力が弱くなりがちです。そのため、「こんな人を採用できたらよい」という理想論ではなく、今いる人をいかに生かすかという、資源に立脚した人事戦略が重要になります。

そこで池上教授が強調するのが、今いる人をどう承認するかです。ただし、承認とは何でも褒めることではありません。相手が褒めてほしいところをよく見ること、つまり観察が欠かせません。

  1. 一人ひとりをしっかり観察する:相手が認めてほしいと思っている点を見極める
  2. 観察したうえで適切に承認する:何でも褒めるのではなく、その人に合った承認をする
  3. 作り手の論理になっていないか自問する:会社側の都合(サプライヤーロジック)で人事をしていないかを振り返る

「観察をした上で適切な承認を」いうのが僕からのメッセージです。

――池上教授

特に中小・中堅企業では、人事評価の仕組みを入れた途端に、社員への観察が薄くなる例が少なくないといいます。仕組みが必要な場面もありますが、そのときこそ一人ひとりをしっかり見ることが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q. 組織変革で人事はどんな役割を果たすべきですか?

A. 池上教授は、人事が柔軟かつオープンに考え、戦略に合わせて組織や人材のあり方を変えていくことが重要だとしています。どの組織形態やリーダーシップが最適かは戦略によって変わるため、人事が一つの形に固執せず、戦略との整合を考えることが求められます。

Q. なぜ人事が組織変革を止めてしまうことがあるのですか?

A. 人事で偉くなる人の多くは、既存のパラダイムの中で成功してきた真面目で優秀な人です。自分の基本的な価値観は自分では見えないため、古い価値観で判断していることに気づかないまま、会社のためという善意で変革を止めてしまうことがあると池上教授は指摘しています。

Q. 人事が古いパラダイムから抜け出すにはどうすればよいですか?

A. 池上教授は2つの方法を示しています。急ぐ場合は、目指す組織・人事を実行できている会社から、社内の価値観を変えられる人数の人材を重層的に迎えること。時間をかけられる場合は、人事担当者自身を1年程度、他社で他流試合させ、社内の常識を世間とすり合わせることです。

Q. なぜインバウンドビジネスが日本の将来戦略として注目されるのですか?

A. 池上教授は、国内で利益を伴って成長できる事業分野が少なく、海外に長期間コミットする人材も少ないことから、消去法で国外の資源を呼び込むインバウンドビジネスに注目しています。観光分野で日本は世界的に高く評価されており、世界経済フォーラムの旅行・観光開発指数では2026年版で世界1位となっています。

Q. 中小企業の人事で大切なことは何ですか?

A. 池上教授は、採用力が弱くなりがちな中小・中堅企業では、今いる社員をいかに生かすかが重要だとしています。そのために、一人ひとりをよく観察し、その人が認めてほしい点を見極めたうえで適切に承認すること、人事評価の仕組みを入れても観察を怠らないことを勧めています。

まとめ:変革を進める人事は、外の視点と「観察」から

  • 最適な組織形態やリーダーシップに唯一の正解はなく、戦略によって変わる
  • 既存のパラダイムで成功してきた真面目で優秀な人事ほど、善意から変革を止めてしまうことがある
  • 古いパラダイムからの脱却には、外部人材の重層的な登用か、人事自身の1年程度の他流試合が有効
  • 池上教授は、国内成長分野の少なさから、日本の将来戦略としてインバウンドビジネスに注目している
  • 中小・中堅企業では、一人ひとりを観察したうえでの適切な承認が、今いる人材を生かす鍵

戦略・組織・人事の分断を解き、環境の変化に合わせて組織を「リアライン」し続けること。その中心にいる人事こそ、外の世界に触れ、目の前の社員一人ひとりを見つめ直すことが求められています。

社員一人ひとりの「観察」を、データで補う

一人ひとりをよく観察するには、日々の対話に加えて、社員が仕事や職場をどう感じているかを客観的に知る手段も役立ちます。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」は、生成AIで従業員の属性や組織の特性に合わせた質問を作成し、組織の状態を迅速にきめ細かく可視化します。

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▶ 前編:ジョブ型とメンバーシップ型、どちらを選ぶべき?戦略と組織を整合させる「アラインメント・フレームワーク」(内部リンク)

▶ インタビュー全文:経営戦略の視点から見える、企業人事の違和感とは(後編)(JOB Scopeマガジン)