インフラ型組織とは、個人が市場や顧客と直接向き合って仕事をし、組織はその一人ひとりが働きやすく成果を上げるための「場」を提供して支援する組織です。組織論の第一人者である同志社大学の太田肇名誉教授は、交通網やエネルギーのように個人を下支えするこの組織こそ、これからの時代に求められると語ります。
前編で見たように、日本型組織(共同体型組織)は内側から変わる力を持たず、若い人の声が届きにくい構造を抱えています。では、どのような組織へ移行すればよいのでしょうか。
本記事では、太田名誉教授へのインタビューをもとに、インフラ型組織の考え方と従来の組織との違い、中小企業が移行するための2つの方法、日本を飛び出す若者と「しがみつく」若者の二極化、そしてAIが働き方や組織にもたらす変化について解説します。
この記事でわかること
・インフラ型組織とは何か――ピラミッド型・共同体型組織との違い
・インフラ型組織が求められるようになった背景(デジタル化)
・中小企業が移行するための「人を限定する」「期限を区切る」方法
・野心的な若者が海外に活躍の場を求める「二極化」
・AIと人の役割分担と、DXが進まない本当の理由
同志社大学 名誉教授(取材時)。兵庫県出身。神戸大学大学院経営学研究科修了。経営学博士。専門は組織論。公務員を経て、三重大学人文学部助教授、滋賀大学経済学部教授を歴任し、2004年より同志社大学政策学部教授。2025年4月より現職。個人の能力を引き出す組織のあり方を研究している。近著に『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』(集英社新書、2025年)、『「自営型」で働く時代――ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社、2023年)、『何もしないほうが得な日本――社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP新書、2022年)、『同調圧力の正体』(PHP新書、2021年)など。『プロフェッショナルと組織』で組織学会賞、『仕事人(しごとじん)と組織――インフラ型への企業革新』で経営科学文献賞、『ベンチャー企業の「仕事」』で中小企業研究奨励賞本賞を受賞。著書は約40冊にのぼる。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
これまでの組織論では、欧米のピラミッド型組織(機械型組織、官僚制組織とも)や、日本の有機的な共同体型組織が取り上げられてきました。いずれも個人は組織の一員であり、表に出ることなく、いわば黒子として仕事をし、市場や社会と直接接することはあまりないスタイルでした。
これに対して太田名誉教授が提唱するのが、インフラ型組織です。組織は、一人ひとりが働きやすく、仕事で成果を上げるために必要な「場」を提供し、支援する。交通網やエネルギー、情報網といった社会のインフラストラクチャー(生活基盤)と同じ役割を、組織が果たすという考え方です。
| 観点 | ピラミッド型組織 | 共同体型組織 | インフラ型組織 |
|---|---|---|---|
| 主な例 | 欧米の機械型・官僚制組織 | 日本型組織 | 太田名誉教授が提唱 |
| 個人の位置づけ | 組織の一員(黒子) | 組織の一員(黒子) | 主役。市場や顧客と直接向き合う |
| 組織の役割 | 個人を組織の一員として動かす | 個人を組織の一員として動かす | 個人が働き、成果を上げるための「場」を提供し、支援する |
| たとえ | ― | ― | 組織は舞台、個人は舞台の上で活躍する演者 |
出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成
太田名誉教授は、芸能人やタレントと舞台にたとえます。組織は舞台であり、その上で一人ひとりが活躍する。それを支えるのが組織の役割だというのです。インフラ型組織の詳細は、太田名誉教授の著書『仕事人と組織――インフラ型への企業革新』(有斐閣)で論じられています。
今の時代は、個人が直接、市場や顧客と向き合って仕事をするようになり、個人の高い意欲や能力によって新しいビジネスが生まれ、事業が成長しています。その背景にあるのがデジタル化です。パソコン1台があれば、世界とコミュニケーションを取りながら仕事ができる。周辺部分は他の人の力を借りればよく、個人が主体となってビジネスができるようになったのです。
組織規模の小さい中小企業は、インフラ型組織に移行しやすく、実際に移行している企業もあると太田名誉教授は言います。その基本は、個人に権限と責任を与えることです。
とはいえ、今いるすべての社員に、いきなり「なかば自営業のように、まとまった仕事をこなす『自営型』の感覚で働いてほしい」「会社は『場』だから、自分が主体になって市場や顧客と向き合ってほしい」と求めるのはハードルが高いもの。そこで太田名誉教授は、対象を限定して進める2つの方法を挙げます。
| 方法 | 進め方 |
|---|---|
| ① 人を限定する | やる気や意欲、能力のある社員には「自営型」の働き方を促し、そうでない社員はしばらく今までどおりの働き方とする |
| ② 期限を区切る | 例えば入社後3年間は徒弟制のような、あるいは今までどおりの働き方をする。3年経ったら、会社をインフラとして使い、自分が中心となって「自営型」の感覚で仕事をしてもらう |
出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成
実際に、このような移行期間を設けて成功している例もあると太田名誉教授は言います(社員主体の職場づくりについては、野田稔教授の解説記事でも紹介しています)。
個人に権限と責任を与えるには、誰がどこまでの仕事を担い、どんな成果を期待されているのかを、会社と本人が共有できていることが前提になります。
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最近は、高校を卒業したばかりの18歳、19歳の若者が、日本を離れて米国などに飛び込んでいくケースも増えています。こうした若者は今後も増えていくのでしょうか。
太田名誉教授は、二極化すると見ています。一部の意欲ある野心的な若者は日本を飛び出していく。一方で、そうでない若者は「今までどおり日本型組織にしがみつき、ぶら下がっていたほうが得だ」と考えるはずで、間違いなく後者のほうが多いだろうといいます。
意欲ある若者が組織の外に活躍の場を求める一方、組織の中には「何もしないほうが得」と考える人が残る。個人が主役になれる「場」を用意できるかどうかが、組織に問われているのです。
太田名誉教授が今後考察を深めたい論点の一つが、デジタル化、とりわけAIの急速な進化によって、日本人の働き方や行動様式、組織との関係がどう変わるかです。デジタルを最大限に活用し、個人が力を発揮できる働き方や組織を考えたいといいます。
AIは組織を大きく変えるのか。その問いに太田名誉教授は「大きく変えると思っています」と答え、それは5年・10年先ではなく、もっと近いと言います。今、人間にしかできないと言われていることの多くは、実際にはすでにAIで可能だと指摘されているからです。
ところが、大企業に聞いても「なかなかデジタル化やDXが進まない」という声が返ってきます。その理由は、デジタル化やDXが進むと、今の社員の仕事がなくなってしまうから。経営陣はよく、そうした本音を漏らすといいます。
AIができることはAIにさせる。そして人間にしかできないことに特化する。AIと人間とで、ある意味の役割分担をしながら仕事をするようにしないといけません。
――太田名誉教授
そうすれば生産性ははるかに上がり、業務の効率化も進みます。太田名誉教授は、問題は既得権にしがみつく人や変化を嫌う人をいかにケアするかだけだと言います(AI時代の雇用のあり方については、守屋貴司教授の解説記事でも紹介しています)。
| 対応 | 内容 |
|---|---|
| AIに任せる | AIができることはAIにさせる |
| 人が担う | 人間にしかできないことに特化する |
| 組織がケアする | 既得権にしがみつく人や、変化を嫌う人へのケアを考える |
出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成
太田名誉教授は2018年に『「ネコ型」人間の時代――直感こそAIに勝る』(平凡社新書)を著し、変化の激しいAI時代を生き残るための行動様式への転換を説いていました。AIにはずっと関心を持って見てきたといい、テクノロジーの急速な進歩が働き方や組織づくりにどのようなインパクトをもたらすのか、今後もウォッチし続けたいと語ります。
太田名誉教授は、AIをはじめとするデジタル革命は、日本型組織をモデルチェンジ(抜本的な改革)する原動力になると見ています。内側から変わる力を持たない共同体型組織にとって、AIは外圧に代わる変化のきっかけになり得るのです。
A. 太田名誉教授が提唱する組織のあり方で、個人が市場や顧客と直接向き合って仕事をし、組織はその一人ひとりが働きやすく成果を上げるための「場」を提供して支援します。交通網やエネルギーのような社会のインフラと同じ役割を組織が果たすという考え方です。
A. 欧米のピラミッド型組織も日本の共同体型組織も、個人は組織の一員、いわば黒子として働き、市場と直接接することはあまりありませんでした。インフラ型組織では個人が主役となり、組織は舞台のようにそれを支える役割を担います。
A. 太田名誉教授は、基本は個人に権限と責任を与えることだとしています。全員に一度に求めるのではなく、意欲や能力のある社員に限定して「自営型」の働き方を促す方法や、入社後3年間は従来どおりの働き方とし、その後に自営型へ移るなど期限を区切る方法を挙げています。
A. 太田名誉教授によれば、デジタル化やDXが進むと今の社員の仕事がなくなってしまうからだと、経営陣が本音を漏らすことが多いといいます。AIにできることはAIに任せ、人間にしかできないことに特化する役割分担と、変化を嫌う人へのケアが必要だとしています。
A. 太田名誉教授は、AIは組織を大きく変え、それは5年・10年先よりも近い将来だと見ています。AIをはじめとするデジタル革命は、日本型組織をモデルチェンジ(抜本的に改革)する原動力になるとしています。
共同体型組織は、内側から変わる力を持ちません。だからこそ、外圧やAIの進化を待つのではなく、個人に権限と責任を与え、一人ひとりが主役になれる「場」を自らつくっていくことが、これからの組織に求められています。
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▶ 前編:日本型組織の問題点とは?不祥事が「ドミノ倒し」のように続く理由と、本音と建前・人格的な上下関係から抜け出す視点(内部リンク)
▶ インタビュー全文:根本的な改革が急務となる日本型組織(後編)(JOB Scopeマガジン)