日本型組織の問題点とは?不祥事が続く理由と変わる視点|同志社大学・太田肇名誉教授

 

日本型組織の問題点は、教科書どおりの公式な組織と、仲間内の共同体という二つの顔を併せ持ち、内側から変わる力を持たないことにあります。組織論の第一人者である同志社大学の太田肇名誉教授は、この「共同体型組織」の病理が、名だたる組織から職場や地域まで、あらゆる日本の組織で表面化していると指摘します。

日本を代表してきた組織で、不祥事やスキャンダルが次々と明るみに出る――まるで「負のドミノ倒し」のような事態が、近年相次いでいます。今なぜなのか、共通する要因はあるのか、そして組織はどう変わればよいのか。太田名誉教授は、こうした疑問に応えるため、2025年3月に『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』(集英社新書)を著しました。

本記事では、太田名誉教授へのインタビューをもとに、日本型組織(共同体型組織)の特徴、不祥事が連鎖した背景、「挑戦」を掲げながら調和を重んじる組織の矛盾、本音と建前の問題、そして管理職と部下の関係を「フラット」にする視点について解説します。

この記事でわかること

・日本型組織=「共同体型組織」の特徴と問題点

・組織の不祥事が「ドミノ倒し」のように続いた背景

・「挑戦」を掲げながら調和型の人材を採る経営者の葛藤

・本音と建前の正体=組織と個人の利害の不一致

・ハラスメントを防ぐ「人格的にフラットな」上司と部下の関係

取材協力:太田 肇 氏

同志社大学 名誉教授(取材時)。兵庫県出身。神戸大学大学院経営学研究科修了。経営学博士。専門は組織論。公務員を経て、三重大学人文学部助教授、滋賀大学経済学部教授を歴任し、2004年より同志社大学政策学部教授。2025年4月より現職。個人の能力を引き出す組織のあり方を研究している。近著に『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』(集英社新書、2025年)、『「自営型」で働く時代――ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社、2023年)、『何もしないほうが得な日本――社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP新書、2022年)、『同調圧力の正体』(PHP新書、2021年)など。『プロフェッショナルと組織』で組織学会賞、『仕事人(しごとじん)と組織――インフラ型への企業革新』で経営科学文献賞、『ベンチャー企業の「仕事」』で中小企業研究奨励賞本賞を受賞。著書は約40冊にのぼる。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

日本型組織とは――公式組織と共同体の「二つの顔」を持つ共同体型組織

太田名誉教授は、日本型組織を共同体型組織と呼びます。その特徴は、2つの異なる遺伝子情報を併せ持つ生物「キメラ」のように、二つの顔を持っていることです。

顔 内容
① 表の顔:公式な組織 教科書に書いてあるような、役割や規則にもとづく公式の組織
② もう一つの顔:仲間内の共同体 メンバー同士の仲間意識や序列、暗黙のルールで結びついた共同体

出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成

この両方の顔を持つことこそが、日本の組織の特徴だと太田名誉教授は言います。そして、共同体型組織は内側から自らを変える力を持っていない――ここに、日本型組織の根本的な問題があります。

さらに日本の組織は、共同体が入れ子のように何重にも重なった構造になっています。それぞれの共同体の中には序列、特に年功的な序列のピラミッドがあり、メンバーはその既得権にしがみつきがちです。

なぜ組織の不祥事が「ドミノ倒し」のように続いたのか

2023年には、芸能事務所や政党、大手メーカー、自動車関連企業、スポーツ団体など、日本を代表してきた著名な組織で不祥事やスキャンダルが相次ぎ、崩壊の危機に立たされる組織もありました。太田名誉教授は、そこにこれまで日本の組織の構造や仕組みにおいて問題視してきた点が共通して見られ、それが機能不全を起こしていると感じたといいます。

しかも、同じことはPTAや町内会、職場、学校、家庭といった身近な組織でも起きつつあります。あらゆる日本の組織に共通する一種の病理現象であり、以前からあったものが、近年ある共通の変化によって加速している――それが同書の問題意識です。

コロナ禍で強まった「内向き」の体質

なぜ2023年ごろに集中したのか。太田名誉教授は、コロナ禍の影響が大きかったと見ています。

時期 起きたこと
2020年〜(コロナ禍) 外国との交流が減り、ある種の鎖国状態に。会社は社外に対して内向きになり、地域でも「よそ者を入れない」空気が広がった。自粛要請に応じない人や店に私的な取り締まりを行う「自粛警察」も報道された
コロナ禍の収束後 閉鎖的な体質が一層強まったところで、SNSや週刊誌などが日本の組織の弱点・病理を突くようになり、さまざまなメディアもそれに呼応した

出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成

変わるきっかけは、いつも「外圧」

海外メディアの報道をきっかけに問題が一気に表面化した事例もありました。太田名誉教授は、日本の組織は内側からはなかなか変わらず、良い面でもそうでない面でも、変わるきっかけは外圧だったと言います。共同体型組織は内側から変える力を持っていないため、外圧が発端になるケースが多い。今回もその典型だというのです。

「何もしないほうが得」――短期的には続くが、長期的には変わらざるを得ない

太田名誉教授は著書の中で、近年「何もしないほうが得」という打算が顕著になっていること、そして他社の問題を「対岸の火事」として眺める姿勢を指摘しています。

この傾向は短期的には続くと太田名誉教授は見ています。ただし長期的には、変わらなければ組織が持たなくなるため、変わっていくといいます。実際、歴史ある大企業や中央省庁から若い人材が次々と飛び出しています。それはその先駆けであり、日本の組織は内側から崩壊していく可能性が高いというのです。

若い世代の声が組織に届きにくいことは、データにも表れています。日本財団が2024年に6カ国の17〜19歳を対象に行った「18歳意識調査」では、「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」と答えた割合は、日本が45.8%だったのに対し、中国は93.6%、インドは85.9%でした。

国 「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」
中国 93.6%
インド 85.9%
アメリカ 78.4%
イギリス 77.7%
韓国 71.1%
日本 45.8%

出典:日本財団「第62回 18歳意識調査『国や社会に対する意識(6カ国調査)』」(2024年)をもとに編集部作成

太田名誉教授はこの結果を「ああ、そうだろうな」と受け止めます。共同体が入れ子になり、年功的な序列のピラミッドがあるなかでは、若い人や下の立場から声を上げても潰されるし、届かないことがわかっているからだというのです。また、10年、20年前と比べて日本の組織は「変わってきている」と言われますが、太田名誉教授から見ると本質的な部分は何も変わっておらず、30年ほどのスパンで見るとむしろ逆行しているのかもしれないといいます。

「挑戦」を掲げながら調和型を採る――踏み切れない経営者

経営ビジョンや中期経営計画では「挑戦」を高らかに掲げながら、採用では積極的にチャレンジする人よりも周囲との調和を大事にする人を選ぶ――太田名誉教授は著書で、こうした傾向を指摘しています。

これは、経営者自身が葛藤を抱え、割り切れていないことの表れだと太田名誉教授は言います。挑戦する人材が必要だとわかってはいても、実際には調和型の人材を採用・重視したい。どちらにも踏み切れず、二兎を追っているのです。

ただ、競争していくためには、もう挑戦の方向に舵を切らなければ持たないと太田名誉教授は見ています。それでも今は、誰かが先陣を切るのを待っている「様子見」の状態だといいます。

本音と建前の正体は「組織と個人の利害の不一致」

経営者も人事も本音と建前を使い分けている。本音を語れるようにならなければ、組織は生き残れないのでしょうか。太田名誉教授は「そうです。ただし、時間はかかる」と答えます。

本音と建前を言い換えれば、組織の利害と個人の利害が一致していないということです。「改革やチャレンジが必要だ」というのは企業にとってはそうでも、個人の利益にはつながりません。それどころか、部下が下手に挑戦したり同僚が突っ走ったりすると、上司や周囲がしわ寄せを受け、個人にとっては何もプラスにならないこともあります。

個人の利害に落とし込んで、改革を進められるリーダーが出てくれば改革は進むと思います。

――太田名誉教授

反対に、個人の本音に耳を貸さず、組織だけで強引に突っ走れば、さまざまな理由をつけて反対され、何も進まなくなってしまうと太田名誉教授は指摘します(変われない組織の正体については、渡辺周准教授の解説記事でも紹介しています)。

改革を個人の利害に落とし込むには、まず社員一人ひとりが仕事に何を求めているのか、その「本音」を把握することが出発点になります。

社員一人ひとりの「本音」を、価値観から把握する

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子どもの頃からの「調和志向」の教育も影響

調和を重視する考え方には、子どもの頃からの教育の影響も大きいと太田名誉教授は言います。米国、特にヨーロッパでは考え方がまったく違います。太田名誉教授が訪れたデンマークでは、周りと違うことをするよう小さいときから徹底して教え込まれ、「人と同じことをやっていたら意味がない」とまで言い切るといいます。

観点 日本で根強い考え方 デンマークで聞いた考え方
評価されること 皆と仲良く、皆と同じ行動をする 自分で考え、他の人と違うことをする
評価されないこと 周りと違うことをする 周りと同じことをする、黙っている
発言 (調和を優先しがち) 間違ってもよいから手を挙げて発言するとポイントが付く

出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成

管理職へのアドバイス――キーワードは「フラット(対等)」

最近の管理職は、パワハラなどのハラスメントに過敏になり、部下と接すること自体を控えてしまう傾向も見られます。太田名誉教授も著書で、「放任型上司と未成熟な部下は不幸な組み合わせだ」と指摘しています。

では、経営者や人事責任者は管理職にどうアドバイスすればよいのか。太田名誉教授が挙げるキーワードは「フラット(対等)」です。

上下関係の種類 内容 結果
役割の上下関係 どこの国の組織にもある、役割としての上下 必要な指示や判断のために欠かせない
人格的な上下関係 先輩のほうが偉い、上から一方的に教え・指図し、下が忖度する 言動そのものがハラスメントにつながりやすい

出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成

役割の上下関係はどこの国にもありますが、日本の組織には人格的な上下関係が見られます。人格的に対等であれば、双方が必要なことを言え、適切な指示も出せるため、ハラスメントの問題の多くは防げると太田名誉教授は言います。「ビジネスライクに」と言い換えてもよいかもしれません(社員の自律性を引き出す上司のあり方については、鈴木竜太教授の解説記事でも紹介しています)。

よくある質問(FAQ)

Q. 日本型組織とはどんな組織ですか?

A. 太田名誉教授は、日本型組織を「共同体型組織」と呼んでいます。教科書どおりの公式な組織という表の顔と、仲間内の共同体という顔の二つを併せ持つ組織で、共同体が入れ子のように重なり、年功的な序列があるのが特徴です。

Q. 日本型組織の問題点は何ですか?

A. 太田名誉教授は、共同体型組織は内側から自らを変える力を持っておらず、変わるきっかけはいつも外圧だったと指摘しています。また、組織の利害と個人の利害が一致しないため本音と建前が生まれ、改革が進みにくいとしています。

Q. なぜ組織の不祥事が相次いだのですか?

A. 太田名誉教授は、コロナ禍で組織や地域が内向きになり、閉鎖的な体質が強まったことが大きいと見ています。その後、SNSや週刊誌などが日本の組織の弱点を突き、多くのメディアも呼応したことで、2023年ごろに不祥事が次々と表面化したとしています。

Q. 「挑戦」を掲げても組織が変わらないのはなぜですか?

A. 経営者自身が、挑戦する人材が必要だとわかっていながら調和型の人材を重視したいという葛藤を抱え、どちらにも踏み切れていないからだと太田名誉教授は説明しています。今は誰かが先陣を切るのを待つ様子見の状態だといいます。

Q. 管理職はハラスメントを恐れずに部下とどう接すればよいですか?

A. 太田名誉教授は、キーワードは「フラット(対等)」だとしています。役割の上下関係は必要でも、先輩が偉い、上が一方的に指図し下が忖度するといった人格的な上下関係をなくせば、双方が必要なことを言え、ハラスメントの多くは防げるといいます。

まとめ:外圧を待たず、個人の利害と対等な関係から組織を変える

  • 日本型組織は、公式な組織と仲間内の共同体という二つの顔を持つ「共同体型組織」。内側から変わる力を持たない
  • コロナ禍で強まった内向きの体質が、2023年ごろに不祥事の連鎖として表面化した
  • 「挑戦」を掲げながら調和型を採る経営者の葛藤。今は誰かが先陣を切るのを待つ様子見の状態
  • 本音と建前の正体は、組織と個人の利害の不一致。個人の利害に落とし込めるリーダーが改革を進める
  • 管理職のキーワードは「フラット」。人格的な上下関係をなくせば、ハラスメントの多くは防げる

では、共同体型組織に代わる組織とは、どのような姿なのでしょうか。後編では、個人が主役になり、組織がそれを支える「場」となる「インフラ型組織」と、中小企業での移行の進め方、AI時代の働き方について紹介します。

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Written By: JOB Scope編集部

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