[JOBSCOPE]教授インタビュー解説

ジョブ・クラフティングの効果とは?エンゲージメントとキャリア|高尾義明教授

作成者: JOB Scope編集部|Oct 19, 2026, 3:24:32 AM

 

ジョブ・クラフティングとは、働く人が与えられた仕事に自分なりの「ひと匙」を加え、仕事の手触り感を高めていくことです。京都産業大学の高尾義明教授は、ジョブ・クラフティングは仕事の意義の実感を高めてワークエンゲージメントを向上させ、キャリア形成や個人のウェルビーイングにもつながると語ります。

人材の採用が難しくなるなか、今いる人材がどれだけ力を発揮できるかが、企業の競争力を左右するようになっています。そこで注目されているのが、一人ひとりが自分の仕事を主体的に捉え直す「ジョブ・クラフティング」です。

本記事では、組織論・組織行動論を専門とし、ジョブ・クラフティングの研究と普及に取り組む高尾教授へのインタビューをもとに、ジョブ・クラフティングの考え方と3つの種類、エンゲージメントやキャリア形成、ウェルビーイングへの効果、そして今注目されている理由を解説します。

この記事でわかること

・ジョブ・クラフティングとは何か――仕事に「ひと匙」を加えるという考え方

・ジョブ・クラフティングの3つの種類(業務・関係性・認知)

・ワークエンゲージメントが高まる仕組み

・キャリア形成や個人のウェルビーイングへの効果

・ジョブ・クラフティングが今注目されている理由

取材協力:高尾 義明 氏

京都産業大学 経営学部 教授、東京都立大学 名誉教授(取材時)。1967年大阪市生まれ。京都大学教育学部(教育社会学専攻)卒業後、神戸製鋼所に入社し、本社の企画管理部門で4年間勤務。京都大学大学院経済学研究科で経営学を学び、九州国際大学経済学部専任講師、流通科学大学情報学部専任講師・助教授、首都大学東京(現・東京都立大学)大学院社会科学研究科准教授・教授、同大学大学院経営学研究科教授を経て、2025年4月より現職。専門は組織論、組織行動論。組織学会理事、経営行動科学学会理事。著書に『50代からの幸せな働き方――働きがいを自ら高める「ジョブ・クラフティング」という技法』(ダイヤモンド社)、編著に『ジョブ・クラフティング――仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』(白桃書房)など。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

研究の原点は、会社員時代の素朴な疑問

高尾教授は大学卒業後、鉄鋼メーカーで4年間、本社の企画管理部門に勤めました。そこで抱いたのが、同じ仕事をしていても、その仕事に自分なりの意味を見いだす人と、そうでない人がいるのはなぜかという疑問です。

組織の側から見れば、個人の思いは、決められた仕事を進めるうえでの「ノイズ」に近いものかもしれません。しかし、個人が思いを持って仕事に入り込むことで、成果や変革が生まれることもあります。高尾教授は大学院生のころからこのテーマを研究し、10年ほど前に「ジョブ・クラフティング」という概念に出合いました。

ジョブ・クラフティングとは――仕事に「ひと匙」を加える

ジョブ・クラフティングとは、働く人が主体的に仕事や人間関係に変化を加え、与えられた職務から自分なりの仕事の経験をつくり出すことです。学術的には、「従業員が、自分にとって意義のあるやり方で、職務の設計を再定義し、再創造するプロセス」と定義されています。

高尾教授は、これをWill(やりたいこと)・Can(できること)・Must(求められる役割)の枠組みで説明します。仕事は「Must」として与えられますが、その中に自分の「Will」や「Can」を織り込んでいく。それがジョブ・クラフティングです。

「手触り感」と「ひと匙」

高尾教授は、ジョブ・クラフティングを「仕事の手触り感を高めていくこと」と表現します。クラフト(craft)という言葉には、手を動かして何かをつくるという語感があるからです。

また、一田憲子氏の著書『「私らしく」働くこと』から借りた「ひと匙」という言葉も使っています。料理に調味料をひと匙加えると味が変わるように、仕事に自分らしさをひと匙加えるだけで、仕事の捉え方が変わる。この言葉は、大手商社の課長クラスにも伝わりやすかったといいます。

ジョブ・クラフティングは、概念として提唱される前から、実際の職場で多くの人が行ってきたことでもあります。よく知られる研究に、病院の清掃スタッフを対象にしたものがあります。自分の仕事を「マニュアルどおりに掃除をすること」と捉える人がいる一方で、「患者の回復に関わる仕事」と捉え、患者や家族との関わり方を工夫する人もいました。同じ仕事でも、捉え方によって仕事の経験は大きく変わるのです。

ジョブ・クラフティングの3つの種類

ジョブ・クラフティングは、大きく次の3つに分けられます(ジョブ・クラフティングの種類と若手社員の具体例については、池田めぐみ助教の解説記事でも紹介しています)。

種類 内容
業務クラフティング 業務の内容や進め方、手順を変えたり、工夫を加えたりする
関係性クラフティング 同僚、上司、顧客、取引先などとの関わりを増やしたり、関わり方を変えたりする
認知クラフティング 業務や仕事全体の意味や目的の捉え方を変える

出典:高尾教授への取材をもとに編集部作成

3つの種類は互いに影響し合います。例えば、業務の進め方を変えてみたことで、仕事の意味の捉え方が変わることもあります。

ジョブ・クラフティングの効果――エンゲージメントが高まる

ジョブ・クラフティングが注目されている最大の理由は、人的資本経営の広がりとともに、エンゲージメントの向上が重視されるようになったことです。高尾教授によれば、多くの研究で、ジョブ・クラフティングには次のような直接的な効果があることが確かめられています。

効果 内容
仕事とのミスマッチ感が小さくなる 自分のWillやCanを仕事に織り込むことで、「この仕事は自分に合わない」という感覚が和らぐ
仕事の意義を実感できる 仕事の意味を捉え直すことで、自分の仕事に意義を感じやすくなる
ワークエンゲージメントが高まる 上の2つを通じて、仕事への活力・熱意・没頭が高まる

出典:高尾教授への取材をもとに編集部作成

ワークエンゲージメントとは、仕事に対して活力にあふれ、熱意を持ち、没頭している状態をいいます。組織への愛着や貢献意欲を表す「従業員エンゲージメント」とは本来別の概念ですが、実務ではあまり厳密に区別されずに使われることも多いといいます。

こうした効果を通じて、チームや組織の成果が上がることも期待されています(仕事への内発的な動機づけと創造性の関係については、稲水伸行准教授の解説記事でも紹介しています)。

キャリア形成とウェルビーイングにもつながる

高尾教授は、ジョブ・クラフティングをキャリア形成の視点からも捉えています。キャリアは、目の前の仕事の積み重ねによってつくられていくものです。日本では、「目の前の仕事を通じてキャリアをつくる」という考え方が受け入れられやすいといいます。

海外では、ジョブ・クラフティングとキャリアの関係を扱った研究は、ワークエンゲージメントとの関係を扱った研究の10分の1程度にとどまると高尾教授は見ています。高尾教授の研究チームは現在、ジョブ・クラフティングとキャリア形成の関係を研究しています。

さらに、ジョブ・クラフティングは個人のウェルビーイング(心身ともに満たされた状態)の向上にもつながると期待されています。

研修で見える変化と、広がる注目

高尾教授が数年にわたって担当している大手商社の若手向け研修では、フォローアップの場で「仕事に対する見方が変わった」「モチベーションが上がった」という声が多く聞かれるといいます。大手素材メーカーでは、高尾教授がアドバイザーを務め、全社でジョブ・クラフティングを推進する組織も立ち上がりました。

時期 ジョブ・クラフティングへの注目
3〜4年前 先端的な概念として、セミナーなどで紹介される段階
取材時 主要な研修会社の多くが、ジョブ・クラフティングの研修をメニューに加えている。CHRO(最高人事責任者)の関心も高く、特にミドル・シニアの活性化への期待が高まっている

出典:高尾教授への取材をもとに編集部作成

一方で、事業部門の責任者の理解はまだ十分ではないといいます。ジョブ・クラフティングを組織に根づかせるには、社員一人ひとりが仕事に何を求めているのかを知ることが出発点になります。

社員一人ひとりの「Will」を把握する

仕事に自分らしさを織り込むには、社員が仕事に何を求めているかを知ることが出発点になります。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」では、従業員が仕事に求める価値観を分析し、配置や育成、エンゲージメント向上の施策を考えるヒントを得られます。

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よくある質問(FAQ)

Q. ジョブ・クラフティングとは何ですか?

A. 働く人が主体的に仕事や人間関係に変化を加え、与えられた職務から自分なりの仕事の経験をつくり出すことです。高尾教授は、与えられた仕事(Must)に自分のやりたいこと(Will)やできること(Can)を「ひと匙」織り込み、仕事の手触り感を高めることだと説明しています。

Q. ジョブ・クラフティングにはどんな種類がありますか?

A. 業務の内容や進め方を工夫する「業務クラフティング」、同僚や顧客などとの関わり方を変える「関係性クラフティング」、仕事の意味や目的の捉え方を変える「認知クラフティング」の3つがあります。3つは互いに影響し合います。

Q. ジョブ・クラフティングにはどんな効果がありますか?

A. 多くの研究で、仕事とのミスマッチ感が小さくなり、仕事の意義を実感しやすくなることが確かめられています。それを通じてワークエンゲージメントが高まり、チームや組織の成果、個人のウェルビーイングの向上も期待されています。

Q. ジョブ・クラフティングはキャリア形成に役立ちますか?

A. 高尾教授は、キャリアは目の前の仕事の積み重ねでつくられるものであり、ジョブ・クラフティングはキャリア形成にもつながると考えています。日本では「目の前の仕事を通じてキャリアをつくる」という考え方が受け入れられやすく、高尾教授の研究チームが両者の関係を研究しています。

Q. なぜ今、ジョブ・クラフティングが注目されているのですか?

A. 人的資本経営の広がりとともに、エンゲージメントの向上が重視されるようになったことが最大の理由です。人材の採用が難しくなるなか、今いる人材、特にミドル・シニアの活性化への期待も高まっており、多くの研修会社が研修をメニューに加えています。

まとめ:仕事に「ひと匙」を加え、手触り感を取り戻す

  • ジョブ・クラフティングとは、与えられた仕事に自分なりの「ひと匙」を加え、手触り感を高めること
  • 業務・関係性・認知の3つの種類があり、互いに影響し合う
  • 仕事とのミスマッチ感を減らし、仕事の意義を実感させることで、ワークエンゲージメントが高まる
  • 目の前の仕事の積み重ねがキャリアをつくり、ウェルビーイングの向上にもつながる
  • 人的資本経営の広がりとともに注目が高まり、ミドル・シニアの活性化にも期待が集まる

では、ジョブ・クラフティングを職場や組織はどう後押しすればよいのでしょうか。中編では、職場と人事による支援のあり方と、ミドル・シニアの活性化に生かす方法、そして越境の効用を紹介します。

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