ミドル・シニアの活性化には、豊富な経験やスキルを自分なりに仕事に生かす「ジョブ・クラフティング」が有効です。京都産業大学の高尾義明教授は、ジョブ・クラフティングは本人の主体性が出発点であるものの、職場と人事が「やってみたいなら支援します」という姿勢を示すことで、実践を後押しできると語ります。
少子高齢化で働き手が減るなか、ミドル・シニア世代の活躍は、多くの企業にとって欠かせないテーマになっています。しかし、この世代には昇進や報酬といった従来の動機づけが効きにくいという難しさがあります。
本記事では、高尾教授へのインタビューをもとに、ジョブ・クラフティングを職場と組織がどう後押しできるか、ミドル・シニアの活性化にどう生かすか、年齢による偏見(エイジズム)を避ける見方、そして越境の効用を解説します。
この記事でわかること
・ジョブ・クラフティングを、職場や組織が後押しする方法
・職場と組織の2つのレベルで、人事が果たす役割
・ミドル・シニアの活性化に、ジョブ・クラフティングが有効な理由
・年齢で判断しない「エイジズムの回避」と、同世代への広げ方
・越境や副業が、自分の「ひと匙」を見つけるきっかけになる理由
取材協力:高尾 義明 氏
京都産業大学 経営学部 教授、東京都立大学 名誉教授(取材時)。1967年大阪市生まれ。京都大学教育学部(教育社会学専攻)卒業後、神戸製鋼所に入社し、本社の企画管理部門で4年間勤務。京都大学大学院経済学研究科で経営学を学び、九州国際大学経済学部専任講師、流通科学大学情報学部専任講師・助教授、首都大学東京(現・東京都立大学)大学院社会科学研究科准教授・教授、同大学大学院経営学研究科教授を経て、2025年4月より現職。専門は組織論、組織行動論。組織学会理事、経営行動科学学会理事。著書に『50代からの幸せな働き方――働きがいを自ら高める「ジョブ・クラフティング」という技法』(ダイヤモンド社)、編著に『ジョブ・クラフティング――仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』(白桃書房)など。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
ジョブ・クラフティングは本人の主体性が出発点、でも支援はできる
ジョブ・クラフティングは、本人の主体性から始まるものです。高尾教授は、目標管理で「ジョブ・クラフティングを何件実施する」といった目標を課すやり方は、本来の趣旨からずれていると指摘します。
とはいえ、周囲にできることがないわけではありません。本人の動きを後押しする、受け止める、一緒に考える――そうした関わりが実践を支えます。研究でも、周囲のサポートがある職場や、裁量や自律性が高い職場ほど、ジョブ・クラフティングが促されやすいとされています。逆に、提案が受け入れられない職場や、意見を否定される職場では、そもそも工夫しようという意欲が生まれにくくなります。
高尾教授が勧めるのは、「やりなさい」ではなく、「やってみたいなら支援します」という姿勢を組織として示すことです。
| 好循環のステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 風土とマインドセットを育てる | 自律性や主体性を大切にする風土をつくり、「仕事は自分で変えてよい」という考え方を育てる |
| ② 実践する | 本人が、仕事に自分なりの工夫を加えてみる |
| ③ 仕事の経験が変わる | 仕事の手触り感や意義の実感が高まる |
| ④ 意欲がさらに高まる | 次の工夫への意欲が生まれ、①に戻って循環する |
出典:高尾教授への取材をもとに編集部作成
職場と組織、2つのレベルでの人事の役割
高尾教授は、ジョブ・クラフティングを後押しするうえで、職場と組織の2つのレベルで考える必要があると言います。
| レベル | 主な担い手 | ポイント |
|---|---|---|
| 職場 | マネジャー | マネジャーの姿勢や職場の空気感が重要。特に「部下の工夫は、チームの成果につながる」という信念を持てるかが鍵 |
| 組織 | 人事・経営層 | 「個人が主体的に仕事を変えることは望ましい」と発信する。人事制度や評価、経営者の言動に一貫性を持たせる |
出典:高尾教授への取材をもとに編集部作成
「工夫してよい」と言いながら、評価では決められたことだけを求める――そうした矛盾があると、社員は動けません。発信と制度と言動をそろえることが、組織としての後押しになります。
ミドル・シニアの活性化に、ジョブ・クラフティングが有効な理由
少子高齢化で働き手が減り、ミドル・シニアの活性化へのニーズは高まっています。しかし、この世代には昇進や報酬といったインセンティブが効きにくくなります。そこで注目されているのがジョブ・クラフティングです。もちろん、本来は人事制度の面からの改革もあわせて必要です。
高尾教授は、Will・Can・Mustの枠組みで考えると、ミドル・シニアは「Can」(スキル、経験、知識)が豊富なため、ジョブ・クラフティングの余地が大きいと言います。それだけ、エンゲージメントを高める効果も期待できるのです。
| 観点 | 若手 | ミドル・シニア |
|---|---|---|
| Can(スキル・経験・知識) | これから蓄えていく段階 | 豊富。仕事に生かせる「ひと匙」の材料が多い |
| 周囲の支援 | 先輩や上司によるサポートが定着している | 支援が当たり前には行われていない |
| 効きやすい動機づけ | 昇進や成長の機会 | 昇進や報酬は効きにくく、仕事そのものの手触り感が鍵になる |
出典:高尾教授への取材をもとに編集部作成
年上の部下には、関係性クラフティングで
日本の職場でよく聞かれるのが、年下の上司が年上の部下を持つときの「やりにくさ」です。高尾教授は、こうした関係のぎこちなさを、関係性クラフティング、つまり関わり方を工夫することで補うことが大切だと言います。
ミドル・シニアを生かす2つの見方
① 年齢で判断しない――エイジズムの回避
エイジズムとは、年齢に基づく偏見や差別のことで、1969年に米国の老年医学者ロバート・N・バトラーが提唱した概念です。「もう年だから」「この年齢なら、こうだろう」といった思い込みは、ミドル・シニアの可能性を狭めてしまいます。
高尾教授は、年齢ではなく、その人が実際に仕事として何をしているのか、どう能力を発揮しているのかで評価することが必要だと言います。年齢で判断しない風土や制度を整えることが、ミドル・シニアの活性化の土台になります(人事施策に潜む無意識の思い込みとシニア活躍の支援については、厨子直之教授の解説記事でも紹介しています)。
② 同世代の動きを生かす
高尾教授によれば、日本のミドル・シニアは、同期や同世代の動向に影響されやすい傾向があります。成功例がなくても挑戦すべきではありますが、実際には、周りが動くのを見て自分も動く人が多いのです。
そこで、ジョブ・クラフティングに取り組む人の事例を社内で共有し、同期入社のつながりなどを通じて広がっていくことを意識するとよいといいます。
ミドル・シニアの経験やスキルを生かすには、年齢ではなく仕事の中身で評価する仕組みが欠かせません。評価や処遇のあり方は、人事制度全体の設計とも深く関わります。
ミドル・シニアが活躍できる人事制度を考える
年齢ではなく、実際の仕事の中身や能力の発揮で評価するには、役割や評価の仕組みを見直すことが役立ちます。DEFiDEでは、人事制度や人材マネジメントの課題について相談を受け付けています。
越境が、自分の「ひと匙」を見つけるきっかけになる
「自分のWillやCanがわからない」「どんなひと匙を加えればよいのかわからない」という人もいます。高尾教授は、そうした人には越境が役立つと言います。越境とは、普段の自分の場を離れ、境界を越えて新しい領域に挑むことです。経済産業省も、組織の外で学ぶ越境学習を推奨しています。
| 越境で得られること | 内容 |
|---|---|
| 「自分の当たり前」が通用しない経験 | アウェイの場で、これまでのやり方が通じないことを知り、仕事の捉え方を見直すきっかけになる |
| 「当たり前の強み」に気づく | 自分では当たり前だと思っていたことが、外では強みになると気づく |
出典:高尾教授への取材をもとに編集部作成
副業も、内容によりますが、始めたばかりのころは少なくとも越境の経験になることが多いといいます。人事部門でも、越境や越境学習がキーワードとして挙がることが増えています(越境学習の効果については厨子直之教授、社員の副業や独立を経営に生かす考え方については高橋勅徳准教授の解説記事でも紹介しています)。
よくある質問(FAQ)
Q. ジョブ・クラフティングは会社が促進できますか?
A. 本人の主体性が出発点のため、件数の目標を課すようなやり方は趣旨からずれます。ただし、周囲のサポートがあり、裁量や自律性が高い職場ほど促されやすいとされています。高尾教授は、「やってみたいなら支援します」という姿勢を組織として示すことを勧めています。
Q. ジョブ・クラフティングを後押しするために、人事は何をすればよいですか?
A. 高尾教授は、職場と組織の2つのレベルで考える必要があるとしています。職場ではマネジャーが「部下の工夫はチームの成果につながる」という信念を持つこと、組織では人事や経営層が主体的に仕事を変えることを望ましいと発信し、人事制度や評価、経営者の言動に一貫性を持たせることが大切です。
Q. なぜミドル・シニアの活性化にジョブ・クラフティングが有効なのですか?
A. ミドル・シニアには昇進や報酬といったインセンティブが効きにくい一方、スキルや経験、知識(Can)が豊富なため、仕事に自分なりの工夫を加える余地が大きいからです。それだけエンゲージメントを高める効果も期待できます。
Q. エイジズムとは何ですか?
A. 年齢に基づく偏見や差別のことで、1969年に米国の老年医学者ロバート・N・バトラーが提唱しました。高尾教授は、年齢ではなく、その人が実際に仕事として何をしているのか、どう能力を発揮しているのかで評価する風土や制度を整えることが必要だとしています。
Q. 越境はジョブ・クラフティングにどう役立ちますか?
A. 普段の場を離れて新しい領域に挑むことで、「自分の当たり前」が通用しない経験をしたり、自分の「当たり前の強み」に気づいたりできます。自分のWillやCan、仕事に加える「ひと匙」がわからない人にとって、それを見つけるきっかけになります。副業も越境の経験になることが多いとされています。
まとめ:「やってみたいなら支援します」で、ミドル・シニアの力を引き出す
- ジョブ・クラフティングは本人の主体性が出発点。件数を課すのではなく、支援する姿勢を示す
- 職場ではマネジャーの信念、組織では人事・経営層の発信と制度・言動の一貫性が鍵
- Canが豊富なミドル・シニアは、ジョブ・クラフティングの余地が大きい
- 年齢ではなく仕事の中身で評価し、取り組む人の事例を同世代に広げる
- 越境や副業は、自分の「ひと匙」を見つけるきっかけになる
では、実際にジョブ・クラフティングを始めるには、何から手をつければよいのでしょうか。後編では、「スモールスタート」のコツと、仕事に「遊び」を持たせる意味、そして経営や人事が長い目で人の変化を見守る大切さを紹介します。
社員のスキルと経験を見える化する
ミドル・シニアの経験やスキルを生かすには、一人ひとりの職務やスキル、これまでの経験を把握できる仕組みが役立ちます。DEFiDEの「JOB Scope」は、職務やスキル、評価・育成の情報を一元的に管理できるクラウドサービスです。
▶ 前編:ジョブ・クラフティングの効果とは?仕事に「ひと匙」を加えて手触り感を高め、エンゲージメントとキャリアを育てる(内部リンク)
▶ 後編:ジョブ・クラフティングの始め方は?「スモールスタート」と仕事の「遊び」、自由度を与えて長期で人を育てる経営の視点(内部リンク)
▶ インタビュー全文:自分の仕事にひと匙を入れる大切さを理解しよう(中編)(JOB Scopeマガジン)