[JOBSCOPE]教授インタビュー解説

組織改革の抵抗をどう乗り越える?議論と人事の要点|奥原正明氏

作成者: JOB Scope編集部|Oct 19, 2026, 4:14:13 AM

 

組織改革への抵抗を乗り越えるには、時代の変化を警戒心を持って見極め、抵抗にめげない闘争心を持ち、関係者が納得できるまで徹底的に議論することが欠かせません。元農林水産事務次官の奥原正明氏は、改革のテーマによって「熟考」と「試行」を使い分け、改革の方針を実行できる人を優先順位に沿って配置する人事こそが改革を動かすと語ります。

デジタル化が進み、事業環境が目まぐるしく変わるなかで、改革の必要性を感じている経営者や管理職は多いでしょう。しかし、改革には必ず抵抗が伴います。

本記事では、奥原氏へのインタビューをもとに、改革を進めるリーダーに必要な闘争心と警戒心、抵抗を乗り越える徹底した議論、改革のテーマに応じた「熟考か試行か」の判断、ハラスメントを恐れない指導、そして改革を動かす人事のあり方を解説します。

この記事でわかること

・改革を進めるリーダーに必要な「闘争心」と「警戒心」

・組織の内外の抵抗を、徹底した議論で乗り越える方法

・改革のテーマで使い分ける「熟考」と「試行」

・ハラスメントを恐れずに指導するための考え方と、360度評価の使い方

・「政策は人だ」――改革を動かす人事の考え方

取材協力:奥原 正明 氏

元農林水産事務次官、前東京大学公共政策大学院客員教授。1955年生まれ。1979年東京大学法学部卒業、農林水産省入省。在ドイツ日本大使館での勤務(東西ドイツ統一時)、大臣秘書官、大臣官房秘書課長などを経て、2011年から5年間経営局長を務め、2016年農林水産事務次官、2018年退官。在任中は農地バンク制度の創設、農協改革、林業改革、水産業改革などに取り組んだ。退官後、東京大学公共政策大学院客員教授を務める。著書に『農政改革――行政官の仕事と責任』『農政改革の原点――政策は反省の上に成り立つ』(日本経済新聞出版)、『組織はリーダー次第――失敗する9タイプ』『農業政策は消費者のためにある』(信山社)など。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

改革を進めるリーダーに必要な「闘争心」と「警戒心」

前編で見たように、奥原氏はリーダーに最も必要な資質を「責任感」としています。そのうえで、変化の激しい時代に特に重要なのが、「闘争心」と「警戒心」です。

時代に合わなくなった仕事を放置すれば、他社に仕事を奪われ、経営が悪化しかねません。時代の変化を踏まえて仕事の進め方を変えると決め、実行することは、組織に対するリーダーの責任です。

資質 内容
警戒心 世の中の動きを警戒して見極め、対抗策を考え抜く。「このままでは組織がだめになる」と感じたら、早めに次の手を打つ
闘争心 改革には抵抗がつきもの。抵抗にめげずに改革をやり抜く

出典:奥原氏への取材をもとに編集部作成

奥原氏は、「時代との関係で、自分の仕事はどこに位置しているか」「今後どうなりそうか」を多角的に考え続けることが、改革の基本だと言います。

抵抗は内にも外にもある――徹底した議論で乗り越える

改革への抵抗は、組織の外だけでなく、内にもあります。部下に改革案を示すと、これまでのやり方を支持する意見が多く出るものです。

そこで奥原氏が説く対処法は、とにかく徹底的に議論することです。「ここをこうすれば課題をクリアできる」「こうすればもっと良い仕事になる」と、関係者が納得できるまで議論を詰めていきます。

判断 奥原氏の考え方
本当に変えられないもの 無理に変えない
変えるべきもの 「やってもだめだ」と諦めると、チャンスを失い大きな失敗につながる。実務上の問題は、徹底してクリアする方法を考える

出典:奥原氏への取材をもとに編集部作成

抵抗から逃げずに向き合えるかどうかは、リーダーの覚悟が問われるところです。向き合おうとしないリーダーは資質に欠ける、と奥原氏は言います。

「熟考」か「試行」か――改革のテーマで使い分ける

改革は、じっくり考え抜いてから始めるべきか、まず試してみるべきか。奥原氏は、改革の内容によって使い分けるべきだと言います。

改革のタイプ 進め方 例
抜本的な改革(後戻りが難しい) 考え抜いてから始める 法律の改正、人事制度の大きな変更など
抜本的でない改革(後戻りできる) やれることをどんどん試し、うまくいきそうなものを伸ばす 撤退や別の方法への切り替えができる取り組み

出典:奥原氏への取材をもとに編集部作成

後戻りできる試行は、最終的な判断のための情報収集ともいえます。一方、奥原氏は、社会全体が「AかBか」の二者択一に陥りやすく、「デジタルの時代は何でもやってみるべきだ」という風潮が経営者にも広がっていることに懸念を示します。例えば、人事制度を思いつきで変えると、大きな問題になりかねません。試してもやり直せるものは試してよいが、それ以外はしっかりと精査する必要があるのです。

ハラスメントを恐れず、指導は徹底する

ハラスメントへの意識が高まるなかで、セクシュアルハラスメントの線引きは比較的明確ですが、パワーハラスメントと指導は紙一重で、判断が難しい面があります。

奥原氏によれば、農林水産省では上司による評価に加えて360度評価を取り入れました。パワハラをする上司を把握し、改善につなげるうえでは役立ちましたが、上司が部下からの評価を気にしすぎて、必要な指導をしなくなるという問題も生まれたといいます。

観点 奥原氏の考え方
組織の原則 上司の最終決定に部下が従わなければ、組織として成り立たない。パワハラにならないよう配慮しつつ、指導は徹底する
360度評価の位置づけ 評価は上からを基本とし、下からの評価はパワハラのチェックに使う「調査」として位置づける
360度評価の必要性 下からの声でパワハラは把握しやすい。職員の心身の不調が増えれば組織の戦力が落ちるため、仕組みとしては必要

出典:奥原氏への取材をもとに編集部作成

また奥原氏は、若いころは帰りたくても言い出せない雰囲気があったが、今は言いやすくなったのは良いことだとも話しています(部下を育てる管理職への変わり方については、松尾睦教授の解説記事でも紹介しています)。

「政策は人だ」――改革を動かす人事

奥原氏は、大きな改革には必ず人事が伴うと言います。人事は経営方針と別のものではなく、方針を実行するための人の配置だからです。奥原氏は、ある先輩の事務次官経験者の「政策は人だ」という言葉を紹介します。難しい政策ほど、責任者に誰を選ぶかで成否が決まるという意味です。

人事の原則 内容
優先順位に沿って配置する 政策や経営方針には優先順位がある。優先度の高いものから、最も適した人を配置する
人材の厚みは組織の実力 人材は限られるため、優先度の低い仕事に最適任者を置けないこともある。それは組織の実力であり、日ごろの採用と育成で改善する
能力主義を徹底する 「仲間内の人事」や「好き嫌いの人事」は組織を衰退させる

出典:奥原氏への取材をもとに編集部作成

奥原氏の著書『組織はリーダー次第』でも、人事ができないことは失敗するリーダーのタイプの一つとして挙げられています。日ごろから部下をよく見ているからこそ、適材適所の人事ができるのです(一人ひとりを戦力にする適所適材の考え方については、守島基博教授の解説記事でも紹介しています)。

優先順位に沿って適任者を配置するには、一人ひとりの経験やスキル、評価を日ごろから把握しておくことが欠かせません。

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経営者への提言

奥原氏は経営者に向けて、会社と従業員を発展させる責任感を持って日々の仕事にあたること、時代の変化を自らつかみ、会社の仕事をそれに合わせて変えることを求めます。抵抗や批判があっても、「こうすれば必ず良くなる」という確信があるなら、説得の努力を重ね、批判されてもやるべきことをやる。それが改革を担うリーダーの姿だといいます。

よくある質問(FAQ)

Q. 組織改革への抵抗はどう乗り越えればよいですか?

A. 奥原氏は、関係者が納得できるまで徹底的に議論することを勧めています。「ここをこうすればクリアできる」「こうすればもっと良い仕事になる」と議論を詰め、本当に変えられないものは無理に変えず、変えるべきものは諦めずに実務上の問題をクリアする方法を考え抜くことが大切です。

Q. 改革を進めるリーダーに必要な資質は何ですか?

A. 最も大切なのは責任感で、変化の激しい時代には「闘争心」と「警戒心」も重要です。世の中の動きを警戒して見極めて早めに手を打ち、改革に伴う抵抗にめげずにやり抜くことが求められると奥原氏は述べています。

Q. 改革は熟考してから始めるべきですか、まず試すべきですか?

A. 奥原氏は改革の内容によって使い分けるべきだとしています。法律の改正や人事制度の大きな変更など後戻りが難しい抜本的な改革は考え抜いてから始め、撤退や切り替えができる改革は、やれることを試してうまくいくものを伸ばす方法も有効です。

Q. パワハラを恐れて指導できない場合はどうすればよいですか?

A. 奥原氏は、上司の最終決定に部下が従わなければ組織は成り立たないため、パワハラにならないよう配慮しつつ、指導は徹底すべきだとしています。360度評価は、評価は上からを基本とし、下からの評価はパワハラのチェックのための「調査」と位置づける考え方を示しています。

Q. 改革を進めるための人事のポイントは何ですか?

A. 奥原氏は「政策は人だ」という言葉を紹介し、大きな改革には必ず人事が伴うとしています。経営方針の優先順位に沿って、優先度の高いものから最適な人を配置し、仲間内の人事や好き嫌いの人事を避けて能力主義を徹底することが大切です。

まとめ:議論を尽くし、人を配置し、改革をやり抜く

  • 改革を進めるリーダーには、責任感に加えて「闘争心」と「警戒心」が必要
  • 抵抗は組織の内にも外にもある。納得できるまで徹底的に議論して乗り越える
  • 後戻りが難しい改革は熟考し、やり直せる改革は試行を重ねる。人事制度を思いつきで変えない
  • パワハラに配慮しつつ指導は徹底する。360度評価は「調査」として使う
  • 「政策は人だ」。優先順位に沿って適任者を配置し、能力主義を徹底する

では、こうした改革の考え方は、奥原氏が取り組んできた農業の分野でどのような成果を上げ、どのような課題を残しているのでしょうか。後編では、日本農業を成長産業にするための農地集約と地域別の政策、そして「令和の米騒動」から考える食料の安定供給について紹介します。

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▶ 前編:変革リーダーの条件とは?日本の組織を停滞させる「事なかれ主義」と、責任感を軸にしたリーダーの資質・育ち方(内部リンク)

▶ 後編:日本農業は成長産業になれるか?プロ農家への農地集約と地域別の政策、「令和の米騒動」から考える食料の安定供給(内部リンク)

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