「自営型」を導入するには、全社員を一斉に切り替えるのではなく、導入のハードルを下げながら、評価や報酬との結びつけ方を会社の事情に合わせて選ぶことが大切です。同志社大学の太田肇名誉教授は、ジョブ型を追うだけでは欧米の後追いにとどまるため、日本は「自営型」をメインに据えるべきだと語ります。働く人へのアンケートでは、過半数が「自営型」を理想の働き方に選びました。
コロナ禍は、日本企業にとって組織を見直す大きなきっかけでした。しかし、その機会は十分に生かされたのでしょうか。
本記事では、太田名誉教授へのインタビューをもとに、「自営型」をメインに据える理由、働く人へのアンケート結果、導入の壁と評価・報酬の考え方、製造業の成功事例、そして中小企業の経営者へのメッセージを解説します(「自営型」の意味や利点は、前編で紹介しています)。
この記事でわかること
・「自営型」をメインに据えるべき理由
・働く人の過半数が「自営型」を理想とする背景
・導入の壁と、評価・報酬との結びつけ方
・製造業の成功事例と、公私が融合する働き方
・人手不足に悩む中小企業にとっての「自営型」の意味
同志社大学 名誉教授。兵庫県出身。経済学博士。専門は組織論で、日本における組織論の第一人者として、著作のほかマスコミでの発言や講演も積極的に行っている。本インタビューの取材時は同志社大学政策学部・大学院総合政策科学研究科教授。2025年4月より現職。著書に『「自営型」で働く時代――ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社、2023年)、『何もしないほうが得な日本――社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP新書、2022年)、『日本人の承認欲求――テレワークがさらした深層』(新潮新書、2022年)など多数。『プロフェッショナルと組織』で組織学会賞、『仕事人(しごとじん)と組織――インフラ型への企業革新』で経営科学文献賞、『ベンチャー企業の「仕事」』で中小企業研究奨励賞本賞を受賞。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
前編では、ジョブ型・メンバーシップ型・自営型の3つを併存させる考え方を紹介しました。ただし太田名誉教授自身は、「自営型」をメインに据える立場です。3つを並べるだけでは欧米に勝てず、日本がV字回復するには、働き方のルールを思い切って変え、日本の強みを前面に出す必要があると考えているからです。
ジョブ型への「大合唱」に従って仕組みを変えても、結局は欧米の後追いになります。しかも、ジョブ型への移行そのものもうまくいっていません。太田名誉教授は、コロナ禍の混乱を組織改革の機会として生かし切れておらず、感染が落ち着いたことで「元に戻れる」と安易に考えている企業が多いと見ています。その背景にも、ジョブ型が日本企業になじまなかったことがあるといいます。「自営型」を取り入れれば、日本型雇用への単なる後戻りではなく、ジョブ型の壁も越えられるというのです。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 捨てるもの | 閉ざされた共同体型の組織。メンバーシップ型の特徴であり、限界が来ている |
| 活かすもの | 柔軟性やアナログ的な要素。日本の強みである |
出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成
日本型組織の何を見直すべきかについては、太田名誉教授の別の解説記事でも紹介しています。
働く人は「自営型」をどう見ているのでしょうか。太田名誉教授は2023年9月、Googleフォームでアンケートを行い、152人から回答を得ました。出版を控えた書籍のことは、回答の偏りを避けるため伏せて実施したといいます。
| 働き方 | どのような働き方をしたいか | 将来の働き方として理想とするのは |
|---|---|---|
| メンバーシップ型 | 36.2% | 16.4% |
| ジョブ型 | 30.3% | 32.2% |
| 自営型 | 33.6% | 51.3% |
出典:太田名誉教授が2023年9月に実施したアンケート(Googleフォーム、回答者152人)をもとに編集部作成
「どのような働き方をしたいか」では、「自営型」がジョブ型を上回りました。さらに「将来の働き方として理想とするのは」では、「自営型」が51.3%と過半数を占めています。設問では、3つの働き方を次のように説明しています。
| 働き方 | 設問での説明 |
|---|---|
| メンバーシップ型 | 職務や勤務地を限定されず、社員として定年まで働き続ける働き方 |
| ジョブ型 | 職務を限定して会社と契約し、職務を軸に社内外でキャリアを形成する働き方 |
| 自営型 | 社員であるか否かを問わず、半ば自営業のように、ある程度まとまった仕事をこなす働き方 |
出典:太田名誉教授が2023年9月に実施したアンケート(Googleフォーム、回答者152人)をもとに編集部作成
働く人が「自営型」を理想とする理由について、太田名誉教授は、自律的に働きたい、組織の歯車になりたくないという志向があると見ています。
1970年代には、ILO(国際労働機関)が「労働の人間化」を進め、仕事の再設計や職務の拡大といった、「自営型」に近い考え方が示されました。しかし、生産性が低く分業に勝てなかったため、一時のブームで終わりました。ITの登場によってこの弱点が克服され、今は「労働の人間化」の新しい段階に入ったと太田名誉教授は位置づけています。
こうした志向は、社員一人ひとりで異なります。自社の社員が仕事に何を求めているのかを知ることが、働き方を選ぶ手がかりになります。
社員が仕事に求める価値観を把握する
任されて働きたいのか、皆と一緒に働きたいのか――働き方の好みは人によって異なります。DEFiDEの「生成AIワークバリュー・スコア分析」では、従業員が仕事に求める価値観を分析し、配置や育成を考えるヒントを得られます。
太田名誉教授が経営者と「自営型」について話すと、方法論としては納得し、その方向に進めようとしている経営者も多いといいます。一方で、実践の段階で立ちはだかる壁をどう越えるかに迷っているのも事実です。
| 導入の壁 | 太田名誉教授の考え方 |
|---|---|
| 全員を一度に変えると、こなせる人とこなせない人が出る | 導入のハードルをいかに下げるかが「自営型」へのシフトの鍵になる |
| 評価や報酬にどう結びつければよいかわからない | 仕事によっては成果と連動させる歩合制のような仕組みを取り入れてもよく、差をつけない従来の方式を続けてもよい。各社の事情に応じて選べばよい |
出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成
導入のハードルを下げる具体的な方法として、太田名誉教授は、意欲のある社員に限って「自営型」を促す、期限を区切って移行するといった進め方を挙げています(この進め方については、太田名誉教授の「インフラ型組織」の解説記事でも紹介しています)。
太田名誉教授は今後、「自営型」を実践している、あるいは目指している経営者と課題を共有し、一緒に解決策を考えていきたいと話します。ジョブ型の導入に苦戦している経営者には、「代わりに『自営型』を取り入れてみませんか。ジョブ型より楽ですよ」と提案したいといいます。
「自営型」は、さまざまな業種ですでに取り入れられています。太田名誉教授が紹介するのが、東京都青梅市に本社工場を置く、パイプ曲げ加工・板金加工の武州工業株式会社です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社の規模 | 社員約150人の中規模企業(取材時) |
| 取り組み | 「一個流し生産」。一人の技術者が、材料の調達から加工、納期の管理までを一貫して担当する |
| 期間 | 約30年前から実施(取材時) |
| 近年の変化 | IoT(モノのインターネット)などを活用し、生産の流れ全体や必要な情報・データを見ながら、一人で仕事を完結できるようになった |
| 成果 | 生産性が高まり、以前は毎日3〜4時間が当たり前だった残業が大幅に減った |
| 評価 | 生産性を高めながら雇用を守っていることが評価され、2017年に第7回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞を受賞 |
出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成
この事例は、前編で紹介した「ITが分業の効率という限界を乗り越えた」という考え方を、製造の現場で示したものといえます。
「自営型」が広がると、職業観やワーク・ライフ・バランスの考え方も変わると太田名誉教授は考えています。仕事と生活、時間と場所を分けるこれまでの考え方は、工場で働く時代の労働観を引きずったものだというのです。これからは会社と個人が基本的に対等になり、公私が融合していく。かつての農業や小売業のように、仕事と私生活が一体となり、都合のよいときに仕事をする働き方が広がると見ています。
「自営型」で働くうえで最も大切なこととして、太田名誉教授は「異質性」を挙げます。自分は人と違う何かを持っていることです。平均点を目指して周りに合わせる、これまでの考え方とは逆の発想です。
一方で、貢献に見合った給料が保証されるわけではないため、報酬が低くなる場合もあります。その代わり、自分のペースで、小さなところから始めることもできるといいます。
太田名誉教授は、今後の研究テーマとして「自営型」の普及に取り組みたいと話します。大きな壁になっているのは、大企業で働き続けた方が得になる社会の仕組みや制度です。そこで、「自営型」の成功例や、「自営型」で働く人が活躍している姿を示し、運動につなげていきたいといいます。
中小企業は、人手不足と人材の定着という大きな課題を抱え、大企業の下請けのような立場に置かれることも多くありました。太田名誉教授は、「自営型」は、こうした課題を克服し、状況を逆転させる強力な手段になり得ると語ります。中小企業の強みを生かせる働き方として、ぜひ自社に取り入れてほしいというのが、経営者へのメッセージです(個人の貢献が見える組織への転換については、太田名誉教授の「未分化」の解説記事でも紹介しています)。
A. 太田名誉教授は、ジョブ型に移行しても欧米の後追いにとどまり、3つの働き方を並べるだけでは欧米に勝てないと考えています。「自営型」なら、日本の強みである柔軟性やアナログ的な要素を生かしつつ、ジョブ型の壁も越えられるとしています。
A. 太田名誉教授が2023年9月に行ったアンケート(回答者152人)では、「将来の働き方として理想とするのは」という問いに、「自営型」が51.3%と過半数を占め、ジョブ型は32.2%、メンバーシップ型は16.4%でした。
A. 1970年代にILO(国際労働機関)が進めた考え方で、仕事の再設計や職務の拡大など、「自営型」に近い内容でした。当時は生産性が低く定着しませんでしたが、太田名誉教授は、ITによって弱点が克服され、新しい段階に入ったとしています。
A. 太田名誉教授は、仕事によっては成果と連動させる歩合制のような仕組みを取り入れてもよく、差をつけない従来の方式を続けてもよいとしています。各社の事情に応じて選べばよいという考え方です。
A. 東京都青梅市の武州工業株式会社では、一人の技術者が材料の調達から加工、納期の管理までを一貫して担う「一個流し生産」を行っています。IoTなどの活用で生産性が高まり、残業が大幅に減ったといいます。
前編では、「自営型」の意味と利点、中小企業に合いやすい理由を見てきました。メンバーシップ型かジョブ型かという二者択一を離れ、一人ひとりがまとまった仕事を受け持つ働き方を、自社の事情に合わせて取り入れていくことが求められています。
自社に合う評価・報酬の仕組みを考える
成果と連動させるのか、従来の方式を続けるのか――評価や報酬の仕組みは、自社の仕事や社員に合わせて設計することが大切です。DEFiDEでは、人事制度や評価制度の課題について相談を受け付けています。
▶ 前編:「自営型」の働き方とは?ジョブ型が日本に定着しない理由と、中小企業にこそ合う新しい選択肢(内部リンク)
▶ インタビュー全文:正念場を迎えた日本企業の組織改革。「自営型」の選択がV字回復への切り札に(後編)(JOB Scopeマガジン)