「自営型」とは、雇用されているか独立しているかを問わず、組織と関わりながら、自営業のように、ある程度まとまった仕事を一人で受け持つ働き方です。同志社大学の太田肇名誉教授は、欧米流のジョブ型は日本に定着しにくく、デジタル化やIT化に後押しされる「自営型」こそが、企業にとっても働く人にとっても望ましい選択肢であり、人材不足に悩む中小企業にも合いやすいと語ります。
メンバーシップ型雇用の限界が語られるなか、「次はジョブ型」という声が大きくなっています。しかし、メンバーシップ型かジョブ型かという二者択一は、本当に正しいのでしょうか。
本記事では、著書『「自営型」で働く時代――ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社、2023年)で新しい働き方を提唱した太田名誉教授へのインタビューをもとに、ジョブ型が日本に定着しにくい理由、「自営型」の意味と利点、中小企業との相性、そして3つの働き方の併存について解説します。
この記事でわかること
・「自営型」とはどのような働き方か
・ジョブ型が日本に定着しにくい理由
・「自営型」の4つの利点と、ITが後押しする背景
・「自営型」が企業の競争力を高め、中小企業に合いやすい理由
・ジョブ型・メンバーシップ型・自営型を併存させる考え方
同志社大学 名誉教授。兵庫県出身。経済学博士。専門は組織論で、日本における組織論の第一人者として、著作のほかマスコミでの発言や講演も積極的に行っている。本インタビューの取材時は同志社大学政策学部・大学院総合政策科学研究科教授。2025年4月より現職。著書に『「自営型」で働く時代――ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社、2023年)、『何もしないほうが得な日本――社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP新書、2022年)、『日本人の承認欲求――テレワークがさらした深層』(新潮新書、2022年)など多数。『プロフェッショナルと組織』で組織学会賞、『仕事人(しごとじん)と組織――インフラ型への企業革新』で経営科学文献賞、『ベンチャー企業の「仕事」』で中小企業研究奨励賞本賞を受賞。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
太田名誉教授が提唱する「自営型」とは、雇用か独立かを問わず、組織と関わりながら、自営業のように働く働き方です。組織に属している場合も、職務を細かく定めず、ある程度まとまった仕事を一人で受け持つのが特徴です。「自営型」は、大きく雇用労働者とフリーランスに分けられます。
| 区分 | 働き方 | 主な例 |
|---|---|---|
| 自営型社員(雇用労働者) | 企業に雇用されながら、まとまった単位の仕事を一人で受け持つ | 製品の組み立てを丸ごと担当する社員など |
| インディペンデントコントラクター(フリーランス) | 独立した立場で、企業から業務委託のように仕事を受注する | 企業と契約して専門の仕事を請け負う人 |
| 個人事業主・職人(フリーランス) | 個人で事業を営む、または職人として独立して働く | 個人で小売業や農林業を営む人、独立した職人 |
出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成
自営型社員の働き方は、職種によって次のような形をとります。
| 職種 | 分業による働き方 | 自営型の働き方 |
|---|---|---|
| 製造 | 工程ごとに分担して組み立てる | 一人で製品の組み立てを丸ごと担当する |
| 商品開発 | 開発とマーケティングを別の担当者が受け持つ | プロダクトマネージャーが開発からマーケティングまで一貫して担う(海外の例) |
| 営業 | 製品ごとに担当を分ける | 特定の地域のあらゆる製品を受け持つ |
出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成
米国のシリコンバレーや台湾、中国、イタリアなどでは、組織に属しているかどうかに関係なく、半ば独立した自営業者のように働く人が増えており、日本でも同じ傾向が見え始めているといいます。
太田名誉教授は、IT化やグローバル化、コロナ禍によってメンバーシップ型の日本型雇用が限界を迎えたことは認めています。しかし、社会の慣行や仕組みも含めて考えると、日本にジョブ型が定着することはないという、確信に近い考えを持っています。大企業でもジョブ型の導入は思うように進まず、中小・中堅企業では初めから「無理だ」と言われることも少なくありません。
ジョブ型を導入しようとすると、大きな壁にぶつかると太田名誉教授は指摘します。その一つが既得権の壁です。日本には年功序列と定期昇給があり、勤続年数が長いほど給料が高く、毎年上がるのが基本とされてきました。職務の種類とグレードで報酬が決まるジョブ型では、能力が高まらなければ昇給の見通しが立ちません。この恩恵を手放せる人がどれだけいるのかが問われるのです。このほかにも、転職の壁や人材育成の壁が立ちはだかるといいます。
さらに、ジョブ型の土台である「職務主義」は、産業革命後の少品種大量生産の時代に生まれた考え方です。安定した工業社会には合っていましたが、不確実で先を読みにくいVUCAの時代には合わないと太田名誉教授は見ています。「日本型ジョブ型」「ハイブリッド型」などと名付けて導入されている仕組みも、ジョブ型とは「似て非なるもの」だというのです(ジョブ型とメンバーシップ型を自社の戦略に合わせて選ぶ考え方については、池上重輔教授の解説記事でも紹介しています)。
太田名誉教授は、「自営型」には、メンバーシップ型にもジョブ型にもない利点があると言います。
| 利点 | 内容 |
|---|---|
| 責任の範囲が明確 | メンバーシップ型より責任の範囲がはっきりしており、専門性や生産性を高められる |
| 柔軟に運用できる | 職務が硬直的なジョブ型と比べて柔軟。社員として雇用することも、フリーランスとして契約することもでき、会社と本人の意思に合わせて選べる |
| テレワークと相性が良い | 一人でまとまった仕事を受け持つため、多様になる働き方に合わせやすい |
| 日本の風土に合う | 近代まで日本では職人や自営業者が多数派で、その働き方自体が「自営型」だったといえる |
出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成
太田名誉教授によれば、「自営型」は日本にもともとあった働き方です。ただし、かつては2つの限界がありました。一つは、分業した方が生産の効率が高かったこと。もう一つは、熟練が必要で、誰にでもできる仕事ではなかったことです。
この2つの限界を、デジタル化やIT化が乗り越えつつあります。必要な情報をすばやく得られるようになったことで、これまで分業していた業務を一人で担えるようになったのです。例えば製造の現場では、カメラを設置すれば作業の進み具合が見え、インターネットを通じて工場全体の製造の流れも把握できます。
一人にまとまった仕事を任せるには、その人が受け持つ仕事の範囲と、期待する成果をあらかじめ言葉にしておくことが出発点になります。
一人が受け持つ仕事の範囲と成果を明確にする
まとまった仕事を任せるときも、仕事の範囲や役割、期待する成果を整理しておくと、任せる側と任される側の認識をそろえやすくなります。DEFiDEでは、職務の枠組みを整理するための資料を提供しています。
太田名誉教授は、「自営型」は企業の競争力を高めることにもつながると考えています。理由は2つです。
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| 労働力不足への対策になる | 一人が複数の仕事をこなす多能工のように働くため、必要な人手が少なくて済む |
| 仕事の質が高まる | 集団で大きな仕事をすると出来栄えが平準化しがちだが、「自営型」なら芸術家や職人のように、一人ひとりが才能を最大限に発揮できる。均質さが求められる仕事は、機械やITに任せればよい |
出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成
太田名誉教授は、中小企業にとってジョブ型はもともと難しいと指摘します。社員の数が限られているため、一人がカバーする仕事の範囲が広くなるからです。例えば事務の仕事では、経理、人事、総務、庶務を別々の人が分担するのではなく、一人が総務や庶務、人事を受け持ち、場合によっては営業もこなす人材が求められます。幅広い仕事を受け持てる「自営型」の人材は、中小企業にとってありがたい存在なのです(中小企業でのジョブ型の考え方については、藤本雅彦教授の解説記事でも紹介しています)。
太田名誉教授が最も伝えたいことの一つは、人材不足、とくに中小・中堅企業で人材が定着しないという課題に、「自営型」が応えられるという点です。メンバーシップ型でもジョブ型でも、働く人は組織の枠組みの中で受け身の立場にありました。これからは、人を中心にした働き方があってよく、デジタル化やIT化の支えによって、それが可能になりつつあるといいます(人材の定着の進め方については、山本寛名誉教授の解説記事でも紹介しています)。
太田名誉教授は、今の日本で「ジョブ型」と呼ばれているものも、よく見ると「自営型」であるケースが多いと言います。日本ではメンバーシップ型かジョブ型かの二者択一で捉えがちで、一人ひとりが仕事を受け持つことをジョブ型と呼んでいるのは、「自営型」という言葉がなかったからにすぎないというのです。
企業によって事情は異なるため、3つの働き方を併存させることもできます。
| 働き方 | 向いている仕事・人の例 |
|---|---|
| ジョブ型 | 大企業のルーティン業務、パート・アルバイト・派遣などの仕事 |
| メンバーシップ型 | 皆と一緒に仕事をしていきたい人 |
| 自営型 | 仕事を任されたい人、自分のペースで働きたい人、実力に応じた報酬やキャリアを得たい人 |
出典:太田名誉教授への取材をもとに編集部作成
なお、入社したばかりの新人は、自立して仕事をすることが難しいため、当面は「自営型」以外の働き方が合うとしています。
A. 雇用されているか独立しているかを問わず、組織と関わりながら、自営業のように、ある程度まとまった仕事を一人で受け持つ働き方です。企業に雇用される「自営型社員」と、インディペンデントコントラクターや職人などのフリーランスに大きく分けられます。
A. 太田名誉教授は、年功序列や定期昇給といった既得権の壁、転職の壁、人材育成の壁があることを挙げています。また、ジョブ型の土台である職務主義は少品種大量生産の時代に生まれた考え方で、不確実なVUCAの時代には合わないとしています。
A. 責任の範囲が明確で専門性や生産性を高められること、ジョブ型より柔軟に運用できること、テレワークと相性が良いこと、職人や自営業者が多かった日本の風土に合うことの4つが挙げられています。
A. 太田名誉教授は、社員の数が限られる中小企業では一人がカバーする仕事の範囲が広く、もともとジョブ型は難しいと指摘しています。幅広い仕事を受け持てる「自営型」の人材は、中小企業にとってありがたい存在であり、人材の定着の課題にも応えられるとしています。
A. 企業によって事情が異なるため、併存させることもできます。大企業のルーティン業務や派遣などはジョブ型、皆と一緒に働きたい人はメンバーシップ型、仕事を任されたい人や自分のペースで働きたい人は「自営型」というように、仕事や人に合わせて選ぶ考え方です。
ただし、太田名誉教授自身は、3つの働き方を並べるだけでなく、「自営型」をメインに据えるべきだと考えています。後編では、その理由と、働く人へのアンケート結果、導入の壁を越える考え方、製造業の成功事例を紹介します。
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▶ 後編:「自営型」はどう導入する?働く人の過半数が理想とする理由と、評価・報酬の考え方、製造業の成功事例(内部リンク)
▶ インタビュー全文:正念場を迎えた日本企業の組織改革。「自営型」の選択がV字回復への切り札に(前編)(JOB Scopeマガジン)