[JOBSCOPE]教授インタビュー解説

全員発揮型リーダーシップとは?経営人材を育てる5つの経験|立教大学・田中聡准教授

作成者: JOB Scope編集部|Oct 15, 2026, 11:07:58 AM

 

全員発揮型リーダーシップとは、立場や権限、役職に関わらず、チームに参加するすべてのメンバーが、チームの目標達成に向けて主体的に行動し、他者に影響を与えることをリーダーシップと捉える考え方です。立教大学の田中聡准教授は、未来が予測できない時代には、一部のリーダーだけに頼るのではなく、全員がリーダーシップを発揮することが求められると語ります。

変化が激しく、未来を見通しにくい今、人と組織のパフォーマンスをどう最大化するかは、経営者や人事担当者の大きな悩みです。「人とチームのブレイクスルーを科学する」をテーマに実証研究に取り組む田中准教授は、経営人材の育成やチームワークの専門家として知られています。

本記事では、田中准教授へのインタビューをもとに、人的資本経営が「社会的な運動」になった意味、OJTが機能不全に陥った理由、ジョブ型雇用と社会システムの関係、VUCA時代に求められる全員発揮型リーダーシップ、経営人材を育てる5つの経験、そして経営人材の育成が進まない構造的な問題について解説します。

この記事でわかること

・人的資本経営が「ブーム」ではなく「社会的な運動」になった理由

・「人を大事にする経営」の意味の変化と、OJTが機能しなくなった背景

・ジョブ型雇用の本格的な移行には社会システムの変化が必要な理由

・全員発揮型リーダーシップとは何か、なぜ今求められるのか

・経営人材を育てる5つの経験特性と、育成を阻む構造的な問題

取材協力:田中 聡(たなか さとし)氏

立教大学 経営学部/大学院経営学研究科 准教授(取材時)。1983年山口県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)に入社。大手総合商社とのジョイントベンチャーで事業部門を経験した後、株式会社インテリジェンスHITO総合研究所(現・株式会社パーソル総合研究所)の立ち上げに参画し、リサーチ室長・主任研究員・フェローなどを務める。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了、博士(学際情報学)。2018年より現職。専門は人的資源管理論・組織行動論で、人材開発・チーム開発を研究。著書に『経営人材育成論』(東京大学出版会)、『チームワーキング』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)、『「事業を創る人」の大研究』(共著、クロスメディア・パブリッシング)など。

聞き手:JOB Scopeマガジン編集部

人的資本経営は「ブーム」ではなく「社会的な運動」

人的資本経営のバズワード化について、田中准教授も、学術的には既存の概念や伝統的な日本企業の思想と根本的に何が違うのかには疑問があると言います。ただし、今回の動きには大きな特徴があります。人事の内側からではなく、ファイナンスの観点――CFOの立場で「人という資本をどう扱うか」という問題意識から生まれたことです。株主や投資家が中長期的な企業価値を評価するうえで、無形資産である人材の情報開示にかつてないほど関心を寄せている。これは、メディアがつくる一過性のブームとは質的に異なる社会的な運動だと田中准教授は見ています。

ここまで社会的に人材の重要性が認知されたのは、おそらく日本の歴史上初めてだと田中准教授は言います。人的資本経営はもはやブームのフェーズは抜けたというのが田中准教授の見立てです。

「人を大事にする経営」の意味が変わった

  これまで これから(人的資本経営)
「人を大事にする」の意味 雇用を守ること(定年まで雇い続ける) 従業員一人ひとりを資本と見立てて、投資していくこと
背景 終身雇用を前提とした日本的経営 経済界のトップからも「終身雇用を守るのは難しい」という発言が出る時代

出典:田中准教授への取材をもとに編集部作成

OJTは「偶発性の産物」だった

日本企業にはOJTという伝統があり、人への投資には積極的だったという見方もあります。しかし田中准教授は、OJTは計画的・戦略的に行われてきた育成手法ではなく、さまざまな条件が重なって生まれた「偶発性の産物」だと言います。ビジネス環境の変化が緩やかで、求められるスキルが短期的に大きく変わらず、同質で固定的なメンバーの職場で、新人が先輩の背中を見て学ぶ――そうした仕組みの中で、人が「結果的に育っていた」のです。

今は数年先のビジネス環境さえ見通しにくく、知識やスキルの陳腐化も急速です。働き方の変化や雇用の流動化で、職場の顔ぶれも多様になりました。OJTを支えてきた条件が成り立たなくなり、機能不全に陥るのは当然の帰結です。日本企業が人を戦略的・計画的に育ててきたかと問われれば、自信を持って「イエス」と言えるかは疑問であり、だからこそ過去への回帰ではなく未来への進化として「人を大事にする経営」が語られているのだと田中准教授は言います。

開示だけでなく「職場の改善」へ

田中准教授が問題視するのは、人的資本の開示が職場の改善につながっていないことです。多くの会社が、今ある数字をどうきれいに見せるかにこだわり、本質的に重要な「職場をどう改善するか」まで議論が進んでいません。人は職場で育つ。人が育つ職場の改善こそが最優先の課題であり、時間がかかることを前提に、短期的な成果を求めない姿勢も大切だと田中准教授は語ります。

ジョブ型雇用は社会システムが変わらない限り「部分的」に

田中准教授は、ジョブ型雇用の良し悪しは会社によって異なり、総論では判断できないと言います。そして、ジョブ型雇用は一企業の雇用制度を超えた社会システムとしての性格を持つ概念であり、一企業だけで抜本的に変えられるのか疑問だと指摘します。

  日本の現状 ジョブ型雇用の前提
給与の決まり方 社内の役職で決まる(営業課長から総務課長へ異動してもほぼ同じ給料) ポスト(部署×役職)ごとの市場価格で決まる
人事異動 部署を超えたローテーションがしやすい 職務ごとに処遇が異なるため、異動の考え方が変わる
必要な社会の仕組み ― 職務ごとの賃金市場(サラリーマーケット)、職務に必要な専門知識を学べる大学教育

出典:田中准教授への取材をもとに編集部作成

日本には海外のような職務ごとの賃金市場がないため、どうしても部分的なジョブ型への移行にならざるを得ないと田中准教授は見ています。大企業を中心にジョブ型は広がっていくものの、中小・中堅企業では、グローバル市場で外資と競う企業と、国内市場で日本人を対象に事業を行う企業とでスタンスが分かれ、後者にはジョブ型に移行するインセンティブはないといいます。

全員発揮型リーダーシップとは?――VUCA時代のリーダー像

VUCAの時代に、リーダーシップのスタイルは明確に変わってきていると田中准教授は言います。田中准教授が教える立教大学経営学部では、学部創設以来リーダーシップ教育に力を入れており、一貫して大切にしているのが「全員発揮型リーダーシップ」です。

  従来のリーダーシップ 全員発揮型リーダーシップ
担い手 職場の長 チームに参加するすべてのメンバー
影響力の源泉 権限、立場、役割 目標達成に向けた主体的な行動と、他者への影響力
向いている時代 「作れば売れる」時代。顧客の課題が明確で、投資とリターンが予測できる 不確実性が高く、誰も10年先を明確に予知できない時代
イメージ 権限を発動して集団を率いるトップダウン型のマネジメント 一人ひとりが目標を見据え、自分にできる貢献を考えて行動する

出典:田中准教授への取材をもとに編集部作成

不確実性の高い時代には、どれほど優秀な経営層やミドルマネージャーでも、会社の10年先に何が来るかを明確に予知できるリーダーはいません。みんな答えがわからない中で迷い、悩んでいます。一部の経営リーダーだけに従来型のリーダー像を求めるのは無理がある――だからこそ、全員発揮型リーダーシップが求められているのです(一人ひとりが自らを導くセルフリーダーシップについては、小杉俊哉氏の解説記事でも紹介しています)。

長い時間軸で見れば、工業化社会から知識基盤社会へと移る中で、価値創造や競争優位の源泉はモノやカネから「人やチーム」へと変わってきました。人やチームが生み出す創造性がイノベーションにつながり、経営を動かすキードライバーになっていると田中准教授は語ります。

リーダーシップを発揮する人を増やすうえで、成果を上げているリーダーに共通する行動を知ることも一つのヒントになります。

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経営人材を育てる5つの経験特性

田中准教授は、経営人材は放っておいて勝手に生まれるものではなく、経営塾に参加したりMBAを取ったりすればすぐになれるものでもないと言います。必要な実務経験を積まなければならないのです。その経験の特徴として、米国のリーダーシップ研究機関CCL(Center for Creative Leadership)の研究者シンシア・D・マッコーレイ氏らが1990年代後半に提唱した「発達的挑戦課題」の5つの経験特性が当てはまるといいます。

経験特性 内容
① ジョブ・トランジション(異動) これまで経験したことのない、まったく新しい領域に異動する
② 高度な責任 子会社の経営を任されるなど、これまでより責任の重い仕事を経験する
③ 権限がない中での影響力 責任は重いのにそれに見合う権限がない、というジレンマの中でチームをつくる
④ 障害 山積する課題に対処し、トラブルを解決する
⑤ 変化の創造 不確実な環境で変化を生み出す。斜陽の分野ではなく、自らの手で変化を生み出す余地がある分野で経験を積む

出典:田中准教授への取材、田中聡『経営人材育成論』(東京大学出版会)をもとに編集部作成

つまり、不慣れな環境で、責任は重いのに権限がない中、ステークホルダーを巻き込みながらチームをつくって課題を解決し、変化を生み出していく。こうした経験を、若いうちから計画的・戦略的に積み重ねられる環境に身を置くことが、経営人材になるために非常に重要だと田中准教授は語ります。

経営人材の育成が進まない構造的な問題

企業の人事に組織課題を尋ねると、「次世代経営人材の育成」は10年、20年単位で常に上位に入っています。それでも状況が変わらないのはなぜか。田中准教授は、取り組みが不十分、取り組み方に問題がある、効果がまだ表に出ていない、という3つの可能性を挙げたうえで、経営人材の育成には「人材育成の遅効性」があると指摘します。20代の若手に投資しても、実を結ぶまでに最低20〜30年かかるため、今の取り組みが成功しているかを評価するのは現実的に難しいのです。

「短命社長から短命社長へのバケツリレー」

そのうえで田中准教授が最大のネックとして挙げるのが、経営者の在任期間の短さです。在任期間が3、4年程度では、神戸大学の三品和弘教授の言葉を借りれば「短命社長から短命社長へのバケツリレー」のようなものです。

任期の先の10年、20年を見据えて、今手を打つべき意思決定や引き受けるべき痛みに本腰を入れられるか。「在任中は何事もなく無事に終えたい」というインセンティブが働きやすい構造が、経営人材育成へのコミットメントを下げていると田中准教授は指摘します(経営人材の育成については、松田千恵子教授の解説記事でも紹介しています)。

よくある質問(FAQ)

Q. 全員発揮型リーダーシップとは何ですか?

A. 立場や権限、役職に関わらず、チームに参加するすべてのメンバーが、チームの目標達成に向けて主体的に行動し、他者に影響を与えることをリーダーシップと捉える考え方です。田中准教授が教える立教大学経営学部では、学部創設以来この考え方を大切にしたリーダーシップ教育を行っています。

Q. なぜ今、全員発揮型リーダーシップが求められるのですか?

A. 田中准教授は、不確実性の高い時代には、どれほど優秀なリーダーでも会社の10年先を明確に予知できないためだと説明しています。一部の経営リーダーだけに権限を使って集団を率いる従来型のリーダー像を求めるのは無理があり、メンバー一人ひとりが目標を見据えて自分にできる貢献を考え、行動することが必要です。

Q. 経営人材を育てるにはどんな経験が必要ですか?

A. 田中准教授は、CCLの研究者らが提唱した「発達的挑戦課題」の5つの経験特性を挙げています。新しい領域への異動、高度な責任、権限がない中での影響力、障害への対処、変化の創造で、これらを若いうちから計画的・戦略的に積み重ねることが重要だとしています。

Q. なぜ日本企業では経営人材の育成が進まないのですか?

A. 田中准教授は、成果が出るまでに20〜30年かかる「人材育成の遅効性」に加え、経営者の在任期間が3、4年程度と短く、任期中は無事に終えたいというインセンティブが働きやすい構造が最大のネックだと指摘しています。

Q. OJTはなぜ機能しなくなったのですか?

A. 田中准教授は、OJTは計画的な育成手法ではなく、環境の変化が緩やかで、同質・固定的なメンバーの職場で新人が先輩の背中を見て学べるという条件が重なって生まれた「偶発性の産物」だったと説明しています。変化が速く、職場のメンバーも多様になった今、その条件が成り立たなくなったためです。

まとめ:一人ひとりがリーダーシップを発揮し、経営人材を計画的に育てる

  • 人的資本経営は、ファイナンスの観点から生まれた「社会的な運動」。ブームのフェーズは抜けた
  • 「人を大事にする」の意味は、雇用を守ることから、一人ひとりを資本として投資することへ変わった
  • OJTは偶発性の産物だった。開示だけでなく、人が育つ職場の改善が最優先の課題
  • VUCA時代には、立場や権限に関わらず全員がリーダーシップを発揮する全員発揮型リーダーシップが求められる
  • 経営人材は5つの経験特性を計画的に積んで育つ。経営者の在任期間の短さが育成を阻む構造的な問題

後編では、優れたチームをつくるための「OS」と「アプリ」、チームを動き続ける存在として捉える「チームワーキング」の考え方、そして調査で見えてきた人事パーソンの3つの課題と、経営者と人事が一緒に会社の未来をつくる重要性について解説します。

経営人材を計画的に育てる仕組みを

経営人材を育てるには、若いうちから挑戦的な経験を計画的に積ませ、成長を可視化・評価する仕組みが欠かせません。DEFiDEの「JOB Scope」は、人事コンサルティングと人事クラウドの2軸で、経営に直結する戦略人事の制度設計から組織への定着までを支援する人事制度改革プラットフォームです。

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