「かしこく働く」とは、働くうえでのルールと自分の権利を理解したうえで、何のために、どのように働くのかを自分で考えて決めることです。関西大学の森田雅也教授は、自律的に働くことが得意でない人がいて当然であり、大切なのは一人ひとりが「自分にとっての良い会社」を見つけ、普通に働く人が素朴な意味で幸せに働ける社会をつくることだと語ります。
「自律的に働きたい人」もいれば、「決められた時間の中で働きたい人」もいます。どちらが正しいということではありません。
本記事では、森田教授へのインタビューをもとに、経験から学ぶ思考法、学生の就労観の変化、「大人としての自律」と「かしこく働く」ことの意味、「自分にとっての良い会社」を見つける視点、そして経営者が社員に示すべきことを解説します。
この記事でわかること
・他の人の経験から学び、抽象化して考える思考法
・時間管理と裁量的な働き方――学生の就労観の変化
・自律的に働くことが得意でない人がいて当然という視点
・「大人としての自律」と「かしこく働く」ことの意味
・「自分にとっての良い会社」の見つけ方と、経営者が示すべき方向性
関西大学 社会学部 教授(取材時)。1987年神戸大学経営学部卒業、1989年同大学院経営学研究科博士課程前期課程修了、1992年同後期課程単位取得退学。1992年関西大学社会学部専任講師、1995年同助教授を経て、2002年より現職。1996年博士(経営学、神戸大学)。専門は経営学、人的資源管理論で、裁量労働制や自律的な働き方を、現場での聞き取りを中心とする質的調査で研究している。共著に『経験から学ぶ経営学入門』『経験から学ぶ人的資源管理』(有斐閣)など。
聞き手:JOB Scopeマガジン編集部
森田教授は、学生は経験が限られているからこそ、大人の経験を聞いて仕事を想像し、具体化し、さらに抽象化して考えることを勧めています。これは学生に限らず、ビジネスパーソンにも当てはまる学び方です。自分が経験したことのない出来事でも、想像力によって抽象化し、自分の考えに生かすことができます。
森田教授は、授業のレポートで、時間を管理される働き方と、裁量のある働き方のどちらを好むかを学生に尋ねてきました。
| 時期 | 学生の回答の傾向 |
|---|---|
| 以前 | 時間を管理される働き方を選ぶ学生が多かった |
| 直近2〜3年 | 両者の割合がほぼ同じになっている |
出典:森田教授への取材(森田教授の授業の受講生へのアンケート)をもとに編集部作成
ここでいう「時間の管理」とは、細かな作業の管理ではなく、始業と終業の時間を決められる働き方を指すと考えられます。「学校にいる間はずっと管理されてきたので、働き始めてから自分で考えるのは難しい」と書く学生もいたといいます。ただし、森田教授は、この結果は自身の授業の受講生に限ったもので、一般化することは避けるべきだとしています(若い世代の仕事観については、小々馬敦教授の解説記事でも紹介しています)。
森田教授は、大学院時代の師から自律的に働くことの大切さを教わり、以前は「自律できないのはよくないことだ」と考えていました。しかし、現場での取材を重ねるうちに、人間は本来自律的な存在であっても、仕事で自律的に働くことが得意でない人もいると確信するようになったといいます。全員が自律的な働き方を望むことの方がむしろ不自然であり、管理される方がよいという人がいても自然なことなのです。
森田教授は、大人としての自律を、自分で考えて決め、それを実行できることだと言います。そして、「かしこく働く」とは、自分の権利を理解し、それを何のために、どのように守るのかがわかっていることです。
| 観点 | かしこい働き方 | かしこいとはいえない働き方 |
|---|---|---|
| ルールの理解 | 法律や労務管理などのルールを理解している | ルールを知らないまま働いている |
| 働き方の選び方 | 理由を持って働き方を選んでいる(管理される働き方を選ぶことも含む) | 組織に言われるまま、考えずに「自律的に」働いている |
出典:森田教授への取材をもとに編集部作成
野球をするにはルールを知る必要があるように、働くうえでも、法律や労務管理などのルールを理解したうえで、自分が働きたいように働くことが大切です。自律的な働き方を選ばなくても、はっきりとした理由があれば、それもかしこい働き方になり得ます。
森田教授がゼミで大切にしているのは、あいさつ、返事、笑顔、時間の約束を守るといった基本です。保育園でも教わるような当たり前のことを、当たり前にできることが土台になります。ゼミでは、勉強や部活動、アルバイトなど分野を問わず、「互いに刺激を与え、共に向上する集団を目指そう」と呼びかけているといいます。
経営学やビジネスの世界では、華やかな企業や人物が取り上げられがちです。しかし実際には、日本で働く人の多くは雇われて働く人であり、会社の99.7%は中小企業です。森田教授が目指すのは、普通に働く人が、素朴な意味で幸せに働き、生きられる社会です。
| 「自分にとっての良い会社」を考えるポイント | 内容 |
|---|---|
| 大企業だけが良い会社ではない | 誰もが知る大企業に入れる人は限られており、入っても幸せとは限らない |
| 良い会社は人によって違う | 良い会社は一律ではなく、自分に合った会社を探せばよい |
| 好きになるのは後からでもよい | 「好きなことを仕事に」と考える人は多いが、働くうちに仕事が好きになることもある |
出典:森田教授への取材をもとに編集部作成
これは、森田教授が2012年にコラムで書いた「自分にとっての良い会社」の考え方です(社員が会社に定着する理由については、山本寛名誉教授の解説記事でも紹介しています)。
森田教授は、経営者はどのような会社にしたいのかを示すべきだと言います。方向性を示せば、賛同する人もいれば離れていく人も出ますが、示さなければ社員が困ります。目的がはっきりしないと、裁量を任された人が困るのと同じです。
ある中小企業の経営者は、採用の場には必ず自分が出ていくと話していたそうです。「自分と一緒にやるのが嫌なら、ここでは働けないから」という理由です。言葉でも態度でもよいので、目指す方向をはっきり示すことが大切です。
森田教授が裁量労働制について話した、ある中小企業の経営者は、「そんな制度は要らない。自分が認めれば、社員は自由に動けるのだから」と答えたといいます。例えば、子どもが熱を出した社員に「心配だろうから、帰っていいよ」と声をかければ足りるのです。
トップは大きな力を持っており、無理に働かせることも、柔軟な働き方を認めることもできます。その意識を持つことが、働く人の安心につながる――これが、森田教授から中小企業の経営者へのメッセージです。
トップの判断による柔軟さに加えて、それを誰もが安心して使える仕組みとして整えておくことも、社員の安心を支えます。
柔軟な働き方を支える制度をつくる
社員が安心して柔軟に働けるようにするには、トップの方針を人事制度や働き方のルールとして整えておくことが役立ちます。DEFiDEでは、人事制度や働き方の課題について相談を受け付けています。
A. 森田教授は、自分の権利を理解し、それを何のために、どのように守るのかがわかっていることだとしています。法律や労務管理などのルールを理解したうえで、理由を持って自分の働き方を選ぶことであり、管理される働き方を選ぶこともかしこい働き方になり得ます。
A. 森田教授は、自分で考えて決め、それを実行できることだとしています。組織に言われるまま、考えずに「自律的に」働くことは、かしこい働き方とはいえないとしています。
A. 森田教授の授業の受講生へのアンケートでは、以前は時間を管理される働き方を選ぶ学生が多かったのに対し、直近2〜3年は裁量のある働き方とほぼ同じ割合になっています。ただし、森田教授は、自身の受講生に限った結果で、一般化は避けるべきだとしています。
A. 森田教授は、誰もが知る大企業だけが良い会社ではなく、良い会社は人によって違うため、自分に合った会社を探せばよいとしています。「好きなことを仕事に」と考える人も多いですが、働くうちに仕事が好きになることもあります。
A. 森田教授は、経営者はどのような会社にしたいのかという方向性を示すべきだとしています。また、トップは柔軟な働き方を認める大きな力を持っており、その意識を持つことが働く人の安心につながるとしています。
前編では裁量労働制のメリットと課題を、中編では部下に任せるマネジメントを見てきました。自律して働くとは、自由に振る舞うことではなく、ルールを知り、周りに配慮し、結果に責任を持つことです。そして、自律を求めすぎず、一人ひとりに合った働き方を認めることが、誰もが幸せに働ける組織への道なのです。
一人ひとりに合った働き方を、実際の画面で確かめる
社員一人ひとりの職務や目標、評価を一元的に把握できれば、働き方の違いを認めながら公平に評価しやすくなります。DEFiDEの「JOB Scope」では、実際の画面を見ながら説明を受けられる個別オンラインデモを行っています。
▶ 前編:裁量労働制のメリットと課題とは?「任せて結果で評価する」と成果が上がる理由と、定着に欠かせない「自己規制」・納得できる評価(内部リンク)
▶ 中編:部下に任せるマネジメントとは?「強制された自発性」を超える5つの原則と、自律とわがままを分ける3つの条件(内部リンク)
▶ インタビュー全文:自律して働くとは何か――裁量と責任を両立させ、誰もが幸せに働ける組織をどうつくるか(後編)(JOB Scopeマガジン)