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AIを活用し、独自の「家族経営」でゼロから売上5億円! / 社会保険労務士 中村紳一(その1)

作成者: JOB Scope編集部|2026/05/18

シリーズ あの人この人の「働き方」

この人に「キャリア」あり!
AIを活用し、独自の「家族経営」で
ゼロから売上5億円!

~ 社会保険労務士 中村紳一(その1)~

 

AIに仕事がほとんど奪われた…生成AI時代に売上5億円を達成した経営者の実例。社会保険労務士・中村紳一氏に聞く。3回完結の1回目(その1)

 

 

2026年現在、生成AIの進化により社労士の仕事が大きく変わっている。就業規則作成や労務相談の多くがAIに代替される中、どう生き残ればいいのかー。

 

埼玉を中心に活躍する社労士で、埼玉一人親方部会理事長・一般社団法人埼玉労災事業主協会代表理事の中村紳一氏(63歳)に取材した。AIを積極活用しながら創業15年で売上約5億円まで成長させたリアルな経験と率直な思いに迫る。

 

中村紳一氏のキャリア

 

1985年に立命館大学社会学部卒業後、大手エレベーターメーカーで営業職として官公庁・大企業相手に常に上位成績。1989年、27歳で社会保険労務士・行政書士として独立。中小企業の労務顧問として、採用・定着・育成、賃金制度・人事評価制度の作成、労使トラブル解決、助成金申請などを手がける。

 

2011年、埼玉労災一人親方部会(厚生労働大臣承認・埼玉労働局承認)の運営を開始。現在は理事長として、関東全域の一人親方(建設業個人事業主)を対象に労災保険の特別加入支援、事故対応、相談業務を行う。この事業は「安い・早い・安心サポート」を掲げ、創業15年で売上約5億円、従業員10名規模(半数以上が家族・親族)に成長した。

 

 

 


 

 

 

01 ―――

まとめ

 

生成AIが社労士の仕事を「奪っている」衝撃の現実

 

中村氏が最も強く語ったのは、生成AI(特にChatGPT)の影響。「社労士の仕事の多くは、AIにとって代わられているのです」

 

具体例:

 

  • ・2010年に作成した就業規則の改訂を2026年に再び依頼された際、ChatGPTに「2010年から2026年までの労基法をはじめとする労働法改正をすべて踏まえて作成してほしい」と依頼。
  • ・1分以内に、法改正を時系列で整理した非常にきれいなドラフトが完成。
  • ・解雇、パワハラ、賃金トラブルの労務相談でも、AIの方がスピードは速く、回答が整理され、説得力があると感じている。

 

リーマンショックと父親の死が人生を変えた

 

社労士からの事業転換の背景には、2009年のリーマンショックがある。顧問先の3分の1が短期間で消え、売上が急減。さらに実の父親が病気で亡くなり、人生観が大きく変わった。「父のような生き方はしたくない」と感じ、家族や従業員に資産以上のものを残したいと考える。

 

知識の差だけで成り立っていた従来の社労士業務から、AIが代替しにくい「人のつながり」と「実務対応」が重要な一人親方労災事業へ軸足を移した。これが、現在の成功につながった。

 

AI時代に中村氏が実践している生き残り策

 

  • ・AIを事務処理の強力なツールとして大胆に活用。
  • ・自分は「オーケストレーター(調整役)」として、従業員や顧問弁護士・税理士との信頼関係構築に集中。
  • ・創業2011年から毎日、従業員全員のランチを全額負担(1人1000〜2000円)し続け、チームのモチベーションを高めている。

 

一人親方とは主に建設現場で事業主として従業員を雇うことなく、一人もしくは家族だけで請け負い、現場で実際に作業をする個人事業主のこと。労働者ではないので、発注する建設会社の労災保険に加入することはできない。

 

その場合、厚生労働省の特別加入制度を利用し、埼玉労災一人親方部会のような団体経由で政府の労災保険に加入ができる。埼玉労災一人親方部会には関東全域に住む一人親方が加入し、万が一の事故に備える。中村氏は、運営をする団体の責任者として労災事故に絡む事務処理をはじめ、日々の業務など様々な相談に応じ、助言や指導をする。職人同士が助け合う専用の健康保険・建設国保の運営も手がける。

 

 

 

02 ―――

経歴詐称、早期退職、使い込み、横領

 

創業の2011年から15年目を迎えたが、現在の売上は5億円前後。従業員は10人ほどで、半数以上が家族や親類だ。それには、ある事情があった。

 


埼玉労災一人親方部会のオフィス(埼玉県さいたま市)

「採用や定着、育成では、この15年でこういう小さな事務所や会社で起きやすい問題はひととおり経験しました。経歴詐称に近い形で入社したり、早々と辞めたり、会社の相当な金額を無断で使いこんでいたり、横領に近いことをしていたりと、ずいぶん困ったこともあります。キレて、ほかの従業員に当たり散らす人もいます。いずれも退職しました。採用試験時には信用し、雇ったのだから残念ではあるのですが…。

 

こんなこともあるのでしばらくの間、新たに雇うのが怖かった。今(2026年5月)も怖い。だから、従業員は家族や親類が多い。そのほうが、安全でしょう。ただ、また雇おうとは考えています。ありがたいことにお客さんが増え、業績が拡大しています。現時点で10億円を目標にしていますから10人ほどでは足りない。

 

採用、定着、育成の難しさは社労士の事務所を1人で経営していた頃に顧問先である中小企業から数えきれないくらいに聞いていました。経営者としていざ経験すると、つくづく難しいとあらためて実感しています。10人ほどの雇用形態は、さまざまです。週5日フルタイムで働く人もいれば、週3日のパートタイムの人もいます。それぞれが可能な限り働きやすいように運営しているつもりです。副業も認めています。できるだけ楽しく、納得して仕事をしてほしい。そんな姿を見るのは、楽しみでもあります。

 

2011年の創業期から従業員全員にほぼ毎日、ランチをごちそうしてきました。いろいろなパターンがありますが、最近多いのは何台かの車に乗り、オフィスに近い飲食店に行きます。和食もあれば、洋食の時もあります。毎回、私が全額支払います。1人平均1000円~1500円で、高い場合は2000円を超える時もある。「高い」「惜しい」なんて思ったのは1度もない。元気よく出社し、きちんと仕事をして楽しんでくれるならばむしろ、安いくらい。皆に感謝しているくらいです」

 

 

 

03 ―――

1ヶ月間で顧問先やスポット業務の3分の1が消えた

 

事務所を設立した理由はいくつもあるが、影響が特に大きかったのは2009年の世界的な不況・リーマンショック。短い期間で、社会保険労務士としての仕事が大幅に減る。1ヶ月ほどの間で顧問先やスポット(単発)業務の3分の1が消えた。

 

「とにかく、早かった。顧問先である会社の大半が中小企業ですから深刻な不況になると業績が早いうちに悪化する。社労士に発注する余裕がなくなったのでしょうね。それはそれで止むを得ないのでしょうが、こちらは金額的に相当な打撃を受けます。短い期間で、大量の解約となったので大きな痛手できつかった。完全に行き詰まりました。何を主力にしていけばいいのか、困り果てました。その頃、実の父親が病気で亡くなったのです。親が死んでいくのを見ると、人生観が変わります。

 

葬式の時に「この人は幸せだったのかな」とふっと思いました。幸福か否かは本人にしかわからないことでしょうが、少なくとも父のような生き方はしたくないと感じました。ある程度の資産を家族の私たちが知らないところで作っていたようでした。

 

そんな経験もありますから、私は3人の子どもに教育熱心です。ずいぶんとお金を使いました。あの世に何ももっていけない。死んだら、終わり。生きているうちに、家族には資産以上のものを残していきたい。従業員にも仕事を安心して、楽しんでできる環境を整えたい」

 

 

 

04 ―――

社労士として「することがなくなってしまった」

 

リーマンショックでの苦しみと父親の死が重なり、2009年~2011年は大きな転機になった。この頃、知人から一人親方の労災保険への特別加入団体の運営について教えてもらう。それ以前から、労災については社労士として熟知していたが、独学でさらに勉強し、知識を身につけ、2011年の東日本大震災後の4月にスタートした。

 

「当時を振り返ると、社労士として行き詰まったのはお客さんが減ったということだけではありません。新たに営業をして獲得すればなんとかなります。実は、それよりも本質的な問題がありました。

 

20代後半で退職し、社労士になり、ある時期までは稼ぐことができていました。特に1990年代後半~2003年頃は、助成金の仕事が大量に舞い込みました。いわゆる「助成金バブル」と言われた時代です。一定の条件を満たす会社の代わりに書類を書き、役所に申請します。審査を通過すると、その会社が助成金の支給を受けます。額は、数十万円から数百万円。その1~2割を社労士が報酬として受け取る。この数年間は、1年の平均の売上が3000万円を超えていました。

 

時代が変わり、資格への需要の質、量が変わっています。社労士の場合は国の社会保障制度のうえにある意味でのっかっている資格と言えますが、その基盤が崩れたのです。25年程前に比べると、需要が明らかに少なくなり、仕事は減っています。需要と供給のひずみは、ほかの資格においてもみられます。

 

今や、社労士として「することがなくなってしまった」のです。大半の社労士のメイン業務は特に中小企業から依頼を受けて書類を作成し、代わりに役所に提出すること。ところが、1990年代後半からインターネットが浸透しました。人事や総務が大企業のように整っていない中小企業の担当者がインターネットで調べれば、正確な情報を素早く得られるようになった。社労士に確認するよりも正しい情報を確実につかむのが可能になったケースもあるでしょう。

 

役所への人事労務や助成金に関する電子申請も急速に広がり始めました。中小企業からすると社労士に依頼し、そこを経由して役所に届ける理由がなくなりつつある。社労士の存在そのものが問われる時代になってきました。会社側からすると、我々に仕事を発注する必要性が乏しくなったとも言えるでしょうね。

 

2010年前後まで、顧問先やスポットの顧客である中小企業の経営者や役員、総務の管理職・担当者と頻繁に接していました。こちらが持っている知識や情報との差が、次第になくなっているのを痛感したのです。私以上にくわしい人もいました。インターネットで情報を集めていたのかもしれませんね。専門家は「知識の差」で評価され、報酬をいただく存在です。その差が小さくなったことで仕事を請け負うのが難しくなってきたのです。最近は、その変化が加速しています」

 

 

 

05 ―――

仕事の多くは、AIにとって代わられている

 

専門家である社労士と顧客である中小企業との知識の差がなくなりつつあり、「その象徴がAI」と語る。

 

「たとえば、2010年にスポットで中小企業の就業規則を作りました。その会社の担当者から先日、連絡をいただきました。「今年2026年は16年目になりますから、そろそろ新しいものに変えた方がいいのではないでしょうか」という内容です。私は、就業規則の改訂として請け負いました。

 

2026年現在までの16年の間に労働基準法をはじめ、就業規則を作成するうえで必要な法律が様々な形で改正されています。日頃からこうした知識を身につけるために勉強してはいますが、AIの方がはるかに正確に把握しているのです。愛用しているAIはいくつかありますが、その一つがChatGPT。たとえば、こう問いかけます。

 

「2010年から現在までの労基法をはじめ、労働法や民法の法改正を踏まえて就業規則を作りたい。どういう内容にすればいいか」。そして依頼主である中小企業の業界や規模、特徴、人事労務の課題や問題点をさらに話して、データとして加えます。すると1分もたたないうちに、きちんとした回答が画面に素早く出てくる。相当にきれいに整理されています。

 

「2012年、2016年、2020年にこう変わった」とリストアップし、それを踏まえ、その会社にふさわしい就業規則を書いています。私が同じことをやろうとしても、こんなに素早くはとてもできません。AIのレベルには驚くばかりで、感激します。GPTを使ったことを言わずに、お客さんに「こういうようにしました」と伝えると、ずいぶん喜ばれました。もしかしたら、GPTを使っていたのかもしれませんが…。

 

社労士の仕事のあり方や進め方が大胆に変わりつつあるのは、間違いありません。仕事の多くは、AIにとって代わられているのです。自分が生きていくため、そして家族を養っていく糧になるような大きな仕事は相当に少なくなっていくでしょうね」

 

 

 

06 ―――

AIが広がると社労士業務だけで生活をしていくのは困難

 

ITデジタル化が進むほどに、さらに減っていくと予言する。最近は、中小企業からの労務相談も大幅に減ってきたという。中村氏には以前は、解雇や退職勧奨、退職強要、賃金、パワハラ、セクハラの労務相談が頻繁にあり、それらへの迅速な対応を得意としていた。

 

「この類の問題もAIに聞くと素早く、正確な回答をしてくれます。これもただ驚くばかり。私では、ここまではできない。ここ数年、相当に多くのAIを使ってきましたが、社労士の労務相談の回答よりもAIの方がスピードは早く、正確。早いだけではありません。とにかく、よく練られている。その意味も含めて感動しています。

 

特に法律の改正をしっかり踏まえたり、問題点を明確にしたり、時系列もきちんと整理できている点がすばらしい。大変に説得力のある内容になっています。これでは、社労士の仕事がほとんどなくなってしまうでしょう。AIが広がると社労士業務だけで家族を養い、それなりの生活をしていくのは相当に困難になるはずです」

 

 

 

07 ―――

AIが苦手である部分を意識して試みている

 

社会保険労務士として活動していた頃は通常は1人で仕事をしていたが、2011年から事務所にしてからは状況が大きく変わったようだ。

 


埼玉労災のマスコットキャラクター「ワルぐま」

「現在は顧問の弁護士、税理士、社労士とも契約をしています。長年、社労士をしてきたこともあり、弁護士や税理士、社会保険労務士への指示の出し方、依頼の仕方、コミュニケーションの取り方はうまい方ではないかと受け止めています。自画自賛になってしまいますが、AIではできないところでもあるでしょう。

 

社労士をしていた時の顧客は、おかげさまで継続して契約をいただいています。そういう方々からの相談案件は、顧問の社労士と組んで対応をしています。事務所を経営する立場ですので、あらゆる仕事を自分で抱えることは難しい。役割分担をして、任せられる部分はしっかり任せています。

 

社労士、税理士、弁護士への報酬の支払いは素早くするようにしています。いろいろな理由をつけて支払いを遅らせる会社や事務所はあるようですが、可能な限り早く、きちんと支払うことを心がけています。双方が仕事をするうえでの最も大切なことであり、基本ではないかと考えています。このあたりは、こだわっているところです。支払いがきちんとできていなければ、信頼関係を築くことは不可能でしょう。AIが苦手である部分ですから、私が意識して試みているのです。

 

従業員はそれぞれ契約社員という形になりますが、賃金は、世間相場よりは高めに支払うようにしています。そうしないと、定着しない。基本給もこの規模としては高めですし、ボーナスも世間相場より多い額を支給していますので、現在までのところ、賃金についての不満を直接、聞くことはありません。今後、10億円を目指しますが、そのためには採用や定着を促進したい。楽しい職場にしたいですね」

 

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編集後記

 

中村氏が実践しているように、AIをツールとして積極活用しつつ、自分は調整者になる方向は参考になるのではないだろうか。彼の事務所が家族中心+外部専門家(弁護士・税理士・社労士)と連携しているのも、生き残り策として理にかなっているように思える。

 

一人親方労災の団体運営という実務+コミュニティ運営に軸足を移したのも、タイミングがよかったと言えよう。この分野は、まだAIが完全に代替しにくい「人のつながり」と「事故対応の実務」が重要だからだ。中村氏は2011年の時点でここまで見据え、ビジネスモデルをつくってきた。ここに、私たち編集部が今回、取材を試みた大きな理由がある。

 

 

 

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著者: JOB Scope編集部
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