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第9回 10億円の壁にぶつかるベンチャー企業の新卒採用2024,25 

作成者: JOB Scope編集部|2023/06/12

第9回

10億円の壁にぶつかるベンチャー企業の新卒採用2024,2025 

2023/06/12



01 ―――

最新の新卒採用

 

1回目から8回目を通じて、売上10億円の壁にぶつかるベンチャー企業が直面する新卒採用やジョブ型雇用などをテーマにしてきた。

今回は2024年4月入社予定と2025年4月入社予定の主に大卒、大学院修了の新卒の採用試験をテーマにする。10億円の壁にぶつかるベンチャー企業が避けて通れないのが、この新卒採用だ。

1回目と2回目で解説したように、10億円の壁に直面するベンチャー企業の弱点は組織化が十分にはできていないこと。創業メンバーと一部の課長や部長、マネージャーなどの管理職の仕事のレベルは高い。高くなければ、売上5~8億円には達しない。だが、各部署やチームで目標や意識、社員のスキルやノウハウを共有し、仕事を遂行することが難しい。そのような意味でのチームビルディングが大企業やメガベンチャー企業のようにはできていない。だからこそ、10億円の前で行き詰まる。

チームビルディングを進めるためには、社員の定着率が高いことが要件となる。そのためには中途採用だけでなく、新卒採用にも力を注ぐことが大切だ。新卒者のほうが勤務する企業の外の世界を知らないだけに、ある面で素直に会社のルールや決まり、仕事の仕方を受け入れる。このような姿勢が上司をはじめ、ほかの社員との良好な関係をつくる。楽しい職場や納得感のある仕事となり、定着率がしだいに上がる。

とはいえ、ベンチャー企業にとって新卒採用で一定の成功をおさめるのは難しい。社の知名度、社会的な信用、採用の予算や態勢、採用担当者やその上司の経験値やノウハウ、経営層(トップマネジメント)の採用への取り組みなどに問題や課題が多い。そもそも、新卒採用を本格的にしたことのない企業が大半を占める。

今回は、そのような問題を克服するためのヒントをつかむために、2024年4月入社予定と2025年4月入社予定の主に大卒、大学院修了の新卒の採用試験をテーマにしたい。

 

 

02 ―――

採用活動の「早期化」 

 
2023年6月現在、24年4月入社予定の新卒採用は相当に進んでいる。もはや、終盤に差し掛かりつつある。採用活動を前倒して内定を出す、いわゆる「早期化」は顕著になりつつあるのだ。25年4月入社予定の大卒、大学院修了の新規卒業見込み予定の学生(現在、大学3年)をターゲットにした採用活動を23年4月から始めた企業もある。

就職みらい研究所によると、24年入社の場合、23年2月1日の時点で卒業予定者の約2割、3月1日には約3割が内定となっている。2~3月でこれほどの数の内定が出ていることを踏まえると、採用活動は前年(2022年)の夏から秋、冬にかけて相当数の企業が行っていた可能性が高い。

多いのは夏(7月~10月)にインターンシップを開催し、採用活動をはじめるメース。インターンシップとなってはいるものの、実際は選考になっているものが目立つ。夏からスタートしているのは、外資系企業が最も多い。その次にベンチャー企業や創業して日が浅いものの、勢いのあるスタートアップ企業、そしてメガベンチャー企業だ。10億円の壁にぶつかるベンチャー企業はおそらく、この時期にスタートしているだろう。また、はじめるべきだ。
 
 

03 ―――

「早期化」の採用活動のスタイル 

 

これらの企業の採用活動の1つのスタイルは、次のようなものだ。

 

  • 夏のインターンシップで獲得したい学生がいれば、秋から冬(10月~年明けの2月)に特別インターンシップを実施し、その学生を招き、セレクトをして採否を決め、内々定を出す。そして、年明けの2月~3月に正式に内定。

  • 夏のインターンシップ以降、秋のインターンシップまでに人事部が特定の社員(主に20~30代)をリクルーターとして起用し、獲得したい学生と合わせる場合もある。それが事実上の面接となり、何らかの評価をし、人事部にフィードバックする。それを受け、秋に特別インターンシップを開催し、そこで内々定を出すケースもある。

 

 

04 ―――

大企業とメガベンチャー企業の「論理」

 

一部の大企業も、前年の夏からインターンシップを行う。経団連に加盟する大企業の多くは通常、年明けの3月からスタートする。だが、2024年4月入社予定の新卒採用は2023年3月で、卒業予定の学生約3割が内定となった。残りの約7割から選ぼうとすると、欲しい人材に巡り合う確率が低くなるかもしれない。そこで大企業も採用の時期を前倒しせざるを得なくなっている。

このような大企業が前年の夏に採用したいのは、理系の優秀な学生が多い。例えばITエンジニア職で言えば、それに関する難易度の高い資格をもっていたり、コンクールで優秀な成績をおさめたりしてきた実績のあるタイプだ。

ブランド力のあるメガベンチャー企業も理系の特に優秀な学生にはアプローチをしている。ITエンジニアで優秀な人材が足りなくなっているからだ。ここで、大企業がメガベンチャー企業と競い合うことになる。メガベンチャー企業が前年の夏に採用活動をスタートしているために大企業もその時期に合わせてくるのだろう。

双方が競い合えば、今の時代でも学生の大企業志向、安定志向は強いものがあるために大企業が有利になる可能性が高い。大企業が圧倒的に強かった1990年代初頭までに比べると、大学生の大企業志向は変わりつつあると見る人もいる。だが、実際は大きくは変わっていない。依然、大企業への就職を希望する学生の数は中小企業やベンチャー企業よりもはるかに多い。

 

 

05 ―――

中小ベンチャー企業の奮闘

 

知名度が低く、採用予算や態勢が見劣りする中小のベンチャー企業は苦戦をしている傾向が強い。例えば前年の夏に採用活動をはじめても、エントリー者が少ない。1回のインターンシップで参加希望者が数人のケースもある。会社説明会は1回につき数人で、最終的に50回程を実施し、200~300人の場合もある。

新卒、中途ともに母集団形成は大切な手法ではあるのだが、中小ベンチャー企業には様々な事情でそれができないケースが多数ある。

 

06 ―――

中小ベンチャーは母集団形成のあり方を変えつつある?

 

最近は、中小ベンチャーは母集団形成のあり方を変えつつある。例えば多数の新卒者が登録する人材紹介会社に依頼し、ここから紹介を受け、採用活動をする。

1人の採用担当者が5~10社の人材紹介者会社と提携している。1回につき、10~15人の学生の紹介を受けるケースが多い。10~15人から数人を選んで、採用担当者がアプローチをする。

これらの企業は、ブログやFacebookやTwitter、YouTubeのSNSにも熱心だ。例えばYouTubeで自社のチャンネルを開設し、社員らが製品を扱うコントを披露する中小ベンチャーもある。再生回数が1本(平均5分)につき、20~30万を超えるほどにヒットしている。社員数が50人程であるが、楽しく明るい職場であるのがわかる。「大企業やメガベンチャー企業にない、私たちの魅力は何なのか」とよく考えたうえでアピールしていると言える。

視聴する人が多かったとしても、採用試験にエントリーする学生が増えるとは限らない。だが、まずは自社を知ってもらうことが大切だ。

さらには、採用担当者から獲得したい学生に直接、FacebookやTwitterを通じてダイレクトメッセージを送る場合もある。こういう様々な手法を使い、エントリーする学生を増やし、1000~2000人を超えるようにしている。

大企業やメガベンチャー企業が求人サイトや自社のホームページで求人を載せ、エントリー者を集める「待ちの母集団形成」と呼ぶならば、中小ベンチャーは「能動的な母集団形成」と言えるのかもしれない。特に「大企業やメガベンチャー企業にない魅力」をアピールしている点が、ポイントだ。

 

 

07 ―――

レベルの高い中小ベンチャー企業は「スカウト型」で対応

 

「能動的な母集団形成」が中小ベンチャー企業に浸透する背景には、学生の意識の変化もある。景気が多少上向きになり、売り手市場になっている。しかも少子化が激しいスピードで進むために、慢性的に人手不足であり、人材難になりつつある。意識の高い学生は、そのことをよく心得ている。安易な思いで自分から売り込む就活をしない。企業からの誘いの声を待っているとも言える。

そのような学生は、新卒者を企業に紹介する人材紹介会社が運営するプラットホームに自らのプロフィールを登録する。それを見る企業からのスカウトの連絡を待つ傾向がある。

このスタイルは、企業が学生をスカウトするので「スカウト型」(ダイレクトリクルーティング)と言われる。

メリットは、主に次の2つだ。

 

  • 欲しい人材にピンポイントでアプローチできるために、自社に合う人材を採用できる確率が高くなる。

  • その企業のことを知らない学生にも、アプローチできる。


これまでは、学生から企業にアプローチするのが主流だった。「スカウト型」は、その逆と言える。「スカウト型」もまた、エントリー者を増やすという意味では母集団形成と捉えることができる。

ただし、スカウトをすること=内定ではない。ほとんどの企業はプロフィールだけを見て、内定を出すことはしていない。自社に合う人材であるか否かなどの精度を高めるために人事部が起用するリクルーターを、入社させたいと思った学生に会うようにさせている。そこで面談をして、さらにどこかのタイミングで人事部員が会い、そのうえで採否を決め、最終的に内定を出す企業が多い。

「スカウト型」をするのは採用力が弱い中小ベンチャー企業が目立つが、メガベンチャー企業もはじめている。特にターゲットになるのが、優秀な理系の学生。プロフィールに例えば、ITエンジニアの資格や実績を書いておくと、採用担当者の目にとまりやすいようだ。


 

08 ―――

「スカウト型」の狙いは何なのか、と考え直す 

 

シビアなとらえ方かもしれないが、中小ベンチャー企業は「スカウト型」を使っても、大企業やメガベンチャー企業と互角に競い合うのは難しいのかもしれない。

そこで考えるべきは、独自のアピールの仕方だ。中小ベンチャー企業は大企業やメガベンチャー企業とは違ったブランドを持っているはず。それが強みであり、前面に出してアピールすべきところ。実際、そのような手法で「スカウト型」で欲しい人材を獲得しているケースも少なからずある。

いかなる時も、大企業やメガベンチャー企業の後追いをするのは避けたほうがいい。新卒入社の社員は定着し、近い将来、中核を担う人材なのだからその本質を見誤らないほうがよい。いかに自社に合う運命の人と巡り合うか、そこが最も大切なところと言える。「スカウト型」の狙いは何なのか、と考え直すことが大切なのだ。

さらに言えば、現在の状況(売上や社員数、社員の仕事力や経験値、役員や管理職のマネジメント力など)にマッチする人材であるか否かに重きを置きたい。例えば、中小ベンチャー企業の場合、賃金は20代後半以降、大企業やメガベンチャー企業と比べると差がつく傾向がある。その差は30~50代になると、ますます大きくなる。こういうところまで含めて納得して入社する学生を採用すべきなのだ。

言い換えると、賃金など労働条件でのハンディを克服できると感じさせるほどの「楽しく明るい職場」や「働きがいのある職場」「キャリアメイクができうる社風」をアピールすべきなのではないか。これらの視点を欠いたまま、「スカウト型」を使ったところで、本末転倒になる。

今後、大企業が採用活動を前倒す可能性が高い。大学3年の夏に行っていたインターンシップを大学2年から3年になった直後の4月前後からはじめる大企業も現われるはず。まともにぶつかっても、大企業には勝てない。中小ベンチャーは新卒採用の本質を思い起こすことがますます必要になる。

 

 

著者: JOB Scope編集部
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