第11回
2023/11/21
目次
第11回と第12回は、2018年に売上10億円の壁を乗り越え、2022年12月で約28億円4千万円に達したベンチャー企業の経営者にインタビュー取材した内容を紹介する。
ビジネス英語に特化したオンライン英会話サービスを展開するビズメイツ株式会社(東京都千代田区)代表取締役社長の鈴木伸明氏は、IT企業のヤフーや英会話学校のベルリッツ・ジャパンを経て、2012年に創業した。
オンライン英会話学習を運営する会社は、インターネットのオンラインツール「スカイプ」が普及した2010年前後から増えているが、同社は創業期からビジネスパーソンにターゲットを絞ることで差別化を図ってきた。
トレーナー(講師)は主にビジネス経験豊富なフィリピン在住のフィリピン人で構成され、オンラインツールを使い、主に日本在住の日本人に英語を教える。ビジネスですぐに使える実践的で、質の高い内容が特徴。
最近は外国籍のITエンジニアの転職エージェントやグローバルなIT人材の採用なども手掛ける。
01 ―――
Q、10億円を超えるためには、大きな壁があったのではないでしょうか?
2022年12月の売上は約28億4千万円ですが、創業6年目の2018年に10億円を超えました。そこに達するまでに何をどうすればいいのか、といった戦略は創業時から私はすべてクリアに見えていました。10億円までは、その考えをきちんと実行してくれる人材がいれば、ある程度はスムーズに到達できると思っていたのです。実際に、その通りにはなりました。
Q、10億円に達するために特に重視したことは、何でしょうか?
少なくとも4つあります。
1つは、マーケット(市場)の調査です。当社の場合は、それが「ビジネス英会話」になります。創業時は通学型(教室型)の市場規模が、子どもから成人までで約3300億円と言われていました。その中で大人向けが2000億円程、さらにそこでビジネス英会話が1200億円程だったのです。※
こういう確かなマーケットが、存在していました。私たちの質の高いオンラインビジネス英会話のサービスならば、早いうちに10億円を超えるのは決して難しいことではない、と当初から考えていたのです。
2つめは、ビジネスモデルと販売チャンネルです。当社の販売チャンネルは、主に2つあります。
1つは、B(Business=企業や団体、公的機関など)向け。もう1つは、C(Consumer、個人=経営者や会社員、自営業者、学生など)向けです。
前者では、解約をする顧客よりも新規契約の顧客数が増えれば、売上は通常は増えます。後者では、経営者や自営業者、会社員などのビジネスパーソン、学生などと顧客層が分散しているので、会社全体に影響を及ぼすような問題が生じない限りは、基本的には売上が大きく減ることはないと考えていました。
※ 出所:矢野経済研究所「語学ビジネスに関する調査結果2014」
02 ―――
Q、マネジメントクラスを育成する教育は、どのようなものがありますか?
これらのことを踏まえ、営業活動に力を入れてきたのです。サービス内容には他社を圧倒する力があると思っていましたから、2つの販売チャンネルを拡大すれば顧客は必ず増えると考えました。オンライン英会話の学校や教室を調べる人はインターネットを見るケースが多いことを想定し、特にWEBマーケティングに力を入れました。
広告を載せる際には、ヤフーやグーグルなどの検索エンジンに「オンライン英会話」とキーワードを入力し、調べる人の目に触れるウェブサイトやページにビズメイツの広告を出稿し、露出を高めていきます。そして、サービスの内容をご理解いただき、契約してもらえるようにしました。
オンライン英会話の利用を検討している、こうした顕在層に私たちのサービス内容がきちんとリーチできるようにするのが、広告の大きな目的だったのです。
03 ―――
Q、大多数のベンチャー企業は、人材難です。当時、広告を載せる戦略に長けた人はいたのでしょうか?
創業3年目に、マーケティング担当の役員として入社した男性がいます。私が営業やマーケティング、総務や人事、経理など様々なことに関わっていたために、安心してそれらの仕事の一部を任せることができる人材が必要でした。
彼は、私と同時期の2000年に金融関連会社に新卒として入社し、その後転職したベンチャー企業でマーケティングを担当し、売上を伸ばした実績がありました。そのようなこともあり、私が「力を貸してほしい」と誘いました。彼からの提案もあり、CPAを意識しつつ、利益から逆算して限界まで広告投資をするようにしたのです。
たとえば創業4年目の2016年では、売上の35%程を広告費に使いました。この年の売上は約6億円。1人の売上が、約6000万円。広告費は、2億円を超えます。利益を上げながら会社を成長させるために、効果的な広告投資に注力したわけです。
3つめのポイントは、資金の運用です。現在まで資金繰りで苦しむことはなく、おおむね順調に進んできました。その理由の1つとして一例を挙げると、C向けの顧客にはまずクレジットカードでレッスン受講料(当時1か月1万2千円。毎日受講可能)をお支払いいただくことにしました。その後に、オンライン英会話のレッスンのサービスの提供を開始します。この流れがきちんとしていたので、資金の運用が円滑に進んだのです。
04 ―――
Q、10億円前後までは、金融機関やベンチャーキャピタルから資金の援助を受けるベンチャー企業が少なくないですが、そのあたりはいかがでしたか?
そのようなことはしていません。むしろ、資金面では比較的余裕がありました。広告費をいかに効果的に使うか。それでいかに顧客が増え、売上を増加させるか。この回転を高速で回していくスタイルをつくりたかったのです。これが、成長スピードになります。
資本金500万円でスタートし、2023年3月にグロース市場に上場するまで増資はしませんでした。増資は十分に可能だったのですが、10億円までは手元にある資金を可能な限り、広告費に投下することを優先したのです。
資金面では大きな壁にぶつかることはなかったのですが、特にマーケティングのCPA(Cost Per Actionの略。 広告によって誘導されたユーザーが、広告主のサイトで会員登録や商品購入など、特定のアクションに至った回数(1回)当りの費用)には常に注意をしていました。
そして、創業時から現在に至るまで一貫して考え続けてきたのは、顧客である皆様にいかにサービスに納得していただき、長くご利用いただけるかです。サービスの質を高めることが売上増加となり、広告にも資金を一層に投下できると考えていたのです。
Q、経営をするうえでの数字(売上、経費、利益など)について、随分と戦略的に考えてきたのですね。創業前は、英会話学校のベルリッツ・ジャパンやIT企業のヤフーに正社員として勤務していたようですが、数字はどこで学んできたのでしょうか?
社員の頃から、社長や役員など経営層に近いところで仕事をする機会が多かったのです。経験の浅い私が経営層である上司に説明し、説得するうえで数字は大切でした。数字は、ある意味で経験以上の説得力を持っています。そのような会社員時代に数字でビジネスを考える習慣が身についたのではないか、と思います。
05 ―――
Q、なるほど。では、10億円を超えるための4つめのポイントをお教えください。
10億円に達するまでの戦略や道筋は明確であったので、4つめのポイントはそれをきちんと実行できる人材をいかに採用し、育成するかでした。
この時点では社員数がまだ少なく、組織がフラットに近いので、私が各現場の戦略などの意思決定について、深く踏み込むことができます。ですから、管理職にはそれを確実に実行できる力が最も必要でした。
10億円に達し、30億円の壁を乗り越えようとする時には、当社はまさにそのステージにあるのですが、管理職が自分で戦略を考え、実行していくことが必要になるのです。規模が大きくなり、私が各部署の隅々にまで関わることができないからです。
06 ―――
Q、10億円前の時期では、鈴木社長が管理職に戦略を伝え、管理職がそれを実行できたとしても、その成果や結果に満足できないものがあったのではないでしょうか?
この規模のベンチャー企業の創業経営者へのヒアリングを私たちがすると、役員や管理職、一般職の社員の仕事に不満を持っているケースが目立つように感じます。そのあたりは、いかがでしょうか?
その意味での不満を感じたことはありませんが、私は管理職や一般職の社員とは立場が異なる以上、視点や目線、経験、意欲や熱量が違ってくる場合があるのではないか、と思う時はあります。それは、特に10億円前のステージではありうるのかもしれませんね。たとえば、私の場合は10億円までの道筋はクリアに見えていましたが、社員全員が当時見えていたわけではおそらくないでしょうから。
その時に「見えるようになりなさい」と指示をしても、見えない場合はあるのではないかと思います。私自身が考え方を変えるしかないのです。創業者である以上、熱量や発想、行動力は違うのだと受け止め、自分の価値観だけで社員たちを判断しないことが必要だ、と思います。
07 ―――
インタビューの前編は以上で、次回(第12回)で後編を紹介したい。
後編では、鈴木社長が10億円に達した時の自己採点を「70点」とするところからはじまり、その後、30億円を目指し、躍進するうえで管理職の育成やチームビルディングに力を入れてきた理由、今後の展望などとなる。
10億円に短い期間で順調に達するベンチャー企業は相当に少ない。ビズメイツがなぜ、可能であったのかと興味を持つ読者諸氏はいるのではないだろうか。そこで2016年に私たちの編集部のメンバーが、鈴木社長にインタビューをした際の一部を下記に紹介したい。鈴木社長の一連の言葉に、いくつかのヒントがあるように思える。
1999年、青山学院大学経済学部4年次に新卒として就職活動をしていた頃について尋ねると、こう答えた。
「大きな会社に入り、組織の歯車のように働き、将来がすぐに見えてくるような生き方はしたくなかった」
「スムーズに進まなかったとしても自分の力で切り拓き、高いポジションをつかみたかった」
2000年に新卒として入社した金融関連会社では、社長直轄の部署に配属された26歳の頃に経営に関心を持ち始める。鈴木社長(当時は一般職)は、その会社の社長がオーナーや社員らに説明をする際に必要な資料をつくることになる。社員を効果的に動かす仕組みを考え、提案をしていたようだ。
「私たちのアイデアなどが社長に認められると、それが全社で実現されるところにやりがいを感じました。この部署に3年半、在籍しましたが、とても楽しかったし、スキルを磨くことができたと思います。社長のそばにいて、経営を肌で感じることができて、ものすごくいい勉強になりました」
08 ―――
転職したヤフーでは、R&D統括本部に在籍した。金融関連会社での経験を生かし、事業部の事業計画書や経営幹部に提出する資料をつくる。「数字をもとに調査や分析をするスキルが高まった」と当時を振り返る。
2009年、32歳で外国語学校の運営や留学、語学に関わるサービスをするベルリッツ・ジャパンに転職した。
「金融関連会社の社長直轄の部署で仕事をしていた時の残像が消えなかったのです。やはり、ダイレクトに経営に関わることをしていきたい、と思いました。社長室の一員ならば、それができると考えました」
当時、ベルリッツ・ジャパンは経営の曲がり角にあった。女性社長のもと、V字型回復がなされたが、それに関わることができたことが喜びだったと語る。
「社長には、よくしていただきました。数字をもとに、人事や営業など経営に関わることを話したり、提案をしたりすると、私にきちんと聞いてくださるのです。社長は、お客様のためにサービスをするマインドが強かったのです。マーケティングを徹底させることで、売上を伸ばしたのです。そばで見ていて、すごいなと思っていました。パワーの強い方で、圧倒されるくらいでした」