組織改革/ジョブ型人事制度

人の成長を促すジョブ型人事制度の設計方法

 

欧米ではすでにスタンダードな手法として定着している、ジョブ型人事制度。

少し前まで、日本では一部の大企業での導入にとどまっていましたが、政府の投げかけも影響し、今は中小企業にまでジョブ型人事制度導入の波が広がっています。

なかなか日本で広まらなかった要因として、「ジョブ型=従業員の成長を見守る日本型人事とは異なるドライな思想」との誤認があったように思います。

本質的には、企業人の成長は仕事を通じてしか開発できません。
その意味では、職務(仕事)基軸であるジョブ型人事制度の本来の価値は、人の成長を伸ばすことにあるといえます。

今回は日本におけるジョブ型人事制度の変遷と、ジョブ型人事制度に一歩踏み出すための設計プロセスをお伝えします。

 


1.ジョブ型人事制度とは

ジョブ型人事制度イメージ昨今はメディアで「ジョブ型雇用が拡大」、「ジョブ型人事制度を導入」といった記事を目にすることが増えてきました。
過去もさまざまな人事トレンドがありましたが、現在の潮流はジョブ型に流れているといえます。

ただ言葉が先行するがあまり、ジョブ型人事制度の定義がよく分からないという方もいらっしゃるようです。

現在、ジョブ型人事制度の明確な定義は統一されていません。たとえば、日本経済団体連合会(経団連)では、ジョブ型雇用について以下のように示しています。

「特定のポストに空きが生じた際にその職務(ジョブ)・役割を遂行できる能力や資格のある人材を社外から獲得、あるいは社内で公募する雇用形態のこと」

引用元:一般社団法人 日本経済団体連合会(2020)|採用と大学教育の未来に関する産学協議会・報告書「Society 5.0 に向けた大学教育と 採用に関する考え方」

つまりジョブ型雇用とは、社内外を限定せずに職務・役割に合う人材を雇用・配置する形態のことを指します。ジョブ型人事制度は、その考えを等級・賃金・評価の各制度に反映することになります。

具体例をあげながら、ジョブ型人事制度と、多くの企業で採用されている職能型人事制度の違いを考えてみましょう。

ジョブ型人事制度は、いわゆる欧米型の「職務給に基づく職務主義人事制度」が基本理解となります。従業員が担っている職務そのものの価値に応じてランク分け(等級区分)し、賃金を支払っていく制度です。

一方職能型人事制度は、従業員の職務遂行能力に着目して、その高さや伸長度によって等級や賃金を定めます。

両者の違いは賃金だけがクローズアップされがちですが、影響範囲は賃金のみにとどまりません。
人事制度は「等級」「評価」「賃金」が三位一体の関係となっています。この三つの根底にジョブが置かれると、連動して変化が訪れます。

たとえばジョブ型の場合は、仕事が変われば等級(および賃金)が変わります。
仕事の価値によって等級が定められているため、仕事が変わったことによる降格もあり得ます。
一方、能力主義の場合は、異動によって仕事内容が変わっても賃金は変動しません。能力そのものは変わらないため、職能等級の変動は起こらないと解釈されます。

評価制度も、従来型の能力ベースではなくジョブ型では変化します。職務等級ごとに評価基準を設定することになります。

ただし全従業員が一律ではなく、職務等級に応じて「業績評価」と「行動評価」のウェイトは可変させることが現実的でしょう。
すなわち、上位の職務等級ほど業績評価にウェイトを置き、下位の職務等級ではより行動評価にウェイトを置き人材開発をはかることが一般的です。

このように、ジョブ型人事制度と、我々が慣れ親しんだ職能型人事制度の違いを、まずは念頭に置きましょう。


2.日本におけるジョブ型人事制度の変遷

ジョブ型、すなわち職務主義に関するトレンドは、実は今に始まったものではありません。

ただし、かつて日本で広まった職務主義は、ネガティブな影響ばかりがクローズアップされていました。そのため、いまでも「ジョブ型」という言葉に、アレルギーがあるという方も少なくありません。

いま一度、ジョブ型人事制度の誤認をただすために、過去の変遷をひもといていきましょう。

昭和の頃、日本企業の大半は能力主義を採っていました。
しかし、バブル経済が崩壊した1990年代初頭に不況が長く続いたことにより、企業は能力主義を見直さざるを得なくなりました。

キャリアを積むほど能力が向上する考え方が、能力主義の基本思想です。言い換えると、平均年齢があがるほど、企業の人件費は高騰します。

業績の伸び悩みで資金不足に窮した企業にとっては、人件費は大きな負担となりました。そこで職能ベースではなく職務ベースの人事制度へと、抜本的な対応を迫られたのです。

職務主義の職務給は、労務構成の変化に影響を受けない魅力がありました。
ただし今振り返ると、転換方針やキャリアへのメッセージが不足していたケースが課題だったように感じます。
従業員視点で考えると、入社した時には終身雇用が保障されていたのに、急に「自分の事は自分で考えなさい」と突き放された感があった面も否めません。

リカバリーのために、“キャリアは自分で作るもの”という自律的キャリア形成が、当時は叫ばれました。しかし新卒入社で先輩に育ててもらった日本の企業人には、腑に落ちなかったことでしょう。

その後、2000年代の中盤あたりからトレンドが変わり、いわゆる「成果主義」が流行りはじめました。
ここでの日本の問題点は、本来のねらいとは異なる運用が、結果「行き過ぎ」のように伝わったことでしょう。

たとえば、制度変更による降格者の発生が代表的なケースです。
成果主義へと転換した意図そのものが伝わらずに、肩書きが外された現象だけが話題になりました。
その結果、従業員の士気が落ち、職場の活力を下げる方向に動いてしまいました。

また、成果重視が行き過ぎたことで、いびつな事象も起こりました。
評価対象となる目標のレベルを下げて不利を被らないようにしたり、専門外の不利な人事異動には応じなくなったりもしました。
社内に不協和音が生じるような運用まで、成果主義の悪影響は及んでしまったのです。

結果的に「揺り戻し」が起こり、再び日本企業は能力主義の人事制度に戻しはじめました。この頃中国経済が大きく伸長し、企業の業績が回復したことも影響したと思われます。

そのような経過を経ながら、昨今では2020年に経団連の指針で、ジョブ型雇用の導入が提案されました。
さらに新型コロナウイルス感染症の流行を受け、新しい働き方が模索された始めたのも、ジョブ型のフォローウィンドとなったのです。

まさに今こそが「日本らしいジョブ型人事制度の確立期」といえるのかもしれません。


3.なぜジョブ型人事制度は人の成長に寄与するのか

なぜジョブ型人事制度は人の成長に寄与するのかイメージ変遷で見てきたように、かつて「ジョブ型」や「成果主義」という人事のトレンドは、従業員の努力を反故にする、ネガティブな用語として日本に広がっていきました。

しかし本質は全く別のところにあります。
ジョブ型人事制度や成果主義が標榜することは、「何に頑張れば、どのくらいの報酬を払うのか」の基準が、従業員と明確に握手できることにあります。

人は成長することに喜びを感じます。
しかし基準が明確でないと、闇雲に走り続けることはできないのです。

従来の日本の職能型雇用システムは、ややもすると努力をするプロセスのみを評価する傾向がありました。
一見、結果が伴わなくとも、頑張った従業員に報いる優しい制度のようです。しかし、アピールが得意なメンバーが評価されやすいなど、個人の特性によって成長にムラが出る課題がありました。

一方ジョブ型人事制度は、職務の範囲と成果に応じた評価に、明確な基準があるのが特徴です。
仮にある期は成果が伴わなかったとしても、評価に対しての従業員の納得感は得られやすく、モチベーションは保たれます。さらに本人の実力に応じた役割が付与されるため、たとえ小さな一歩でも前進しやすい環境といえるでしょう。

ジョブ型人事制度の真髄とは、「全従業員のポテンシャルを100%引き出そうとする」ことにあるのです。
この先、競争が激しいマーケットで勝つためには、従業員一人ひとりの力を総結集できるジョブ型人事制度の概念は、日本企業に不可欠なものでしょう。


4.ジョブ型人事制度の設計方法

ジョブ型雇用に転換するためには、大きな流れとしては、以下の6点が挙げられます。

今回はエッセンスのみお伝えしますが、ぜひ自社の現制度を思い浮かべながらお読みください。

  1. 組織設定
    一歩目として、経営戦略に基づく「組織設計」をする必要があります。経営戦略に基づき組織戦略・機能戦略を実現する最適な部門と、職種別の職務ポジションを定義することです。

  2. 職務定義
    続いて職務と成果責任の定義を行います。職務遂行に必要なタスク(課業)、タスクを実行する上でのスキルやコンピテンシーをまとめる職務記述書を作成します。

  3. 職務等級の設定
    洗い出した業務ごとに職務評価を行います。職務の実行難易度や責任のウェイトを定量的な職務評価を実施して、ジョブグレード(職務等級)を設定します。

  4. 賃金の決定
    職務等級に応じた賃金を決定します。自社内の役割だけでなく、マーケット内の相場や求めたい働き方などの観点で決めることが望ましいでしょう。

  5. キャリアマネジメント(評価制度)設計
    制度を運用するための評価制度を設計します。業績評価やプロセス評価を、従業員のスキルやモチベーションの観点から、年間の評価運用計画を組みます。

  6. キャリアアップ支援
    従業員が現状に甘んじることなく、絶えず成長をめざすための支援策を策定します。個人努力に任すのではなく、会社として必要な支援をすることが重要です。

上記は等級・賃金・評価のみならず、キャリア支援まで視野に入れた、ジョブ型の思想を反映した理想的な人事制度設計プロセスです。

本来的なジョブ型人事制度には、全てのプロセスを順序だてて進めることが望まれます。
しかし大掛かりな人事制度改定はパワーも必要で、従業員に与える影響も大きくなります。

全て着手できないからといって、ジョブ型人事制度を諦める必要はありません。
部分的にでも、ジョブ型人事制度が志向するエッセンスを取り入れ、風土を含めてソフトランディングするプロセスもおすすめです。


まとめ

グローバルマーケットで戦わざるを得ない環境を考えると、従業員のポテンシャルを引き出すジョブ型人事制度は、無視できない考え方といえます。

ただし、表面的なジョブ型人事制度のメリットだけに着目をしてしまうと、過去の変遷のように、本来的な成果を得られない可能性があるでしょう。

重要なのは、企業が求める業績的な成果と、従業員が求めたい成長の接点を、ジョブ型人事制度に見いだすことです。

たとえば、副業・兼業の容認や、専門性を育成する各種プログラム提供やリスキル機会もその一つです。
今後は、企業内で汎用的な経験をしながら基礎スキルを身につけ、同時に副業・兼業などで専門スキルを獲得する必要もあります。自らキャリアを開拓しながら70才まで活躍し続ける人が、増えていくことでしょう。

働き方・雇用のあり方の社会システムの変化が起こっていく状況でこそ、ぜひ自社に取り入れるべき、ジョブ型人事制度の概念を考えてみてはいかがでしょうか。



JOB Scope編集部

著者: JOB Scope編集部

新しい働き方、DX環境下での人的資本経営を実現し、キャリアマネジメント、組織変革、企業強化から経営変革するグローバル標準人事クラウドサービス【JOB Scope】を運営しています。