組織改革/人事制度設計

ジョブ型人事制度設計のためのフレームワークとは

 

近年、政府からの呼びかけも後押しとなり、多くの企業でジョブ型人事制度の導入が進んでいます。

しかし、これまで職能(社員の成長)ベースの人事制度を導入してきた企業では、ジョブ(職務価値)ベースの人事制度への転換は、苦戦している状況があるのも事実です。

人事制度は、企業が描くビジョンやポリシーを体現しているといっても過言ではありません。したがって、新しい人事制度を導入する際は、単に設計方法を考えるだけでなく、人事制度の思想や意義を明確にする必要があるのです。
職能からジョブ型へ制度を変換する際には、この根幹の考え方から設定をしなおすことが成功の秘訣といえます。

当記事では、具体的なジョブ型人事制度の設計フレームワークだけでなく「なぜそれが必要か」という背景を踏まえて解説します。企業各社での課題はさまざまかと思いますが、「自社の場合はどうなのだろう」と考えながらご一読いただければ幸いです。

 


1.人事の枠組みとは

人事の枠組みイメージ人事とは文字通り「人」と「事」を扱うことになります。もう少し分解すると、“人を通じて事を成す”となります。

人に関する全ての事項を人事のミッションと捉える姿勢が、企業の人事部門には求められます。しかし姿勢だけではあまりに広範囲すぎて、現実の業務には落とし込むことができません。

今回は、ジョブ型人事制度に焦点を当てたときに、人事部門が整えるべき枠組みを以下の4点で考えてみます。

人事制度

  • キャリアパスや目標が明確に表現され、社員の成長を促進する仕組み
  • 企業と社員の向かう先やめざすものの方向性を合わす機能
  • 人事制度そのものの仕組みや方策よりも、人事・経営の考え方を伝える役割

人事施策の目的

  • 企業ベクトルとして経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー/パーパス)を浸透させる役割
  • 社員のベクトルとしてキャリアビジョンやキャリアパスを描くことができる
  • 人事施策の全てに企業と社員のベクトルを合わせ、企業理念の実現の動きがとれる

人事ポリシー

  • 企業がその企業で働く人に求めたい(推奨したい)考え方や行動
  • 経営者が社員に対して大切にしている想いや考え方を言語化したもの

人材開発

  • 人事評価と合わせて育成を行うことで、社員が絶えず成長していく礎となる
  • 求める水準とギャップがある社員に対し、教育施策メニューを用意しておく

無論、人事業務は「社員採用」「労務管理」など、まだまだ広範囲に及びます。
一旦は、ジョブ型人事制度に転換を検討する場合に、少なくとも上記4点についての整備が必要とご認識ください。

制度設計を進める上で根幹となる考え方なので、自社らしい言葉で必ず設定し、なおかつ人事のみならず経営陣で共有することを推奨します。

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人事制度は、企業が描くビジョンやポリシーを体現しているといっても過言ではありません。したがって、新しい人事制度を導入する際は、単に設計方法を考えるだけでなく、人事制度の思想や意義を明確にする必要があります。人事制度設計検討に必要な視界や何を整備すべき必要があるのかについて解説します。

2.人事の全体像と人事制度の主な要素

人事の枠組みを理解した次は、具体的に決めるべき人事の全体像、および具体的な人事制度を構成する要素を知る必要があります。

特に新しい人事制度を導入する際は、点の施策ではなく全体像を認識したうえで、抜けもれなく必要な要素を検討することが重要でしょう。

人事の全体像

ジョブ型人事制度と聞くと、賃金制度の変更だけを思い浮かべる方も少なくはありません。しかし社員の賃金を決めるためには、人事評価が必要です。評価が芳しくない社員がいる場合は、成長を促す人材育成制度も必要です。

具体的には人事の全体像は以下のような図となり、各々が影響を及ぼし合っているのです。

人事の全体像イメージ

重要なのは、出発地点を経営理念に置くことです。
経営理念を推進していくためには、どのような人事制度に舵を取るかを考えていきます。

人事制度そのものには善し悪しもなく、どの企業でも通用する万能薬のような人事制度もありません。
だからこそ「自社の経営理念を進めるために、この人事制度にする」という説明がなければ、社員の納得や賛同は得られないでしょう。

人事制度の要素

人事の全体像の出発点が経営理念であったように、人事制度を構成する各要素は「経営理念の浸透がはかれるかどうか」という観点で、具体内容を検討する必要があります。

具体的には以下の8つの要素について考え、お互いの整合性がとれているかどうかを考えていきます。

人事制度の要素イメージ

企業によっては、経営理念は一般社員にとってやや距離がある存在と映っているかもしれません。

社員が手触りが伴って経営理念を実感するのは、日々の行動指針や毎期毎期の人材配置・異動などを通じてです。したがって、社員に経営理念を浸透させるためには、社員にとって身近な8つの要素を機能させなくてはなりません。

経営理念は掲げるものではなく、実践するものです。
そのため、社員一人ひとりが日々の行動や思考を通じて経営理念を体現するためにも、人事制度の構成要素に落とし込むことが重要となります。

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人事制度そのものには善し悪しはありません。人事制度を狙い通りに機能させるためには、自社で決める、あるいは整える事項を把握する必要があります。人事の全体像と、考えるべき人事制度の要素について解説します。

3.人事制度が企業にもたらす価値

人事制度は、人件費のコントロールなど経営管理上の効果がフォーカスされがちですが、それだけでは社員の行動に望ましい変化は起こりません。
社員の行動に変化が起こらない限りは、企業成果にも企業ミッションにも前向きな影響は起こらないでしょう。

人事制度でめざすべき姿は、企業ミッションやパーパスにむけて、経営・事業戦略の方向性と、社員の動きを同じベクトルに向けることにあります。

社員にとって、企業で過ごす時間は決して少なくはありません。
そんな一人ひとりの社員には、仕事だけでなく望ましい生活や叶えたい人生があります。そのベクトルに合致する人事制度であれば、社員は持っているポテンシャル以上のものを発揮する可能性があるのです。

具体的には以下の図で左側の企業視点で語っている要素を、右側の社員視点に置き直す必要があります。

人事制度が企業にもたらす価値イメージ

もちろん、自社に在籍している全員を「社員」と一括りにもできません。
一人ひとりの価値観やライフビジョンは異なるため、全ての社員を満足させることは難しいでしょう。
ただしこの社員側の視点のフレームがあることで、例えばマネジメントが「自メンバーはどこの部分にギャップがあるのか」などと考えながら会話することができます。

このような社員側の視点を持つ最大の狙いは、人事制度を企業風土・企業文化へ根付かせることにあります。

日本は企業に人格を付与する「社風」という独特の企業風土の文化があります。
「なぜかA社の社員は、誰に会っても同じ雰囲気だ」「B社の社員は、必ず購入後のフォローを手厚くしてくれる」という現象に思い当たる方は多いでしょう。
これは元々同じ感性を持っている人を採用している効果だけでなく、日々の行動に人事制度が浸透することで起こりやすくなるのです。

企業が向かいたい方向に合致した行動を全社員が取ることは、人事制度の細かい規定以上の効果があります。
むしろ風土にまで昇華すれば、社員が自律的に望ましい言動を取るようになるため、人事制度上での細かい規定や制約は不要となるでしょう。

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人事制度の効能は、主に社員への賃金管理面でクローズアップされがちです。ただしより広い視点で考えれば、人事制度の最大の特徴は、社員一人ひとりの行動や生活に影響を与えることといえます。人事制度が企業にもたらす価値について、企業視点だけでなく社員視点からも解説します。

4.人事制度設計で決めるべき事項

ここからは、ジョブ型人事制度を導入する際に、決めるべき項目を細分化してお伝えします。

前述したように、人事制度設計の出発地点となるのは経営理念や経営戦略です。
最終的には職務等級やコンピテンシーなど具体的な要素も決める必要はありますが、細かい議論に入れば入るほど、上流の考え方が重要となってきます。

この図のように決めるべき全体像は理解しつつも、出発地点は必ず経営理念・経営戦略と位置づけるようにしましょう。

人事制度構築で決めるべき事項

人事制度設計の議論で陥りがちなケースとして、「総論賛成・各論反対」のような現象です。
大きな考え方には賛同していたものの、日々マネジメントとして活用する評価項目レベルの解像度になると、物言いが入る現象が散見されます。

このような事態を防ぐためにも、経営理念や経営戦略レベルを制度設計関係者で咀嚼し、理解を深めることが重要です。そのステップがあれば、詳細の制度設計に入っても「その行動は経営理念の実現に近づくのか?」という議論が自然と起こるようになります。

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さまざまな人事業務に携わっている方は多いかと思いますが、人事制度設計をゼロから行ったという経験をお持ちの方は稀なのではないでしょうか。人事制度のセオリーに立ち返り、「ゼロから人事制度を設計するなら」という観点で設計ポイントを解説します。

5.人事制度運用で決めるべき事項

人事制度は、構築して終了ではありません。むしろ人事制度での狙いを実現できるかどうかの生命線は、制度の運用にあります。

人事制度構築はあくまで骨組みを用意しただけです。そこに血肉や魂を通わせるためには、日々の運用を通じて全社員にまで人事制度の意図を浸透させる必要があります。

よくある失敗例として、人事制度構築でパワーを使い果たしてしまい、人事制度運用は現場に丸投げしてしまうようなケースです。
現場は日々動いているので、最初はほんの少しの解釈のズレであっても、半年経過するとズレた状態が広がったり、ズレた状態が現場に定着しきったりしてしまいます。

具体的には、主に人事評価に関する以下のような運用ルールを設定する必要があります。

人事制度運用で決めるべき事項

評価者教育は、必要に応じてマネジメント向けに勉強会や研修の実施も考えられます。また目標管理制度を導入する場合は、期初が始まってすぐに目標設定をする必要もあります。

運用整備は時間もコストも発生するので、制度運用を開始してから必要施策を考えてしまうと、後手に回りがちになります。
人事制度構築時には、作った制度を狙い通り運用するにはどのようなルール設定や教育施策を実施する必要があるのかを、あらかじめ想定するようにしましょう。

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人事制度の賞味期限を決めるのは、社内の人事制度運用にも左右されます。本来人事制度そのものには善し悪しはなく、現場で根付くためには、いかに社内に人事制度の思想や運用のノウハウが浸透しているかが重要になるからです。今回は、人事制度設計後に現場で自走できるかどうかの要となる、運用面に着目し解説いたします。

6.HRプロフェッショナルの活用方法

昨今、ジョブ型人事制度を構築する際に、外部のHRプロフェッショナルと協働するケースが増えています。

人事はどの企業にとってもセンシティブなテーマなので、人事制度構築をする際に参考にしたいような事例は、あまり世に出回っていません。
そんな時でも、経験豊富な外部のHRプロフェッショナルと協働すれば、外部企業の知見やマーケット動向を知ることができます。

もちろん、外部のHRプロフェッショナルとひと言で括ってしまっても、得意領域は各社さまざまです。支援範囲や使用ツールや必要費用も異なります。

人事制度はある種の生き物なので、外部に依頼したからといって、100点満点のものができるわけではありません。さらに、人事制度に魂を込めるためには社内の人間でないと担えない部分もあるでしょう。

仮に外部に依頼する際は、「社内だけで制度構築する際に、どの部分に不安があり」「どのような伴走をしてくれる外部パートナーが望ましいか」など、できるだけ事前に洗い出すようにしてください。

安易に外部に依頼してしまうと、狙った通りの人事制度構築ができない、構築途中で頓挫してしまう、などの事態に陥りかねません。

全社員に影響を与える人事制度構築の失敗は、社内からの信用を損なうリスクがあります。
ぜひ人事としての矜持を持ちつつ、その想いに応えられる外部パートナーを探す意識を大事にしてください。

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ジョブ型人事制度を構築する際に、外部のHRプロフェッショナルと協働するケースが増えています。人事制度構築プロセスの参考になりそうなリアリティが高い事例は、あまり世に出回っておらず、コロナ禍でHRTechクラウド市場が急激に拡大したことにより、HRプロフェッショナルと呼ばれる当該ベンダー数も急激に増えている状況です。多様化が進みつつあるHRプロフェッショナルを取り上げます。

まとめ

ここ数年の外部マーケットの状況を考えると、今後も多くの企業がジョブ型人事制度に移行する潮流はしばらく続くでしょう。

ただし、ジョブ型人事制度を“はやり言葉”的に捉えるのではなく、あらためて人事制度の持つ役割の根本を熟知するのが先決です。ジョブ型人事制度を導入する意義や影響範囲が、クリアに想像することができれば、具体的な構築作業もスムーズに進むはずです。

ぜひ人事の仕組みや全体像を理解したうえで、ジョブ型人事制度を導入して自社の未来をどう描くのかに思いを巡らせてください。



JOB Scope編集部

著者: JOB Scope編集部

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