組織改革/人事制度設計
【人事制度設計:実践編】

昇格・昇進ルールの設計について

 

企業で働く以上、社員にとっては昇格や昇進は関心が高い事項の一つです。
入社から続く長い社会人人生で、やりがいやモチベーションを維持するために、昇格や昇進という「階段を上っていく」のは、重要な経験といえます。

ただし、多くの中小企業において、昇格・昇進の仕組みはあまり機能していない実態もあります。

オーナーや経営幹部が、自身の経験・勘や恣意的な判断で等級を勝手に上げたり、管理職に任命したりしている状況も、決して珍しくはありません。
たとえば、年齢が40歳を過ぎ、毎日頑張っているからという理由で管理職に昇進させてしまうようなことが代表的な現象でしょう。

これは実力や明確な根拠が伴って、昇進をしたわけではありません。いわゆる「ドンブリ人事」と揶揄される現象といえます。

今回は、センスとルールの境目が問われる昇格・昇進のルールを取り上げます。
人事という正解のない世界での、真価が問われる分野といえます。

ぜひ人事としての矜持の見せ所として、自社の昇格・昇進ルールを見直すヒントとしていただければ幸いです。

 


1.昇格・昇進・昇給の違い

昇格周りでは、似たような言葉を混同して使っているケースも散見されます。
各々現象としては違いがあるため、まずは言葉の定義を理解することが重要です。

昇格・昇進・昇級の違い

  • 昇格
    職能資格制度を導入している企業において、社員の職務遂行能力が向上した結果、「等級」が上がること
  • 昇進
    課長や部長といった職位(役職)が高くなること。例えば、職位が主任から課長に、あるいは課長から部長に上がる場合が昇進に該当する
  • 昇給
    勤続年数や人事評価結果、職務上の昇格によって賃金が上がること。臨時昇給(ベースアップ)と定期昇給の2種類がある

例えば、社内の等級制度で3級から4級に上がる場合は昇格となります。
しかし、等級と役職の変更は一致しない場合があります。3級の課長から4級の課長に上がる場合には、昇格はしているものの、役職は課長のままで昇進していないことになります。

なお、社内の等級は社外の人には通常分からないため、昇格をしても昇進しない場合は、外部からは表面上の違いが分かりません。

また昇格と昇給も必ずしも一致するとは限りません。

通常は上位等級に昇格をすれば、等級に紐づいた賃金制度によって、賃金は上がります。
しかしかつての日本企業は社員が成長感を得られやすいように、細かく等級を刻んでいました。そのため複数の等級を同一賃金レンジで管理している場合もあります。

このように、昇格・昇進・昇給の定義を知った上で、本来的な目的が社員に伝わるような設計をすることが重要です。


2.昇格・昇進を行う目的とは

広義の意味での人事異動・ジョブローテーションは、組織活性化など企業全体の風土改革などの目的があります。
昇格・昇進ももちろん風土改革の目的も含まれますが、ここでは「人」に絞った場合の目的を3つ紹介しましょう。

適材適所

組織では、業務を行うために適性がある人材を配置する必要があります。
適材適所とは「人の能力・特性などを正しく評価して、ふさわしい地位・仕事につけること」です。

あるポジションを任せられると判断された社員が就任することで、より業務上の成果につながりやすくなります。
また、その社員が担っていたポジションに他社員を就任させ「適材適所の連鎖」をうまくつなげることも可能です。そうなると「どのような人材が評価されるのか」が、リアルなイメージを伴って、全社に伝わりやすくなるでしょう。

昇格や昇進は“公的な”適材適所を行うことで、経営の人材開発メッセージを社内に浸透させる効果があるのです。

人材開発

昇格・昇進は、組織の都合だけで行われているのではありません。
新たなポジションを担わせることは、人材開発上の重要な手段でもあります。

いくら能力やスキルが発達した社員がいたとしても、ずっと同じ仕事・同じ役割範囲の業務を担っていては、どこかで習熟の鈍化が予想されます。

能力向上・キャリアの実現・新しい人的ネットワークの構築など、働く個人がより成長していくためにも、昇格や昇進が必要となるのです。

幹部育成

「次世代リーダー育成」の言葉に代表されるように、次代の企業を牽引する期待が高い社員には、期待に見合ったポジションを用意する必要があります。

人材開発の一部でもありますが、昇格・昇進を伴う場合は、幹部育成の目的がよりクリアになるといえるでしょう。

欧米のような選抜型の幹部育成プログラムは、横並びを重視する日本企業ではやや馴染みにくい側面もあります。これまでも、計画的な昇格・昇進によって、OJT的に幹部育成を行ってきた歴史があります。

あからさまな抜擢を避けながらも、将来の幹部を実践的に叩き上げるためにも、昇格や昇進は効果的に使われているのです。


3.職能資格制度における昇格・昇進ルール設計

職能資格制度における昇格・昇進ルール設計イメージ昇格を決定する際に重視されるのは、過去数年間の人事評価歴、現在の等級での滞在年数、人事や上司からの推薦、アセスメントの結果などです。

このような「何を見て」「どうなったら昇格・昇進・昇級するのか」を決めるのが、昇格・昇進ルールです。

昇格を決定する基本的なプロセスは、人事部門が該当者をピックアップする、または上司が推薦するなどで、候補者をリスト化します。

候補者の選定基準は、人事評価に一定の目安を設けている企業も一定数存在します。
公式には記述されていないものの「直近3年間で、A評価を2回以上取得している」のような暗黙のルールがある場合も多いでしょう。

管理職への昇進の場合は、面接やアセスメントを交える場合もあります。
特にメンバー層からマネジメント層での移行は、利き腕が変わることもあり、マネジメント適性を確認することが重要になります。
そのため、メンバー時代の業績や動き方とは別に、変化しにくいといわれる本人適性をアセスメントで確認するのです。

それらの情報を踏まえて、経営の最高意思決定ボードで、昇格・昇進者の最終決定がなされることが多いでしょう。

職能資格制度の昇格・昇進の注意点

一般的に日本企業の昇格管理は、若手社員には昇格にあまり大きな差はつけず、全員を一定レベルまで引き上げることを重視しています。

また多くの場合「卒業方式」という、現在の等級基準を満了したことで昇格するため、降格はありません。
一度獲得した能力は陳腐化しないであろうという前提のもと、能力は「既得権」と見なされ、過去の蓄積として積み上げ式の昇格運用を行ってきた企業が大半でしょう。

ただしこれでは無尽蔵に社員が等しく昇格をしてしまうため、管理職手前など一定のポストからは「入学方式」に切り替えます。
すなわち、降格がない代わりに昇格に上限を設定し、一定の階層で昇格を「打ち止め」状態にするのです。

このような運用でまろやかに人件費コントロールをしてきた日本企業ですが、企業業績にかげりが目立つようになった昨今では、見直しも進んでいます。

半年・一年などの一定のタイミングで、シビアに社員の「現在の」能力をチェックし、適切な等級に配置し直すなどの取り組みです。

この動きが加速していけば、日本型の職能資格制度も本来的なメリットが享受できる状態になるかもしれません。

 


4.ジョブ型人事制度における昇格・昇進ルール設計

ジョブ型人事制度においても、昇格・昇進ルールは職能資格制度同様、基準をある程度は決める必要があります。

職務記述書に「どのようなスキルを持った人材が担当するか」を定義しているはずなので、実際の社員とスキルマッチを行いながら昇格の有無を検討します。

ただし前提として、ジョブ型人事制度を採択した場合は、昇格・昇進はジョブローテーション・ジョブチェンジという扱いになります。

概念上、ジョブ型人事制度における「昇格」は以下のような捉え方になります。

  • 配置転換によって価値が高い職務を担う場合
  • 外部マーケット変化などで、担当職務価値が上がった場合
  • 担当者の力量により、職務範囲が広がった・職務難易度が上がった場合

ジョブローテーションは、前述した昇格・昇進の目的のひとつである、幹部育成やファストトラック(早期選抜)にも効果があります。

また中長期目線では、ジョブローテーションは組織の活性化にも効果を発揮します。
縦割りになりがちな組織において、それぞれの部署の状況を知っている仲間がいることは、部門間連携を促進する効果が期待できます。

もちろん、個人の観点でも仕事の属人化防止や、社員一人ひとりの仕事の幅を拡大するメリットがあります。

ジョブ型人事制度の昇格・昇進の注意点

上記の考え方に則ると、ジョブ型人事制度の場合は「昇格」のみならず「降格」もあり得ることになります。
「仕事が変われば、等級(および賃金)も変わる」という考え方です。

ただし本人責務ではない異動で、低い職務を担うこともあり得るため、日本企業ではそこまでドラスティックに賃金連動運用をしている企業は稀でしょう。

そのため「移行措置」などのルールも整備し、自社が現実的に運用しきれるかを考えるのが重要となります。


5.代謝(退職)ルールの設計

昇格・昇進ルールと合わせて考えておきたいのが代謝ルールの設計です。
代謝とは、社員が会社を辞める「労働契約の終了」という状態となります。

たとえば、入社4%、退職4%、新卒採用のみの組織モデルを考えてみましょう。
25年後、理想的な退職率が維持できていれば人員は総入れ替えとなり、全体のプロポーション(40代後半を頂点とする社員の年齢構成)は変わりません。

しかし予定より退職率が低くなる、予定より新卒採用が採れないなどの事情は、どのような企業でも予想される事態です。そうなると「ワイングラス型」などと表現されるように、プロポーションがいびつになることもあり得ます。

また、全体の人員構造だけでなく、重要部署の花形社員の退職など、個別の代謝事情も考慮すべきでしょう。

代謝ルールで検討すべき観点は、代謝を促す「遠心力」施策と、社員を惹きつける「求心力」施策の2つです。

求心力施策は、具体的には社員のリテンション施策です。
リスキリングなど社員の能力開発への投資、残留インセンティブが高い退職金制度、などが代表的な施策といえます。

遠心力施策は、社員に社外での可能性を模索してもらうような施策です。
社外を含めた選択肢を検討させるセカンドキャリア研修、早期退職による退職金の上積み、などが代表的な施策といえます。

退職率はコントロールが難しい分野ではあるものの、理想を描き、退職率をモニタリングしながら、手を打ち続けることが重要でしょう。


まとめ

昇格・昇進は、人事発令などで公になることもあり、多くの社員の関心が高い事項といえるでしょう。

ただし横並び意識が高い日本企業では、明確な昇格や昇進のルールは定めず、うやむやな状態で運用を進めている企業も多いのではないでしょうか。

組織と個人、短期と長期、複層的な目的を同時に実現するところに、昇格・昇進の難しさと妙味があります。
経験をどうデザインするかという想像力を大事にしつつも、そこを言語化・ルール化できるかは、人事としてチャレンジングな領域といえるでしょう。

 

JOB Scope編集部

著者: JOB Scope編集部

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