JOB Scope Marketing | ジョブ型人事に関する情報サイト

リスキリングが求められる背景とは

作成者: JOB Scope編集部|2023/05/16

リスキリングが求められる背景とは

 

2018年、世界経済フォーラム(通称:ダボス会議)において「2022年に全労働者の54%以上が大幅なリスキリングを必要とする」という調査結果が発表され、世界中に大きな衝撃が走りました。

直近では日本国内においても、2030年までに事務職や生産職に数百万人規模の大幅な余剰が生じる一方、デジタル人材をはじめとした専門・技術職は同程度以上が不足すると予測されています。

参考:目指すべきポストコロナ社会への提言 ─ 自律分散・協調による「レジリエントで持続可能な社会」の実現に向けて

このような大きな潮流は理解しつつも、具体的に自社にどのような影響が及ぶのか分からないという声も聞かれます。そのため、リスキリングに本腰を入れて取り組めない企業も多いのではないでしょうか。

今回は、どのような企業規模・業種でも共通するリスキリングが求められる3つの背景について取り上げます。

具体的に自社に置き換えてリスキリングの必要性を考えてみたいという方は、ぜひご一読ください。

 

目次

1.リスキリングが求められる3つの背景

リスキリングは「新しい職業に就くために、必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、新しいスキルを獲得させる/すること」であるといわれています。

「必要とされるスキル」には多くのテーマが該当します。
狭義の意味では、コロナ禍でのリモートワーク対応のような、突発的に発生した問題への対応としてのリスキリングも該当します。

しかしリスキリングの本質としては「会社が生き残っていくために、必要となるリスキリング」と捉えるべきでしょう。
リスキリングを施さないと生き残りが厳しい理由として、大きく3つの背景による影響が挙げられます。

このようなビジネス環境の変化を起点として、一連の自社の事業戦略や人・組織戦略の見直しが否応なしに求められます。
最終的に「現在の人員で事業推進し、厳しいビジネス環境下で生き残っていくためには、リスキリングの必要がある」という気運に向かう企業が増えているのです。

具体的に3つの背景について、解説していきます。

2.ビジネス環境の変化

「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」なVUCAの時代といわれ、久しく時が経過しました。

経済やビジネス、個人のキャリアに至るまで、ありとあらゆるものが複雑さを増し、将来の予測が困難な状態にあります。
グローバルの流れに目を向けても、さまざまな国の政治の先行きが不透明であり、今までやってきたことやスタンダードだと思われてきたことが、崩れつつある状況でしょう。

ビジネスにおいても、昨今は次々と画期的なサービスが生まれています。
一方で、これまで想定していなかった業界と競合しなければいけなくなったり、売上低下の原因がまったく予測できなかったりするなどの事態が起こっています。

このように、今までは自分達と同業界の競合を意識していればよかったのですが、そもそもの業界というくくりの概念自体がなくなりつつあります。

これまでの業界常識にとらわれず変化に対応するためには、一つのスキルではなく社員にマルチスキルを求める必要が生じているのです。

3.DX推進に代表される事業戦略の変更

ビジネス環境が変化したということは、その変化にともなって自社の事業戦略も変更を余儀なくされるということになります。

既存サービスを磨き続けるだけでは、事業存続が危ぶまれるため、新しいサービス開発や新しい技術を取り入れたビジネスプロセスの構築が必要となります。
今後の事業戦略を考える上で、無視できないのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という潮流でしょう。

リスキリングは、DXに代表される、デジタル関連業務におけるスキルや知識の習得で語られることがほとんどです。

欧米ではIT関連の成長分野に人材をシフトし雇用を守るため、2016年頃から取り組みが進んでいます。

近年では日本政府もリスキリングの推進を呼びかけており、経済産業省の「デジタル時代の人材政策に関する検討会」でリスキリングは以下のように定義されています。

“新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること”

出典:『リスキリングとは -DX時代の人材戦略と世界の潮流-2021年2月26日リクルートワークス研究所』

日本ではDX推進において、多くの企業がIT人材不足に頭を悩ませているのが現状です。外部から採用をしようとしても、「2030年にはIT人材は最大で79万人不足する」との経済産業省からの発表の通り、IT人材獲得競争は熾烈を極めています。

DXに必要な人材を自社内で育てるために、リスキリングが喫緊の課題となっているのです。

4.人・組織戦略の転換

働き方においても、従来の日本の企業では当たり前だった終身雇用や年功序列といった制度もなくなりつつあり、人材の流動性も高まっています。

ワーク・ライフ・バランス、リモートワーク、人生100年時代、新卒の3年3割離職問題・・・・・・、これらの言葉に代表される働き方の変化は、多くの企業人がリスキリングの必要性を実感した背景のひとつでしょう。

さらにリスキリングがさらに注目されるようになったのが、新型コロナウイルスの流行でしょう。
事業活動の一部はオンラインに切り替わり、働く場所や時間の自由を求める企業人が一気に増加しました。

働き方が変化したことで、新しい商習慣や労働環境に適応したスキルを身につける必要性が高まっているのです。

リスキリングを考えるもう一つの視点としては、日本や先進国での少子高齢化による労働力確保でしょう。

2021年には、日本企業にとってリスキリングにさらに深く関係する仕組みが作られました。「高齢者雇用安定法」の改正によって、社員が70歳になるまで就業機会の確保に向けて努めるよう義務が課せられたのです。

定年が延長されるシニア社員にリスキリングを施し、労働力を確保する必要性が増しているといえるでしょう。

5.リスキリング=全社員一律の人材育成なのか?

リスキリングの具体的な内容に目を向けると、日本企業では「全社員にITリテラシー教育を行う」などが代表的な取り組みの印象があります。

しかし、果たして「リスキリング=全社員一律の人材育成」という考え方は正解なのでしょうか。

たとえばある保険会社では、昨今ネット保険に代表されるサービスの乱立、消費者の選択眼の向上といった環境変化が生じました。そこで「利用手続きに関わるUI/UX強化による、顧客体験価値の向上」を事業戦略として掲げなおしました。
その結果、手続き業務がデジタル化され、業務量は大幅に減少することに。これにより、それまで手続き業務に携わっていた事務スタッフ員を営業へ配置転換することになりました。
つまり、リスキリングの対象は「事務スタッフへの営業スキル教育」となったのです。

また、ある情報メディア会社においては、今までは中堅・大手企業向けネット広告の販売と、それによる顧客企業の成果創出が主な提供価値でした。いかに顧客企業の戦略を理解し、そのソリューションとして広告を販売できるかが重要であり、法人営業には広告に関する専門家としてのコンサルティングが求められていました。

しかし、広告メディアでの差別化が難しくなり、より顧客に踏み込んだ業務支援を提供価値にする事業戦略に変更したのです。広告ではなく業務支援ソフトウェアサービスをより幅広い顧客群への展開が、戦略の中心となっていきました。
これにより、より多くの顧客にサービスを展開していくための戦略を検討する企画スタッフが業務設計上求められるようになりました。
その影響で、営業職の社員を企画スタッフ職に異動させ、問題解決力に関するリスキリングを展開したという事例もあります。

上記事例のように、「リスキリング=自社の生き残りを左右するスキル開発」と捉えた際には、今後の事業戦略上で生命線となる部分に、集中特化すべきではないでしょうか。

全社員に一律にリスキリング施策を展開できるほど、資金・時間的に余力があれば良いでしょうが、多くの場合リスキリングは新しい施策のため、予算も確保していないはずです。ビジネス環境変化のスピードも、過去とは比べものになりません。

限られた予算と時間で最大限の効果を狙うなら、前述した「ビジネス環境変化」「事業戦略の変更」「人・組織戦略の変換」を自社バージョンで考え、もっとも優先順位が高いと思われる部分にリスキリングを集中させるようにするべきでしょう。

まとめ

リスキリングが“流行言葉”的に企業に普及した影響で、「とりあえずIT教育」や「とりあえずシニア社員教育」など、「とりあえず施策」を施している企業も少なくはありません。

ただし、もともと自己研鑽の時間が取れない日本の企業人の状況を考えると(参照:『リスキリングが進まない日本企業の課題とは?』)、とりあえず施策では取り組む社員も本気になりにくいでしょう。

リスキリングの運営主体は企業側ですが、スキル開発する主役は社員本人です。
やや広い視点から考えると、企業のリスキリング施策をきっかけとしながら、日本の企業人に自らスキル開発を進める習慣が根付き、自己のマーケット価値を積極的に上げるような風土になることが求められているのかもしれません。

とりあえず施策はもってのほかですが、企業主体でリスキリングを進める際でも、ビジネス環境変化などの背景を伝え、「戦っていくのはあなた自身の力」という社員への動機付けも高めるようにしてください。