リーダーシップ論が大きな転換期を迎えている。トップダウン型の指示命令では組織が動かず、多様な人材が主体性を持って関わる“全員戦力化”が求められる時代となった。では、日本企業におけるリーダーシップの本質とは何か。滋賀大学教授・小野善生氏は、長年にわたりフォロワー視点からリーダーシップを研究し、「開眼」「共鳴」「感謝」という独自のキーワードを提示している。本インタビューでは、日本型組織の特性、ミドルマネジメントの役割、次世代リーダー育成、そしてシェアードリーダーシップの可能性まで、多角的に掘り下げた。前半では、小野氏の研究テーマやその原点などを聞く。
【こんな方に、ぜひ読んでいただきたい】
①次世代リーダー育成やミドルマネジメント改革に課題を抱える経営者・人事責任者
②部下育成や組織活性化に悩みながら、現場と経営の間で葛藤するミドルマネージャー層
③フォロワーシップやシェアードリーダーシップなど新しい組織論に関心を持つビジネスパーソン
【前編のエッセンス】
滋賀大学教授・小野善生氏は、フォロワー視点からリーダーシップを研究してきた背景として、実家が営むうどん店を手伝いながら見続けた“現場の人間関係”を挙げる。社員から慕われる経営者の店ほど繁盛し、不満が渦巻く組織ほど衰退する――そんな実体験が、フォロワー研究へとつながった。その後は酒造業のフィールドリサーチへと研究領域を広げ、V字回復を果たした企業経営者の行動や地域連携にも着目。さらに20世紀以降のリーダーシップ理論の変遷をたどりながら、現代では「全員戦力化」を支えるフォロワーの主体性が重要になっていると語った。
【前編のキーメッセージ】
①リーダーシップは、リーダー単独ではなくフォロワーとの関係性の中で成立する。
②酒造業研究を通じ、業界特性や地域連携が経営変革に与える影響を探究している。
③現代の組織では、フォロワーの主体性を引き出す「全員戦力化」が重要になっている。
私の研究スタートはリーダーシップです。その中でも、ついていく側の人たち、いわゆるフォロワーの目線や視点から見たリーダーシップに着目しています。
そもそも、私が神戸大学大学院で金井壽宏先生(神戸大学名誉教授)の下で、リーダーシップの研究を始めた当時は、リーダーシップというと、フォロワーっていう存在の研究自体はあったのですが、フォロワーに軸足を置く研究者はあまりいませんでした。
元々は、私の実家が商売をしていたのがきっかけです。割と珍しいのですが、京都の中央市場の中で小さなうどん屋を経営しています。研究者としては、かなり異色だと思いますが、父親が病気がちであったので、ずっとお店の手伝いをしながら、大学や大学院に行っていました。
ある意味、研究と現場の最前線みたいなところで、仕事もしながら学ぶ日々だったのです。京都の中央市場は、東京で言うところの豊洲市場(旧・築地市場)みたいな感じの場所です。中央市場の魚屋さんや青果の卸売り、いわゆる零細中小企業が集まっていました。
そこで働いている人たちがうちの店にご飯を食べに来て、たわいもない話をいつもして
いたわけです。社長が社員を連れてくる時もあれば、働いている方が社長の不平不満を言ったりする。そういう光景を良く見たり、聞いたりしていました。
別に厳密に統計を取ったわけではないのですが、やはり人伝いと言いますか、社員からの不満が多い店は、やはり経営不振になったり、廃業したりするケースが多かったです。むしろ、社長が働いている人から愛されている、慕われている組織、小さな組織ではあるもののまとまりがあると言いますか、一体感がある組織は割と繁盛していました。
そうした自分の体験からいくと、リーダーシップはやはり盛り上げてくれる人たちがいないことには話にならないのではないかというのが、実体験でありました。
そのリーダーシップの研究を見ていくと、意外にフォロワー視点をまとめている。そういうアプローチに立っている研究者は、当時かなり少なかったです。なので、フォロワー視点からできないかと考えたわけです。
もう一つのきっかけは、当時金井先生が現場で働いている人たちの物語や語りといいますか、昨今ではナラティブ(単なる物語以上のもので、物事を意味づけ、構造化し、人々の理解や行動に影響を与える考え方や手法)やストーリーとして注目されていますが、その人々が体験した語りの中に何らかの真実を見出そうではないかという取り組みに非常に高い関心を持っていました。
それで、私も金井先生のカバン持ちのような形で、講演や研修に付いて回っていました。実は、その当時博士後期課程の学生は、私一人しかいなかったのです。あとは、社会人の方ばかりでした。なので、本当にいわゆるカバン持ちのような形で、そういう薫陶を受けていたのです。
それから何十年か経って、『フォロワーが語るリーダーシップ-- 認められるリーダーの研究』(有斐閣)という専門書が2016年12月に出版されるわけです。折しも、2000年ぐらいから色々な組織でフォロワーの語りを分析した上で、リーダーがどのように反応するのかという枠組みでずっと調査をしてきました。そこから現在につながっているわけです。
酒造製造業経営の研究です。その専門書を出版した後にさまざまなご縁があって、社員満足を切り口に中小企業における経営者のリーダーシップを調査・研究することになりました。その当時ですから、平成24年か25年あたりです。経済産業省が「おもてなし経営」を実践する50の事業者を発表し、選定された事業者の取組みを、「おもてなし経営企業選」に掲載し、広く情報発信をしていました。
私は、その受賞企業のフィールドリサーチをして、社員満足を追求するリーダーシップについて調査・分析を行っていました。その中で高知県の企業、調査先の社長さんと数多く出会いました。実は、高知というのは、個人的に「リーダー輩出県だ」といつも言っています。幕末の坂本龍馬や明治の岩崎弥太郎、戦後の吉田茂も高知にゆかりのある人です。さまざまなリーダーを輩出しています。
県内企業の社長さんへの調査が終わると、もう大体は「一杯どうですか」となります。おかげで、調査が終わっても未だにお付き合いさせていただいています。
その時に、地元で有名な栗焼酎を御馳走になりました。「これ美味しいですね」と言ったら、「この会社は本当に苦労していた」と社長が語られていました。思わず、「どんな苦労なのですか」と尋ねたら、「倒産しかけたものの、その後本当にV字回復した」と言うのです。「興味があるなら、そこの社長を紹介してやるよ」ということで訪ねて行きました。
今も酒造業の調査をしていますが、私は酒造業界がどうのこうというよりも、倒産しかけた会社の経営者が、どのようなリーダーシップを発揮することによってV字回復していったのか」。そこが、とても気になりました。問題意識がすべてそこに集中していました。
なぜなら、酒造業はほとんどが家族経営です。少し大きくなったレベルのところでも、組織という感じは全くしません。
その後、これも色々なご縁があって、滋賀県の方も回らせていただくことになり、さらには山形県にまで行くようになりました。フィールドリサーチがほぼ終わり、現在は分析中なのですが、どういう結果を出すかと考えている真最中です。
ただ、何となく思っているのは、「どうも一企業あるいは一組織の問題ではなさそうだ」ということです。ならば、「研究が断絶するのか、どうなのかな」は、ずっと調査しながらも、色々考えながらデータを収集・分析しているところです。
その一方で、どうしても経営学のケーススタディは、もちろん調べることは調べるのですが、その業界の特性や製品の特性、いわゆる調査対象の背景に対して、どこまでアクセスできているのか、個人的にはそれを肝として自分も取り組んできたつもりです。
なぜそう思ったのかというと、酒造業はインタビューをした上でさまざまな資料も調べると、かなり独特な業界であるとわかりました。すなわち、製品の特性や業界の特性が、個々の事業体の経営に深く影響を及ぼしている業界なのです。ありていに申し上げれば、酒税と言われる、いわゆる徴税の対象になっており、政府とのつながりといいますか、国策にも非常に深く関わっています。
そういう理由があって、「酒にはそもそもどんな製品の特性があるのか、業界の特性がどう形成されてきたのか」を、しっかり理解していかないとフィールド調査はできないという結論に至りました。 なので、一応酒の歴史を追うことにしたのです。「ここも一つ分析枠ができるな」と。
それは、製品自体の革新、イノベーションもあれば、経済学者J.A.シュンペーターの新結合(既存の資源や技術、知識、アイデアを従来とは異なる形で組み合わせ、新たな価値を創造するイノベーションの本質)ではないですが、「組織や原材料、仕掛品、調達などを徹底的に押さえなければいけない」と思い、5年前からフィールドリサーチと同時並行で、酒造のジャンルを問わず徹底的に読み込んで来ています。
ようやく、今年から来年にかけてそれが結実するかといった感じです。どう理論的な枠組みをつけるかという段階です。やはり、自分がここまでやってきたフォロワー目線のリーダーシップが、この場合はなかなか分析しにくいと思っています。取り敢えず、リーダーの存在に注目して論じて研究していこうと考えています。今注目しているのは、その酒造業を土台にしたリーダー間の連携といいますか、横のつながりです。要は日本酒が、地域間競争になりつつあります。
そこに注目して、そのリーダーがどのように連携をして、地域のブランドを上げていくかみたいなところに、リーダーシップの知見を現在の中小清酒製造業の事業転換、戦略転換に当てはめてやっているかに着目しています。
フォロワー目線からのリーダーシップについては、今回のインタビュー、あるいはテキスト、さらにはそれを研修という形で、いわゆる社会貢献というところでリーダーシップ、フォロワーシップの知見を、もちろん最新の研究も追いながら、絶えずアップデートしながら、いかに社会貢献できるかを考えていきます。
昨今、本当にフォロワーシップに対するニーズが高く、もはや企業だけではなくて都道府県という、いわゆるパブリックアドミニストレーション(公共サービスの質を向上させることを目的とした専門的な教育機関)といいますか、公的経営、あるいは社会福祉協議会、つまり福祉の領域においても、組織マネジメントをどう行うか、その中でフォロワーシップ、リーダーシップを深めていきたいというニーズがあります。なので、そういった社会貢献としての方向性をいかに満たすかという、ある意味、その実践向けの情報発信と研究向けの情報発信、二刀流と言ったら言い過ぎかもしれませんが、そういう状態で活動しています。
本当に色々な偶然が重なっています。自分が調査をしながら、これまで持っていた既存の価値観が塗り替えられていくのが、とても面白いです。やはり、日本酒はどうしても醸造アルコールが添加された不純酒というイメージがあります。いわゆる、工業製品化したものだろうというのがありました。これが昨今の動きで、「その流れは一体何なのか」「そこでリーダーたちがどう決断したのか」。そんな思いを巡らしています。本当に色々なご縁がありました。
まず、大前提としてリーダーシップ理論に関しては色々な見解があることを事前にお伝えしておきます。私が色々調べて、ある意味その一時を支配するパラダイムという考え方があります。パラダイムという観点から見ると、リーダーシップ研究のスタートは大体20世紀ぐらい。そこからです。
1940年代後半まで圧倒的に支配的だったパラダイムは、リーダーシップは何らかの才能を持った人間のみが発揮できるという、資質中心の考え方です。リーダーシップと資質の関係については、今もなお研究は続いているのですが、40年代以降は、リーダーの行動特性に注目するようになりました。すなわち、どのように振る舞えばリーダーシップを発揮できるかという考えです。資質ではなく振る舞い方に重心、軸足が変わりました。それが、1940年代の後半ぐらいからです。振る舞い方というのは、いわゆる目標達成に関連するリーダーシップ行動と人間関係の維持に関連するリーダーシップ行動、この二つを高い次元で満たすというのが、1940年代以来の行動特性の考え方でした。
実は状況によって、ある時には人間関係を重視するものの、別な時には課題や目標達成を重視するというように、状況に応じてスタイルを変えるべきだという考え方が出てきます。これが、1940年代以降の考え方です。
ただし、さまざまな研究が登場したものの、論者によってリーダーシップスタイルに影響を及ぼす状況要因の捉え方が異なっていました。そのために、色々な状況のアプローチが出るという感じでした。これが、1960年代終盤です。
私が知る限りでは、1977年R・ハウスによって再定義された「カリスマ的リーダーシップ」の研究です。「部下にカリスマと認知されることで、リーダーはカリスマとなりうる」という主張でした。その翌年に、米国の歴史系のリーダーシップ研究者であるジェームズ・マクレガー・バーンズが「変革型リーダーシップ」を唱えました。端的に言えば、「現状を変えることがリーダーシップである」と。つまり、「組織に何らかの変化をもたらすことがリーダーシップだ」という考え方を提示したのです。
それまでは、設定された目標を達成するという前提でした。目標の背後にある価値観やビジョンは所与のものとして思われていました。その所与のものを変えるということです。 これが、いわゆるカリスマ的、あるいは変革型という形で、70年代後半に出てきたわけです。
この流れから基本的には、変化をもたらすという流れがずっと続いています。ただし、フォロワーの位置付けが微妙に変わって来ています。特に初期のカリスマ的リーダーシップでは、圧倒的に強いカリスマ性を持ったリーダーに、フォロワーはある意味無条件の服従といいますか、喜んで従うという観点で議論されていました。
それが、変革的リーダーシップになると、微妙にスタート地点が違っています。 ある種フォロワーの積極性や能動性を指摘しているところです。これが、90年代ぐらいに入って、明確にリーダーシップにおけるフォロワーの位置付け、「フォロワーにはフォロワーなりの責任感がある」「リーダーシップにはリーダーだけではなくて、フォロワーにも責任がある」と言い出したのが、ハーバード大学教授のロナルド・A・ハイフェッツです。
彼の理論は、「アダプティブリーダーシップ」(技術や知識では解決が困難な「適応課題」を、組織のメンバーとともに解決へと導くためのリーダーシップ論)、積極的適応を促すリーダーシップと位置付けられているのですが、明らかにフォロワーの位置付けや重要性をはっきりと打ち出しました。それが、1994年です。
これと同じぐらいの時期に米国の経営学者ロバート・ケリー(Robert E. Kelley)が、「フォロワーシップ」を打ち出します。正確には、1992年です。フォロワー側の視点からリーダーシップを捉えるアプローチでした。ケリーはフォロワーの行動を2つの軸で評価しました。その2軸の組み合わせにより、フォロワーを5つのタイプに分類したのです。例えば、自律的に考え、積極的に行動する「模範的フォロワー」もその一つです。
続く、95年。今度は、米国の議員コンサルタントのアイラ・チャレフが、「勇敢なフォロワー」という考えを提示します。フォロワーシップの手本として「勇敢なフォロワー」というイメージを掲げたわけです。
この辺り、やはり1990年代半ばというのは、フォロワーの存在がクローズアップされてきていました。すなわち、組織を変革させるだけではなくて、学習院大学教授の守島基博先生がよくおっしゃる『全員戦力化』(従業員全員が戦力として活躍すること)といいますか、つまり、組織に参加するすべての人々が持ち場、立場の中で主体性や自律性を発揮していくということです。
そして、フォロワーは責任を持ってバックアップしていく。そのフォロワーの積極性を汲み取って、リーダーはフォロワーシップをしっかり受け止める。すなわち、リーダーシップとフォロワーシップという表裏一体の関係ができると組織が活性化していくわけです。
今日のリーダーシップの概念としては、やはりフォロワーの積極性をいかに引き出していくか、いかに共に歩んでいくかです。だからこそ、こういった『全員戦力化』というパラダイムになっています。
もちろん、2000年代ぐらいに米国においてエンロンなどをはじめとして、さまざまな企業不祥事がありました。人間としてのリーダーの全うさを問うということで、この時期には「倫理的リーダーシップ」(リーダーが高い倫理基準に基づき、公正・誠実・透明性を持って行動し、組織全体に倫理的行動を促すリーダーシップのスタイル)や「真正リーダーシップ」とも言われますが、「オーセンティックリーダーシップ」(自分自身の価値観や信念に忠実に行動し、偽りのない自分らしさをもって組織を導くリーダーシップのスタイル)、すなわち人間としての全さを問うというアプローチも出て来ています。
いずれにしても、リーダーとフォロワーの成熟した人間関係を基にして組織を変化、組織を環境変化に適応させていく。こういったことが現代におけるリーダーシップの主たるパラダイムではないかというのが私の解釈です。
小野 善生 氏
滋賀大学
経済学部 教授
1974年京都府生まれ。1997年滋賀大学経済学部卒。2003年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。滋賀大学経済学部助手/講師/助教授/准教授、関西大学商学部准教授などを経て、2017年より現職。専門は組織論、リーダーシップ論、組織行動論、経営管理論、経営学。特に、フォロワーの視点からリーダーシップを明らかにする研究に取り組む。主な著書に『最強のリーダーシップ理論集中講義』(日本実業出版社)、『フォロワーが語るリーダーシップ』(有斐閣)、『リーダーシップ徹底講座 第2版』(中央経済社)など、著書・共著書多数。